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レニンの森
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「レニンの森は、この世界の緩衝地帯であり自浄機関とも言える土地なのです。それ故にレニンの森がこの世界の縮図だと言っても過言ではありません」
あのとんでもない魔獣や魔物だらけの森がこの世界の縮図?
ヤバくね?
「この世界は、まだ世界として未熟な存在なのです。女神とレニンの森無しには存在を保つことができません」
世界にも未熟だとかそういうのがあるのか…。
なんだか生き物みたい。
って、女神居ないんじゃなかった?!
ますますヤバいだろっ!
「レニンの森は、この世界の毒素のようなものを、浄化して均衡を保っています。世界というのは、澄みすぎていても、濁りすぎていても存在を保てません。澄みすぎれば停滞を招き、多様化を失い、やがて滅びます。濁りすぎると争いを招き、自滅の道を辿ります」
綺麗すぎる水に魚は棲めないとか聞くもんな。
でも、ローゼさんが言ってるのとはちょっと違ってそう。なんとなく。
「世界が濁れば濁るほど、人心は乱れ、戦乱の世となってゆきます。自己の利益ばかりを考え、排他的になり、他種族嫌悪が蔓延しているのも濁りの影響が強く出た結果と言えるでしょう。心が負の方向へ引っ張られ、その負の心がまた濁りを増やす。そのようにして負のスパイラルは加速していくのです」
人間の国で獣人が差別されているみたいに、獣人の国では人間が差別されて…お互いに傷つけあって憎しみあって戦争して滅ぶ…。
生きていたら色んな事があって、傷つく事もあって、誰かを羨んだり嫌いになったりすることもある。
世界が濁ると、そんな負の感情を大きくされて、強い怒りや憎しみに変えられてしまうんだろう。
本当なら、そんな感情に折り合いをつけたり、助け合ったりして乗り越えていけるかもしれないものを。
悲しさと怖さが混じりあって心がざわざわする。
心を落ち着けたくて繋いだままの手に意識を向けることでファリの温もりを感じとる。
種族の違いも好きな所のひとつにしかならないのに。
濁りのせいで心が曇らされ、相手の良い所が見えなくなってしまうなんて…
「濁り度合いと連動して、レニンの森に、より凶暴で凶悪な魔獣や魔物が現れるようになります。濁り度合いが加速するに伴い、現れる魔獣達のレベル、出現率が共に上昇すると言えば、その危険性が伝わりますでしょうか?」
争えば争うほどレニンの森には高レベルの魔獣や魔物が増えていく。
急速に増えた魔獣達は、森に収まりきれずに世界中に溢れ出していって……その先は想像に難くない。
「現状を把握しやすくする為に、仮に数値で表現しますね。精霊からの報告も数値化して貰って受け取っているのです。ですが、精霊の感覚によるところの数値なので、いかんせん精確さには欠けるのですが、その点はご了承下さい」
「…あ、ハイ」
…物凄く事務的に精霊達とやり取りしているんだな。
対処出来ないと諦めたり見過ごしたりせず、ローゼさんと精霊達がキビキビと出来ることから取り組んでいる姿を想像して、すくんだ心が勇気づけられる。
「清濁の割合を、フェーズ1から10までの10段階に当てはめて、フェーズ1を清寄りの世界崩壊段階、フェーズ3を最も理想的な状態、フェーズ10を濁寄りの世界崩壊段階であると位置付けます」
ふむふむ、ちょっと清浄寄りが理想的なのか。
通常は3か4あたりをウロウロしていそうなイメージ?
「女神不在となった影響で、状態はどんどん悪化していき、円谷くんが転移してくる直前は、既にフェーズは6まで進行し、7へ移行しようか、というところだったのです。けれど現在は5まで引き戻されています」
「さっきもレニンの森の状況が好転したって言ってたよね。転移きっかけってことは、『聖女』の称号が関係しているのかな?」
「おっしゃる通りです。『聖女』が存在している、ただそれだけで、ある程度世界は清められ、濁りが抑えられるのです。現れ始めていた、高濃度の濁りの中でしか存在できない魔獣や魔物達が、耐えきれずに次々と姿を消していきました。影響の差はありますが、『聖女候補』の称号にも同じ効果があります」
……『聖女』すげーな…。
「……森で襲ってきた災害クラスと思しき魔獣が消えたのもそのせい……か?」
ファリの呟きを拾ったローゼさんが事情を聞き出す。
「なるほど…おそらく円谷くんが近付いたことで、『聖女』の影響に耐えきれなくなり消滅したのでしょう。レベルが高ければ高い程、濁った環境でないと存在すらできませんから」
生息環境の範囲がシビアなんだな。
濁り度合いが強い程、清いものに弱いのか。
イメージでは災害級の魔獣よりスライムとかの弱い魔物から消えていきそうなもんだけど。
強すぎるから逆に存在できないってなんだか皮肉な感じだな。
今、ファリの傍にいられるのは、『聖女』の称号のお陰か…
あの時、敵うはずもなかった恐ろしい魔獣が消えてくれて、『聖女』の称号が付いていてくれて、本当に良かったと心の底からホッとする。
「円谷くんが御命を救ったことにより、戦争をひとつ未然に防いだとも言えます。……そうですよね、ナファリード・スル・ヨルラガード殿下」
ローゼさんが、ファリに視線を投げて、意味深な口調で問いかける。
………えっ? 殿下?
王子様とかの…王族の敬称?
いきなり何言ってんの?
ファリを見上げると、じっとローゼさんを見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「……そうか…『鑑定』か…」
「はい。この場で明かしたということは、わたくしから他言することはない、という意思の表明でもあるのでその点はご安心下さい。けれどもし、この世界の理や状況を知って尚、自国の為だけに動くというのなら、わたくしにも考えがある…ということを御心に留め置き下さいませ」
「他国に害を成す意思はない。王族だと名乗らなかったのは、わたしには王族としての威がないからだ。ヨルラガード王国の権威は獣化したヨルラガードの強さによって成り立っている。わたしは獣化出来ない獣人であり、名ばかりの身分になど価値は無い。…わたしはカズアキの為だけに動く」
「なるほど…しかし、実際の御立場がどうであれ、ナファリード殿下にその気が無いとしても、王子という身分には周りを動かす力があります。もし、レニンの森で円谷くんに出会えず、お命を落とされていた場合、戦を仕掛ける正当性を主張する為、利用されていたとしてもおかしくは無いのです。自国の王子が国外で人間に迫害を受け殺害されたなどと、理由はいくらでも作り上げられるのですから」
その場合、フェーズは更に悪い方向に進んでいただろうし、それはより負の心が育ちやすい環境になっていたっていうことで…戦火の口火が切られる条件は十分揃っていると言っていい。
「今のヨルラガードは、人間を憎み、奴隷とされている獣人達の解放を要求し、領土を広げ、人間から全てを奪いたいという気運が高まり、軍備に力を入れていますよね」
「…その通りだ。自覚が足りなかったと言わざるを得ない。以後、心に留め置き、カズアキに害が及ばぬよう配慮する」
「……殿下はあくまでも、円谷くんの為だけに動かれる…ということですね」
ローゼさんが、ふふっと笑う。
「その御心に偽りは無さそうですし、円谷くんも人の不幸や滅びを望むタイプでは無さそうなので、協力し合えると判断いたしますがいかがでしょう? もちろん、わたくしに円谷くんを害するつもりは無いのでその点はご安心下さい」
おれは慌てて口を挟む。
「あ…当たり前だよ、平和が一番、戦争なんかもっての外だ。おれにも出来ることがあるなら協力したい」
ローゼさんは、ファリの身分にこうべを垂れるどころか、かなりキッパリと物を言い、毅然としている。
おれ達がどうであれ、自分のやるべき事をはっきりと見据えているんだろうな。
おれもファリが王子様って聞いてちょっとびっくりはしたけれど、ファリはファリだ。何も変わらない。
おれに頷いた後、ローゼさんがファリに問いかける。
「殿下もそれでよろしいでしょうか? その場合、円谷くんの安全の為にも、当面ただのいち獣人として接することを御了承頂けますか?」
「カズアキが望むならわたしに否やは無く、身分に関してもその方がこちらも有難い。…わたしはカズアキを守りたい。ロミアリーゼ・グッテスラ公爵令嬢。貴方はその為の知識と力を持たれているとお見受けする。こちらから頼む。わたしには足りないその力を借して欲しい。了承頂けるだろうか?」
ファリがおれの為にローゼさんに頭を下げて頼んでいる。
「もちろんです。どうぞ頭をお上げ下さい。元ではありますが、同じ転移者として、また、弟達の恩人として、円谷くんの力になりたいと思っております。これからは同志としてお付き合い下さいませ。殿下もわたくしのことは、ローゼとお呼び下さい。わたくしも殿下をファリ様と呼ばせて頂きます」
ローゼさんはそう言ってにっこりと微笑んだ。
あのとんでもない魔獣や魔物だらけの森がこの世界の縮図?
ヤバくね?
「この世界は、まだ世界として未熟な存在なのです。女神とレニンの森無しには存在を保つことができません」
世界にも未熟だとかそういうのがあるのか…。
なんだか生き物みたい。
って、女神居ないんじゃなかった?!
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「レニンの森は、この世界の毒素のようなものを、浄化して均衡を保っています。世界というのは、澄みすぎていても、濁りすぎていても存在を保てません。澄みすぎれば停滞を招き、多様化を失い、やがて滅びます。濁りすぎると争いを招き、自滅の道を辿ります」
綺麗すぎる水に魚は棲めないとか聞くもんな。
でも、ローゼさんが言ってるのとはちょっと違ってそう。なんとなく。
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人間の国で獣人が差別されているみたいに、獣人の国では人間が差別されて…お互いに傷つけあって憎しみあって戦争して滅ぶ…。
生きていたら色んな事があって、傷つく事もあって、誰かを羨んだり嫌いになったりすることもある。
世界が濁ると、そんな負の感情を大きくされて、強い怒りや憎しみに変えられてしまうんだろう。
本当なら、そんな感情に折り合いをつけたり、助け合ったりして乗り越えていけるかもしれないものを。
悲しさと怖さが混じりあって心がざわざわする。
心を落ち着けたくて繋いだままの手に意識を向けることでファリの温もりを感じとる。
種族の違いも好きな所のひとつにしかならないのに。
濁りのせいで心が曇らされ、相手の良い所が見えなくなってしまうなんて…
「濁り度合いと連動して、レニンの森に、より凶暴で凶悪な魔獣や魔物が現れるようになります。濁り度合いが加速するに伴い、現れる魔獣達のレベル、出現率が共に上昇すると言えば、その危険性が伝わりますでしょうか?」
争えば争うほどレニンの森には高レベルの魔獣や魔物が増えていく。
急速に増えた魔獣達は、森に収まりきれずに世界中に溢れ出していって……その先は想像に難くない。
「現状を把握しやすくする為に、仮に数値で表現しますね。精霊からの報告も数値化して貰って受け取っているのです。ですが、精霊の感覚によるところの数値なので、いかんせん精確さには欠けるのですが、その点はご了承下さい」
「…あ、ハイ」
…物凄く事務的に精霊達とやり取りしているんだな。
対処出来ないと諦めたり見過ごしたりせず、ローゼさんと精霊達がキビキビと出来ることから取り組んでいる姿を想像して、すくんだ心が勇気づけられる。
「清濁の割合を、フェーズ1から10までの10段階に当てはめて、フェーズ1を清寄りの世界崩壊段階、フェーズ3を最も理想的な状態、フェーズ10を濁寄りの世界崩壊段階であると位置付けます」
ふむふむ、ちょっと清浄寄りが理想的なのか。
通常は3か4あたりをウロウロしていそうなイメージ?
「女神不在となった影響で、状態はどんどん悪化していき、円谷くんが転移してくる直前は、既にフェーズは6まで進行し、7へ移行しようか、というところだったのです。けれど現在は5まで引き戻されています」
「さっきもレニンの森の状況が好転したって言ってたよね。転移きっかけってことは、『聖女』の称号が関係しているのかな?」
「おっしゃる通りです。『聖女』が存在している、ただそれだけで、ある程度世界は清められ、濁りが抑えられるのです。現れ始めていた、高濃度の濁りの中でしか存在できない魔獣や魔物達が、耐えきれずに次々と姿を消していきました。影響の差はありますが、『聖女候補』の称号にも同じ効果があります」
……『聖女』すげーな…。
「……森で襲ってきた災害クラスと思しき魔獣が消えたのもそのせい……か?」
ファリの呟きを拾ったローゼさんが事情を聞き出す。
「なるほど…おそらく円谷くんが近付いたことで、『聖女』の影響に耐えきれなくなり消滅したのでしょう。レベルが高ければ高い程、濁った環境でないと存在すらできませんから」
生息環境の範囲がシビアなんだな。
濁り度合いが強い程、清いものに弱いのか。
イメージでは災害級の魔獣よりスライムとかの弱い魔物から消えていきそうなもんだけど。
強すぎるから逆に存在できないってなんだか皮肉な感じだな。
今、ファリの傍にいられるのは、『聖女』の称号のお陰か…
あの時、敵うはずもなかった恐ろしい魔獣が消えてくれて、『聖女』の称号が付いていてくれて、本当に良かったと心の底からホッとする。
「円谷くんが御命を救ったことにより、戦争をひとつ未然に防いだとも言えます。……そうですよね、ナファリード・スル・ヨルラガード殿下」
ローゼさんが、ファリに視線を投げて、意味深な口調で問いかける。
………えっ? 殿下?
王子様とかの…王族の敬称?
いきなり何言ってんの?
ファリを見上げると、じっとローゼさんを見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「……そうか…『鑑定』か…」
「はい。この場で明かしたということは、わたくしから他言することはない、という意思の表明でもあるのでその点はご安心下さい。けれどもし、この世界の理や状況を知って尚、自国の為だけに動くというのなら、わたくしにも考えがある…ということを御心に留め置き下さいませ」
「他国に害を成す意思はない。王族だと名乗らなかったのは、わたしには王族としての威がないからだ。ヨルラガード王国の権威は獣化したヨルラガードの強さによって成り立っている。わたしは獣化出来ない獣人であり、名ばかりの身分になど価値は無い。…わたしはカズアキの為だけに動く」
「なるほど…しかし、実際の御立場がどうであれ、ナファリード殿下にその気が無いとしても、王子という身分には周りを動かす力があります。もし、レニンの森で円谷くんに出会えず、お命を落とされていた場合、戦を仕掛ける正当性を主張する為、利用されていたとしてもおかしくは無いのです。自国の王子が国外で人間に迫害を受け殺害されたなどと、理由はいくらでも作り上げられるのですから」
その場合、フェーズは更に悪い方向に進んでいただろうし、それはより負の心が育ちやすい環境になっていたっていうことで…戦火の口火が切られる条件は十分揃っていると言っていい。
「今のヨルラガードは、人間を憎み、奴隷とされている獣人達の解放を要求し、領土を広げ、人間から全てを奪いたいという気運が高まり、軍備に力を入れていますよね」
「…その通りだ。自覚が足りなかったと言わざるを得ない。以後、心に留め置き、カズアキに害が及ばぬよう配慮する」
「……殿下はあくまでも、円谷くんの為だけに動かれる…ということですね」
ローゼさんが、ふふっと笑う。
「その御心に偽りは無さそうですし、円谷くんも人の不幸や滅びを望むタイプでは無さそうなので、協力し合えると判断いたしますがいかがでしょう? もちろん、わたくしに円谷くんを害するつもりは無いのでその点はご安心下さい」
おれは慌てて口を挟む。
「あ…当たり前だよ、平和が一番、戦争なんかもっての外だ。おれにも出来ることがあるなら協力したい」
ローゼさんは、ファリの身分にこうべを垂れるどころか、かなりキッパリと物を言い、毅然としている。
おれ達がどうであれ、自分のやるべき事をはっきりと見据えているんだろうな。
おれもファリが王子様って聞いてちょっとびっくりはしたけれど、ファリはファリだ。何も変わらない。
おれに頷いた後、ローゼさんがファリに問いかける。
「殿下もそれでよろしいでしょうか? その場合、円谷くんの安全の為にも、当面ただのいち獣人として接することを御了承頂けますか?」
「カズアキが望むならわたしに否やは無く、身分に関してもその方がこちらも有難い。…わたしはカズアキを守りたい。ロミアリーゼ・グッテスラ公爵令嬢。貴方はその為の知識と力を持たれているとお見受けする。こちらから頼む。わたしには足りないその力を借して欲しい。了承頂けるだろうか?」
ファリがおれの為にローゼさんに頭を下げて頼んでいる。
「もちろんです。どうぞ頭をお上げ下さい。元ではありますが、同じ転移者として、また、弟達の恩人として、円谷くんの力になりたいと思っております。これからは同志としてお付き合い下さいませ。殿下もわたくしのことは、ローゼとお呼び下さい。わたくしも殿下をファリ様と呼ばせて頂きます」
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