喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

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58.因縁の場所

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セオドアが教室に入った時には、オフィーリアは既に自分の席に着き、姿勢を正して教科書を広げていた。
オフィーリアに確認したいことがあるのに、無視されたことが尾を引き、つい二の足を踏む。
それだけじゃない。さっきの佐々木との親し気な対話。思い出すとどうしても苛立ちが込み上げてくる。自分からは話しかけたくないという幼く傲慢な思いが湧き上がり、オフィーリアのもとに行くことを邪魔した。

不貞腐れて自分の席に着くと、田中と後藤が教室に入ってきた。

「うぃーっす、柳」
「はよー! 柳っち」

いつものようにセオドアの傍に来る。

「おー! 佐々木っち、おはよー!」

後藤が教室の後ろの入り口から入って来た佐々木に手を振った。

「うーっす」

佐々木は後藤に手を挙げて返事をするが、傍に来ることなく、真っ直ぐオフィーリアのもとに歩いて行った。それを見てセオドアは目を見張った。

「山田さん。これ、お礼」

佐々木はオフィーリアの机の上にパックのカフェオレを置いた。
オフィーリアは瞬きをしながら置かれたカフェオレを見た。

「え? これを頂くわけには・・・。それではわたくしのお礼になりませんわ」

「いいって。だって貰い過ぎだし。それとも、カフェオレ嫌いだった?」

「い、いいえ」

「よかった。じゃあ貰ってくれ」

佐々木はそう言うと、手をヒラヒラ振って、セオドアの席に集まっている仲間のところに行ってしまった。

オフィーリアはポカンと佐々木を見送った。そして、ポカンとしたままカフェオレに目を落とす。

(お礼のお礼って・・・。あ、佐々木様にお礼を言うのを忘れたわ)

呆け過ぎて礼を言いそびれたことに気が付いた。だが、すぐに後で言えばいいと思い直し、カフェオレを手に取った。

(折角だわ、お弁当と一緒にいただきましょう)

カフェオレ一つでも人から貰うと嬉しいものだ。自然に頬が緩んだ。オフィーリアはそれをまるで壊れ物でも扱うかのように大切にカバンにしまった。
その様子をセオドアが困惑した表情で見ていることに全く気が付かなかった。


☆彡


四時限目を終える鐘が鳴り終わると、オフィーリアは席を立った。
その手にはお弁当と朝に佐々木から貰ったカフェオレを持っている。オフィーリアは教室を出るとあるところに向かった。

そこは例の落下事故のあった階段だった。
一昨日、物語を読み、悲しみと辛さから教室から逃げ出した時に見つけた場所だ。そして、昨日、ここが自分と椿が入れ替わってしまった因縁の場所だと知った。そんな因縁の場所と知りつつも、いいや、そんな場所だからこそか、何故か落ち着くのだ。昨日もここで一人お弁当を広げた。心の奥底でここが自分の世界と繋がっているという微かな希望でも抱いているのかもしれない。それとも単純に静かで落ち着くだけなのかもしれない。

オフィーリアは一番上の階段に腰かけた。
こんな場所で物を食べるのははしたないと思いながらも、今日も膝の上で弁当の包みを解いた。

さあ、食べましょう。

そう思った時だ。誰かが駆け寄って来る足音が聞こえた。
驚いて振り返ると、息を切らして自分を見下ろしているセオドアがいた。

「セオドア様?! どうなさったのですか? 急用ですか?」

オフィーリアは開けたばかりの弁当の蓋を閉じた。立ち上がろうとすると、セオドアがそれを手で制した。

「?」

首を傾げて見上げていると、なんと、セオドアはストンっとオフィーリアの隣に座った。

「!?」

オフィーリアは目を丸めてセオドアを見た。
そんなオフィーリアにセオドアは少し気まずそうに眼を逸らすと、

「俺もここでお昼を食べようと思って・・・」

そう言って持っていたビニール袋からパンを取り出した。

「・・・」

オフィーリアはそんなセオドアを相変わらずポカンと見つめている。その視線に耐えきれなくなったのか、セオドアは観念したように肩を竦めてオフィーリアに振り返った。

「いや・・・、その、君に謝らなければいけないと思って・・・。昨日は言い過ぎた、すまなかった」

素直に謝られて、オフィーリアはますますポカン顔だ。今日は一体何回呆けているだろう?

「それだけじゃない・・・。実は話もあって」

「話・・・ですか・・・」

「ああ。その・・・」

セオドアは言い出しづらいのか、再び目を逸らした。
言い難いということは婚約破棄の話の続きだろう。自分の願いは聞き入れてもらえないということか。修道院送りは免れないと・・・。

「修道院のことだが・・・」

やっぱり・・・。

オフィーリアは顔を伏せた。

「何故、修道院へ送られるなんて思ったんだ?」

「え・・・?」

オフィーリアは顔を上げた。

「どうして修道院なんて言ったのかと思って・・・気になったんだ」

「どうしてって・・・」

詳しく話していない手前、小説を読んで知ったのだとは言い難い。
口ごもっていると、

「その・・・聞いたのか・・・? オリビアと俺が話していたことを・・・」

セオドアは辛そうな顔で再びオフィーリアを見た。

「え・・・?」

オフィーリアはサーっと自分の血の気が引く音が聞こえた。

「オリビア・・・様と・・・セオドア様で・・・話していた・・・?」

真っ白い顔でセオドアを凝視した。

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