ときはの代 陰陽師守護紀

naccchi

文字の大きさ
21 / 104
第三章 薄紅模様~うすべにもよう~

第十七話

しおりを挟む
 4人はショッピングモールへ移動した。
 1階に大型のスーパーがあり、2階から4階まで各フロアどこも所狭しとお店が並ぶ。
 やけに賑わっており、人が多い。

 そんな店内を駆け回っている子供が突如、和泉の前に出てくる。避けることもできたが、とっさに両手のひらを出して子供を受け止めた。
 ぶつかった拍子にその男の子の持っていた玩具が地面に落ちてしまう。カラカラと音が鳴ったり光ったりするヨーヨーのようだ。

「大丈夫?走ると危ないよ。」
「あ、はーいごめんなさい。」

 男の子に、ヨーヨーを手渡すとその子は素直に謝った。後ろからその子の親らしき女性と男性が来て、ぺこぺこと頭をさげていくのを見て、和泉は笑顔で見送る。

「子供が、たくさんいるんだね。」
「そうだね、今日は休日だし、にぎわっているかな。子供、好き?」
「わからない。世羅は、好きなの?」
「好きだよ。純粋で真っすぐで、嘘つけなくて、見栄っ張りで。好き。」

 世羅の眼は、遠くを見ていた。哀しい目じゃない、優しくて穏やかで誰かを慈しむような瞳。きっとあんなことがなければ、彼は今でも山奥の村で穏やかに暮らしていたのだろうと思わずにはいられない。

 でももしそうだったら、きっと陽は両親に先立たれたまま、独りなのだ。良かったとも悪かったとも一概に言えない。そして、当事者ではない和泉が悲しんだところで、何が変わるものでも無い。変えられない過去に思いを馳せ、和泉は何とも言えない気持ちになる。

「おい、ガキはもういいから先行くぞ。」

 そんな二人を横目に、陽と紅音はもうエスカレーターに乗っていた。紅音はずっと陽の隣を陣取って和泉を終始睨んでいる。喧嘩をするつもりはない和泉は何となく、世羅の傍にいた。

 2階に移動。

 ここのフロアはフードコートと雑貨、3階は洋服や化粧品、4階は飲食店やゲームセンターといった感じでおおまかにフロアでジャンルが分かれている。
 エスカレーターで登っていて気づいたが、ベッドなどの大型の家具はスーパーの隣に売り場があり、スーパー外には自転車なども並べられていた。吹き抜けになっていて1階を見下ろしてようやく気づいた。

 とはいえ、和泉が買うものとしては当面の衣服や室内に置く簡単な家具。陰陽寮では保護と銘打っている以上、最低限の生活保障はしてくれるらしい。欲しいものがあれば適宜申請。却下されたり、早く欲しい場合は任務完了後に貰える給金で買うのが常らしいと陽から聴いた。

「よっぽど贅沢品とかじゃなきゃだいたい承認下りるからな。好きなもん買えよ。」
「みんなは、部屋に何があるの?」
「まあ、ベッド、机、椅子、収納系、欲しい人はソファ…あとは家電系かなぁ。
 でもベッドはもう置いてあるし、クローゼットも室内にあるし。
 それに基本的に家電は共用だから、電化製品は不要だね。
 陽は寮にいるのが嫌でネカフェを点在しているし、僕別に物に執着は無いからそんなに置いてないかな。」
「最近は本部に戻ってるだろうが。」
「いつも陽は、あそこにはいないの?」
「びっくりしたわよ、陽が陰陽連戻ってるって聞いたから。あたしが遠征してる時に何があったの。」

 和泉の問いかけを遮るような紅音の声。さすがにと陽が睨んだので紅音はむっとした顔をしながらも黙った。

陰陽連あそこにいるの、嫌なんだよ。」

 陰陽連で向けられた好奇の眼差、噂話。あんなのを毎日されていたら、嫌になるのもわからなくはないと、和泉は思った。

 話を聞いて、色々見回った結果。確かにワンルーム用の小さな机があれば十分なので、適当に選び陰陽連へ配送してもらうよう手配した。大中小様々な机があり戸惑ったが、こだわりなどあるはずもなく、シンプルな木目調のローテーブルだ。
 あのビルは表向きは官庁関係のビルらしく、普通に住所としても存在するから、配送手続きは何ら支障はなかった。
 複雑ではないとはいえ、そんな細かい手続きを和泉ができるわけもないのだが、そこは紅音がてきぱきと進めてくれた。

「あとは服とかかしら。化粧品とかもいるわよね。」

 化粧、と言われて和泉の脳裏に浮かぶ、真っ白な肌と赤い紅、そして黒い歯。だがそのビジョンはすぐに掻き消えた。

「どうした。」
「あ、ううん、大丈夫。ちょっと、ぼーっとしただけ。」

 化粧品を売っているお店では、かわいらしい顔をした女性がカメラ目線でうつったポップが飾られている。
 かわいいやかっこいいなど、雰囲気の差はあれど、元の顔の造形がわからなくなるほどの化粧ではない。ほんのり肌つやがよくなったり、目の周りがカラフルになったりしているくらいだ。紅は…赤から桃色、オレンジなど多様だ。

「いい、化粧は、必要ない。」
「あら、そうなの?いくらかわいくってもスキンケアしないと、肌トラブルが後になって押し寄せてくるわよ。」

 紅音のスキンケアだのなんだのがいまいちよくわからないものの、和泉にはあまり必要性を感じなかった。服は、さすがに着ないと困るが、顔に色を塗る必要など感じない。もちろん費用がかかることもわかっている。必要であると感じたら、そのときまた買いにこればいいと思った。

「じゃあ、あとはインナーね。陽と世羅、ちょっと外してくれない?」
「あ?なんで。」
「なによ、女のコの下着店入りたい訳?」
「ちげえけど。苛めんなよ、紅音。」
「あたしがそんな性悪に見えるの?ひど。
 ま、オンナ同士の話はするかもしれないけど。だあいじょうぶ、そんな時間のかかることでもないから。」

 結局ほとんど紅音が押し切る形で、陽、世羅と離れて2人きりとなった。緊張しないと言えば嘘になる。紅音が和泉を快く思っていないことは分かっているからだ。

「で?あなた、一体何が出来るの?」

 きた。
敵意でも侮蔑でもない。お前は一体何なんだという、問い。周囲の雑踏に紛れて、その質問は和泉の耳にはっきりと聴こえる。

「陽はね、陰陽連の中でも期待のエースなの。どんな妖怪だって倒してきたんだから。そんな彼と一緒に組みたい陰陽師だっていっぱいいるのよ、でも彼は全部断ってきたの。
 小さい頃から一緒だった私でも駄目だって。理由は……わたしがまだまだ弱いからだわ、きっと。
 なのになぜあなたが?あなた、そんなに強いの?宮内庁からの紹介とか?」

 世羅が言っていた、自分たちは陰陽連の中でもかなり強いのだと。疑っていた訳では無いが、紅音がこうまで言うのだ。彼らは本当に強く、それは自他ともに認めるほどの力。
 とはいえ、紅音の質問に素直に答えていいのか悩む。自分の存在が秘匿事項であるからどこまで言っていいものか。紅音の父親が陰陽連の幹部なのだから必然と耳に入るだろうが、それでも勝手にべらべら話すのは気が引けるのである。

「なんとか言いなさいよ。」

 気が引けている和泉のことなど構いもせず紅音は詰め寄った。

白斗あおとさんからの、指示だから、言えない。
 陰陽師はみんな、あの人に従うんでしょう?私も、お世話になるって決まったから、彼の言葉に従うだけだよ。
 でも、迷惑かけたくはないから、強く…なるつもり。」
「そんなすぐ、強くなんてなれないわよ。」
「じゃあ、教えて。
 紅音さんも、強いんだよね。私も強くなりたい。陽や世羅に迷惑かけないように、せめて自分の身くらいは自分で守れるようにしたいから。」
「呆れた。あなた、それであたしと2人っきりになるの了承したわけ?」

 紅音もわかっていた。自分の向けるまなざしが好意的でないと、和泉が気づいていること。にもかかわらず、二人っきりになることを和泉は了承した。まさか紅音に教えを乞おうと思っているとは想定外だった。

「そうだよ、それにもっと紅音さんのこと知ろうと思って。
 陰陽連にはいろんな人がいるって聞いたから、いろいろ知りたいの。」
「じゃあ、協力してよ。
 わかるでしょ?あたしは陽が好きなの。ずっと前からあたしのなのよ。だからあなたも力貸しなさいよ。」
「……それはできない。
 あなたの言う好きは、どうも私の知ってる好きと違うから。誰かを自分の所有物みたいにすることに、協力はできない。」
「あ、そう。交渉決裂ね。残念。
 じゃああたしはあなたと話すことなんかないわ。さっさと選んでちょうだい。」

 紅音は見るからに不機嫌な顔になり、適当につかんだであろうインナー類を和泉に渡し、試着室へ押し込んだ。
 怒らせてしまったようだが、それでも【ずっと前から自分のものである】という発言は、どうにも受け入れがたいものだった。心臓のあたりがキリキリと痛む。
 陽は、きっとそんな関係望んでいない。

 一応試着はするものの、もはやどれがいいかなど、どうでもよかった。
 着てないものが何着かあるものの、試着室から出たら紅音の姿はなかった。なんとなく、紅音の気配がなかったので想定はしていたけれど。
 先に陽のところへ戻ったのかと思った、その矢先だ。


 ……ざぁ


 目の前にぽつんと落ちている黒い、塊。それが四方八方に無造作に伸びる。
 ざぁざぁと音を立ててそれが、髪の毛に似た物質であると視認したと同時、店内にいた他の客や従業員の、声にならない悲鳴が響いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。

処理中です...