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チョココロネ
しおりを挟む「今日もいい天気ね!」
ドアを開けた途端に空を見上げ、赤ずきんはいつも通り空のきれいさに感動していた。
「毎日聞いてるよ」
「そうね、空はどんな色でもきれいだもの」
「私は青空よりも曇り空の方が好きだけど」
「曇っている空もいいわよね!いつかは青空に変わっていくのかもと思うと私も頑張ろうって思えるの」
その理由には全く納得できなかったが、曇り空に差し込む一筋の光は今の自分の心境を表しているようだとも感じた。
それと同時に、その考えをすぐさま忘れ去ろうとする自分もいた。
「あら、黒ずきん。何だかちょっと楽しそうね!」
言い当てられて驚いたものの、特に表情を変えず、無言を貫くと、彼女は諦めて道端の花たちに声をかけ始めていた。
以前は永遠の様に長く感じていた登校時間や、教室についてからの授業はあっという間に終わり、お昼休みになる。
いつもの階段に行くと、すでにオオカミは到着していた。
特に何を言うわけでもなく、ただ視線を合わせただけで、私は彼を通り過ぎた二つ上の階段に座る。
今日も彼はパンを買ってきたらしく、見たところ昨日と同じチョココロネらしい。
「それ、昨日も食べてた」
「うまいよ」
その声色からは本当にそう思っているのか全く分からない。
返答も思い浮かばず、そのままお弁当を広げ、お箸を取り出した。
すると彼が急に振り返った。
「いる?」
突然の提案に目を泳がせていると、彼は食べていた方向の逆側をちぎって渡してきた。
「こっちチョコいっぱい入ってる方」
差し出されるチョココロネ、チョココロネを見つめる私、私を見つめる彼という三角関係が出来上がった。
「はい」
さらに手を伸ばす彼に押されて、チョココロネを受けとる。
一口分のそれには彼の言う通り、いっぱいにチョコが入っていた。
「甘い」
一言感想を述べると彼は少しだけ唇の端を持ち上げて笑う。
「チョコだから」
そして何事もなかったかのように彼は前を向いてパンを食べ始めた。
心臓の鼓動をごまかすように私もお弁当を再開させる。
お弁当もあと半分になった頃。
今日も今日とて入っていた卵焼きを見つめ、考える。そして意を決して箸で持ち上げた。
「これ」
二文字で話しかけるとパンを口に含んだまま彼はこっちを向いた。
箸につままれた卵焼きを見て、今度は彼が目を開く。
「くれんの?」
「さっきのお返し。貰った分は返さないと」
「変なとこ几帳面だな」
驚きが残った目のまま私を見つめる彼。
「でもせっかくならもらう」
彼は箸を持つ私の手に自分の手を重ね、そのまま箸を動かす。
動かされた箸は彼の口へと向かい、気が付いたときには黄色い卵焼きはいなくなっていた。
「お、うまい」
大して大きな反応もせず、おいしそうな表情をするでもなく、一言感想を言った彼は箸から手を離し、また前を向いた。
『なにそれ』も『この箸私のなんだけど』という文句も、発せられることなく私の中に戻ってきた。
一人取り残された私にできることといったら無心で残りのお弁当を食べることである。
ただそのまま食べるにしても、必ず箸を使わなければならない。
残すなんてことはできないし、代わりの箸もないため変えることもできない。
第一、同じ箸を使うことをそこまで気にしているのかと思われたくもない。
母が作るお弁当はいつも美味しいが、今日ばかりは正しく味を判断することができなかった。
そんな私の葛藤を知るはずもなく、彼はチョココロネを食べ終わり、パンが入っていた袋を握って立ち上がった。
「じゃあな」
軽くそう言って階段を下りていく。
「あ」
「卵焼きうまかった。ありがとな」
そう言う彼のつり目がちな瞳には、いつもより柔らかさが混じっている気がした。
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