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第1章
#2
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刺さる冷たい目線。手に冷たい汗を握りしめる。
あれ?私ってもしかして嫌われてたりする…?
芸能界復帰当日、私は連続ドラマのキャスト顔合わせなるものに参加していた。こちらは見る人見る人が芸能人ばかりで頭がおかしくなりそうなぐらい緊張していたのに、湯川さんと挨拶回りにいったとき、皆さんの反応で何となく状況を悟った。私はまさかの皆の嫌われ者のようである。
共演者の方々は私の顔を見て、わかりやすく嫌な顔をしたり、嫌味を吐いたり、無視をしたり、様々に反応してくれた。私は驚いて、湯川さんにアイコンタクトを送ったのだが、苦笑いでスルーされた。何をしたら、こんなに嫌われるのか。
身に覚えのないことで、悪意や嫌悪を向けられて、逆に緊張が緩む。Gimmickの人達が言ってたことも酷かったし、私は記憶喪失になる前、なかなかの性格の持ち主だったのかもしれない。
「記憶喪失なんだって?」
そんな中、ある女優さんが気さくに話しかけてくれた。彼女は水嶋 葵さん。私がデビューしたての頃に、とある医療ドラマで共演して以来、ずっと気にかけてくれているらしい。この人は挨拶のときも優しかった。私の希望である。
「はい。実は…何も覚えてなくて。あはは。」
「嘘!あ、でも、なんだか弱くなった?」
いや、この状況で強くいれるメンタルってどんなのだよ。って心の中でツッコミを入れる。前の私は鋼のメンタルだったのか?
「私って、その、性格悪かったんですか?」
気になっていることを恐る恐る聞いてみる。
「ぷっ!何を今更!まぁ私は嫌いじゃない性格だったけどね。」
「そう言ってもらえると助かります。」
やっぱり、性格悪かったのか…。いや正直、今の私だって性格がいい自信なんてないし、記憶があるかないかの差だったりするかも。にしても、私はいったい何やらかしたんだ?
「実力で黙らせるのがアンタのやり方なんだから、自信持ちなさいよー!」
実力って演技のことだろうか。記憶が無い私にとって、演技の経験なんてゼロに等しい。どうしよう。更に不安になってきた。実力の無い、嫌われ者とか、辛すぎる!
「…アドバイスくれませんか?」
「うーん…そうね。アンタ酔っ払うといつも“役者は自分を捨てる仕事だ”って言ってたわよ。」
「自分を捨てる…」
「そう!あと“台詞が役を作るんだ”ってうるさくて。」
私は、どんな役者だったのだろう。過去の自分が言った言葉に、恥ずかしいけどなんだか惹かれる気がする。いったいどんな演技をしていたのだろう。私はどうやって“自分を捨てる”ということをしていたのか。昨日まで、他人事だったこの仕事がどうしてこんなにも魅力的に感じるのか。私はその答えを知りたいと思った。
「アンタは大丈夫よ。この私が認めた天才女優だもの、これぐらいで終わっちゃ駄目なの。」
「あはは、ありがとうございます。…向き合って頑張ろうと思います。」
たぶん私は演じるという仕事が好きだったんだと思う。言葉の端々からその想いを感じ取ることができるからだ。だったらもう一度、全力で向き合ってみようじゃないか。嫌われてるのだってどうにかしてやる。どうやら、私はかなりの負けず嫌いらしく、記憶が無いことを言い訳には使いたくない。過去の私がしたことは、これからの私が責任を取るしかないじゃないか。記憶があってもなくても私は結局、私のはずだから。
「湯川さん、私の出演した作品、全部見せて欲しいんですが。」
顔合わせが終わり、迎えの車を呼ぶ電話で、私は自分なりの覚悟を決めた。怖くないと言ったら嘘だけど、私は自分を思い出したい。
あれ?私ってもしかして嫌われてたりする…?
芸能界復帰当日、私は連続ドラマのキャスト顔合わせなるものに参加していた。こちらは見る人見る人が芸能人ばかりで頭がおかしくなりそうなぐらい緊張していたのに、湯川さんと挨拶回りにいったとき、皆さんの反応で何となく状況を悟った。私はまさかの皆の嫌われ者のようである。
共演者の方々は私の顔を見て、わかりやすく嫌な顔をしたり、嫌味を吐いたり、無視をしたり、様々に反応してくれた。私は驚いて、湯川さんにアイコンタクトを送ったのだが、苦笑いでスルーされた。何をしたら、こんなに嫌われるのか。
身に覚えのないことで、悪意や嫌悪を向けられて、逆に緊張が緩む。Gimmickの人達が言ってたことも酷かったし、私は記憶喪失になる前、なかなかの性格の持ち主だったのかもしれない。
「記憶喪失なんだって?」
そんな中、ある女優さんが気さくに話しかけてくれた。彼女は水嶋 葵さん。私がデビューしたての頃に、とある医療ドラマで共演して以来、ずっと気にかけてくれているらしい。この人は挨拶のときも優しかった。私の希望である。
「はい。実は…何も覚えてなくて。あはは。」
「嘘!あ、でも、なんだか弱くなった?」
いや、この状況で強くいれるメンタルってどんなのだよ。って心の中でツッコミを入れる。前の私は鋼のメンタルだったのか?
「私って、その、性格悪かったんですか?」
気になっていることを恐る恐る聞いてみる。
「ぷっ!何を今更!まぁ私は嫌いじゃない性格だったけどね。」
「そう言ってもらえると助かります。」
やっぱり、性格悪かったのか…。いや正直、今の私だって性格がいい自信なんてないし、記憶があるかないかの差だったりするかも。にしても、私はいったい何やらかしたんだ?
「実力で黙らせるのがアンタのやり方なんだから、自信持ちなさいよー!」
実力って演技のことだろうか。記憶が無い私にとって、演技の経験なんてゼロに等しい。どうしよう。更に不安になってきた。実力の無い、嫌われ者とか、辛すぎる!
「…アドバイスくれませんか?」
「うーん…そうね。アンタ酔っ払うといつも“役者は自分を捨てる仕事だ”って言ってたわよ。」
「自分を捨てる…」
「そう!あと“台詞が役を作るんだ”ってうるさくて。」
私は、どんな役者だったのだろう。過去の自分が言った言葉に、恥ずかしいけどなんだか惹かれる気がする。いったいどんな演技をしていたのだろう。私はどうやって“自分を捨てる”ということをしていたのか。昨日まで、他人事だったこの仕事がどうしてこんなにも魅力的に感じるのか。私はその答えを知りたいと思った。
「アンタは大丈夫よ。この私が認めた天才女優だもの、これぐらいで終わっちゃ駄目なの。」
「あはは、ありがとうございます。…向き合って頑張ろうと思います。」
たぶん私は演じるという仕事が好きだったんだと思う。言葉の端々からその想いを感じ取ることができるからだ。だったらもう一度、全力で向き合ってみようじゃないか。嫌われてるのだってどうにかしてやる。どうやら、私はかなりの負けず嫌いらしく、記憶が無いことを言い訳には使いたくない。過去の私がしたことは、これからの私が責任を取るしかないじゃないか。記憶があってもなくても私は結局、私のはずだから。
「湯川さん、私の出演した作品、全部見せて欲しいんですが。」
顔合わせが終わり、迎えの車を呼ぶ電話で、私は自分なりの覚悟を決めた。怖くないと言ったら嘘だけど、私は自分を思い出したい。
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