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75.報告案件
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「え? あれ? え? 何で?」
たった今、傍にいたはずの老婆の姿がない。椿は目を擦って何度も目の前を見たが、やっぱり誰もいない・・・。
「オフィーリア様。こちらにいらしたのね」
「まあ、アンティークのお店? 素敵ね」
「何かお買いになったの?」
「いいえ・・・、えっと、可愛いなって見ていただけで・・・」
椿は三人に振り向いた。
「あら? お隣のお店はブレスレットのお店ですわね! 可愛いわ!」
アニーが指を差した。
「え゛?」
椿はビュンッともう一度振り返った。隣の屋台を見る。すると、そこにはさっきの老婆が椅子に座り、居眠りをしていた。さっきまで自分と話していたとは到底考えられないほど爆睡状態。派手に船を漕いでいる。その前にはその老婆の手作りと思われる品の良いブレスレットが並んでいるが、糸で編んだミサンガのようなものは一つも無かった。
(私、白昼夢を見ていた・・・?)
椿は自分の左手首を見た。
「!!」
手首にはしっかりと人の手で握られた跡が付いている。椿はヒュッ息を呑んだ。
(こ、これは、報告案件だ! 早く帰って柳君に報告しなきゃ! オフィーリア様にも!)
しかし、現実は甘くない。最初のアニーの提案通り、二度目のお茶が待っていた。
これまた行きつけのカフェに連れて行かれ、ガールズトークに花が咲く。そんな中、椿ははやる気持ちを懸命に抑えていた。
しかし、新作ケーキを堪能しているうちに、次第に気持ちも落ち着き、甘い紅茶も二杯目に突入した時には、ゆとりを持って三人の話に耳を傾けることができていた。
☆彡
夕方になり、やっと寮に戻って来た。
「これからどうしますか? まだ晩餐までには時間がありますけど、皆さんはお部屋に戻りますか?」
まだ帰りたくないとはっきり書いてある顔でアニーが三人に微笑む。
「ごめんなさい。わたくしはやる事がありますのよ、抜けてもよろしいかしら?」
ダリアは申し訳なさそうな顔でアニーを見た。
「そうでしたわ。ダリア様には任務が・・・」
アニーは急にキリッとした顔になり、小さく頷いた。
「オフィーリア様のことはわたくしたちにお任せください。ダリア様」
クラリスも力強く頷いた。ダリアは安心したように微笑むと、
「では失礼しますわね。今日はとっても楽しかったですわ、皆様。また明日!」
優雅に挨拶するとクルリと踵を返し歩き出した。しかし、数歩歩くと立ち止まり振り返った。
「オフィーリア様! 今日はお付き合いくださってありがとうございました。本当に楽しかったです。わたくし、今日のことは絶対に忘れませんわ!」
ダリアは自分でも何故わざわざこんなことを口にしたのか分からなかった。まだ卒業するまで日はある。それまでは一緒に過ごすはずなのに、どうしてこんな最後の挨拶みたいな言葉が口をついたのだろう? 分からないが言わずにはいられなかったのだ。
「わ、私も楽しかったです! ありがとうございました、ダリア様。また明日」
椿もちょこんと頭を下げ、ダリアに答えた。ダリアはその姿に満足したように微笑むと、今度こそ本当にその場から急ぎ足で去って行った。
「わたくし、借りたい本がありますのよ。自習室に行ってもよろしいかしら」
ダリアの姿が見えなくなるのを見届けると、クラリスが二人に振り向いた。
「いいですわよ。自習室でも談話スペースならおしゃべりできますしね」
アニーが可愛らしくパンと手を叩いた。
「あ・・・あの・・・、私・・・」
椿は言い辛そうに上目遣いで二人を見た。
「ごめんなさい・・・、私、共用サロンに行きたいのですが・・・、やな・・・セオドア様に会いたくて・・・」
この学院の寮は女子寮と男子寮と完全分離だが、二棟の間に小さな建物があり、共同に使用できるサロンがある。時間制限があり夕食時間前の午後18:30までしか使えない。
できる事なら今日の内に、さっきのマーケットでの不可解な出来事を柳に伝えたい。そう思った椿は何とかしてサロンで柳と落ち合おうと考えたのだ。
「まあ~!! オフィーリア様ったら~! 一日でもセオドア様から離れたくないのですね! 可愛らしいわぁ!」
アニーがぱああっと明るく笑う。
「でしたら、サロンまでお送りしますわ。セオドア様が一緒なら何の心配もいりませんもの。わたくしたちは自習室に行きますね、お邪魔でしょうし。ふふふ♪」
クラリスも微笑んで頷いた。
椿は二人の生温い笑顔に苦笑いしながら、一緒に共用サロンに向かった。
たった今、傍にいたはずの老婆の姿がない。椿は目を擦って何度も目の前を見たが、やっぱり誰もいない・・・。
「オフィーリア様。こちらにいらしたのね」
「まあ、アンティークのお店? 素敵ね」
「何かお買いになったの?」
「いいえ・・・、えっと、可愛いなって見ていただけで・・・」
椿は三人に振り向いた。
「あら? お隣のお店はブレスレットのお店ですわね! 可愛いわ!」
アニーが指を差した。
「え゛?」
椿はビュンッともう一度振り返った。隣の屋台を見る。すると、そこにはさっきの老婆が椅子に座り、居眠りをしていた。さっきまで自分と話していたとは到底考えられないほど爆睡状態。派手に船を漕いでいる。その前にはその老婆の手作りと思われる品の良いブレスレットが並んでいるが、糸で編んだミサンガのようなものは一つも無かった。
(私、白昼夢を見ていた・・・?)
椿は自分の左手首を見た。
「!!」
手首にはしっかりと人の手で握られた跡が付いている。椿はヒュッ息を呑んだ。
(こ、これは、報告案件だ! 早く帰って柳君に報告しなきゃ! オフィーリア様にも!)
しかし、現実は甘くない。最初のアニーの提案通り、二度目のお茶が待っていた。
これまた行きつけのカフェに連れて行かれ、ガールズトークに花が咲く。そんな中、椿ははやる気持ちを懸命に抑えていた。
しかし、新作ケーキを堪能しているうちに、次第に気持ちも落ち着き、甘い紅茶も二杯目に突入した時には、ゆとりを持って三人の話に耳を傾けることができていた。
☆彡
夕方になり、やっと寮に戻って来た。
「これからどうしますか? まだ晩餐までには時間がありますけど、皆さんはお部屋に戻りますか?」
まだ帰りたくないとはっきり書いてある顔でアニーが三人に微笑む。
「ごめんなさい。わたくしはやる事がありますのよ、抜けてもよろしいかしら?」
ダリアは申し訳なさそうな顔でアニーを見た。
「そうでしたわ。ダリア様には任務が・・・」
アニーは急にキリッとした顔になり、小さく頷いた。
「オフィーリア様のことはわたくしたちにお任せください。ダリア様」
クラリスも力強く頷いた。ダリアは安心したように微笑むと、
「では失礼しますわね。今日はとっても楽しかったですわ、皆様。また明日!」
優雅に挨拶するとクルリと踵を返し歩き出した。しかし、数歩歩くと立ち止まり振り返った。
「オフィーリア様! 今日はお付き合いくださってありがとうございました。本当に楽しかったです。わたくし、今日のことは絶対に忘れませんわ!」
ダリアは自分でも何故わざわざこんなことを口にしたのか分からなかった。まだ卒業するまで日はある。それまでは一緒に過ごすはずなのに、どうしてこんな最後の挨拶みたいな言葉が口をついたのだろう? 分からないが言わずにはいられなかったのだ。
「わ、私も楽しかったです! ありがとうございました、ダリア様。また明日」
椿もちょこんと頭を下げ、ダリアに答えた。ダリアはその姿に満足したように微笑むと、今度こそ本当にその場から急ぎ足で去って行った。
「わたくし、借りたい本がありますのよ。自習室に行ってもよろしいかしら」
ダリアの姿が見えなくなるのを見届けると、クラリスが二人に振り向いた。
「いいですわよ。自習室でも談話スペースならおしゃべりできますしね」
アニーが可愛らしくパンと手を叩いた。
「あ・・・あの・・・、私・・・」
椿は言い辛そうに上目遣いで二人を見た。
「ごめんなさい・・・、私、共用サロンに行きたいのですが・・・、やな・・・セオドア様に会いたくて・・・」
この学院の寮は女子寮と男子寮と完全分離だが、二棟の間に小さな建物があり、共同に使用できるサロンがある。時間制限があり夕食時間前の午後18:30までしか使えない。
できる事なら今日の内に、さっきのマーケットでの不可解な出来事を柳に伝えたい。そう思った椿は何とかしてサロンで柳と落ち合おうと考えたのだ。
「まあ~!! オフィーリア様ったら~! 一日でもセオドア様から離れたくないのですね! 可愛らしいわぁ!」
アニーがぱああっと明るく笑う。
「でしたら、サロンまでお送りしますわ。セオドア様が一緒なら何の心配もいりませんもの。わたくしたちは自習室に行きますね、お邪魔でしょうし。ふふふ♪」
クラリスも微笑んで頷いた。
椿は二人の生温い笑顔に苦笑いしながら、一緒に共用サロンに向かった。
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