乙女ゲームに転移したけど無理ゲー過ぎて笑える(仮)

鍋底の米

文字の大きさ
58 / 78

想定外

しおりを挟む
「…そのような事が…」

 話を聞いたローゼさんは、少しの間考えてから、視線を上げる。

「おかしいですね…。本来ならば案内役は転移者に付き添い、ゲームの進行を助け続けるはずなのです。案内役が導くべき転移者を置いて姿を消すなど有ってはならない事です。不測の事態であったとはいえ…いいえ、不測の事態であるなら尚更です」

 あれ、ただの映像じゃなかったのか…。
 時々会話が成立していたりして、変だな、とは思っていたけれど…。
 やたら3秒、3秒って煩くて…。さっさと終わらせて行きたい所でもあったのか…?

 …にしても、職務放棄良くないっ。
 あの時、ひとりで置き去りにされて、スライムに襲われたりして、すっげー怖かったっつーのっ。

「因みに、わたくしの時の案内役は、シグニドだったのです」

 ええっ?!
 おれの案内役とえらい違いだなっ?!

「案内役が人間な場合もあるんですね…」

 職務放棄のせっかち妖精と比べて落ち着いた雰囲気のシグニドさんなら、色々丁寧に教えてくれたに違いない。

「私は人間ではなく精霊です。光栄にも女神より案内役を拝命し、人の姿を纏うこととなりました」

 見た目を裏切らない柔らかな落ち着いた声でシグニド さんが答えてくれる。

 んんっ? 人間じゃない? 精霊って?

 話を聞くと、精霊は本来は姿形を持たない自然の中に溶け込んでいる霊力のようなものであるらしい。

 少し驚きはするものの、なんだかもう、異世界の魔法やら魔物やらの、不思議な存在に慣れてきたせいで、「なるほどー、人間でも妖精でもなく精霊なのか~」とか普通に受け入れてしまっている自分が怖い。

 シグニド さんは、女神に案内役を任されていて…。
 代理補佐とはいえ、おれにも女神関係者の加護があるくらいだから、やっぱり『どきサバ』は女神公認の乙女ゲームってことなんだろう。
 どうしてそんな物を作ったりしたのか理由は全く理解できないけれども。

「ローゼさんも転移者ってことだよな? 前作の『どきサバ』で転移してきたってこと?」

「かつて転移者だった…と、言った方が正確でしょうが、『どきサバ』を媒体として転移してきた経験があることは間違いありません」

 かつて?

「…今は違う…?」

 はい、と頷いて、衝撃の発言を口にした。

「わたくしは、一度死んで、この世界に生まれ変わったのです。故に今は転移者ではありません」

 はっ? 死んだ?!

「そっ…それって、やっぱ、クエストに失敗したから?! 期限までに間に合わなかったってこと?!」

 ぶわっと不安が湧き上がってきて、心臓がドッドッと激しく脈打つ。

 ギュッと手を握られて、隣を見ると、ファリが真剣な眼差しを向けていた。
 ゴクッと唾を飲み込み、大きく息をひとつ吸い込んでから、握られた手の向きを変えて、おれからもギュッと手を握り返す。

「…期限…ですか?」

 ローゼさんにクエストの期限についての説明を求められ、不安な気持ちを押さえ込みつつ説明すると、ローゼさんはまた何かを考えた後、口を開く。

「わたくしの時は、クエストにクリア期限などありませんでした。クエストは、レベルを上げる為のアドバイス的な役割のものでしたので、必ずクリアしなければならない物でもなく、クリア出来なければ死、などという取り返しのつかない罰則も科せられてはおりませんでした」

 はっ?!

「2作目になって仕様が変わったってこと?」

「ということになるのでしょうか…。そもそも、仕様変更以前に、2作目のゲームが存在すること自体が疑問なのです」

 ど…どういうことだ?

「何故なら…『ハーレム学園 どきどき♡サバイバル 』通称『どきサバ』は、この世界の女神が作製した乙女ゲームなのですが…」

 うんうん、薄々そうかもな、とは思っていたよ。

「その製作者である女神が、もうこの世界に存在していないからです」

 ………へっ? 女神が居ない?

 はぁぁああ?!

 いやいや、女神関係者の加護とか付いてんじゃん!
 なのに当の女神が居ねーってどーゆーこと?

「ちよっ、意味わかんないんだけどっ?!」

「そうですね。分かりません。なので、女神不在の今、誰が何の目的で乙女ゲームを使い、異世界人を転移させたのかを調査していたのですが、有益な情報は得られておりません。そこで、『聖女候補』を保護し、情報の御提供と、あわよくば、この世界の救済の為に御助力頂ければと思い、弟達をレニンの森へ向かわせたのですが…」

 ギルオレさん達は誘拐されるし、転移していたのは巻き込まれたおれだし、案内役は居ないし、ゲームの仕様は変わっているし…のイレギュラーだらけだったってことか。

 ん? 『聖女』?
 それに、どうして誰かが異世界から転移して来たって分かったんだろう?

「おれの称号、『聖女候補』じゃなくて『聖女』なんだけど……あと…誰かが異世界からレニンの森に転移してきているってどうして分かったんですか?」

「わたくしが転移してきた時は、何人かの『聖女候補』の中から『聖女』をひとり選ぶこともゲームの目的のひとつでしたので、転移したての時は皆『聖女候補』だったのです。円谷くんの称号が『聖女』だと分かったのは、鑑定後のことです」

 鑑定後ってことは、ついさっきだな…

「チュートリアルでも言ってたし、ブックレットにも『聖女』ってはっきり書いてあるってことは、これも仕様変更のひとつってことなのかな…?」

 アイテムボックスからブックレットを取り出して該当ページを開いてローゼさんに渡す。

 ローゼさんは、該当ページを読んでから感想を述べる。

「確かに『聖女』と明記されていますね。案内役が『歴戦の乙女だけが来られる』と言っていたと伺いましたが、そのことからも、過去にこちらに来たことがあり、『聖女』としての資格を有している人物を呼ぼうとしている意図が見えます」

 もう一度視線をブックレットに戻して他のページもパラパラとめくっていく。

「記載の文章が所々変わってはおりますが…登場人物を挿げ替えて少々手を加えただけの物に見えます。ストーリーの大筋も同じ。商品として考えるなら、これを2作目として販売するなど到底考えられません。…こちら、後ほど精査する機会をいただきたいです」

 ブックレットを閉じ、一旦おれに返却したローゼさんが次の疑問にも答えてくれる。

「転移者の存在を知っていた件についてですが、わたくしと弟のステータスに『悪役令嬢』および『攻略対象』の称号が唐突に増えたことによる事実と、レニンの森の状態好転の情報を精霊から受けたことによる推測です」

「レニンの森の状態好転?」

「それについてご理解いただく為に、まずはレニンの森がこの世界にとってどのような役割を果たしているかを説明いたします」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。 男前受け

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼不定期連載となりました。 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

処理中です...