ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第1章 呼び合う魂

11. 始まり 〜前世〜

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僕は物心がつく頃から、教会でお世話になっている。この頃から自分が周りとは違うということは、なんとなく分かっていた。

強すぎる力。

同じくらいの歳の子たちは、僕を怖がって遠巻きに見たりしている。大人たちも、時々僕のことを陰からコソコソと話しているのを知っている。どうやら僕の親は、僕の強すぎる力を知って、恐怖から僕を手放したらしい。

・・・特に何の悲しみも感じない。
僕は誰からも愛されない。

唯一、僕の面倒をよく見てくれる神父さまがいた。神父さまは魔力も強く、まだコントロールが不安定だった僕に、根気よく色々な事を教えてくれた。
僕の今があるのは、この神父さまのおかげといってもいいだろう。

僕は神父さまが大好きだった。
でも僕が17歳になる頃、神父さまは出張先で不慮の事故に逢い亡くなった。

心は悲しみに溢れていたが、涙は出なかった。
もうこれで、“僕”を見てくれる人は誰もいない。

神父さまが亡くなって少しした頃、王宮から呼び出しがあった。僕の力を国の為に使い、神子になって国民を導いてほしいと。

どうやら今までは、神父さまが僕の力のことを教会から広めないよう力を尽くしてくれていたらしい。

僕の力が、他のものに利用されないように。
僕がこれ以上辛い思いをしないように。


・・・神父さま。
ありがとうございます。でも僕は大丈夫。
神父さまの優しさ、温もりが今でも僕の心に残っているから、この先もそれを忘れずに生きていきます。



王宮では、閉じ込められたり、行動を極端に制限されたりすることはなかったが、やはりここでもみんな僕を腫れものに触るような態度で接してきた。
上位の貴族の中には、やたらと力を見せろとうるさく言う者もいた。

力が全て。

こんな力の何がいいんだろう?
本当にほしいものは全然手に入らないのに。

もう何でもいい。感情があっても誰も“僕”を見てくれない 。
考えるのも疲れた・・・。



ある時、僕の守護者として数名の騎士を紹介された。
いつも通り、誰も“僕”を見てくれない中、僕はみんなに微笑みを浮かべる。

ーーそんな時だった。


「どうしてあなたは泣かないんです?泣きたい時は泣いていい。思いっきり泣いた後は、思いっきり笑って下さい。私はあなたの笑顔が見たい。」


ある一人の騎士が僕に近づき、そっと声をかけてきた。

始め、何を言われているのか分からなかった。
でも、僕の心は反応した。
瞳からは涙が溢れた。

僕は彼を見る。
彼も“僕”を見ていた。


忘れていた何かが戻ってくるような気がした。
心が期待で膨らむ。もしかしたら、この人は“僕”を見てくれるんじゃないの?


でも怖い。

本当の“僕”を知ったら、彼も“僕”を見てくれなくなるかもしれない。今までずっとそうだった。
本当の“僕”を知ったら、僕から離れていったり、欲だけをぶつけてきたり・・・。

信じるのが怖い。でも信じてみたい・・・。
信じても、いいのだろうか?
感情を、“僕”を表に出していいのだろうか?

彼を見つめる。
彼の瞳は、今まで誰に対しても見たことのない輝きを放っていた。

その瞳が“僕”を見ている。


・・・少し、歩み寄ってみようか。
後から後悔するかもしれないけれど、ちょっとぐらい夢を見たっていいだろう?

「もう一度、あなたの名前を教えて頂けますか?」

僕は少し震えながら、彼にそっと囁いた。

「私は、この度あなたの守護騎士の一人に任命されました、レイモンド・クラヴィエと申します。以後、よろしくお願いします」

「・・・はい。僕の名前はユリウス・アングラードといいます。こちらこそ、よろしくお願いします」


これが、僕とレイとの全ての始まりだった。



こうして僕たちは出会い、やがてお互いがかけがえのない存在になっていく。この幸せがずっと続いていくんだと、ただそれだけを願っていたはずなのに・・・。

どうしてこうなってしまったんだろう?

ーーー問いかけても、もう元には戻れない。

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