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炎の誓い
朝の市場
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ーー空歴1984年1月25日
その日は、帝政アルバスの寒気には激レアレベルに珍く雲一つない晴天であった。週7日制をとる帝政アルバスにおいて、週に1度しかない学生の休日に晴れになると誰だってそんなに悪い気はしない。普段は家でゆっくりしていたい人でも外にでてしまうものだ。
アルバスの貿易の要であり、南東部の沿岸沿いに位置する大商業都市カルメス。沿岸部に面しているので、当然の事ながら漁業も盛んである。
今日は晴れて、海も穏やか。更には学生休日も相まって、馬鹿みたいに街は騒がしい形相であった。
レンガ作りの西洋風な建物が並ぶ正方形の道沿いにはいくつもの露天が存在している。
野菜から魚。肉と日々の生活で必要な食材や、100種類以上のスパイスなど、マニアックなものまでたんでもござれ。別に食材でなくとも、アクセサリーから家具。馬や牛なんかまで揃っている。年頃の娘が大好きそうなお洒落なカフェなんかはないが、1日中、街の中を散策しても飽きることは無いだろう。特に休日はいつもお祭騒ぎである。
その中に一際目立つ美女3人と並んで歩く羨望の眼差しを受ける男がいた。
男はいっけん、線が細そうに見えるが人混みに揉まれながらも一切、軸はぶれていない。着痩せするタイプなようだ。
男の名はルシアハプスブルク。
大の家族馬鹿である。
「あの、ルシア兄様お疲れのようですが具合が悪いのですか?」
ルシアの左手を握る黒髪の女の子が心配そうに話しかける。ルシアの義妹であるアミュだ。今日はいつもの幼く見えるフリフリのドレスではなく、黒い学ランに、膝下の届かない程度の丈の長さのスカートを履いている。これはハプスブルク家の面々が通うカルメル学術院の指定制服である。別に休日にわざわざ着ているのはアミュが特別ではない。他にも一緒に買い物に来ているルシアも学ランに黒いズボンだし、ブロンズの髪が特徴的なかぐや姫的存在のオリビアも、白髪に白い瞳のステファニーにも同じように制服を着ていた。
「それにしても、せっかくのデートに制服とは頂けないわ」
制服で行くと言った時、一番反対していたのはオリビアではなく、何故か付いて来たステフであった。
「ルールなんだから従えよな。それに制服だと色々と特典あるし。何より学割がでかい」
「貴族の言うことじゃないでしょりハプスブルク家と言えば、国内最高峰よ。次期当主が値段を値切って食材買うなんて由々しき事態だわ」
「ドラ娘の価値観と一緒ににするな。別にギリギリまで値切り倒すつもりもないさ。ただな、学生のうちは学生らしく周りと同じ価値観を持つことは重要だと思うけどな。何事も経験だよ」
「とても私より年下の発言とは思えないわ」
「そもそも、なんでステフ姉さんがいるの? 誘われてないんでしょ。空気読んで外様は引っ込んでてよ。それか街の男どもと遊んでいればいいじゃない」
「妹の癖に姉に対して随分な発言をするわね。格の差を見せつけてあげてもいいのでけど?」
「たまたま一年早く生まれただけで私とルシアの恋路を邪魔をしたことを死んで後悔させてあげるわ」
ルシアとしてもこうなることは目に見えていたから、ステフは置いて行こうとしたが、結果失敗している。どうもルシアでは家族の頼みを断ることが出来ない。
「分かった。今回もルールを決めよう。ここは市場だし、買い物競争ってことでどうかな?」
「流石に、それは街でよく遊ぶ私の方が断然、有利だと思うのだけども。毎日、さっさとルシアと帰宅しちやう家庭引きこもり系女子のオリビアには勝ち目なさそうだけど? 私に勝って欲しいの?」
「ステフ姉さん、はやとちりしすぎだよ。僕だってそこら辺はよく知っているよ。だから、買って来て欲しい物はアミュが気に入りそうなもの。判定は俺の独断と偏見で決めるよ。アミュに任せるときっと完全にリヴ贔屓になってしまうからな。これからば、アミュとあんまり会話しないステフ姉さんには街に詳しくとも難しい、アミュと仲の良いリヴは街が分からなくても好きなものが分かる。フェアだろ?」
「確かに。それなら平等ね」
「元から私はどんな不利な勝負であれ、ルシアが見ている以上は負けるつもりは毛頭ないわ」
二人ともやる気は十分。いや、十分すぎる。目に見えるレベルで、火花が散るのが見える。
「一時間後に、噴水広場に集合ってことで。それまでは俺たちとの会話はヒントを片方だけに漏らす可能性があるから禁止な。それではスタート」
ステフは開始早々にダッシュして、どこかへ走り去っていた。だが、何故か知らないがオリビアはそのままルシア達の後を着いて歩いている。
会話禁止をこちらから言い出した以上、ルシアが何かを言うことが出来ない。だが、ちょっとルール違反な気もする。それなら警告を…………
「ステフ姉さま行かなくてよろしいのですか? このままでは負けてしまいますわ」
「別にいいのよ。ここの街には至る所に店があるわ。残りの3分で適当にアミュの好きそうなものを見繕うわ。わざわざ邪魔者が自ら消えてくれたんだしね」
「はぁ。俺が買い物勝負のお題を出すと読んでたな」
「当たり前でしょ? 嫁が夫の思考の一つトレースできなくて務まらないわ」
「恐ろしいことを言うな。別にお題の話をしている訳じゃないから反則とは呼べないからお咎めないけどね」
やはり伊達に長年、家族をやっている訳じゃないか。ルシアも予想はしていなかったが、別に驚くようなことではない。家の家族は頭が皆、揃って良い。中でも、目立たないだけでリヴは秀でている。ルシアとアイシャが飛び抜けて化物なだけだ。
「そう言えば、俺たち家族になってからどれくらいたったけ? 俺が6歳の頃にいたのはイスルギとミカゲ姉さんだったな。それからアイシャ姉さんが来て、リヴが来たんだよな」
「私は8歳の頃に来たから、これで8年目ね。ちょうど人生の半分をルシアと過ごしている計算よね。それから1に年後に同時期にアミュとステフ姉さんが来たのよね。ほんと、そういう意味じゃ最近来たばかりなのに問題ばかりを起こす困った姉だわ」
十年間、色々なことがあった。別に初めから家族が上手く回っていたわけじゃない。個性が強すぎるメンツがそろっているのでここまで平和な関係になるのにはかなり苦労した。主にルシアがだ。
当主は基本的には趣味に没頭するタイプだから、家族にはあんまり興味なかったので、大人なルシアが本当に苦労した。
「私はとてもいい子ですわ、オリビア姉さま」
「そうね。ステフ姉さんとは大違いよ。もっとちゃんとして欲しいわ」
「まぁ、ステフ姉さんは我が家の問題児だからな。でも、それなりに良いところもあるんだし。初めは皆、問題児だったしね。流石に、初めは苦労したよ」
「私はもうすっかり角が取れて大人しくなったわ。でも、なんだか懐かしいわね。私もルシアと家族でない時期があったんだよね」
「オリビア姉さんは鳳凰院にいた時のことを思い出すのかしら? 私は幼い頃にこっちにきたからあんまり覚えていないの」
「小さい頃って、当時5歳じゃんかよ」
「…………でも、覚えていないのですもの」
「俺もずっと記憶から離れない時期があったけど、今では随分、割り切れて来たかな。今が好きなんだよ」
「私は……………」
急に。いつにもなくおどおどした様子になるオリビア。
家族間でも、過去の話はタブーになっている。変に思い出しても良い記憶なんて誰も持っていないからだ。皆がここに来るまでに悲惨な人生を送ってきている。
「オリビア姉さま、変な質問をしてしましたか?」
「だ、だいじょうぶよ。私も何も覚えていないから。ルシアのことだけで容量は精一杯よ」
「二人とも、空の国出身ですものね。ちょっと羨ましい気がしますわ。空で暮らすってどういう気分なんですの?」
「別に地上で暮らす方が良いよ。風強いと島が揺れるし、雷落ちやすいし。雲の中に入ると街中の視界が極端に悪くなる。太陽に近い分、暑いしな。景色がいいくらいで、良い事なんてあんまりないぞ」
「そうなのですか? ルシア兄さまがそう言うのでしたら、行かなくて正解ですわ。ところで、あそこの変な服の人たちなんですの?」
アミュが指を指した先には、たくさんの人がいたのに何を指していたか一目で分かった。ピエロの仮面を被った白装束の集団。人数は6人。街の人もやはり怪しいと思って避けて歩いている。
「分からないけど。関わらない方が良い連中じゃないか? 見た感じこの国の人ではなさそうだし。船でやって来た同盟諸国の雑技団の連中とみた。リヴはどう思う?」
「ごめん。ちょっと勝負で勝てそうなのがあっちの通りにあったから買ってくるね」
そう言って慌てて、横の通りに向かって行った。人がたくさんいるせいで、直ぐに二人はオリビアを見失ってしまう。
「オリビア姉さま、どうしたのかしら?」
「どうもしないよ。きっと嫌な過去でもさっきの会話で思い出して、一人になりたかったんだろ。家族になる前は基本的に悲惨な出来事に巻き込まれた孤児ばかりだからな。過去の話はあんまりしない方が良い。誰にだって、触れられたくない過去はあるんだよ。普段、お気楽そうなリヴは特に過去に囚われているんだよ。僕も触りの部分しか聞かされていないけどね」
そうは言ったものルシアも実は内心ではめっちゃ気にしていたりする。あの妙なピエロの仮面を被った連中は雑技団と言ったが、実のところはそれよりももっとピンとくるものがあった。
鳳凰院の戦闘系特務機関の中にある正義執行をもっとうにするやばい暗殺者集団M6。噂でしか耳にしたことがないが特徴が微妙に似ているのが気がかりだった。殺気は感じなかったし、鳳凰院がわざわざこの平和の国にそんな物騒な連中を送り込んでくる理由がないから違うだろう。
「ルシア兄さまにもあるの?」
「もう平気かな。俺には幸せな家族が今はいるしな」
「私も同じですわ」
「それじゃ、食料の調達を続けますかな」
二人は約束の時間まで街に来た本来の目的である食材を次々に買い込んだ。アミュ効果でいつもよりも安く買えたので多く買ってしまい、荷車をレンタルして押して歩くことになった。
「時間ちょっとだけ過ぎたけど、二人はもう来てるかな?」
「二人とも随分と時間にはルーズですし、まだまだ来ていいないと思うわ」
「俺もそう思う………………いや、ステラ姉さんは来ているかな。ベンチに座ってこっちを見たら、遅いしって不貞腐れて言うにクレープ一一個を賭けよう」
「じゃあ、いたら今度また私とデートしてくださいね?」
「両方同じものに賭けたら、賭けになっていないだろうが」
「だって、ルシア兄さまが家族について自信満々に言うんだもん。間違える訳がないじゃない」
「それは信頼しすぎだよ。俺だって間違えることくらいある。今日は自信ありだけどな」
そうして広間に向かうと、予想通りに不貞腐れた顔をしたステフが広間の中心にある円形の噴水に腰を掛けていた。ステフの手には小さい茶色い袋が握られている。どうやら、買い物は済んでいるらしい。
噴水広場は若いカップルたちの待ち合わせ場所として多く利用されていて、本日は休日な為、カップルが普段よりも多い。それも不機嫌の原因だろう。あの事件以降、男子と遊ぶのをきっぱりと止めたせいで、ステフはカップルを見ると機嫌がやたら悪くなる。
「ステフ姉さん。ちょっと待たせちゃったようでごめんね」
女子が起こっている時には基本って気に謝るに限る。ルシアが人生から学んだ女子ばかりの家族と円滑に過ごす方法の一つだ。
「別に待っていないわ。ただ、男としてこんなにも可愛い女の子を20分も待たせるのはどうかと思うわ。男としてね。私の彼氏の自覚あるの? 小さい子と手をつないでデレデレしちゃって変態。ロリコン」
「ステフ姉さま本当ですか? やっぱり私に欲情しているのですね」
「アミュはなんか喜びだしたし。めんどくせぇな。そもそもなんでお前らは俺を勝手に彼氏にしているんだよ。俺は付き合うなんて言った覚えはないぞ。それに俺はロリコンじゃないぞ」
「ルシア。もしかして忘れたの? あの事件の前の日、私に言ったじゃない。「お前は俺の大切な女だって。それを傷つける奴は誰であろうと許さない」ってさ」
「家族に勝手に女とルビを振るな。記憶を勝手に改ざんするな」
「私には6歳の時にもっと「お前がいないと俺は生きていけない」って言ってくれたんですから。私の方が断然上ですわ」
「………………なんか微妙に言って覚えのある科白だなんだよな。ぶっちゃけ前のもギリギリな気がするし。仕方ないか」
ルシアはどうも暴走するとこう言った問題発言をしてしまうことがある。
「分かったよ。別に彼氏でもロリコンでも構わないから、公共の場での俺の過去の発言を言うのは辞めてもらいたい。てか、リヴ遅くね?」
「遅いわね。オリビアのことだから、時間終了間近までルシアの側にいて5分くらいで適当なものを見繕うつもりだと思っていたのだけど?」
「やっぱりステラ姉さんもそう読んでいたのか。実際、そうしていたのだけど。急に過去の話していたら、買い物に行くって言って急にいなくなったんだよ。なんか怪しい連中を街で見かけたし、ちょっと心配だったんだよね」
「なら、さっさと探しに行きましょう」
珍しくステフがそう提案した。
その日は、帝政アルバスの寒気には激レアレベルに珍く雲一つない晴天であった。週7日制をとる帝政アルバスにおいて、週に1度しかない学生の休日に晴れになると誰だってそんなに悪い気はしない。普段は家でゆっくりしていたい人でも外にでてしまうものだ。
アルバスの貿易の要であり、南東部の沿岸沿いに位置する大商業都市カルメス。沿岸部に面しているので、当然の事ながら漁業も盛んである。
今日は晴れて、海も穏やか。更には学生休日も相まって、馬鹿みたいに街は騒がしい形相であった。
レンガ作りの西洋風な建物が並ぶ正方形の道沿いにはいくつもの露天が存在している。
野菜から魚。肉と日々の生活で必要な食材や、100種類以上のスパイスなど、マニアックなものまでたんでもござれ。別に食材でなくとも、アクセサリーから家具。馬や牛なんかまで揃っている。年頃の娘が大好きそうなお洒落なカフェなんかはないが、1日中、街の中を散策しても飽きることは無いだろう。特に休日はいつもお祭騒ぎである。
その中に一際目立つ美女3人と並んで歩く羨望の眼差しを受ける男がいた。
男はいっけん、線が細そうに見えるが人混みに揉まれながらも一切、軸はぶれていない。着痩せするタイプなようだ。
男の名はルシアハプスブルク。
大の家族馬鹿である。
「あの、ルシア兄様お疲れのようですが具合が悪いのですか?」
ルシアの左手を握る黒髪の女の子が心配そうに話しかける。ルシアの義妹であるアミュだ。今日はいつもの幼く見えるフリフリのドレスではなく、黒い学ランに、膝下の届かない程度の丈の長さのスカートを履いている。これはハプスブルク家の面々が通うカルメル学術院の指定制服である。別に休日にわざわざ着ているのはアミュが特別ではない。他にも一緒に買い物に来ているルシアも学ランに黒いズボンだし、ブロンズの髪が特徴的なかぐや姫的存在のオリビアも、白髪に白い瞳のステファニーにも同じように制服を着ていた。
「それにしても、せっかくのデートに制服とは頂けないわ」
制服で行くと言った時、一番反対していたのはオリビアではなく、何故か付いて来たステフであった。
「ルールなんだから従えよな。それに制服だと色々と特典あるし。何より学割がでかい」
「貴族の言うことじゃないでしょりハプスブルク家と言えば、国内最高峰よ。次期当主が値段を値切って食材買うなんて由々しき事態だわ」
「ドラ娘の価値観と一緒ににするな。別にギリギリまで値切り倒すつもりもないさ。ただな、学生のうちは学生らしく周りと同じ価値観を持つことは重要だと思うけどな。何事も経験だよ」
「とても私より年下の発言とは思えないわ」
「そもそも、なんでステフ姉さんがいるの? 誘われてないんでしょ。空気読んで外様は引っ込んでてよ。それか街の男どもと遊んでいればいいじゃない」
「妹の癖に姉に対して随分な発言をするわね。格の差を見せつけてあげてもいいのでけど?」
「たまたま一年早く生まれただけで私とルシアの恋路を邪魔をしたことを死んで後悔させてあげるわ」
ルシアとしてもこうなることは目に見えていたから、ステフは置いて行こうとしたが、結果失敗している。どうもルシアでは家族の頼みを断ることが出来ない。
「分かった。今回もルールを決めよう。ここは市場だし、買い物競争ってことでどうかな?」
「流石に、それは街でよく遊ぶ私の方が断然、有利だと思うのだけども。毎日、さっさとルシアと帰宅しちやう家庭引きこもり系女子のオリビアには勝ち目なさそうだけど? 私に勝って欲しいの?」
「ステフ姉さん、はやとちりしすぎだよ。僕だってそこら辺はよく知っているよ。だから、買って来て欲しい物はアミュが気に入りそうなもの。判定は俺の独断と偏見で決めるよ。アミュに任せるときっと完全にリヴ贔屓になってしまうからな。これからば、アミュとあんまり会話しないステフ姉さんには街に詳しくとも難しい、アミュと仲の良いリヴは街が分からなくても好きなものが分かる。フェアだろ?」
「確かに。それなら平等ね」
「元から私はどんな不利な勝負であれ、ルシアが見ている以上は負けるつもりは毛頭ないわ」
二人ともやる気は十分。いや、十分すぎる。目に見えるレベルで、火花が散るのが見える。
「一時間後に、噴水広場に集合ってことで。それまでは俺たちとの会話はヒントを片方だけに漏らす可能性があるから禁止な。それではスタート」
ステフは開始早々にダッシュして、どこかへ走り去っていた。だが、何故か知らないがオリビアはそのままルシア達の後を着いて歩いている。
会話禁止をこちらから言い出した以上、ルシアが何かを言うことが出来ない。だが、ちょっとルール違反な気もする。それなら警告を…………
「ステフ姉さま行かなくてよろしいのですか? このままでは負けてしまいますわ」
「別にいいのよ。ここの街には至る所に店があるわ。残りの3分で適当にアミュの好きそうなものを見繕うわ。わざわざ邪魔者が自ら消えてくれたんだしね」
「はぁ。俺が買い物勝負のお題を出すと読んでたな」
「当たり前でしょ? 嫁が夫の思考の一つトレースできなくて務まらないわ」
「恐ろしいことを言うな。別にお題の話をしている訳じゃないから反則とは呼べないからお咎めないけどね」
やはり伊達に長年、家族をやっている訳じゃないか。ルシアも予想はしていなかったが、別に驚くようなことではない。家の家族は頭が皆、揃って良い。中でも、目立たないだけでリヴは秀でている。ルシアとアイシャが飛び抜けて化物なだけだ。
「そう言えば、俺たち家族になってからどれくらいたったけ? 俺が6歳の頃にいたのはイスルギとミカゲ姉さんだったな。それからアイシャ姉さんが来て、リヴが来たんだよな」
「私は8歳の頃に来たから、これで8年目ね。ちょうど人生の半分をルシアと過ごしている計算よね。それから1に年後に同時期にアミュとステフ姉さんが来たのよね。ほんと、そういう意味じゃ最近来たばかりなのに問題ばかりを起こす困った姉だわ」
十年間、色々なことがあった。別に初めから家族が上手く回っていたわけじゃない。個性が強すぎるメンツがそろっているのでここまで平和な関係になるのにはかなり苦労した。主にルシアがだ。
当主は基本的には趣味に没頭するタイプだから、家族にはあんまり興味なかったので、大人なルシアが本当に苦労した。
「私はとてもいい子ですわ、オリビア姉さま」
「そうね。ステフ姉さんとは大違いよ。もっとちゃんとして欲しいわ」
「まぁ、ステフ姉さんは我が家の問題児だからな。でも、それなりに良いところもあるんだし。初めは皆、問題児だったしね。流石に、初めは苦労したよ」
「私はもうすっかり角が取れて大人しくなったわ。でも、なんだか懐かしいわね。私もルシアと家族でない時期があったんだよね」
「オリビア姉さんは鳳凰院にいた時のことを思い出すのかしら? 私は幼い頃にこっちにきたからあんまり覚えていないの」
「小さい頃って、当時5歳じゃんかよ」
「…………でも、覚えていないのですもの」
「俺もずっと記憶から離れない時期があったけど、今では随分、割り切れて来たかな。今が好きなんだよ」
「私は……………」
急に。いつにもなくおどおどした様子になるオリビア。
家族間でも、過去の話はタブーになっている。変に思い出しても良い記憶なんて誰も持っていないからだ。皆がここに来るまでに悲惨な人生を送ってきている。
「オリビア姉さま、変な質問をしてしましたか?」
「だ、だいじょうぶよ。私も何も覚えていないから。ルシアのことだけで容量は精一杯よ」
「二人とも、空の国出身ですものね。ちょっと羨ましい気がしますわ。空で暮らすってどういう気分なんですの?」
「別に地上で暮らす方が良いよ。風強いと島が揺れるし、雷落ちやすいし。雲の中に入ると街中の視界が極端に悪くなる。太陽に近い分、暑いしな。景色がいいくらいで、良い事なんてあんまりないぞ」
「そうなのですか? ルシア兄さまがそう言うのでしたら、行かなくて正解ですわ。ところで、あそこの変な服の人たちなんですの?」
アミュが指を指した先には、たくさんの人がいたのに何を指していたか一目で分かった。ピエロの仮面を被った白装束の集団。人数は6人。街の人もやはり怪しいと思って避けて歩いている。
「分からないけど。関わらない方が良い連中じゃないか? 見た感じこの国の人ではなさそうだし。船でやって来た同盟諸国の雑技団の連中とみた。リヴはどう思う?」
「ごめん。ちょっと勝負で勝てそうなのがあっちの通りにあったから買ってくるね」
そう言って慌てて、横の通りに向かって行った。人がたくさんいるせいで、直ぐに二人はオリビアを見失ってしまう。
「オリビア姉さま、どうしたのかしら?」
「どうもしないよ。きっと嫌な過去でもさっきの会話で思い出して、一人になりたかったんだろ。家族になる前は基本的に悲惨な出来事に巻き込まれた孤児ばかりだからな。過去の話はあんまりしない方が良い。誰にだって、触れられたくない過去はあるんだよ。普段、お気楽そうなリヴは特に過去に囚われているんだよ。僕も触りの部分しか聞かされていないけどね」
そうは言ったものルシアも実は内心ではめっちゃ気にしていたりする。あの妙なピエロの仮面を被った連中は雑技団と言ったが、実のところはそれよりももっとピンとくるものがあった。
鳳凰院の戦闘系特務機関の中にある正義執行をもっとうにするやばい暗殺者集団M6。噂でしか耳にしたことがないが特徴が微妙に似ているのが気がかりだった。殺気は感じなかったし、鳳凰院がわざわざこの平和の国にそんな物騒な連中を送り込んでくる理由がないから違うだろう。
「ルシア兄さまにもあるの?」
「もう平気かな。俺には幸せな家族が今はいるしな」
「私も同じですわ」
「それじゃ、食料の調達を続けますかな」
二人は約束の時間まで街に来た本来の目的である食材を次々に買い込んだ。アミュ効果でいつもよりも安く買えたので多く買ってしまい、荷車をレンタルして押して歩くことになった。
「時間ちょっとだけ過ぎたけど、二人はもう来てるかな?」
「二人とも随分と時間にはルーズですし、まだまだ来ていいないと思うわ」
「俺もそう思う………………いや、ステラ姉さんは来ているかな。ベンチに座ってこっちを見たら、遅いしって不貞腐れて言うにクレープ一一個を賭けよう」
「じゃあ、いたら今度また私とデートしてくださいね?」
「両方同じものに賭けたら、賭けになっていないだろうが」
「だって、ルシア兄さまが家族について自信満々に言うんだもん。間違える訳がないじゃない」
「それは信頼しすぎだよ。俺だって間違えることくらいある。今日は自信ありだけどな」
そうして広間に向かうと、予想通りに不貞腐れた顔をしたステフが広間の中心にある円形の噴水に腰を掛けていた。ステフの手には小さい茶色い袋が握られている。どうやら、買い物は済んでいるらしい。
噴水広場は若いカップルたちの待ち合わせ場所として多く利用されていて、本日は休日な為、カップルが普段よりも多い。それも不機嫌の原因だろう。あの事件以降、男子と遊ぶのをきっぱりと止めたせいで、ステフはカップルを見ると機嫌がやたら悪くなる。
「ステフ姉さん。ちょっと待たせちゃったようでごめんね」
女子が起こっている時には基本って気に謝るに限る。ルシアが人生から学んだ女子ばかりの家族と円滑に過ごす方法の一つだ。
「別に待っていないわ。ただ、男としてこんなにも可愛い女の子を20分も待たせるのはどうかと思うわ。男としてね。私の彼氏の自覚あるの? 小さい子と手をつないでデレデレしちゃって変態。ロリコン」
「ステフ姉さま本当ですか? やっぱり私に欲情しているのですね」
「アミュはなんか喜びだしたし。めんどくせぇな。そもそもなんでお前らは俺を勝手に彼氏にしているんだよ。俺は付き合うなんて言った覚えはないぞ。それに俺はロリコンじゃないぞ」
「ルシア。もしかして忘れたの? あの事件の前の日、私に言ったじゃない。「お前は俺の大切な女だって。それを傷つける奴は誰であろうと許さない」ってさ」
「家族に勝手に女とルビを振るな。記憶を勝手に改ざんするな」
「私には6歳の時にもっと「お前がいないと俺は生きていけない」って言ってくれたんですから。私の方が断然上ですわ」
「………………なんか微妙に言って覚えのある科白だなんだよな。ぶっちゃけ前のもギリギリな気がするし。仕方ないか」
ルシアはどうも暴走するとこう言った問題発言をしてしまうことがある。
「分かったよ。別に彼氏でもロリコンでも構わないから、公共の場での俺の過去の発言を言うのは辞めてもらいたい。てか、リヴ遅くね?」
「遅いわね。オリビアのことだから、時間終了間近までルシアの側にいて5分くらいで適当なものを見繕うつもりだと思っていたのだけど?」
「やっぱりステラ姉さんもそう読んでいたのか。実際、そうしていたのだけど。急に過去の話していたら、買い物に行くって言って急にいなくなったんだよ。なんか怪しい連中を街で見かけたし、ちょっと心配だったんだよね」
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