毒舌教師、悩みを聞く気ゼロ。だけど的確すぎて誰も逆らえない

彩乃

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観察者:烏丸の眼

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 人の感情ほど、見ていて滑稽なものはない。
 ――そう、思っていた。

 烏丸世一、三十五歳。
 高校教師、兼・非常勤人間嫌い。

 他人の痛みには疎くない。
 むしろ敏感な方だ。
 だが、共感はしない。その必要がないと知っているからだ。

 

 今日も、また。

 誰もいない廊下で、彼は窓の外を眺めている。
 その視線の先には、グラウンド脇のベンチ。
 久賀咲弥と、百目木静馬――あの異質な二人の姿。

 

 距離はあるが、言葉は聞こえなくても分かる。

 久賀は手を使って喋る。体を揺らして喋る。
 静馬は視線で返す。短い言葉で、間を作る。

 ――やれやれ。まるで拗らせた犬と捨て猫の譲渡会だ。

 

 「……あんなものに、意味があるとでも?」

 

 誰に向けるでもなく、呟く。

 久賀は激情型。考えるより動く。
 静馬は理知型。考えるより観察する。
 噛み合うはずがない。にもかかわらず、今、そこには“交点”がある。

 

 感情は、時に人を突き動かす。
 そして、時に人を壊す。

 

 ――灰谷も、そうだった。

 

 彼のような“人間未満”が、心に触れて揺らいだ時、
 世界が一度、ぐらりと歪む。
 それを「成長」と呼ぶか、「破綻」と呼ぶかは、いつだって紙一重だ。

 

 烏丸の思考は続く。

 

 「久賀咲弥。お前は“熱”で人を救えると信じてる。
 百目木静馬。お前は“構造”で人を切り取ろうとした。
 ――結果、どちらも“未完成”のままだ」

 

 けれど――と、彼は思う。

 

 未完成なままでも、何かを“繋ごう”としているその姿勢だけは、
 嘲るに値しない。

 

 久賀の拳が宙を切る。静馬がうっすらと笑う。
 その笑みは、きっと本人にも分からないものだろう。

 ――だがそれこそ、“心が動いた”証だ。

 

 烏丸は、ふっと鼻で笑った。

 

 「結局、“人間ごっこ”をする奴らの方が、よほど人間らしいのかもしれん」

 

 かつて、自分もそうだったか?
 ――違う。最初から、傍観者だった。
 近づけば傷つけると知っていたし、
 救えば壊すと知っていた。

 だから、線を引いた。役割だけに徹した。
 教師という名の、“観察者”に。

 

 けれど、今。

 久賀咲弥の拳と、静馬の沈黙が、
 この観察者の目を少しだけ曇らせたのは、事実だった。

 

 「……くだらねぇ。人間なんて、所詮、錯覚で動く動物だ」

 

 そう吐き捨てて、背を向ける。
 ただし――わずかに歩調が、遅かった。

 
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