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第16話 異変
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(どうしちゃったんだろう、湊山くん……)
魔王湊山くんとの試合が始まって、初めのうちは想像していた通りの展開だった。
この前の花見の時にやった、魔力の調整の成果が出ていたのかもしれない。
結界のおかげで攻撃の威力も小さくて済んでいる。
確かにそうだった。初めのうちは。
だが試合が進むにつれて、様子が変わってきた。
魔王湊山くんは私の攻撃を魔法防護壁で受けている。
だが私は魔法防護壁はできない。
なので、腕や脚を魔力で強化して、魔王湊山くんが放つ魔法弾を弾き返している。
弾き返せないほどの威力ではない。
だが、それは魔法結界の効果があるからだ。
(もし、素でやってたら、かなりの威力だよね)
魔王湊山くんも、そのあたりを計算した上で威力を調整しているのだ、とも考えられる。
(だけど……)
魔法弾を弾きながら私は魔王湊山くんの表情を注視した。
なぜなら、この試合の始めから、というより始める前から彼の様子がいつもと違っていたのだ。
(私の気のせいかも、って思ったけど)
魔王湊山くんの表情が静かすぎるのだ。元々彼は表情が豊かなほうではない。
大人しくて表情の変化にも乏しいのは、前世と変わらない。
だが、今目の前で私と闘っている彼は全くの無表情なのだ。
なんの感情もなく、ただ機械的に戦闘を履行しているように見える。
だからなのか、魔力の調整ができていない。
というよりは、そもそも調整しようと考えていないと言ったほうが正しいかもしれない。
私は周囲を見た。
エルファやトーラ、アスウスやグルヌ達が真剣にこちらを見ている。
真剣な表情ではあるが、私と魔王湊山くんの闘いに何かしらの異変を感じているようには見えない。
私が感じている違和感は、魔力や戦闘力に優れた者たちにも分からない程度の微細なことなのかもしれない。
(でも、このままじゃ、いけない気がする)
私は脚を魔力で強化した。
そして魔法弾を弾き返しながら、魔王湊山くんとの間合いを一気に詰めた。
「ねえ、魔王、ちょっとやり過ぎじゃない?」
突きをする素振りをして、魔王湊山くんの肩に手を当てながら私は言った。
「……」
だが彼は何も答えず、焦点が合わない目で私を見ている。
「魔王、聞いて……」
私が言葉を継ごうとすると、魔王湊山くんは無表情のまま私の顔目がけて拳を打ち込んできた。
「……!」
私は咄嗟に身を引いた。
すると魔王湊山くんはもう一方の手で魔法弾を打ち込んできた。
(ヤバっ!)
私は魔力で身体強化をしながら両腕を交差させた。
魔法弾が交差した私の腕を直撃する。
ギリギリで防御は間に合ったが、威力はとんでもなかった。
私は防御態勢のまま、後方に十メートル以上吹き飛ばされた。
(なに、今の!)
魔力で身体防御をしていたおかげで、私は倒れることはなかった。
痛みも大したことはなかったが、衝撃が予想外に大きかったせいで心臓がドキドキしている。
「ミリアさん!」
エルファが叫ぶのが聞こえた。
見ると、異変に気づいたのだろうエルファが結界を踏み越えて入ってこようとしていた。
すぐ後ろにはトーラとグルヌもいる。
「大丈夫よ」
私は笑顔を作ってエルファを手で制した。
「でも……」
「ちょっとヤバくないかい……」
心配そうなエルファとトーラ。
「魔王様!」
一方、魔王側近のドーガと悪魔卿アスウスが魔王に駆け寄ろうとした。
魔王湊山くんは虚ろな目でドーガ達を見ている。
「近づいちゃだめ!」
私はそう言って、体全体を魔力で覆いながら再度魔王湊山くんとの間合いを詰めた。
魔王湊山くんが私をじっと見つめている。彼が右手を上げて魔法弾を放とうとした時には私は目の前まで達していた。
そして魔王湊山くんの両肩を掴んで彼の額に自分の額を合わせた。
(湊山くん!)
私は額を通して彼に呼びかけた。
「う……」
闘いが始まってからずっと無言だった魔王湊山くんの口からくぐもった声が漏れた。
(湊山くん、目を覚まして!)
再度彼の名を念じる。
「あ……」
魔王湊山くんの声が普段の調子に戻った。
私は彼の額から自分の額を離して、じっと魔王湊山くんの目を覗き込んだ。
「さ、桜川、さん……」
魔王湊山くんが私の名を呼んだ。
「えっと、試合は……試合を始めますか……?」
魔王湊山くんがトンチンカンなことを言う。
「ふぅーー……」
私が溜めていた息を吐き出した。
(よかった……)
なんとか通常に戻った魔王湊山くんを見ると、安心した反動で私はカッとなってしまった。
「ほんとにもうーー!」
私は大声でそう言って、
ゴンッッ!
と、魔王湊山くんに頭突きを食らわせた。
「ぐぎゃっ!」
変な声を出して額を抑えながらしゃがみ込む魔王湊山くん。
「一体どうしたっていうのよ!」
私は腰に両腕を当てて仁王立ちの姿勢で言った。
「えっと……試合を始めたと思ったら……桜川さんの声が……頭の中に聞こえてきて」
額を痛そうに擦りながら答える魔王湊山くん。
「闘ったのは覚えてないの?」
「はい……」
彼の様子から、そんなところだろうとは思っていたが……。
「今はもう大丈夫?」
「はい……頭は痛いですけど」
「そりゃそうよ、思いっきりやったもん」
そう言って私は魔王湊山くんの額をさすってあげた。
「こうすれば少しは痛くなくなるかな?」
「あ……!」
魔王湊山くんの顔がにわかに赤くなる。
「ほら、深呼吸!魔力を抑えて!」
「は、はい!」
「ミリアさん」
「魔王様」
エルファやドーガが心配そうに声をかけてきた。
「もう大丈夫だと思うわ」
私はエルファ達を見て言った。
「いきなり勇者様がふっ飛ばされたもんだから、肝が冷えたよ」
トーラが青い顔をして言った。
「ごめんねーーお互いに魔力の調整が上手くいかなかったみたい」
私は魔王湊山くんに目配せをしながら言った。
(話を合わせてね!)
私のことをじっと見ていた魔王湊山くんは、
「そ、そうなんです!調整が魔力で、その、上手くなくて、俺が……」
と、とっ散らかりながらも何とか話を合わせる魔王湊山くん。
(でも、このことはちゃんと考えないといけないわね)
とは言っても、私は魔法のことは詳しくない、というよりほとんど知らない。
(魔法のことはエルファ様が詳しそうだけど)
さっきまで心配そうな顔をしていたエルファも今は穏やかに微笑んでいる。
特に大きな異変に気づいたような様子はなさそうだ。
もしかしたら、魔王のことなのだから魔王側近のドーガや悪魔卿アスウスのほうが詳しいかもしれない。
「ねえ、魔王?」
私は「ドーガたちに相談してみたら?」と魔王湊山くんに言おうとした。
だが、今皆がいるここで話をしていいものかどうか判断がつかなかった。
(曖昧な考えで余計な憶測が広まったらまずいよね)
「はい……」
当事者でありながら、未だ状況が把握できていない魔王湊山くんは、明らかに不安顔だ。
「えっと……頭突き痛かったでしょ、ごめんね」
「い、いえ、もう大丈夫です!」
困惑顔をぱぁっと明るくして答える魔王湊山くん。
「とりあえずは休んでね、魔王」
「はい」
「また会いに行くから」
「はい!」
魔王湊山くんは嬉しそうに答えた。
こうして、楽しく賑やかに始まった運動会は、表向きは無事に終了した。
参加者たちは笑顔で握手を交わしたり肩を叩き合っている。
(そうだよ、私も笑顔でいなきゃ!)
そう、自分に言い聞かせながらも、私の胸には小さな不安が渦巻いていた。
魔王湊山くんとの試合が始まって、初めのうちは想像していた通りの展開だった。
この前の花見の時にやった、魔力の調整の成果が出ていたのかもしれない。
結界のおかげで攻撃の威力も小さくて済んでいる。
確かにそうだった。初めのうちは。
だが試合が進むにつれて、様子が変わってきた。
魔王湊山くんは私の攻撃を魔法防護壁で受けている。
だが私は魔法防護壁はできない。
なので、腕や脚を魔力で強化して、魔王湊山くんが放つ魔法弾を弾き返している。
弾き返せないほどの威力ではない。
だが、それは魔法結界の効果があるからだ。
(もし、素でやってたら、かなりの威力だよね)
魔王湊山くんも、そのあたりを計算した上で威力を調整しているのだ、とも考えられる。
(だけど……)
魔法弾を弾きながら私は魔王湊山くんの表情を注視した。
なぜなら、この試合の始めから、というより始める前から彼の様子がいつもと違っていたのだ。
(私の気のせいかも、って思ったけど)
魔王湊山くんの表情が静かすぎるのだ。元々彼は表情が豊かなほうではない。
大人しくて表情の変化にも乏しいのは、前世と変わらない。
だが、今目の前で私と闘っている彼は全くの無表情なのだ。
なんの感情もなく、ただ機械的に戦闘を履行しているように見える。
だからなのか、魔力の調整ができていない。
というよりは、そもそも調整しようと考えていないと言ったほうが正しいかもしれない。
私は周囲を見た。
エルファやトーラ、アスウスやグルヌ達が真剣にこちらを見ている。
真剣な表情ではあるが、私と魔王湊山くんの闘いに何かしらの異変を感じているようには見えない。
私が感じている違和感は、魔力や戦闘力に優れた者たちにも分からない程度の微細なことなのかもしれない。
(でも、このままじゃ、いけない気がする)
私は脚を魔力で強化した。
そして魔法弾を弾き返しながら、魔王湊山くんとの間合いを一気に詰めた。
「ねえ、魔王、ちょっとやり過ぎじゃない?」
突きをする素振りをして、魔王湊山くんの肩に手を当てながら私は言った。
「……」
だが彼は何も答えず、焦点が合わない目で私を見ている。
「魔王、聞いて……」
私が言葉を継ごうとすると、魔王湊山くんは無表情のまま私の顔目がけて拳を打ち込んできた。
「……!」
私は咄嗟に身を引いた。
すると魔王湊山くんはもう一方の手で魔法弾を打ち込んできた。
(ヤバっ!)
私は魔力で身体強化をしながら両腕を交差させた。
魔法弾が交差した私の腕を直撃する。
ギリギリで防御は間に合ったが、威力はとんでもなかった。
私は防御態勢のまま、後方に十メートル以上吹き飛ばされた。
(なに、今の!)
魔力で身体防御をしていたおかげで、私は倒れることはなかった。
痛みも大したことはなかったが、衝撃が予想外に大きかったせいで心臓がドキドキしている。
「ミリアさん!」
エルファが叫ぶのが聞こえた。
見ると、異変に気づいたのだろうエルファが結界を踏み越えて入ってこようとしていた。
すぐ後ろにはトーラとグルヌもいる。
「大丈夫よ」
私は笑顔を作ってエルファを手で制した。
「でも……」
「ちょっとヤバくないかい……」
心配そうなエルファとトーラ。
「魔王様!」
一方、魔王側近のドーガと悪魔卿アスウスが魔王に駆け寄ろうとした。
魔王湊山くんは虚ろな目でドーガ達を見ている。
「近づいちゃだめ!」
私はそう言って、体全体を魔力で覆いながら再度魔王湊山くんとの間合いを詰めた。
魔王湊山くんが私をじっと見つめている。彼が右手を上げて魔法弾を放とうとした時には私は目の前まで達していた。
そして魔王湊山くんの両肩を掴んで彼の額に自分の額を合わせた。
(湊山くん!)
私は額を通して彼に呼びかけた。
「う……」
闘いが始まってからずっと無言だった魔王湊山くんの口からくぐもった声が漏れた。
(湊山くん、目を覚まして!)
再度彼の名を念じる。
「あ……」
魔王湊山くんの声が普段の調子に戻った。
私は彼の額から自分の額を離して、じっと魔王湊山くんの目を覗き込んだ。
「さ、桜川、さん……」
魔王湊山くんが私の名を呼んだ。
「えっと、試合は……試合を始めますか……?」
魔王湊山くんがトンチンカンなことを言う。
「ふぅーー……」
私が溜めていた息を吐き出した。
(よかった……)
なんとか通常に戻った魔王湊山くんを見ると、安心した反動で私はカッとなってしまった。
「ほんとにもうーー!」
私は大声でそう言って、
ゴンッッ!
と、魔王湊山くんに頭突きを食らわせた。
「ぐぎゃっ!」
変な声を出して額を抑えながらしゃがみ込む魔王湊山くん。
「一体どうしたっていうのよ!」
私は腰に両腕を当てて仁王立ちの姿勢で言った。
「えっと……試合を始めたと思ったら……桜川さんの声が……頭の中に聞こえてきて」
額を痛そうに擦りながら答える魔王湊山くん。
「闘ったのは覚えてないの?」
「はい……」
彼の様子から、そんなところだろうとは思っていたが……。
「今はもう大丈夫?」
「はい……頭は痛いですけど」
「そりゃそうよ、思いっきりやったもん」
そう言って私は魔王湊山くんの額をさすってあげた。
「こうすれば少しは痛くなくなるかな?」
「あ……!」
魔王湊山くんの顔がにわかに赤くなる。
「ほら、深呼吸!魔力を抑えて!」
「は、はい!」
「ミリアさん」
「魔王様」
エルファやドーガが心配そうに声をかけてきた。
「もう大丈夫だと思うわ」
私はエルファ達を見て言った。
「いきなり勇者様がふっ飛ばされたもんだから、肝が冷えたよ」
トーラが青い顔をして言った。
「ごめんねーーお互いに魔力の調整が上手くいかなかったみたい」
私は魔王湊山くんに目配せをしながら言った。
(話を合わせてね!)
私のことをじっと見ていた魔王湊山くんは、
「そ、そうなんです!調整が魔力で、その、上手くなくて、俺が……」
と、とっ散らかりながらも何とか話を合わせる魔王湊山くん。
(でも、このことはちゃんと考えないといけないわね)
とは言っても、私は魔法のことは詳しくない、というよりほとんど知らない。
(魔法のことはエルファ様が詳しそうだけど)
さっきまで心配そうな顔をしていたエルファも今は穏やかに微笑んでいる。
特に大きな異変に気づいたような様子はなさそうだ。
もしかしたら、魔王のことなのだから魔王側近のドーガや悪魔卿アスウスのほうが詳しいかもしれない。
「ねえ、魔王?」
私は「ドーガたちに相談してみたら?」と魔王湊山くんに言おうとした。
だが、今皆がいるここで話をしていいものかどうか判断がつかなかった。
(曖昧な考えで余計な憶測が広まったらまずいよね)
「はい……」
当事者でありながら、未だ状況が把握できていない魔王湊山くんは、明らかに不安顔だ。
「えっと……頭突き痛かったでしょ、ごめんね」
「い、いえ、もう大丈夫です!」
困惑顔をぱぁっと明るくして答える魔王湊山くん。
「とりあえずは休んでね、魔王」
「はい」
「また会いに行くから」
「はい!」
魔王湊山くんは嬉しそうに答えた。
こうして、楽しく賑やかに始まった運動会は、表向きは無事に終了した。
参加者たちは笑顔で握手を交わしたり肩を叩き合っている。
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