転生騎士見習いの憂鬱

鍋底の米

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演習 《強襲》

 つ…疲れた…

 言葉を必死に探してつないで説明し、ようやく状況を理解してもらう事ができた。
 鍛錬たんれんメニューを全てこなしたあとの何倍も疲れ果てている。

「だ…ダメっ…もうがまん出来ない!」

 ルーイはそう言って肩を震わせ笑い始めた。

 笑わないと言ったのに…

 じとりと視線を投げてむっつりと黙り込む。

「ごめんっ!ごめんねっ!我慢はしたんだよ。焦ってるのが伝わったから余計に…君、あんまり表情変わんないから…真面目な顔で…あの言葉の選び方……」

 謝ってはいるものの、話の合間に笑いがはさまり途切れ途切れになっている。
 どうやら表情と話の内容とのギャップに笑いがこらえきれなくなったようだ。

 …変態とののしられなかっただけ良しとするしかない。

 ひとしきり笑ったあと、ゴホンと咳払いをしたルーイが仕切り直す。

「ホントごめんね。うん、笑い事じゃないね。股間にモヤみたいなのがかかってて良く見えないんだよね?普通はそんなのないよ」

 やはり俺だけだったのか。

「しかも子供の頃からずっと…。機能的には問題ないっていうし…うーん、ただの状態異常にしては効果が長すぎるよねぇ。…何か呪いのたぐいなのかなぁ?」

 胸の前で両腕を組んで真剣に考えてくれている。
 やっぱりルーイは良い奴だ。

「他の人の股間もヴィルにはモヤがかかって見えるのかなぁ…?それともヴィルの股間自体にモヤがかかっているとか…?…やっぱり確かめないと分からないよね…」

 ルーイは少し考えた後に顔をあげ、サバサバとした口調で聞いてくれる。

「とりあえず…僕の、見てみる?」

 うなずいた俺を確認してから立ち上がり、ルーイがズボンの前を緩めた。

 長年の疑問の一端がルーイの優しさにより解けようとしている。
 こんなことまでさせて申し訳ないという気持ちと有難いという気持ちが綯交ないまぜとなる。

 いよいよ…

 緊張する俺の目の前に、正面に立ったルーイの股間がさらされた。

 揺らめくき火のオレンジの光と影をまとい、綺麗な色をした、まだ成熟しきっていないペニスが見えた。
 ついじっくりと凝視ぎょうししてしまったが、皮膚の質感まではっきりと確認出来る。

 モザイクが無い!

 ばっと顔を上げてルーイと視線を合わせる。平静を装ってはいるが、やはり少し恥ずかしいのかルーイの顔が赤い。

「ちゃんと見える」

「じ…じゃあ、次はヴィルのを見せて」

 ズボンを直したルーイが俺の股間を確認する為にかがみ込む。

 真剣に観察する態勢に入られると緊張感が増す。しかし躊躇ちゅうちょなどしている場合でも立場でもない。ズボンの前を緩めようとウエスト部分に手にかける。

 だがそれを降ろす前に、突然ルーイの背後から水流が襲ってきた。
 
 直撃した衝撃でルーイが倒れ込んでくる。

 抱き止めた体ごとひねる形で勢いを殺し、なんとか水流から逃れる。

 何事だ?!

 二人で慌てて態勢を立て直して周囲を伺う。

「レーベン!予定と違うだろう!気付かれてしまったではないか!」

 現れたのはジストナーのチームだった。
 声を出したのは公爵家のドラ息子、カルダナ・ザイ・アグス。家名の権威を笠に着て威張りちらす能無しだ。

 あんなやつとチームになってしまったとはジストナーはクジ運が悪い。

 そして股間のさらしあいをしている時に襲ってくるなど間も悪い…。

 水流を放ったジストナーは不意打ちで襲った側だというのに顔色が悪く、余裕のない表情で息を乱している。

「おい、レーベン!早く倒して取り上げろ!」

「うるさい!」

「なっ…!生意気な口をきいて許されると思っているのか?!」

 チェックポイントで受け取った筒を奪う為に奇襲をかけたはずの二人が仲間割れを起こしている。

 今のうちに逃げようとルーイと視線で合図しあう。襲撃を受けることも想定の内なので算段は立ててある。自分たちより能力の高い相手に襲撃された場合は姿を消してなるべく戦いを回避する。二手に別れて逃げた後、あらかじめ決めた場所で落ち合う予定だ。

 相手チームとの間に魔法で土の壁を出現させて視界を遮った。同時に自分たちの姿が相手に見えなくなるように目くらましの魔法もかける。

 ジャミングや目くらましの魔法は、一度相手の視界から消えないと効果を発揮させられない。

 先程の水流で消えかけていた焚き火は今は完全に光を失っていたが今夜は満月。夜陰やいんまぎれるには向かない夜だ。目くらましが効いている間にもっと木々が密集している場所へ身を隠してこの場を離れたい。
 音も姿も消した状態で、そろそろと後退していく。

「逃さない!」

 ジストナーが魔法を練り上げている。

 探知の魔法には引っかからないはずだが…

 俺に使える魔法の種類は少ない。
 属性魔法は土のみ。
 普通の人は少なくとも二種類は属性魔法が使える。例えその強さがライターの炎くらいしか無かったとしても。

 ただ俺には特殊魔法の結界がある。これも珍しいたぐいの魔法だ。我が家系、モニーク家の人間以外の使い手にはまだ会ったことはない。
 この結界だけはモニーク家の中でも強力なものを張れているのではないかと思っている。
 最も俺以外の親兄弟は皆全ての属性魔法が使えるので得意魔法のひとつくらい無いと正直辛い。
 ただし結界はその下位魔法や属性魔法に比べて発動させるのに時間がかかる。魔力が多いなら瞬時発動も可能だが、人並み程度の魔力では構築に工夫が必要で瞬時には発動できない。
 残念ながら俺の魔力は人並み程度だ。
 迅速さが求められる戦闘中には使い勝手が良いとは言えず得意魔法とはいえ微妙な位置付けでもある。

 目くらましの魔法は得意とする結界魔法の下位に位置する魔法だ。下位とはいえそう簡単には解除出来るものではないと思っていたのだが…

 野営準備時にも同じ魔法をかけたことを思い出す。そう、既に一度破られている。

 再び目くらましの魔法が破られた。詠唱が終わると同時に引き千切るように乱暴に。
 全く気付かれないままに静かに破られていた先の解除とは違う、高い魔力にものを言わせた荒々しさで。

 どちらにしてもあっけなく破られているのに変わりはない。少しでも得意だと思っていた己の慢心まんしん歯噛はがみする。

 俺とルーイの姿は月光の下にさらけ出された。

 ジストナーが強く地を蹴り一気にルーイとの距離を詰める。
 ルーイは距離を詰めた勢いを乗せて叩き込まれそうになった手刀をぎりぎりでかわし、二人の間に風魔法を発動させる。
 ジストナーを押し戻すと同時に自身も後ろに下がれ、距離を開けられる上手い手だ。しかし、それは所詮しょせん一時いちじしのぎに過ぎない。二人の実力差から考えて圧倒的にルーイが不利だ。

 二人の間に生まれた空間に土魔法の壁を作りルーイを守る。

 公爵家のドラ息子アグスが参戦していない今のうちに二対いちで畳み掛けるしかない。

 ジストナーが腰にいた剣を抜きざま刃先まで魔力を流し、土壁を叩き切った。

 ルーイは態勢を崩されている。

 かばうように前に滑り込んだ俺も剣を抜いて構える。

「ヴィル…」

 ジストナーと正面から見つめ合う。
 その表情は月光のせいかいつもより青ざめている。
 こんな時に不謹慎だがやはりジストナーは美しいと思ってしまう。

 ジストナーからの攻撃を受け、何度も剣を切り結ぶ。
 ジストナーの無駄のない剣筋が月光を反射して美しくきらめく。

「レーベン!演習中に乳繰りあってるような奴らなどさっさと片付けてしまえ!」

 ジストナーの背後から野次が飛ぶ。

 その野次に気を取られたのか、ジストナーの剣に一瞬の乱れが生じた。

 その隙を逃さず剣を弾き飛ばす。

 無防備になってぐらついたジストナーにルーイが風魔法で追い打ちをかける。
 吹き飛ばされたジストナーは背後の樹木に打ち付けられて気を失ってしまった。

「クソッ!役立たずめっ!」

 敗北を知り逃げ出そうとしたアグスを捕まえる。ジストナーを見捨てて一人で逃げようとするなど言語道断だ。

「まてっ!手を出すな!私を誰だと思っている!」

 下衆が。
 ゴミを見るような目で見下す。

「ひっ!」

 怯えて逃げ出そうとしているアグスの鳩尾に当身を食らわせ気絶させた。

 ルーイが風と火の魔法を合わせて濡れた体を乾かしてくれる。

「目を覚まさないうちに逃げちゃおう」

 提案するルーイに頷きながら、一応目の前のアグスに魔獣除けの魔法をかけておく。これも結界の下位魔法だ。

 こんなゴミでも魔獣にやられたら寝覚めが悪いからな。

 次にジストナーの元に移動する。

 …こ…これは…

 ゴクリと唾を飲み込む。

 ルーイの風魔法のせいか、俺の剣のせいか、ジストナーのシャツがアンダーも一緒に大きく切り裂かれている。
 血は出ていないので傷は無さそうだが…

 切り裂かれたシャツの端が両の乳首にひっかかってギリギリ見えていない。
 見えていないのがかえって…

 エロい…

 下半身がズクンと脈打った。

 こ…こんなエロい姿のまま置いては行けない!

 魔獣除けの魔法をかけた後、自分のシャツを脱ぐ。

「ヴィル、急いで!何やってるの?」

 声のトーンを落としながらルーイが急かす。

 慌てて脱いだシャツをジストナーにかけようとした時、乳首に引っかかっていたシャツの端がハラリと落ちた。

 えっ?!

 驚いて固まっている俺の肩を叩いて耳元でルーイが囁く。

「どうしたの?」

「これ…どう見える?」

 むき出しになっているはずのジストナーの乳首を指差す。

「うん?乳首だね?」

「普通に見えるか?」

「もちろんだよ。…えっ?もしかして…」


 そう、ジストナーの乳首にはモザイクがかかっていたのだ…。
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