~失望と愛~導かれし悪魔の未都市。【R18】

無知我心(むち がしん)

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第Ⅱ章。「現れし古に伝わりし指輪」

2、願い、言い訳

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--願い、言い訳--

イリスは、おじいさんから受け取ったくわを納屋の手前にしまった。
食事の用意をしなければならない。
傷負きずおい人の様子が気に成る。

イリスは、まだ『デミュク』の名前を知らない。
「青い血。人ではない。きっと天使よ。
 私たちを救いに天から降りて来たのだわ。
 その途中に、魔物か、何かにおそわれたのよ。
 傷負いの天使だわ」

「天使さんにもお食事をお持ちしますわ。
 早く元気になってくださいね」
イリスは、一人告ひとりつげると食事の用意をしに家に戻った。

炊事場すいじばには、水がめと土と石で作ったかまどがある。
森が近いのでかまどにくべるまきは、くことがない。
イリスは、まきもたまに街へ売りに行き生活費の足しにする。
火をつけ、水を入れた鍋に、竹の網のかごを置き、
その中にジャガイモを入れて、ふたをしかまどにかける。
ジャガイモのかしいもである。
しばらくして、
「出来上がった」
籠からジャガイモを取り出す。
「あちちっち」
手で、もてあそぶ、右左みぎひだり
ジャガイモを手の上で移動させる。
熱さを我慢して、親指で押し当てり、
皮をむき、ぼうつぶねてサラダ状にする。
サラダとってもポテト以外は何も入っていない。
味も、ポテトの味のみである。
味気あじけない。

次にキャロットとジャガイモの皮をむきをきざんだ。
なべに水を入れ、刻んだものをぶち入れる。
そして、あやしげなすりつぶした木の実と木の皮。
刻んだ葉を入れる。
調味料らしい。
塩味しおみにがみと酸味さんみが生まれる。

これでも、イリスの家庭は、まだ、贅沢ぜいたくな方である。

出来上がった。

主食は、ポテトサラダである。
小麦がないわけではないが、小麦は売り物である。
そして、三分の一は、税に収める。
食べるわけには、いかないのである。

ポテトを大皿に盛る。
唯一ゆいつ、おわりが出来る主食である。
木のスプーンで小皿に取って食べる。
キャロットとジャガイモのスープも中深皿ちゅうふかざらった。
そして、食卓に持っていく。
それとは別に傷負いの天使さん用にポテトとスープを中皿に取り鍋の陰にかくした。
自分とお爺さんの食事をテーブルに並べる。
じいさんは、奥のベッドに座って、何かのカードの書物を読んでいる。
のぞみを神に素直にたのみなさい。代償だいしょうを支払いなさい…」
教会への寄付きふの代わりに紙のカードに数行の教訓めいたものを神父しんぷが書かいたものをもらったのである。

「お爺様。お食事ができました」
イリスは、こちを注意深く見ている。
お爺さんは、目を合わさずに書物を読むふりをして熟慮じゅくりょした。
イリスの様子が少しおかしいのに気付いていたからだ。
(エプロンを着けていない。どうしたのだろう?)
やっぱり、気に成る。
結局、差しさわりのないようにたずねることにした。

食卓テーブルに着く。
椅子いすは、テーブルをかこって4つ在る。
古びた背もたれのある木の椅子。
お爺さんの手作りである。
イリスは、台所が見える方に座る。
お爺さんは、イリスの向かいの椅子に座った。
そこが、定位置である。
台所に背を向けている。
お爺さんは、イリスに話かけてみた。
「エプロンは、どうしたの。
 汚れたのかい。
 新しいのを作るか?」
何か良いことでも起きたように笑顔で尋ねてみた。
「そうそう。汚しやちゃって。
 でも、お爺さま。私は大丈夫です。
 心配しないで」
(言えなかった。
 何か良い理由がないか考えかけたが、
 思い浮かばなかった)
イリスは、少し戸惑とまどった。
(お爺様は、何かを気づいてるわ)
お爺さんは、イリスの目をじっと見つめている。

「食事が終われば、納屋の農具の手入れでもしようか」
お爺さんは、納屋に何かあるかと探った。
「あ!私がやっときます。
 ちょうどいい季節だからら一人で礼拝し、ついでにやっときます」
「そうか、じゃあ。負かすとするか」
(確かに何かをかくしている。
 納屋になにかある)
だが、お爺さんは、無理に尋ねることはしない。
干渉せずに何が有ろうと暖かく見守る。
そう言う家のルールだから。
お爺さんは、イリスを尊重して、納屋には、近づかないことにした。
話は、それで終わった。
イリスの家では、食べる前に礼拝をする。
「天に地にめぐみを感謝します」
お爺さんが唱えた。
2人は、目を閉じ神に感謝した。
そして、キャロットとジャガイモのスープを口に運ぶ、
それをおかずにポテトを食べた。
「料理がうまくなった」
お爺さんは、イリスにも感謝した。
納屋の事、エプロンの事は、それ以降尋ねなかった。
そして、食事は、終わった。

お爺さんは、直ぐベッドに横になった。
「納屋で祈ってきます」
イリスの心は、納屋に向かっていた。
「そうか」
お爺さんは、そっけなく言った。
「一人で祈りたいから、
 そうします」
イリスは、念を押した。
こっそり鍋の後ろに隠していた食事を持って納屋に行った。
納屋の戸を開ける。
傷負い人は、寝ている。
顔が目に入った。
少し苦しいるように見える。
無理に起こすわけにはいかない。

イリスは、公言した通り、かたわらで農具の手入れをしだした。
手入れが終わると祈る。
イリスは、何を祈っているのだろうか。
じっと夜空を見ている。
星がかがやいていた。
(天使さんがの傷が無事に回復しますように。
 食事を食べてくれますように。
 お願い。
 生きて、元気になってください)
イリスは、知らないうちにかたわらで寝ていた。
「うぅぅ」
デミュクの目が少しひらく。
空腹からだろうか。
イリスは、気付き、すかさず声をかける。
「大したものではないですが、お食事を用意しました」
(やっぱり、おんながいる)
デミュクは、動こうとしたが体が動かせない。
観念して、その女性にすがることにした。
イリスは、ポテトを傷負い人の口に運ぶ。
だが、デミュクは、口をつぐむ。
「わるい。俺は、普通の食物たべものを食べないのだよ」
振りしぼるような声。
「じゃ。何なら食べれるの?」
イリスは、問いたずねる。
「ち。血。動物の血。を飲む。
 だが、無理だろ」
「あなたは、神の使いでしょうか?
 天使は、食物を取らないのですね」
イリスは、解釈かいしゃくした。
それが誤りであろうと関係ない。
「俺は、不浄ふじょうのものだ」
「なぜ?そんなことを言うです?
 流れる血の色が人間のものとは違うからですか。
 それこそ、天使のあかしでしょ」
デミュクは、その言葉に躊躇ちゅうちょするが正直に話す。
それで、見捨てられれば、それも運命とあきらめがつく。
「俺は、悪魔だ」
「え!でも、神様の使いでしょ」
イリスは、食い下がる。
「やさしい目、顔だもの。
 そうでしょ。
 じゃ。違うなら、なぜここに来たのですか?
 私の祈りが通じたのでしょ」
デミュクには。本当のことは言えない。
(悪魔司祭しさいに追い出された?
 悪魔に殺されかけて、
 追手に追われている?
 今度は、神の使いをする?
 俺が?)
デミュクは、自信のおちいった立場が可笑おかしくなった。
少し笑顔えがおになる。
今は止血されているが、多くの血を流した。
体力が限界に近い。
(何か栄養を取らなければ、
 他に何で栄養をとれるのか?
 肉の果実かじつがあればなぁ)
デミュクは、意識がまた薄れかける。
目を閉じて集中して意識がとどまるように耐えていた。
(顔色が悪い?)
(血は、青色)
(だから、顔が青いの?)
(違う、これは、栄養が不足している)
(このままでは、衰弱すいじゃくして死をむかえる)
(私は、そう感じるの)
イリスは、意を決した。
「血なら飲めるのね」
そう言うと、家に行き、木のカップと包丁を台所から持ってきた。

包丁を左手でぎゅっと握る。

血が滴る。
カップで受け止めた。
カップ一杯の血。
少しクラっとした。
左手の切った後の血を右の人差し指に付けてデミュクの口をふれる。

デミュクは、目をけた。
(うぅぅぅ)
カップを口に持っていく、頭を少し手でかかえあげ、口に当てる。
そして、口へ注ぐ。
血がデミュクののどをごくごくと通っていく。

(なざ、血が青いのに顔色は赤いの?)

「『血の契り』である」
天から胸に声が響いた。
(俺は、契約を受け入れたのか?)
デミュクのたましいの影のむくろは、宝石となりイリスの胸についた。
「ガカチ」
デミュクには、少しイリスの胸が光るのを覚えた。
そして、再び眠りにつく。
(俺は、彼女と契約したのか?…)

イリスは、何も気づいていない。
神に感謝した。
(私とお爺様を助けるために、
 これは、
 神様がつかわしたものよ)
デミュクの顔に力がよみがえった。
イリスは、安心した。
左手の止血をし、また、祈りを続け、
いつしか、また、かたわらで寝ていた。

家では、お爺さんも寝ていた。
(何かをほっとけないのだろう。
 イリスは、神の巫女みこ、救いの巫女なのだから)
お爺さんは、自身に言い聞かせて眠りについた。

つづく。 次回(快復の証)次こそ、デミュクは、回復し、イリスと交わるのか…。愛の始まりか…、契約の始まりか…。

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