喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

文字の大きさ
44 / 105

44.初登校

しおりを挟む
翌朝、昨日の出来事を両親に話そうとしたが、父は既に仕事に出かけていておらず、母はいつも朝よりもバタバタして落ち着きがない。
オフィーリアが朝食を食べ終えても、キッチンでパタパタと働いている。とても話しかけられる雰囲気ではなく、オフィーリアは身支度を整えにテーブルを立った。

昨日言われた時間までに完璧に身支度を整え終え、リビングへ向かう。
母はまだキッチンだ。

「お母様。行って参ります」

オフィーリアは母に声を掛けた。

「待って、待って! お弁当! もう、すっかり忘れちゃってて。間に合った!」

母親は花柄の可愛い布に包まれた箱らしきものを手にキッチンから飛び出して来た。
そしてさらに、これまた花柄の小さい布バッグに入れてオフィーリアに手渡した。

(椿様は花柄がお好きなのかしら? それともお母様の趣味なのかしら?)

「ありがとうございます。お母様」

礼を言いながら、しげしげとバッグを見る。
母親は玄関までオフィーリアを見送りに来ると、

「これからお母さんもお仕事に行く準備しないといけないから、学校まで一緒に行けないけど大丈夫よね? 道は覚えたわよね?」

少し心配そうな顔でオフィーリアを見た。

「はい。大丈夫ですわ」

オフィーリアは大きく頷く。

「校門前で竹田先生が待っていてくれるそうよ。学校に着いたら先生の言う事をよく聞いて行動しなさいね」

「分かりました。行って参ります」

オフィーリアは玄関を開けた。
大きく深呼吸すると力強く一歩を踏み出した。

母は門扉までついて行き娘を見送った。
こちらを振り返ることもなく堂々を歩いて行く娘の後ろ姿を見守る。

「学校で刺激を受けて何かしら思い出せばいいけど・・・」

娘の症状が記憶喪失の一つであろうと思っている母親はそんな期待を込めて後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。


☆彡


迷うことなく学校に辿り着くと、母の言っていた通り校門の前で竹田が立っていた。

「おーい、山田ぁ! おはよう!!」

オフィーリアに向かって大きく手を振っている。

「おはようございます。竹田先生」

竹田の近くまで来ると、オフィーリアは制服のスカートを摘まんで軽く膝を曲げた。

「・・・おう、おはよう。ゆ、優雅な挨拶だな。ははは・・・」

竹田は目が点になりながらも、無理やり平静を装って見せた。
その隣にはセオドアこと柳が立っていた。

「おはようございます。セオドア様」
「おはよう・・・。オフィーリア」

「そうだったなあ、セオドアとオフィーリアって言ったけなぁ。やっぱりまだ戻ってないんな、お前たち・・・」

二人の挨拶の様子に竹田は肩を落とした。
だが、すぐに顔を上げると、

「教室に行く前にちょっと保健室に来い。保健室の伊藤先生もお前たちの事をとても心配していたからな。顔を見せておこう」

そう言って二人を保健室へ連れて行った。

保健室に入ると、以前会った白衣の女が待っていた。

「おはよう。柳君、山田さん」

二人を迎えてにっこりと笑う。セオドアもオフィーリアも挨拶を返した。

「さてと・・・」

竹田はセオドアとオフィーリアをベッドに座らせ、自分はその前に立って両手を擦った。

「セオドア君とオフィーリアさんと言ったな、君たちは。でも、この学校では柳健一君と山田椿さんだ。それは理解できているかな? 難しいかな?」

「・・・分かります」
「分かっておりますわ」

セオドアとオフィーリアは同時に返事をした。

「クラスメイトもお前たちを柳と山田と思って接してくる。それに混乱すると思うし、複雑な気持ちになると思う。自分を分かってもらおうと思ってもなかなか難しいだろう。冷ややかな目で見られる可能性が高い。ある程度の覚悟が必要だ」

オフィーリアは黙って頷いた。セオドアも無言で頷く。

「だが、先生は味方だぞ! それと事情を知っている伊藤先生もな。何かあったら遠慮せず相談するんだぞ! 一人で悩むなよ、いいな?」

竹田の隣で伊藤もうんうんと頷く。

「いつでも保健室にいらっしゃいね」

そう優しく笑う。

「ありがとうございます」

オフィーリアは気をかけてくれている二人に素直に感謝の言葉を口にした。

その時、校内にチャイムが流れた。
そのメロディーにセオドアとオフィーリアは驚き、体をビクッと震わせた。

「ああ、鐘が鳴っちゃったな。さ、教室に行くぞ、二人とも。伊藤先生、これからも二人をよろしくお願いします」

竹田は伊藤に軽く頭を下げると、二人を促し廊下へ出た。

長い廊下を二人は担任教諭の後に続いて歩いた。
歩きながらオフィーリアはそっとセオドアの袖口を引いた。セオドアは驚いたようにオフィーリアに振り向いた。

〔セオドア様。大変な事が分かりましたわ〕

オフィーリアは小声でセオドアに耳打ちした。

〔今は無理ですので、後で詳しく説明しますわね〕

セオドアは目を丸めていたが、すぐに真顔になり無言で頷いた。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。 自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。 このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく── ─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。 このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる! それは、悪役教授ネクロセフ。 顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。 「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」 ……のはずが。 「夢小説とは何だ?」 「殿下、私の夢小説を読まないでください!」 完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。 破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ! 小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...