記憶喪失になりまして。

希彩(kiiro)

文字の大きさ
2 / 9
第1章

#1

しおりを挟む
遂に明日には退院だと医者に言われて、私はめでたく芸能界に放り込まれるらしい。あー、憂鬱だ!

「失礼します」

透き通った声が響き、私だけの病室のドアが開く。

「あーや…記憶喪失ってほんとなの?」

心配そうに私を見つめるのは、超絶美人だった。明るい色の長くて軽くウェーブのかかった髪、整った顔、白い肌、ふんわりと色づく頬、私が男なら一目惚れしてたかもしれない。

「すみません、覚えてなくて…」

私の言葉を聞くやいなや、その大きな瞳に涙を貯めていく。
「ううん。でも、心配したよ~!」

ポロッと涙を落として、優しい笑顔になる。どうしよう、可愛い。

彼女は西村 樹奈にしむら じゅなさんという人で、女優をしているらしい。私とはデビュー時からの親友らしく、湯川さんから連絡を貰ってお見舞いに来てくれたらしい。

「あーや、私のことは樹奈って呼んでたんだよ。湯川マネにも頼まれたし、何か思い出したらすぐ教えてね!」

「うん、ありがとう樹奈。」

こんな親友がいるなら、芸能界でも何とかなりそう。かも?芸能界での基本的なことをいくつか質問して、丁寧に教えて貰った。
まぁ、何とかするしかないんだけど。

「ねぇ、樹奈はこの人達のこと、知ってる?」

勝手に消すのも駄目な気がして、結局放置していた連絡先を見せる。

「知らない人もいるけど、知ってる人はほとんど仕事仲間だね。」

「そうなんだ。」

私は上からスクロールして、ある人のところで手が止まった。

「この人は?」

お気に入りを示す星が付いている人の名前は黒澤 綉くろさわ しゅうと書かれていた。

「…あぁ、彼ね、あーやと凄く仲良しだったんだけど、大喧嘩したみたいで、仲も悪くなっちゃてたと思うよ。あーやの悪口言ってるみたいだし、もう関わるの辞めた方がいいかも。」

大喧嘩って…。私なかなか、すごい生活してたんだな。しかも、今は嫌われてるのか。1度の喧嘩でそこまでなるって何したんだろう。でも、悪口を言うなんて薄情なやつだな。連絡先も消した方がいいのかな。でも、消そうとすれば何故か心がザワつく気がして。記憶が戻るまでは置いておくことにした。

その後はお見舞いで貰ったケーキを2人で食べ、仕事があるらしく、樹奈は帰った。

私は荷物をまとめ、テレビをつけ、ダラダラする。

しばらくすると、ドアが開いて、3人の男の人が入ってきた。

「彩ちゃん、失礼すんね!」

真ん中の1番背の高い人が、笑顔で言う。入る前に言ってほしいよ。うん。

というか、なんなんだ!この美形3人組!!オーラがすごい出てるんだけど!!皆が皆、すらっとしていて、足長っ!顔ちっさ!私、こんな人たちと知り合いなの!?

「彩、まじで僕らの記憶無いの?」

「申し訳ないですが…無いみたいです。」

1番背の低い、優しそうな人に聞かれて答える。
3人とも、驚いているようだ。驚いていてもイケメン。すごいな、巷の女子がキャーキャーヒーヒー言うやつだわ。

彼らは順に自己紹介してくれた。
1番初めに声をかけてくれた、背の高くて、元気で天真爛漫という感じの人が、藤原 魁人ふじわら かいとさん。私は、藤くんと呼んでいたらしい。

背の低くて、優しげな、不思議で落ち着いた雰囲気の人は沖 真也おき しんやさん。私は沖さんと呼んでいたらしい。

そして、顔立ちがハッキリしていて、キリッとしている人は戸田 龍志とだ りゅうじさん。私はリュウと呼んでいたらしい。

なんと、皆さん«Gimmick»という5人組の超人気アイドルグループらしく、私は職業アイドルの人に初めて会ったなと変な興奮に浸っていた。

「オレたち、彩ちゃんに聞きたいことも会ったんだけど、わかんなくなっちゃったね。」

「聞きたいこと?」

よくよく話を聞いてみると、私と«Gimmick»のメンバーは5年ぐらい前からの仲らしく、信頼し合っていた。それなのに、私は記憶喪失になる前、彼らを貶める様な発言を記者に売っただけでなく、問い詰めると「私はこんな奴だよ?」といった風に開き直られ、メンバー内でも混乱し、私を嫌悪しだす人がいたので、真実を聞こうとして、お見舞いにきたらしい。

「…ごめんなさい、私、そんなことを。」

開いた口が塞がらない。なんてことをしているんだ!!私!!過去の自分を殴ってやりたい!普通に考えて嫌悪されて当たり前だよ!そんな奴、私なら絶対に許さない。

「僕らは、彩にも何か事情があったんだと思ってるよ。」
「覚えてねぇこと、謝んねーでいいって。」

イケメンって、心まで綺麗なのか。
芸能人半端ない。って、私も芸能人なのか…。

「覚えてなくても、私がしたことなので!償わせて下さい!」

優しさが心に染みる。こんな人たちに糞みたいなことをしてしまった過去の自分が恥ずかしい。どうか、どうか!パシリにでもなんでもしてください!

「ぷっ、記憶は無くても中身はやっぱり変な彩ちゃんだね!」

「ふふっ、藤ちゃん、失礼じゃない?」

「まぁ、なんか思い出したら、連絡くれ。」

彼らは何重にも優しく、仕事で困ったことがあったら力になるとも言ってくれた。もう聖人なんじゃないかな、あの人たち。

スマホにはバッチリ連絡先が残っていて、後で驚いた。本当に仲が良かったらしい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

ヤンデレ王子に鉄槌を

ましろ
恋愛
私がサフィア王子と婚約したのは7歳のとき。彼は13歳だった。 ……あれ、変態? そう、ただいま走馬灯がかけ巡っておりました。だって人生最大のピンチだったから。 「愛しいアリアネル。君が他の男を見つめるなんて許せない」 そう。殿下がヤンデレ……いえ、病んでる発言をして部屋に鍵を掛け、私をベッドに押し倒したから! 「君は僕だけのものだ」 いやいやいやいや。私は私のものですよ! 何とか救いを求めて脳内がフル稼働したらどうやら現世だけでは足りずに前世まで漁くってしまったみたいです。 逃げられるか、私っ! ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...