喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

文字の大きさ
17 / 105

17.喪女と悪役令嬢

しおりを挟む
「あの・・・、それも大切ですが・・・」

椿はふと疑問が沸きあがった。

「オフィーリア様、この一週間はどうやって山田として生活されていたのですか?」

二人が入れ替わって一週間ほど経っている。オフィーリアも一週間ほど前に入れ替わった事実に気付いたと言っていた。
ではその一週間どうやって過ごしていたんだろう? さっき保健室で目が覚めたと言っていなかったっけ?
椿の背中に嫌な汗が流れる。

「あ、あの・・・、もしや・・・、山田として学校に行っていたとか・・・?」

「いいえ。まだ行っていませんわ」

まだ・・・?

「事故からに遭った翌日から今日までゴールデンウイークという時期だそうで、この家におりました。でも明日から登校する予定ですわ」

「あ、あ、明日から・・・?」

「ええ」

オフィーリアは頷いた。

「明日から・・・登校・・・」

「ええ。椿様のお父様もお母様もわたくしが別人であることに一応の理解を示してくれているのですが、信じ切れていないようですわ。どうやら軽い記憶障害と思っていらっしゃるようです。学校に行けば何か思い出すのではと考えているのでしょうね」

ふぅ~と悩まし気に溜息を付くオフィーリア。
そんな彼女を見て椿はカタカタと震えだした。

山田の姿で・・・オフィーリアが学校に行く・・・?

「そ、そ、それは駄目です! オフィーリア様!」

椿は鏡に向かって叫んだ。

「ダメですよ! 山田の姿で学校行くなんて! そんなの事故です! それこそ大事故を引き起こします!」

「は?」

必死に訴える椿をオフィーリアは怪訝そうに見つめた。

「だ、だって・・・、だって・・・」

自分椿の姿で中身がオフィーリア!
小デブでもっさい地味な喪女の中身がオフィーリア悪役令嬢
ひたすら教室の空気だった喪女から放たれる主人公級の令嬢オーラほど恐ろしいものがあるだろうか?
悪役令嬢の中身が喪女であることなんぞ比ではないのでは?
想像するだけで身の毛がよだつ。

「や、や、山田はその、喪女で・・・と、とっても地味で目立たない存在なんです!」

「?」

オフィーリアは怪訝な顔のまま首を傾げた。

「そんな山田の姿のままオフィーリア様が登校するなんて・・・。非常且つ異常に浮きますよ、浮きまくります! ど、どんな目に遭うか・・・! 危険極まりない!」

「それでも行かないわけにはいきませんでしょう?」

アワアワと泣きそうな椿に対し、オフィーリアはピシャリと言い放った。

「セオドア様もいらっしゃるのだから。きっと彼も不安を抱えていますわ。事情を知った今、情報を共有して少しでも不安を取り除いて差し上げないと・・・」

そう言うとオフィーリアはスッと目を伏せた。

(そうだった・・・)

椿は一気に顔が熱くなった。自分の事しか考えていないことに気が付いたからだ。そんな自分が急に恥ずかしくなった。

(そうだ・・・。セオドア様だって柳君だった・・・。二人だって大変なのに・・・)

椿は鏡の向こうのオフィーリアを見つめた。
自分椿の姿をしている彼女は少しだけ寂し気に俯いている。心配してあげたところで報われない相手なのに、それでも心配せずにはいられないのだろう。彼女の気持ちが未だにセオドアにあることが伺われる。

(自分よりもセオドア様を気にかけるなんて・・・。優しいな・・・。それに比べて私は・・・)

自分の事ばかり・・・と大いに反省させられるが、それでもだ。
実際に悪目立ちしてクラスで笑いものになったら、その時に嫌な思いをして傷付くのはオフィーリアだ。

「オ、オフィーリア様、明日、学校に行ったら、絶対に静かにしてくださいね。出来るだけ誰とも話さないように・・・。クラスでは静かに静かに静か~に地味に過ごしてください。変なトラブルに巻き込まれないように、常に気配を消してください!」

これが椿にしてあげられる最大限のアドバイスだ。
オフィーリアがクラスの陽キャギャルに絡まれないように、可能な限り平和に過ごすことが出来るように、椿なりのアドバイスだった。


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。 自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。 このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく── ─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。 このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる! それは、悪役教授ネクロセフ。 顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。 「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」 ……のはずが。 「夢小説とは何だ?」 「殿下、私の夢小説を読まないでください!」 完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。 破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ! 小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...