【完結】胡瓜にくびったけ!

高城蓉理

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第五話 里帰りと印の行方

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◆◆◆




 全身が冷たくて、凍えるように寒い。
 指先も何もかも思い通りに動かなくて、フワリフワリと揺れている。
 遠くのほうで、ごめんな、ごめんな……って声がする。
 謝らないでって言いたいけど、思うように声にならない。だって本当は私が踏み出せなかったのがいけないのだもの。

 大丈夫……
 私はどんな結末でも受け入れる。

 我が儘娘を、ここまで育ててくれてありがとう。
 駄目なことは 叱ってくれて、へこたれそうなときは 優しくしてくれて、ピンチなときは助けてくれて ありがとう。

 本当は 私はずっとずっと好きだった。
 大好きで大好きで、仕方がなかった。

 私が唯一 出来る恩返し。
 それは正臣を自由にしてあげることだけだって、知っていたはずなのにね……




◆◆◆



「美波 」

「…… 」

 全然、起きる気配がない。
 息はしているから、生きてはいる。けれども、ここまで起きないと心配にもなっていた。

 美波が意識を失って 眠り始めてからは、既に半日が過ぎている。朝になっても起きないものだから、腹を括って河童の里に連れてきたものの、この選択が正しかったのかは 未だによく分からない。
 大人になっても 寝顔からは呆気なさが抜けなくて、相変わらず睫毛はくるんと長く伸びている。規則正しい寝息は、何とも言えない生を感じる香りがあった。

 十も年齢が違う主人のことを、愛おしいと思ってしまった。なんと自分は罪深い従者なのだと思っても、もう遅い。気付いときには、好きになってしまっていたのだ。
 正臣は 美波の額を撫でると、髪を掬い 唇を落とす。
 美波は決して自分のものにはならないし、契約の印がなくなれば確固たる繋がりはなくなる。自分が選ぼうとしている道が正しいのかは自信はない。でも美波に「正臣のことなんて大嫌い 」と言われてしまったのは、地味に堪えた部分があった。
 
 水浴びはさせたし、風呂にも入れた。
 それから河童の秘薬を飲ませたから、風邪は引かないとは思うけど、それでも ここまで起きないと若干の不安要素はある。
 正臣は溜め息を漏らすと、美波のタオルケットを掛け直す。そして部屋を後にすると、静かに襖を閉めるのだった。


 正臣は離れを後にすると、父のいる執務室へと向かっていた。
 ここまで来たら、やるしかない。それなのに父である一臣は、いつまで経っても 契約の解除の仕方を口にしようとはしないのだ。



「……今、入ってもいいか? 」

「ああ、構わないよ 」

「今回は、急に美波さまを里にお連れして悪かった 」
 
「別にそれは気にしないでいい。それで美波さまは、どうだ? 」

「ああ、よく眠っていらっしゃると思う。まだ起きる気配はない 」

「そうか。美波さまは、とても立派にお綺麗に成長されたな。よく務めを果たした。立派だったな 」

「…… 」

「で、きちんと美波さまは、納得の上で里にいらしたんだな? 」

「ああ。多分 」

「何だ、その返事は? 本当に大丈夫なんだろうな? 」

「ああ。美波さまが起きたら、その辺りはもう一度確認する 」

 半ば喧嘩のような状態で、美波を里に連れてきたなどとは、口が裂けても言えやしない。正臣は自分の身勝手さに、心が苦しくなっていた。

「あのさ、親父…… 」

「何だ 」

「いい加減に教えてくれないか 」

「…… 」

「東京にいる旦那様と奥さまには 許可は得てきた。多分だけど、美波さまの同意も得られたはずだ。どうしたら主従の印を解くことができるんだ? 」

「……正臣。それはよく考えれば、お前にも分かることだよ 」

「はい? 」

「美波さまの契約の印は、結婚をして 心身ともに人のものになったときに消えるんだ。でも実際のところ、心が完全に誰かのものになったかなんて、そんなことは判定のしようがない。つまりは誰かと初めてまぐわうことが、契約満了のきっかけになる 」

「親父? ちょっと待ってくれ、言っていることが良く分からないんだけど。契約の印を解消するのは、何かしらの儀式を行うとか、そういう類いのものではないのか? 」

「そんなことが出来るなら、とっくに契約の印なんて制度は俺らの代で終わらせている 」

「…… 」

「つまりな 契約の印を解消するには、美波さまが純潔でなくなればいい 」

「どういうことだ 」

「それくらい 分かるだろ? お前が美波さまのお相手をさせて頂く、美波さまを抱かせて頂くってことだよ。だから美波さまの御意志が何よりも重要だってことだ。まあ美波さまに断られたら、お前もそれまでだったってことだな 」

「なっ…… 」

 正臣は予想だにしない方法に驚いて、開いた口が塞がらなかった。心臓が煩いくらいに鳴っていて、冷静な判断が付かない。
 美波と繋がるしかないなど、理解が出来ない。それに従者が主人と致すなど、不届き者としか言いようがないではないか。

「正臣、もしかしてビビってるってるのか? 」

「……いや、そういう訳では 」

「お前にとっては、都合がいい展開だと思うけどな。それに美波さまも自由恋愛が解禁されたら、誰とでも好きなときに身体の相性を確認することが出来る。初めてのお相手をさせていただくのは気負いする部分もあるとは思うけど、そのうちに お前は美波さまにとっては、ただの経験者の一人になる。夜伽教育の一貫だと思って、お前はお前で本望を達成すればいいんじゃないか? それならばウィンウィンだろ? 」

「…… 」 

 一臣は一方的に事のカラクリを説明すると、正臣の肩に手を置いて 執務室を後にする。
 正臣は あまりの衝撃的な事実の数々に、暫くその場で呆けるしかなかった。




◆◆◆



 ここは、どこだろう……?

 聞きなれない鳥のさえずりと、知らない天井が目に飛び込む。天蓋が付いた寝室にいるなんて、私は今度こそ 天国にでも来てしまったのだろうか……

 頭が痛い。それから腰の辺りにも違和感がある。
 美波は何とか布団から這い付く張るように起き上がると、部屋の中を見渡した。

「美波さま、お目覚めですか? 」

「ヒッッっ! 」

 唐突な声掛けに、美波は声を上げて思わず戦く。

 えっ? 
 とても、綺麗な人だ……
 その声色の主は布団の脇で正座をして、美波のことを見つめている。玉虫色の髪の毛、それに微かに腕に走る赤と緑の鱗の質感は、正臣と同じ 河童をルーツに持つ人だと思った。

「あの、ここは どこですか? 」

「河童の里の、河田のお屋敷の離れでございますよ 」

「そうですか 」

 河童の里……
 ということは、正臣が自分をここまで連れてきたのだろう。
 ああ、もういよいよ逃げられないところまで来てしまったと思う反面、まだ正臣には会いたくない。それを思うと、起きた瞬間に正臣がいなかったのは、まだ救いでもあるような気がした。

「美波さま、ご挨拶が遅れました。私の名前は流子と申します。今日は一日、美波さまのお世話を仰せつかっております 」

「えっ? 」

「正臣くんがこちらに来るまでは、美波さまのお世話は私が務めさせて頂きます。何でも気軽にお申し付け下さいませね 」

 流子さんって、確か正臣の元婚約者とかいう人だよね? どうりで美人なわけだ。
 何で自分が流子さんと対峙せねばならないのかは良く分からないが、美波は一連の情報に一人で納得していた。

「……あの、流子さんは 私のことをご存じなんですか 」

「ええ。勿論ですよ。貴女様が赤子のとき、契約の印を結びにいらしたときのことも鮮明に覚えているわ 」

「そんな昔から? 」

「ええ。里の大半の河童は 美波さまの存在は知らないけど、私は小さい頃から 河田の自宅に出入りをしていたから。だから今日は助っ人に呼ばれたの。
それにしても、美波さまはとってもいい匂いね。同姓の私でもこの有り様だから、これじゃあ正臣くんも大変だったわね。こうなると精神力って言葉だけでは、色々と説明が付かないわ 」

「……? 」

「儀式は 夜に行われるそうだから、少し時間があるわね。ごめんなさい。里の他の河童たちには、美波さまがいらしていることも、これからお二人がされる内容も知らないの。里の河童たちは人間に免疫がないから、外にも出して差し上げられなくて。だから今日はこちらの河田家の離れでお過ごしくださいませね 」

「はい。ありがとうございます 」

「いま、昼餉昼食をお持ちします。胡瓜ばかりになってしまうのが申し訳ないのですが、堪忍されてね 」

「あっ、いえ。それは気にしないで下さい 」

 流子は会釈をすると、そそくさと部屋を後にする。

 正臣と主従関係を解消するのか……
 何だか一気に現実感が沸いてきた。
 自分は白装束みたいな着物を身に付けているし、仰々しいことこの上ない。

 正臣は契約を解消したら、この後はどうするのだろう。従者は続けるとか言っていたけど、それではやはり意味がない気がする。
 それに元婚約者だとしても、里にはこんなに綺麗な人がいるのなら、今からでも遅くはないのではないだろうか…… 美波は色々なことで頭を一杯にすると、身支度を整えるのだった。


 河童の里の食事は 当たり前だけど 殆どのおかずは胡瓜がメインになっていた。美波のために粥を炊いてくれたようで、空腹故に胃の隅々まで染み渡るような気がした。

「お口に合いましたか? 」

「ええ。とても美味しかったです。胡瓜料理に こんなにバリエーションがあるなんて 知りませんでした。正臣は いつも胡瓜は丸齧りしてるだけだから 」

「あら、そうですか? 胡瓜のお料理を作らないなんて、何だか正臣くんらしいわね 」

「…… 」

 美波は遅い昼食を終えると、縁側から里の風景を眺めていた。小高い場所にある河田の家からは、里の風景がよく見える。小さい子達が無邪気に駆け回り、それを見守る大人の姿が目映く感じた。

 ここには沢山の河童の仲間もいるし、自然も豊かで、美味しい胡瓜料理もある。
 このまま都会に出ることなく 里で暮らしていたら、正臣の人生は平和的で穏やかだったに間違いはない。毎日毎日、じゃじゃ馬に手を焼くこともなかったし、優秀だから里を引っ張っていく人材にもなったと思う。
 ここにいると、否が応でも意識せざるを得ない。正臣は掟なんかで無理やり従者になんかならなければ、今頃この場所で両親と仲間に見守られながら成長して、幸せに暮らしていた。美波としては、正臣の人生から自由を奪ってしまったことに、罪深さが拭えないのだ。


「美波さま 」

「……流子さん? 」

「里の風景は如何ですか? 」

「綺麗です、とても…… 」

「そう。そういってもらえると、嬉しいわ。私たちの里は胡瓜と水しか収入がないから、特別に裕福なわけではないけど。それでもみんな 幸せに暮らしているわ。高取さまにも、正臣くんにも、私たちは本当に感謝をしかないのよ 」

「いえ。私は別に…… 」

「小さな里だけど、私はこの場所が好きなの 」

「…… 」

 流子さんは、都会で暮らしていくことが難しいと思っていたのかもしれない。だから二人は一緒に生きていくことが出来なかったのかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

「あの、ごめんなさい。私のせいで二人を引き裂いて 」
 
「えっ? 」

「知人から聞いたんです。正臣には昔 里に婚約者がいて、相手の方は流子さんって名前だって 」

「…… 」

「だから、私が二人の交際の障害みたいになってしまって、申し訳なく思ってます 」

 流子は唐突な美波の謝罪に、思わず口を閉ざしていた。

「……犯人は狐太郎さんね。あの方は相変わらず 説明が少し足りないわね。正臣くんが、美波さまに そんなことを言う訳がないもの。それにそれは全然 真実ではないわ 」

「えっ? 」

 流子はニッコリと笑みを浮かべると、美波の背後に回る。そして里の風景から子どもたちの輪を見つけると、ゆっくりと指を差した。

「美波さま。あちらの子どもたちをご覧ください 」

「子ども…… 」

「ええ。あの だるまさんが転んだをしている、数人の集まりです 」

「はあ 」

「あの中の 黄色い着物の女の子と 水色の着物の男の子は、私の娘と息子です 」

「えっ? 」

「もう時効だから白状してしまうけど、正臣くんとの婚約を取り止めて頂いたときには、もう旦那との間にお腹に赤ちゃんがいましてね。でも とてもでないけど、親には告白が出来なくて、正臣くんの方から婚約を解消してもらったんですよ 」

「お子さん? 」

「ええ。正臣くんは、親同士が決めた許嫁で。正臣くんは昔から賢くて、何でも出来て、私にとっては子どもの頃から憧れみたいな存在でした。だから婚約が決まったときは嬉しかったけど、正臣くんは私のことには興味を示さなくて。大人になってからは、たまにデートはしてたけど、心が私に向いてはなかった。それに手を繋いだことも一度もないのよ 」

「えっ? 」

「それでね、私は不道徳にも、里の幼馴染みと仲良くなってしまって。気付いたときには、お腹に娘が宿っていたの。私は ここで愛する人と結婚できて、今はとっても幸せよ。
私にとっての幸せは、多分だけど いつも一番身近にある優しさなのです。それはきっと、人様も河童も違いはありません 」

「…… 」

「正臣くんは、こんな不義理な私を守ってくれただけで、どちらかと言うとただの被害者。だから、美波さまは何も気にする必要はないのです。堂々と、幸せになって良いのですよ 」

「あの、それって 」

「……そのままの意味ですよ。ちょっと前だけど、正臣くんも、今は幸せだって言ってましたからね 」

「……? 」

 流子はそう言うと、また笑みを浮かべて部屋を後にした。

 本当に正臣は、今が幸せってなどと言ったのだろうか?
 何だか、到底信じられるような話ではない気がする。
 流子が発した言葉の端々の意味が分からない。

 でも……
 契約の印を消してしまう前に、もう一度 正臣と話をしたい。そうしないと自分はきっと後悔をしてしまう。
 
 美波は心の中で静かに決意をすると、ぎゅっと瞳を閉じるのであった。


 



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