【異世界ラブコメ】勇者のわたしと魔王湊山くん

舞波風季

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第29話 勇者の剣

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「空太郎くん、お話しよう、ね?」

 私の言葉に魔王湊山くんは動きを止めた。
 そして漆黒の闇を宿していた彼の目が変化した。

(今だ!)

 私はすかさず、魔王湊山くんとの間合いを詰めようとした。
 だが、一歩も動けなかった。

(あれ?動けない……どうして?)

 足だけではなかった。勇者の剣を構えた腕も動かせない。
 私は文字通りその場で硬直してしまった。

「そ、空太郎くん、聞こえる?」
 私は声に出して言った。

「はい……」
「よかった、でも、なんでかな、私動けなくなっちゃった」
「勇者、ミリア……」
「ん、何?」
「すぐにまた……」
「話せなくなっちゃうの?」

 魔王湊山くんの目が再び漆黒の闇色になった。

「でも私と手を触れ合えば、また心でお話ができるよ、ね?」
 私は何とかして魔王湊山くんに近づこうとするが、一歩も動けない。

 すると、魔王湊山くんがゆっくりと私に近づいてきた。
「あ、こっちに来てくれるんだね。ごめんね、私全然動けなくてさ」
 私は努めて明るく言った。

 相変わらず私は勇者の剣を構えたまま動けない。切っ先は魔王湊山くんの胸を指している。
 魔王湊山くんが近づいてくる。

(え、このままだと……)

「空太郎くん、一旦止まってくれる?私、動けないから剣を下ろせないんだ」
 私の声が聞こえているのかどうか、魔王湊山くんは真っ直ぐに歩いてくる。

「駄目だよ、空太郎くん!危ないから止まって!」

 私は必至になって勇者の剣を下ろそうとしたが、どうやっても動かせなかった。

 とうとう魔王湊山くんは、勇者の剣の切っ先が胸に当たるところまで来てしまった。

「ね、止まって、お願い!空太郎くん!!」
 私は叫ぶように言った。

 その時魔王湊山くんの漆黒の闇色の目が微かに揺らいだ。

「勇者……ミリア……」
 魔王湊山くんが呟くように私を呼んだ。
「うん、なに?なんでも聞くよ?だからもう止まって!」
 私は後ろに下がろうと必至になりながら言った。

「こ……これ、で……」
 そう言うと、魔王湊山くんは大きく一歩踏み出した。
「だめっ!来ちゃだめっ!!」

 私の必死の叫びも耳に入らないのか、勇者の剣は魔王湊山くんの胸を貫いた。
 両手に嫌な感触が走る。

「なんで……」

 勇者の剣は鍔元つばもとまで魔王湊山くんの胸に沈んでいる。

「なんでよぉおおーーーー!」
 私は絶叫することしかできなかった。
 魔王湊山くんの漆黒の闇色の目がまた揺らいだ

「勇者……ミリア……」
「なによ……!」
「……て……よかっ……」

 そこまで言ったところで、魔王湊山くんはは黒銀色に光り始めた。
 そして少しずつ形が崩れ始めた。

「あ……あ……」
 私は彼の名を呼ぶことすらできなくなっていた。

 顔が消える寸前、魔王湊山くんがほんの少しだけ微笑んだように見えた。

「ああ……」

 そしてとうとう魔王湊山くんの顔が黒銀色の光の粒になり、やがて体が全て黒い輝きとなって霧散した。

「ああーー……」

 目の前を舞う黒銀色の光の粒が、とてつもない喪失感となって私の体を襲った。

「ああああああーーーーーーーー!」

 私は両手で勇者の剣を握ったまま、天を仰いで泣き叫んだ。

「ミリアさん……」
 エルファが私の肩に手をのせた。
「ミリア殿……」
「勇者様……」
 オローギルとグルヌの声が聞こえる。

「私が……この剣で……」
 手にした勇者の剣が恨めしい。
「こんな剣……こんな剣がなければぁ……!」
 私は思いっきり勇者の剣を地面に叩きつけた。
 そして、ぺたりと座り込んでうなだれた。
 大粒の涙がポツポツと地面にしたたり落ちる。

 その時、
「魔術師様、あれは……」
 グルヌの声が言った。
「ぬ……あれは……」
 オローギルの声には不安がにじんでいる。
「なんだか嫌ですわね、とっても……」
 私の肩を抱きながらエルファが言った。

 私はゆっくりと顔を上げた。
 さっきまで魔王湊山くんが立っていた場所に黒い影が浮いていた。
 それは人影のように見える。

(見たこと、あるような……)
 ぼんやりとそんなことを考えているうちに、その影は少しずつ形を整えていった。
 それは以前見た、魔王湊山くんの背後に浮かんでいた漆黒の影によく似ていた。

「あれっ、て……」
 私がそう呟くと、
「「「はっ……!」」」
 エルファ達三人が大きく息を吸い込むのが聞こえた。

(どういうこと……?)

 私は改めて漆黒の影を見た。
 影は今も少しずつ形を整え続け、平面的だった影に立体感が出てきた、
 顔もぼんやりとだが目鼻立ちも見えてきた。

 長めの髪、二本の曲がった角そして漆黒の眼窩。
 身体は黒いローブを纏っているように見える。

「お、思い出しましたわ……」
「う、うむ……」
「ち、ちくしょう……」
 エルファたちは、漆黒の影を見て一様に青い顔で震えている。

「なに……なんなの……?」
 未だ魔王湊山くんを倒してしまったショックの中にいる私は、呆けたように言った。

「あ、あれは、魔王、です……」
 震える声でエルファが言った。
「魔王!?」
 私はハッと目が覚めたように言った。

(そうか、黒い粒になった空太郎くんが姿を変えて……)

「空太郎くんなのね?よかった、私てっきり……」
 そう言いながら私は立ち上がって、黒い影の魔王に近づこうとした。

「いけませぬ!」
 オローギルが鋭く言って私の手を掴んだ。
「なにするのよ、放して!」
 私は必死になってオローギルの手を振りほどこうとした。

「それはあなたが知る魔王ではありませんわ!」
 エルファもそう言って私の手を掴んだ。
「そうだぜ、こいつはな「強大なる魔王」なんて呼ばれてたクソ野郎だ」
 グルヌが言うのが聞こえた。
「強大なる魔王……?」
 そう呟きながら私は漆黒の影を見た。

 すると、漆黒の影が、
「全く情けないことよのう」
 と。地の底から響いてくるような、低く禍々まがまがしい声で言った。
「せっかく奴隷と家畜を残しておいてやったというに」
 話すたびに、口のあたりが赤黒くなる。

「何を、言ってるの……?」
 言っている意味がさっぱりわからない。
「ねえ、あなたが魔王なら空太郎くんがどうなったか分かるでしょ?」
 私は両手をエルファとオローギルに掴まれながら聞いた。

「ミリアさん、違うのです」
 エルファがさとすように私に言う。
「空太郎くんは、今どこにいるの?」
 なおも私は聞いた。
「ミリア殿、この魔王は……」
「うるさい!黙っててよ!!」
 私はオローギルの言葉を遮って叫んだ。

「くっくっくっ、哀れよのう。こんな小娘では仕方ないかもしれんが」
 嘲るように言う魔王。
「まあ、あんな愚か者を魔王にえたのは、我の失態であったが」
「愚か者……?」
 魔王の言葉に私は反応した。

「そうであろう、自ら勇者の剣に貫かれるような者など、愚か者と呼ばずして何と呼ぼう」
「くっ……」
「わざわざわれがお主の動きを封じてやったのにのう」
「……動きを?」
「おかげでお主も労せずしてあやつを滅ぼせたというわけだ。なんなら我に感謝しても良いぞ」

(こいつが、私の動きを……そのせいで!)
 怒りが全身を駆け巡り熱くなるのを感じた。
「貴様ぁああああーーーー!」

 私は両手をつかんでいるエルファとオローギルの手を強引に振りほどいた。
 そして足元の勇者の剣を掴み魔王に斬りかかった。

 ガキィーーーーン!

 魔王はいつの間にか手にしていた漆黒の剣で私の剣を受けた。

「ふむ、中々の攻撃だ。小娘とはいえさすがは勇者と言うべきか」
「黙れっ!」
 私は間髪をいれず何度も魔王を斬りつけた。
 だが魔王はそのことごとくを軽々とさばいてみせた。

 そして、ふとした隙をついて魔王が斬りつけてきた。
「くっ……!」·
 私は剣で受けたが、魔王の剣の威力の凄まじさに後ろに飛ばされてしまった。
 危うく転びそうになったか、膝をついてなんとかこらえた。

「どうだ?我がその気になればお主を滅ぼすことなど造作も……」
 と言ったところで魔王は言葉を止め、側面に飛んできた魔法弾を手で弾き返した。
「援護しますぞ」
 そう言ったのはオローギルだった。手を魔王に向かって突き出している。

「虫けらめが」
 忌々いまいましそうに言う魔王。

 すると、いつの間にか魔王の背後を取っていたグルヌが、躊躇なく魔王の首をナイフで斬りつけた。
「猛毒味のナイフでも食らってろ、クソ野郎!」

「見事ですわ、グルヌ!」
 そう言いながらエルファが魔法を放った。
「風よやいばとなれ!」
 目に見えない刃が魔王に襲いかかるが、その尽くを漆黒の剣で捌いた。

「お主も見事だぞエルフの女よ」
 と言った直後魔王の姿が消えた。
 そして、
「ぐっ……!」
「がっ……!
 とオローギルとグルヌの呻き声が聞こえた。

 元の位置に現れた魔王は両手にはオローギルとグルヌを掴んでいた、
「オローギル、グルヌ……!」
 エルファが顔面蒼白になる。

「くっくっ、やはり虫けらはこの程度か。我に毒など効くわけがなかろう。ましてや魔法弾など片腹痛いわ」
 そう言って魔王はグッタリしている二人を放り投げた。

「おのれ……風よ刃となれ!」
 再び魔法を放つエルファ。

(ヤバい、それは……)
 魔法を跳ね返される、直感的にそう思った。
 私は落としてしまっていた剣を拾って、立ち上がった。
(うっ……!)
 だが先ほどの魔王の攻撃を受けた時のダメージが残っていて、素早く動けなかった。
「エルファさま、危ない……!」
 間に合わないまでもと、私はエルファのもとへ向かいながら言った。

 その時、視界の端で何かが動いた。
 そして次の瞬間、エルファの前に盾を構えた男がいた。

 ガッ!ガッ!!

 その男が跳ね返された魔法を盾で受けたようだ。

(にしても、随分派手なマントだなぁ……)
 盾を構えている男が羽織はおっているマントのことだ。

「魔法を撃ったあとは気をつけろっていつも言ってただろ、エルファ?」
 派手なマントの男が言った。

「……ランベル……ランベルですの?」
 エルファが目を大きく見開いて言った。
「ああ、久しぶり、ではないけどな」
 派手マントが苦笑いする。

(なんだか、王侯貴族が着るような…………あ)

 ランベルと呼ばれた男が私を見た。そしてしかつめらしい顔で言った

「勇者ミリアよ、魔王を討伐するのだ」

 王様だった。
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