乙女ゲームに転移したけど無理ゲー過ぎて笑える(仮)

鍋底の米

文字の大きさ
59 / 78

レニンの森

しおりを挟む
「レニンの森は、この世界の緩衝地帯であり自浄機関とも言える土地なのです。それ故にレニンの森がこの世界の縮図だと言っても過言ではありません」

 あのとんでもない魔獣や魔物だらけの森がこの世界の縮図?
 ヤバくね?

「この世界は、まだ世界として未熟な存在なのです。女神とレニンの森無しには存在を保つことができません」

 世界にも未熟だとかそういうのがあるのか…。
 なんだか生き物みたい。
 って、女神居ないんじゃなかった?!
 ますますヤバいだろっ!

「レニンの森は、この世界の毒素のようなものを、浄化して均衡を保っています。世界というのは、澄みすぎていても、濁りすぎていても存在を保てません。澄みすぎれば停滞を招き、多様化を失い、やがて滅びます。濁りすぎると争いを招き、自滅の道を辿ります」

 綺麗すぎる水に魚は棲めないとか聞くもんな。
 でも、ローゼさんが言ってるのとはちょっと違ってそう。なんとなく。

「世界が濁れば濁るほど、人心は乱れ、戦乱の世となってゆきます。自己の利益ばかりを考え、排他的になり、他種族嫌悪が蔓延しているのも濁りの影響が強く出た結果と言えるでしょう。心が負の方向へ引っ張られ、その負の心がまた濁りを増やす。そのようにして負のスパイラルは加速していくのです」

 人間の国で獣人が差別されているみたいに、獣人の国では人間が差別されて…お互いに傷つけあって憎しみあって戦争して滅ぶ…。

 生きていたら色んな事があって、傷つく事もあって、誰かを羨んだり嫌いになったりすることもある。

 世界が濁ると、そんな負の感情を大きくされて、強い怒りや憎しみに変えられてしまうんだろう。

 本当なら、そんな感情に折り合いをつけたり、助け合ったりして乗り越えていけるかもしれないものを。

 悲しさと怖さが混じりあって心がざわざわする。

 心を落ち着けたくて繋いだままの手に意識を向けることでファリの温もりを感じとる。

 種族の違いも好きな所のひとつにしかならないのに。

 濁りのせいで心が曇らされ、相手の良い所が見えなくなってしまうなんて…

「濁り度合いと連動して、レニンの森に、より凶暴で凶悪な魔獣や魔物が現れるようになります。濁り度合いが加速するに伴い、現れる魔獣達のレベル、出現率が共に上昇すると言えば、その危険性が伝わりますでしょうか?」

 争えば争うほどレニンの森には高レベルの魔獣や魔物が増えていく。
 急速に増えた魔獣達は、森に収まりきれずに世界中に溢れ出していって……その先は想像に難くない。

「現状を把握しやすくする為に、仮に数値で表現しますね。精霊からの報告も数値化して貰って受け取っているのです。ですが、精霊の感覚によるところの数値なので、いかんせん精確さには欠けるのですが、その点はご了承下さい」

「…あ、ハイ」

 …物凄く事務的に精霊達とやり取りしているんだな。

 対処出来ないと諦めたり見過ごしたりせず、ローゼさんと精霊達がキビキビと出来ることから取り組んでいる姿を想像して、すくんだ心が勇気づけられる。
 
「清濁の割合を、フェーズ1から10までの10段階に当てはめて、フェーズ1を清寄りの世界崩壊段階、フェーズ3を最も理想的な状態、フェーズ10を濁寄りの世界崩壊段階であると位置付けます」

 ふむふむ、ちょっと清浄寄りが理想的なのか。
 通常は3か4あたりをウロウロしていそうなイメージ?

「女神不在となった影響で、状態はどんどん悪化していき、円谷くんが転移してくる直前は、既にフェーズは6まで進行し、7へ移行しようか、というところだったのです。けれど現在は5まで引き戻されています」

「さっきもレニンの森の状況が好転したって言ってたよね。転移きっかけってことは、『聖女』の称号が関係しているのかな?」

「おっしゃる通りです。『聖女』が存在している、ただそれだけで、ある程度世界は清められ、濁りが抑えられるのです。現れ始めていた、高濃度の濁りの中でしか存在できない魔獣や魔物達が、耐えきれずに次々と姿を消していきました。影響の差はありますが、『聖女候補』の称号にも同じ効果があります」

 ……『聖女』すげーな…。


「……森で襲ってきた災害クラスと思しき魔獣が消えたのもそのせい……か?」

 ファリの呟きを拾ったローゼさんが事情を聞き出す。


「なるほど…おそらく円谷くんが近付いたことで、『聖女』の影響に耐えきれなくなり消滅したのでしょう。レベルが高ければ高い程、濁った環境でないと存在すらできませんから」

 生息環境の範囲がシビアなんだな。
 濁り度合いが強い程、清いものに弱いのか。
 イメージでは災害級の魔獣よりスライムとかの弱い魔物から消えていきそうなもんだけど。
 強すぎるから逆に存在できないってなんだか皮肉な感じだな。

 今、ファリの傍にいられるのは、『聖女』の称号のお陰か…

 あの時、敵うはずもなかった恐ろしい魔獣が消えてくれて、『聖女』の称号が付いていてくれて、本当に良かったと心の底からホッとする。

「円谷くんが御命を救ったことにより、戦争をひとつ未然に防いだとも言えます。……そうですよね、ナファリード・スル・ヨルラガード殿下」

 ローゼさんが、ファリに視線を投げて、意味深な口調で問いかける。

 ………えっ? 殿下?

 王子様とかの…王族の敬称?
 いきなり何言ってんの?

 ファリを見上げると、じっとローゼさんを見つめた後、ゆっくりと口を開いた。

「……そうか…『鑑定』か…」

「はい。この場で明かしたということは、わたくしから他言することはない、という意思の表明でもあるのでその点はご安心下さい。けれどもし、この世界の理や状況を知って尚、自国の為だけに動くというのなら、わたくしにも考えがある…ということを御心に留め置き下さいませ」

「他国に害を成す意思はない。王族だと名乗らなかったのは、わたしには王族としての威がないからだ。ヨルラガード王国の権威は獣化したヨルラガードの強さによって成り立っている。わたしは獣化出来ない獣人であり、名ばかりの身分になど価値は無い。…わたしはカズアキの為だけに動く」

「なるほど…しかし、実際の御立場がどうであれ、ナファリード殿下にその気が無いとしても、王子という身分には周りを動かす力があります。もし、レニンの森で円谷くんに出会えず、お命を落とされていた場合、戦を仕掛ける正当性を主張する為、利用されていたとしてもおかしくは無いのです。自国の王子が国外で人間に迫害を受け殺害されたなどと、理由はいくらでも作り上げられるのですから」

 その場合、フェーズは更に悪い方向に進んでいただろうし、それはより負の心が育ちやすい環境になっていたっていうことで…戦火の口火が切られる条件は十分揃っていると言っていい。

「今のヨルラガードは、人間を憎み、奴隷とされている獣人達の解放を要求し、領土を広げ、人間から全てを奪いたいという気運が高まり、軍備に力を入れていますよね」

「…その通りだ。自覚が足りなかったと言わざるを得ない。以後、心に留め置き、カズアキに害が及ばぬよう配慮する」

「……殿下はあくまでも、円谷くんの為だけに動かれる…ということですね」

 ローゼさんが、ふふっと笑う。

「その御心に偽りは無さそうですし、円谷くんも人の不幸や滅びを望むタイプでは無さそうなので、協力し合えると判断いたしますがいかがでしょう? もちろん、わたくしに円谷くんを害するつもりは無いのでその点はご安心下さい」

 おれは慌てて口を挟む。

「あ…当たり前だよ、平和が一番、戦争なんかもっての外だ。おれにも出来ることがあるなら協力したい」

 ローゼさんは、ファリの身分にこうべを垂れるどころか、かなりキッパリと物を言い、毅然としている。
 おれ達がどうであれ、自分のやるべき事をはっきりと見据えているんだろうな。

 おれもファリが王子様って聞いてちょっとびっくりはしたけれど、ファリはファリだ。何も変わらない。

 おれに頷いた後、ローゼさんがファリに問いかける。

「殿下もそれでよろしいでしょうか? その場合、円谷くんの安全の為にも、当面ただのいち獣人として接することを御了承頂けますか?」

「カズアキが望むならわたしに否やは無く、身分に関してもその方がこちらも有難い。…わたしはカズアキを守りたい。ロミアリーゼ・グッテスラ公爵令嬢。貴方はその為の知識と力を持たれているとお見受けする。こちらから頼む。わたしには足りないその力を借して欲しい。了承頂けるだろうか?」

 ファリがおれの為にローゼさんに頭を下げて頼んでいる。

「もちろんです。どうぞ頭をお上げ下さい。元ではありますが、同じ転移者として、また、弟達の恩人として、円谷くんの力になりたいと思っております。これからは同志としてお付き合い下さいませ。殿下もわたくしのことは、ローゼとお呼び下さい。わたくしも殿下をファリ様と呼ばせて頂きます」

 ローゼさんはそう言ってにっこりと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...