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おまけ(※朝チュン)
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「んっ…… 」
「あっ、悪い。起こしちゃったな 」
「……朝? 」
急に肌寒さを感じて目を醒ますと、私は一人で布団の中にいた。
これまでに、お日様が昇らなければいいのにと、何度思ったかは分からない。
私はまだ温い布団を手繰り寄せると、残り香を吸い込むように顔を埋める。薄明かりの向こうには、その余韻を放つ存在が、シャワーを浴びる準備をしていた。
「鞠子、身体は大丈夫か? 」
「あっ、うん。多分、平気…… 」
「そうか…… それなら良かった 」
本当は身体が少し痛くて、お腹には形容し難い違和感がある。何回経験しても、この感覚は薄れないけど、先生に心配を掛けてしまうようなことは口にしない。
私は何とか身体を起こすと、散乱している部屋着へと手を伸ばす。大したものは用意できないけど、コーヒーくらいなら淹れることは出来ると思った。
「……鞠子は、まだ起きなくていいよ 」
「えっ? 」
「今はまだ五時前だから、もう少し横になってろ。俺が部屋を出る前には、ちゃんと声を掛けるから。しっかり睡眠を取っておかないと、一週間は長いぞ 」
「でも…… 」
「いいから。ほら、腹を温っためて、もう少し寝とけ」
「…… 」
先生はそう言うと、無理矢理私をベッドに連れ戻して、布団と毛布を集約した。
彼はもう直ぐ、この部屋を後にする。
そうすれば、次に会えるのは二週間後だ。
先生は私と一緒にいられる時間を少しでも作るために、月曜日は真っ暗なうちから早起きをして、私のアパートから仕事に直行してくれる。いつも申し訳ないとは思いながらも、早く帰って休んでよとは言えない自分が情けない。子供っぽくて、甘えている自覚はあるけど、やっぱり少しでも側にいて欲しかった。
私は少しだけ布団を剥ぐと、自分の身体を確認した。
多分、首筋は大丈夫。先生はいつも、そこには絶対に触らない。だけど胸元の辺りには、無数の痕が残っていて、私は思わず目を逸らした。
寂しい……
私は先生のものなのに、やっぱり寂しいことには変わらない。いっそうのこと、先生以外の他の誰にも見せないのだから、消えないでとさえ思ってしまう。
私は先生にバレないように、込み上げるものを圧し殺すと、愛しい無数の赤い印をなぞっていた。
んっ……? あれ?
何だか指先に、妙な違和感がある。
生温くて、コツりと肌に当たる感覚は、絶対的に私の生身のものではない。私は恐る恐る手を伸ばすと、自分の指先を確認した。
「えっ? 」
何が起きたかわからなくて、私は今一度自分の手を覗いてみる。そこには何故か鈍く光る金属があって、それが一体何なのか理解するまでに、そう時間はかからなかった。
「……先生、あのっ 」
「なに 」
「こっ、これって…… 」
「虫除け 」
「えっ? 」
身体中が、ドクンドクンと脈を打っている……
私は布団から這い出ると、ほぼ反射の境地で、自分の左手を先生に突き出していた。
「サイズは、大丈夫そうだな 」
「何でっ、私の指のサイズがわかったんですかっッ? まさか、経験豊富で目視でサイズがわかっちゃうとか? 」
「なっ、お前さんはバカなのかっ? んな訳ねーだろっッ。俺だって、指輪なんか初めて買いにいったよ 」
「えっ? 」
「この前、鞠子が寝ている間に測ったんだよ。大学にいる間は、ずっと付けとけよ 」
「あり……がとう…… 」
鳥肌が立って、全身が震えていた。
先生は、私よりも何年も多く生きている。
だから心のどこかで、私は先生の初めては何も貰えない気がしていた。でも今、私は先生の未経験の当事者になっていて、まるでまだ夢の中にいるようだった。
「あの、先生は着けないの? 」
「俺はいいんだよ 」
「…… 」
先生はそう言うと、バスルームへと向かっていく。
いつもの私なら、絶対にそんなことはしない。だけど今日の私は、とても積極的な気分になっていた。
だから、次に気付いたときには……
私は最大限に爪先を伸ばして、先生の背中に抱きついていた。
「おいっ、ちょっ、いきなり何をするんだよ? 」
「……それなら、私はここに痕を付けときます 」
「ハアっ? ちょっ、待て待て。お前さんは、まず服を着ろっッ。あと、俺の首を射程に捕らえるな。仕事に行けなくなるだろっッ 」
「だって、先生は私のものだもん 」
「なっ…… ったく、このアホ 」
「あっ…… 」
先生が困っている気配がしたけど、私はこの手は離さない、と思っていた。
だけど大人の男性の力に抗える訳もなくて、私のささやかな悪戯は、あっさりと翻された。
「一応、俺の分も鞄には入ってるよ。お前さんの指輪しかなかったら、意味がないだろ? 」
「…… 」
「ったく、朝っぱらから大人を煽りやがって 」
「ちょっ、んっっ 」
先生はそう言うと、私の唇にキスをする。そして私の手を引くと、再び私を布団に押し戻した。
目が合っただけで、全身の体温が上昇する。
先生が私を覗き込むような仕草は、何だか朝には相応しくない表情な気がした。
「その言葉、そっくりそのまま鞠子に返してやる 」
「えっ? 先生、仕事の支度は……? あっ…… 」
先生はそう言うと、私の胸元に顔を埋める。
何個数えても飽きることはない痣が、また増えていくような感覚がした……
「鞠子ってさ、温かいよな 」
「……私が子ども体温だって、言いたいんでしょ? 」
「拗ねてるのか? 」
「違っ 」
「期待してるところ悪いけど、生憎 俺にはそういう趣味はないよ 」
「それ、絶対嘘でしょ…… あっ 」
先生の体重が、ずっしりと私の胸に響く。
唇が触れた瞬間に吐息が漏れて、恥ずかしいけど止めたくない。
十五歳の頃の私は、抱いてはならない恋をした。
でも今は、その想い人は私の胸の中にいる。
やっぱり、私は世界一の幸せ者だ。
胸の鼓動が加速して、熱を帯びた身体が脈を打つ。
私は甘美な誘惑に酔いしれると、今一度その背中に腕を伸ばすのだった。
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