上 下
19 / 123
番外編 ポッキーの日の1日

23時 ぼっちの休日

しおりを挟む
11/11  23時

都内 港区某所
御堂 茜(関東放送アナウンサー)宅



 茜はシャワーを浴び終えると、さっとバスローブを羽織り冷蔵庫を開けた。相変わらず中身はいつもスカスカで、酒と飲み物とヨーグルトしか入っていない。茜は少し魔が差しそうになりつつも 豆乳を手に取ると、腰に手をあて一気に仰いだ。
 この生活リズムで過ごしはじめて、既に数年は経つが未だに夜型生活には馴染めない。今日は相方のスパンキーが地方で仕事があるということで、番組は録音放送になった。深夜の生放送の出演は当直も兼ねてはいるが、今日はその出番もなかったので 茜は久しぶりに有給を取ることにした。でも平日に一日休みとなると、夜型の生活リズムを崩す訳にもいかない。今日はいつものように22時に起きることにしたが、何だか何もする気が起きなかった。
 夜勤の単休ほど、どう過ごしていいものかわからない。飲みに行くにも、起きて直ぐに酒を飲むのはなかなか厳しい。それに夜勤同盟のみんなは今は仕事の真っ最中だし、ウィンドウショッピングをしようにもこの時間に空いている店はない。飲食店はほぼ閉店しているし、バーに一人で繰り出す気分でもない。だけど家にいるのはつまらなかった。

 何かいい案はないだろうか。
 息吹が深夜のバラエティーを観ながら、うーんうーんと唸っていると、とあるCMが流れた。
 そっか、この手があった!
 息吹はひらめいたことを実践に移そうと、さっそくスマホを片手に ちょうど良さそうな時間を調べ始めた。

◆◆◆

 消灯した東京タワーを横目に、息吹は一人でタクシーの中にいた。
 時間が合わなくて 慌てて家を飛び出したから、髪は若干濡れているし、ほぼ素っぴんに帽子にマスクというヤバい出で立ちだが、何とかこのペースなら間に合いそうだ。茜は靖国通りで素早くタクシーを降りると、反対側の繁華街に背を向け、気持ちばかり小走りをして ある建物の中を目指した。
 そう、茜はレイトショーにやってきたのだ。
 茜は車の中でスマホで予約したチケットを手慣れた手つきで交換すると、一目散に売店に向かった。念のため身バレしないように いつもより低めの声でナチョスとビールとキャラメルポップコーンを注文する。そして素早く劇場に入ると、予約していた後方座席に腰かけた。
 正直言って映画の内容は、もはや茜にはどうでもよくて、休日を充実させたとゆうが欲しかった。


◆◆◆

 映画を終えた茜は、疎らにいる客やスタッフの目線を気にしながら、次の目的地へと向かった。
 いっても、そこは映画館からは目と鼻の先。あの有名な大型量販店へと向かっていた。
 茜は一言も声を発することなく、店の中を見てまわった。最近はネットでどんなものも買えるから店を巡ることも少ないが、やっぱり実際に来てみるといろいろなものを手に取れるし、新たな発見も多い。深夜なのに店内は外国人観光客や派手な出で立ちの人で、なかなか賑わっていて茜は若干圧倒された。
 一時間くらい店内をくまなく回った茜は、特に欲しかったわけではなかったがノリで美容グッズを数点購入すると店を後にした。

◆◆◆


 この時期になると、日の出の時刻は かなり遅くなる。ただ何となく日が昇る前には自宅に帰り、明日を迎える人と顔を合わせたくないと思った
 今日は家でゴロゴロするだけの一日にならなくて 良かった。大したことはしていないが、夜の街に繰り出すだけでこんなに気分は高鳴るのは不思議だった。
 茜は最後に甘いものを食べたいと思い、コンビニに寄ることにした。キャラメルポップコーンを平らげたばかりなのに、どうして甘いものを止められないのだろう。

 茜はが入荷作業をしている店員を横目に、店内をぐるぐる巡った。するとコンビニの片隅で、あるものが目に留まった。
 茜はスマホを取り出すと日付を確認した。

 そっか……
 今日……いや、世間的にはは、そんな日だったか。

 茜は再びタクシーに乗り込み、新宿の街を後にした。
 着の身着のままやって来たが、帰り道は袋を二つぶら下げて、誰もいない自宅に帰るのだ。

 一人ぼっちは寂しい。
 けれど今日は、きっといい一日だった。
 茜はそんなことを思いながらスマホを取り出すと、夜勤同盟の皆に次の約束の連絡をいれた。



しおりを挟む

処理中です...