喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

文字の大きさ
75 / 105

75.報告案件

しおりを挟む
「え? あれ? え? 何で?」

たった今、傍にいたはずの老婆の姿がない。椿は目を擦って何度も目の前を見たが、やっぱり誰もいない・・・。

「オフィーリア様。こちらにいらしたのね」
「まあ、アンティークのお店? 素敵ね」
「何かお買いになったの?」

「いいえ・・・、えっと、可愛いなって見ていただけで・・・」

椿は三人に振り向いた。

「あら? お隣のお店はブレスレットのお店ですわね! 可愛いわ!」

アニーが指を差した。

「え゛?」

椿はビュンッともう一度振り返った。隣の屋台を見る。すると、そこにはさっきの老婆が椅子に座り、居眠りをしていた。さっきまで自分と話していたとは到底考えられないほど爆睡状態。派手に船を漕いでいる。その前にはその老婆の手作りと思われる品の良いブレスレットが並んでいるが、糸で編んだミサンガのようなものは一つも無かった。

(私、白昼夢を見ていた・・・?)

椿は自分の左手首を見た。

「!!」

手首にはしっかりと人の手で握られた跡が付いている。椿はヒュッ息を呑んだ。

(こ、これは、報告案件だ! 早く帰って柳君に報告しなきゃ! オフィーリア様にも!)

しかし、現実は甘くない。最初のアニーの提案通り、二度目のお茶が待っていた。
これまた行きつけのカフェに連れて行かれ、ガールズトークに花が咲く。そんな中、椿ははやる気持ちを懸命に抑えていた。
しかし、新作ケーキを堪能しているうちに、次第に気持ちも落ち着き、甘い紅茶も二杯目に突入した時には、ゆとりを持って三人の話に耳を傾けることができていた。


☆彡


夕方になり、やっと寮に戻って来た。

「これからどうしますか? まだ晩餐までには時間がありますけど、皆さんはお部屋に戻りますか?」

まだ帰りたくないとはっきり書いてある顔でアニーが三人に微笑む。

「ごめんなさい。わたくしはやる事がありますのよ、抜けてもよろしいかしら?」

ダリアは申し訳なさそうな顔でアニーを見た。

「そうでしたわ。ダリア様には任務が・・・」

アニーは急にキリッとした顔になり、小さく頷いた。

「オフィーリア様のことはわたくしたちにお任せください。ダリア様」

クラリスも力強く頷いた。ダリアは安心したように微笑むと、

「では失礼しますわね。今日はとっても楽しかったですわ、皆様。また明日!」

優雅に挨拶するとクルリと踵を返し歩き出した。しかし、数歩歩くと立ち止まり振り返った。

「オフィーリア様! 今日はお付き合いくださってありがとうございました。本当に楽しかったです。わたくし、今日のことは絶対に忘れませんわ!」

ダリアは自分でも何故わざわざこんなことを口にしたのか分からなかった。まだ卒業するまで日はある。それまでは一緒に過ごすはずなのに、どうしてこんな最後の挨拶みたいな言葉が口をついたのだろう? 分からないが言わずにはいられなかったのだ。

「わ、私も楽しかったです! ありがとうございました、ダリア様。また明日」

椿もちょこんと頭を下げ、ダリアに答えた。ダリアはその姿に満足したように微笑むと、今度こそ本当にその場から急ぎ足で去って行った。

「わたくし、借りたい本がありますのよ。自習室に行ってもよろしいかしら」

ダリアの姿が見えなくなるのを見届けると、クラリスが二人に振り向いた。

「いいですわよ。自習室でも談話スペースならおしゃべりできますしね」

アニーが可愛らしくパンと手を叩いた。

「あ・・・あの・・・、私・・・」

椿は言い辛そうに上目遣いで二人を見た。

「ごめんなさい・・・、私、共用サロンに行きたいのですが・・・、やな・・・セオドア様に会いたくて・・・」

この学院の寮は女子寮と男子寮と完全分離だが、二棟の間に小さな建物があり、共同に使用できるサロンがある。時間制限があり夕食時間前の午後18:30までしか使えない。
できる事なら今日の内に、さっきのマーケットでの不可解な出来事を柳に伝えたい。そう思った椿は何とかしてサロンで柳と落ち合おうと考えたのだ。

「まあ~!! オフィーリア様ったら~! 一日でもセオドア様から離れたくないのですね! 可愛らしいわぁ!」

アニーがぱああっと明るく笑う。

「でしたら、サロンまでお送りしますわ。セオドア様が一緒なら何の心配もいりませんもの。わたくしたちは自習室に行きますね、お邪魔でしょうし。ふふふ♪」

クラリスも微笑んで頷いた。
椿は二人の生温い笑顔に苦笑いしながら、一緒に共用サロンに向かった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。 自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。 このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく── ─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。 このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる! それは、悪役教授ネクロセフ。 顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。 「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」 ……のはずが。 「夢小説とは何だ?」 「殿下、私の夢小説を読まないでください!」 完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。 破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ! 小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...