38 / 78
見た目以上の?
しおりを挟む
査定結果が出るまでの間に、ネリカナさんが簡単に冒険者ギルドがどのような考えのもと、どのように運営されているのかを説明してくれた。
「当ギルドは聖女様とその仲間の方々により設立された由緒ある組織なのですよ」
出た、『聖女』!
確か、前に聖女が現れたのは千年前だってファリが言っていたよな…
って! そんなに歴史あるの? 営利団体というより、最早国レベルだよな?!
「ギルドが設立されて千年以上経ちますが、ずっと聖女様の理念を守り続けてきたことを誇りに思っております」
聖女が降臨する前迄は、種族間の争いが招いた未曾有の戦乱が続いていたそうだ。
戦乱を収めた聖女は、どの国にも所属することも支配されることもない独自の機関として冒険者ギルドを設立した。
聖女がひとつの国に属するということは、その国の種族に特別に肩入れすることになるからだ。
その頃の国は、治めている王の種族のみが優遇され、他の種族は迫害対象となっていたのだ。
聖女を自国に引き入れることが叶わないのであれば、他国に所属されるよりは、国としての体裁を持たない独自の機関に納まっておいて貰った方が、各国にとっても都合が良い。
国に忠誠心を持たない突出した力を持つ冒険者達は、各国を旅する自由を求め、ギルドへの所属を望んだが、聖女に対するのと似た理由で各国共にそれを認めた。
忠誠心の無い者達を無理に従わせても、いつ寝首をかかれるかわかったものではない。不穏分子を内側に置くのはデメリットが大きい。
また、冒険者ギルドに所属していてくれれば、敵対国に雇われて攻撃されるという恐れも無い。
どの種族、国に対しても平等かつ人の為になる仕事を請け負うという理念を持って、冒険者ギルドが運営されていたからだ。
災害時や魔獣や魔物などからの防衛時などに、対価を払って冒険者達を一時的に雇えることは、各国にとっても充分なメリットを生む。自国に忠実な騎士や軍を失わずに済むし、何より長い戦乱によりどの国も疲弊していた。
その本質は違えども、聖女の理念と各国の思惑が上手い具合に絡み合い、互いに利を見出した結果、冒険者ギルドは、各国に支部を置き、国際間の権力争いに関わらない依頼のみを受けて種族間のかすがいとなり続けたのだ。
「そんな訳で、当ギルド内では種族間の差別や争いを固く禁じております。聖女様の理念を守った活動のおかげで、世界的にも種族間でのわだかまりも殆ど無くなり、長く平和にやってきたのですが…悲しいことに、ここ数十年の間にまた世が乱れてきております。このままではまたいつ戦乱の世となってもおかしくありません…」
貴方がたが生まれた頃には既に世が乱れ始めていたので、種族間差別の無い平和な時代をご存知ないでしょうが…
と、ネリカナさんは締めくくった。
乱れた世を嘆いているネリカナさんとしては、若い世代のおれ達が差別意識に染まることなく、仲良くしている姿を見て好感を持ってくれた訳か。獣人にとって神聖な誓いを立ててくれたのもそのおかげで…。
…ん? 今の口ぶり…ネリカナさんて、思ったよりも年食ってる?
少し疑問には思ったが、買い取り査定が終わったとの報せが入り、その疑問は霧散した。
提示された価格にファリが頷いたので、その価格から登録料金を差し引いた額がファリの手に渡された。
「では、最後に押印と、ギルド証を発行致しますね」
押印が実際、どういうものだったのかというと、何らかの鉱石から作られたと思われる、直径5センチくらいのハンコのような物を首筋に押し当てた状態で、ネリカナさんが魔力を流すことで、魔法陣が押印された。
それは数秒間光を帯びていたけれど、すぐに消えて目には見えなくなった。
なるほどね。ハンコ形式にすることで安定して同じ魔法をかけられるようにしてあるのか。
あれ? これめちゃくちゃ便利!?
もしかして、ハンコを作っておけば、おれの下手くそな攻撃魔法もまともに使えたりするんじゃ…?!
ん?
そうすると、ハンコを上手く攻撃対象に押す必要があるのか?
でも、こんな小さな物を動いている相手にズレたりしないように綺麗に押し当てるのは至難の業な気がするな。
そんな技術があるのなら、剣で叩き切った方が早いな…。
刃が通り難い相手なら有効な気もするけど、そんな手強い相手に上手くハンコを押せる気もしない。
…やっぱり攻撃魔法として使うのは現実的じゃないのかなぁ?
攻撃魔法以外なら、色々使い勝手が良さそうな気がする。
落ち着いたらハンコについてもファリに色々聞いてみよう。
そんなことを考えているうちに、一枚の小さな板状の何かがファリの前に差し出されていた。
表にはファリの名前とランクのみが記されている。もちろんランクは初期のGだ。
「こちらが身分証も兼ねられるギルド会員証となります。一番最初に流した魔力を記録し、個人を識別できるようになりますので、手を触れて魔力を流して下さい」
ネリカナの指示通りにファリが魔力を流すと、淡く光を帯びて、カードに紋章のような印が浮かびあがって数十秒後に消えた。
「会員証の持ち主本人に限り、魔力を流せばギルドの紋章が浮かび上がる仕組みになっております。都市間の移動や他国へ渡る際の身分証明書としても有効な物となりますので、くれぐれも紛失はなさらぬよう。万一紛失された場合、再発行は致しますが、10万ゼギル掛かりますのでご注意下さい」
10万ゼギル! 高っ!
紛失後の処理とかが大変なのかな?
それとも失くす人が多いから注意喚起を込めての価格設定?
確かにカード自体も高性能で高そうだしな。素材は紙でもないし、もちろんプラスチックとかでもないだろう。けれど、防水性も強度も高そうな感じに見える。
何で出来ているんだろう??
3×5センチくらいの長方形の小さめのカードで、片側に穴が空いていて、紐を通すことが出来、名前とランク情報のみ常時可視出来るようになっている。
おれみたいにアイテムボックスがあると失くさないけれど、戦闘や旅の多い冒険者は紛失するリスクも高いのかもしれない。
それでもギルドの登録自体が1200ゼギルな事を考えれば、かなり高額だ。
けど、登録料金の方を安く設定しているのだとも考えられる?
物価をまったく理解していないのでどちらともつかない。
「当ギルドは聖女様とその仲間の方々により設立された由緒ある組織なのですよ」
出た、『聖女』!
確か、前に聖女が現れたのは千年前だってファリが言っていたよな…
って! そんなに歴史あるの? 営利団体というより、最早国レベルだよな?!
「ギルドが設立されて千年以上経ちますが、ずっと聖女様の理念を守り続けてきたことを誇りに思っております」
聖女が降臨する前迄は、種族間の争いが招いた未曾有の戦乱が続いていたそうだ。
戦乱を収めた聖女は、どの国にも所属することも支配されることもない独自の機関として冒険者ギルドを設立した。
聖女がひとつの国に属するということは、その国の種族に特別に肩入れすることになるからだ。
その頃の国は、治めている王の種族のみが優遇され、他の種族は迫害対象となっていたのだ。
聖女を自国に引き入れることが叶わないのであれば、他国に所属されるよりは、国としての体裁を持たない独自の機関に納まっておいて貰った方が、各国にとっても都合が良い。
国に忠誠心を持たない突出した力を持つ冒険者達は、各国を旅する自由を求め、ギルドへの所属を望んだが、聖女に対するのと似た理由で各国共にそれを認めた。
忠誠心の無い者達を無理に従わせても、いつ寝首をかかれるかわかったものではない。不穏分子を内側に置くのはデメリットが大きい。
また、冒険者ギルドに所属していてくれれば、敵対国に雇われて攻撃されるという恐れも無い。
どの種族、国に対しても平等かつ人の為になる仕事を請け負うという理念を持って、冒険者ギルドが運営されていたからだ。
災害時や魔獣や魔物などからの防衛時などに、対価を払って冒険者達を一時的に雇えることは、各国にとっても充分なメリットを生む。自国に忠実な騎士や軍を失わずに済むし、何より長い戦乱によりどの国も疲弊していた。
その本質は違えども、聖女の理念と各国の思惑が上手い具合に絡み合い、互いに利を見出した結果、冒険者ギルドは、各国に支部を置き、国際間の権力争いに関わらない依頼のみを受けて種族間のかすがいとなり続けたのだ。
「そんな訳で、当ギルド内では種族間の差別や争いを固く禁じております。聖女様の理念を守った活動のおかげで、世界的にも種族間でのわだかまりも殆ど無くなり、長く平和にやってきたのですが…悲しいことに、ここ数十年の間にまた世が乱れてきております。このままではまたいつ戦乱の世となってもおかしくありません…」
貴方がたが生まれた頃には既に世が乱れ始めていたので、種族間差別の無い平和な時代をご存知ないでしょうが…
と、ネリカナさんは締めくくった。
乱れた世を嘆いているネリカナさんとしては、若い世代のおれ達が差別意識に染まることなく、仲良くしている姿を見て好感を持ってくれた訳か。獣人にとって神聖な誓いを立ててくれたのもそのおかげで…。
…ん? 今の口ぶり…ネリカナさんて、思ったよりも年食ってる?
少し疑問には思ったが、買い取り査定が終わったとの報せが入り、その疑問は霧散した。
提示された価格にファリが頷いたので、その価格から登録料金を差し引いた額がファリの手に渡された。
「では、最後に押印と、ギルド証を発行致しますね」
押印が実際、どういうものだったのかというと、何らかの鉱石から作られたと思われる、直径5センチくらいのハンコのような物を首筋に押し当てた状態で、ネリカナさんが魔力を流すことで、魔法陣が押印された。
それは数秒間光を帯びていたけれど、すぐに消えて目には見えなくなった。
なるほどね。ハンコ形式にすることで安定して同じ魔法をかけられるようにしてあるのか。
あれ? これめちゃくちゃ便利!?
もしかして、ハンコを作っておけば、おれの下手くそな攻撃魔法もまともに使えたりするんじゃ…?!
ん?
そうすると、ハンコを上手く攻撃対象に押す必要があるのか?
でも、こんな小さな物を動いている相手にズレたりしないように綺麗に押し当てるのは至難の業な気がするな。
そんな技術があるのなら、剣で叩き切った方が早いな…。
刃が通り難い相手なら有効な気もするけど、そんな手強い相手に上手くハンコを押せる気もしない。
…やっぱり攻撃魔法として使うのは現実的じゃないのかなぁ?
攻撃魔法以外なら、色々使い勝手が良さそうな気がする。
落ち着いたらハンコについてもファリに色々聞いてみよう。
そんなことを考えているうちに、一枚の小さな板状の何かがファリの前に差し出されていた。
表にはファリの名前とランクのみが記されている。もちろんランクは初期のGだ。
「こちらが身分証も兼ねられるギルド会員証となります。一番最初に流した魔力を記録し、個人を識別できるようになりますので、手を触れて魔力を流して下さい」
ネリカナの指示通りにファリが魔力を流すと、淡く光を帯びて、カードに紋章のような印が浮かびあがって数十秒後に消えた。
「会員証の持ち主本人に限り、魔力を流せばギルドの紋章が浮かび上がる仕組みになっております。都市間の移動や他国へ渡る際の身分証明書としても有効な物となりますので、くれぐれも紛失はなさらぬよう。万一紛失された場合、再発行は致しますが、10万ゼギル掛かりますのでご注意下さい」
10万ゼギル! 高っ!
紛失後の処理とかが大変なのかな?
それとも失くす人が多いから注意喚起を込めての価格設定?
確かにカード自体も高性能で高そうだしな。素材は紙でもないし、もちろんプラスチックとかでもないだろう。けれど、防水性も強度も高そうな感じに見える。
何で出来ているんだろう??
3×5センチくらいの長方形の小さめのカードで、片側に穴が空いていて、紐を通すことが出来、名前とランク情報のみ常時可視出来るようになっている。
おれみたいにアイテムボックスがあると失くさないけれど、戦闘や旅の多い冒険者は紛失するリスクも高いのかもしれない。
それでもギルドの登録自体が1200ゼギルな事を考えれば、かなり高額だ。
けど、登録料金の方を安く設定しているのだとも考えられる?
物価をまったく理解していないのでどちらともつかない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
531
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる