喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

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65.アクシデント

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自転車を止め、素直にベンチに座って待っている間、ぼーっと景色を眺めていた。
目の前に広がる大きな広場。特に何もないが綺麗に整理された公園だ。そこでは子供たちが楽しそうにボールを蹴っている。その奥に大きな川が流れている。

ぼんやりと子供たちを眺めていると、徐々にボールを蹴りながら近づいてきた。何となく嫌な予感がして、子供たちから目が離せなくなった。
注意して彼らを観察する。一人の少年がボールを大きく蹴った。

(嘘! こっちに来る!)

やっぱり嫌な予感は当たった!

ボールは真っ直ぐオフィーリアの方に向かってくる。
というよりも、止めていた自転車に目がけて飛んでくる。

(自転車が!!)

オフィーリアは咄嗟に飛び出した。そして自転車を守るように抱きかかえた。

「オフィーリア!!」

遠くから叫ぶ声が聞こえた。次の瞬間、ボフッ!という鈍い音と一緒に背中に衝撃が走った。

「うぐ・・・っ!!」

衝撃と激痛で一瞬息が止まった。

「大丈夫か!! オフィーリア!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「すいません!!」

自転車にしがみ付きながら蹲っているオフィーリアのもとに、セオドアだけではなくボールを蹴った子供たちも駆け寄ってきた。

セオドアはすぐにオフィーリアを助け起こした。

「大丈夫か!?」

「大丈夫・・・です・・・わ・・・」

その様子を子供たちは不安そうに見守っている。
オフィーリアはセオドアに支えられながら立ち上がると、子供たちに向かってフッと笑って見せた。

「わたくしは大丈夫ですわよ。安心なさって。でも、これからはお気をつけあそばせ。ここには他にもたくさんの人たちがいますでしょう? ほら」

周りを見渡して見せる。子供たちも釣られて周りを見渡した。

のんびりと散歩しているお年寄りや、親に見守られて遊んでいる小さな子供たち。犬を連れている人やジョギングしている人。たくさんの人がいる。

「ね? だからお気をつけあそばせ。たくさんの人たちの憩いの場所ですのよ。お互い楽しく過ごしましょう」

「はい・・・。ごめんなさい」

子供たちは素直に頭を下げると、近くに転がったボールを拾い、広場に駆けて行った。


☆彡


「本当に大丈夫か? オフィーリア」

セオドアはオフィーリアをベンチに座らせると、心配そうに顔を覗き込んだ。

「ええ。大丈夫ですわよ」

「はあ~~」

セオドアは大きく溜息を付いてオフィーリアの隣に腰かけた。そして、頭をガシガシと掻きながら、オフィーリアをキッと見つめた。

「それにしても、自転車を庇うって! これを盾にボールを避けるならまだしも、逆は有り得ないだろう! 怪我をしたらどうするんだ?」

「まあ! だって、大切な自転車ではありませんか! 壊してしまったら大変でしょう?」

セオドアの説教にオフィーリアは全く動じない。

「たかが自転車じゃないか!」

「たかがって。お言葉ですけどセオドア様。これはセオドア様の自転車ではございませんわよ? 柳様の借り物。他人様の物ですわ。大切に扱わなければ駄目でしょう! 勝手に乗っている上に、転んでいるわたくしが言うことではありませんけど」

正論とばかりに踏ん反り返るオフィーリアに、セオドアは再び溜息を付く。

「・・・それを言うなら、君のその体は『山田椿』の体だぞ? 怪我をさせたらいけないんじゃないか?」

「はっ! 確かにそうでしたわっ!! 何てこと! 椿様に謝らなければ!」

「まったく・・・」

まるで目から鱗とばかりに目を丸めるオフィーリアにセオドアは苦笑いした。
しかし、すぐに気を取り直して、買ってきた飲み物をオフィーリアに手渡した。

「ありがとうございます。あ、オレンジジュースだわ!」

にっこり笑うオフィーリアに、セオドアは満足気に自分の飲み物の缶の蓋を開けた。
次の瞬間、中からプシューッと液体が噴き出した。

「うわぁ!! しまった! コーラを買ったんだった!」

オフィーリアのもとに駆け寄る時に、手に握って思いっきり振っていたことを思い出した。

「アハハハハ~!」

オフィーリアは声を上げて笑った。
笑いながらも、すぐにポケットからハンカチを取り出すと、セオドアの顔に掛かったコーラを拭いた。

「笑い過ぎだよ・・・、オフィーリア」

「だって・・・だって・・・アハハハ~!」

令嬢らしからぬ笑い方。はしたないと思いつつも笑いが止まらない。
オフィーリアに顔を拭かれながら、セオドアも釣られて笑い出した。
暫くの間、二人で向かい合い大笑いしていた。

この時も微かに糸が切れた音がした。

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