乙女ゲームに転移したけど無理ゲー過ぎて笑える(仮)

鍋底の米

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Side:ファリ《護衛》その1

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 今、わたしは、路地裏に身を潜めながら、とある洋品店の様子を伺っている。王都の中でも一二を争うのではないかと思われる豪奢な店舗だ。
 先程この店舗の中に、カズアキがギルオレに伴われて入って行ったところだ。

「おい、ぼんやりすんなよ、ナファリード」

 肩に回された腕をぐっと引っ張られ、耳打ちされる。声の主はレスニースだ。


 時は数時間前へと遡る。

 今日は、カズアキがクエストをクリアする為に攻略対象であるギルオレとデートをする日だ。
 正直言って面白くはないが、カズアキの命を守る為には必要な事なので仕方がない。わたしの胸の内など瑣末事項であり、むしろカズアキを救う事の出来るギルオレには感謝するべきなのだ。

 朝食後レスニースに捕まり、ローゼ嬢の元へと連れて行かれた。そこでレスニースは、わたしの今日の仕事を、私兵の訓練から護衛任務に変更するようにローゼ嬢に願い出た。その護衛任務は表立つものではなく、密かにギルオレとカズアキを尾行し、陰ながら守護するというものだ。それはすんなりと許可されて、レスニースと同行することとなった。
 目立たないようにする為に、クールセイオにより、人から認識されにくくなるよう認識阻害の魔法と、髪と目の色が変わったように見せかける幻影魔法をかけられた。

 今わたしの目と髪の色は濃紺色に変わっている。

 これで目が金色ならば、本来あるべきヨルラガードの色合いになるのだが…。

 せめて色くらいヨルラガードの特色を受け継いでいれば、父や兄から受ける憎しみも少しは薄くなっていたのだろうか、などと益体も無いことが頭をよぎる。


「あんたの白は目立つからな」

 そう言うレスニースもまた特徴的なブルーグレーと黒の二色の髪を、人間の中では最も多い焦茶色に変化させていた。
 それだけではなく、耳は人間と変わらぬものとなり、尾も消えて無くなっている。しかしこれは幻影魔法によるものなので、実際触れればあるべき所に在る。
 見えなくなっている己の尻尾を動かして手で触れてみると、いつもと変わらない感触がした。

「本日は屋敷に戻るまで護衛対象の2人に決して気付かれることのないよう任務を遂行して下さい。これは厳命です。但し、襲撃等を受けた場合はその限りではありませんが、可能な限り気付かれることのないよう、くれぐれもお願いします」

 ローゼ嬢が主にレスニースに向かって注意を促した。

 今回のクエストに関してはカズアキがローゼ嬢に報告と相談をしているので、デートを成功させる為に『2人きりで』という状況を壊さないよう配慮してくれているのだ。

 クエストの存在や、カズアキが『聖女』だということを、レスニースとギルオレは知らない。

 カズアキが異世界人であることは、ローゼ嬢が2人に捜索依頼を出し、レニンの森へ向かわせた折に、その切迫性と重要性を把握してもらう為、関係者であるギルオレには話したそうだが、口止めをしているのでレスニースはそれも知らない。



 ローゼ嬢の執務室を出た後、何も事情を知らない故にレスニースはカズアキへの不満を漏らす。

「カズアキはあんたの番なんだろ? あんたがカズアキを見る目を見りゃ分かる。なんで他の奴とのデートなんぞ許すんだ? あいつは獣人にとっての番がどういうもんなのか分かってんのか?」

 獣人にとっての番とは、代わりのきく人間のそれよりも重い意味を持つ存在だ。人間は離婚したり死別後に再婚したりして再び伴侶を得ることができるが、獣人にはそれが出来無い。伴侶…番は生涯にただ1人だけ。そういう決まりなのではなく、そういう風にできているのだ。

 番として心を交わし合った相手と一生を添い遂げ、心が伴わないと発情もしない。番を失った者が耐え切れずに心や体を壊し弱り果て、後を追うようにして亡くなることも少なくない。番と巡り会えないまま歳を重ねてしまう者も居て、その者達もまた寿命を全うすることが出来ない。
 その為、肉体の基本構造的には魔人と変わらない寿命を持つはずの獣人の平均寿命は、50年寿命が短いはずの人間と変わらない。
 妊娠期間が人間よりも短いのにも関わらず、人間よりも人口が少ないのもそのせいだ。

 レスニースは憤懣やるかたないという様子だ。
 とはいえ、わたしの為というよりも、本心はギルオレの為に怒っているのだろう。

「あんたさ、ちゃんと嫌だって伝えたのか?」

「わたしの感情など取るに足りない」

 攻略対象とのデートはクエストクリアの為にどうあってもやらねばならない事だ。
 カズアキにとっても事情を伏せたままギルオレを利用する形となることは不本意であるのに、為さねばならないこの状況に心を痛めている。ギルオレがカズアキに対し恋情を持っていることをレスニースから伝え聞いてからは余計にだ。
 カズアキはわたしが不安にならないよう、夜毎状況や気持ちを伝えてくれている。
 カズアキの方が心に負担を抱えているだろうに、わたしを気遣ってくれているのだ。

 どうして不満を漏らし、追い討ちをかけるような真似が出来るだろうか?

 その為にクエストが失敗し、カズアキの命が失われるなど、想像しただけで恐ろしさに体が震える。カズアキを失えばわたしに生きる意味はない。

「さすが犬系、行儀が良くてお利口なこった」

 ハッと息を吐いて小馬鹿にしたような態度で軽く背中を叩かれる。

「なんか事情があったとしても、嫌なもんは嫌だし、そんくらい言ってもいいんじゃねーの?」

 沈黙で否定の意思を示すと、レスニースが舌打ちをする。

「相手は人間だぜ? 俺らと違って心変わりする生き物だろ。ウチのギルは容姿も性格も、身分だって申し分ねー。悠長に構えてると掻っ攫われるかも知れねーぜ」

 レスニースは否定出来ない真実を吐き捨て、背を向けて去って行った。わたしに向けた言葉ではあったが、レスニース自身もどこか痛いような目をしていた。

 こちらが駄目なら次へと、切り替える事の出来る精神的タフさこそが、人間が他種族に比べて短命でありながらも、最も繁栄している所以なのであろう。

 獣人が他種族を、特に人間を忌避する理由は、心変わりをする生き物であるからだ。心を交わして伴侶となっても、心変わりにより捨てられて絶望し、命を落とした獣人は少なくない。心を病み、元伴侶やその新しい相手を殺め、自身の命を断つことも。
 こうした悲しい出来事も互いの種族間の溝を深める要因の一つとなっている。
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