12 / 66
第1章 呼び合う魂
11. 始まり 〜前世〜
しおりを挟む僕は物心がつく頃から、教会でお世話になっている。この頃から自分が周りとは違うということは、なんとなく分かっていた。
強すぎる力。
同じくらいの歳の子たちは、僕を怖がって遠巻きに見たりしている。大人たちも、時々僕のことを陰からコソコソと話しているのを知っている。どうやら僕の親は、僕の強すぎる力を知って、恐怖から僕を手放したらしい。
・・・特に何の悲しみも感じない。
僕は誰からも愛されない。
唯一、僕の面倒をよく見てくれる神父さまがいた。神父さまは魔力も強く、まだコントロールが不安定だった僕に、根気よく色々な事を教えてくれた。
僕の今があるのは、この神父さまのおかげといってもいいだろう。
僕は神父さまが大好きだった。
でも僕が17歳になる頃、神父さまは出張先で不慮の事故に逢い亡くなった。
心は悲しみに溢れていたが、涙は出なかった。
もうこれで、“僕”を見てくれる人は誰もいない。
神父さまが亡くなって少しした頃、王宮から呼び出しがあった。僕の力を国の為に使い、神子になって国民を導いてほしいと。
どうやら今までは、神父さまが僕の力のことを教会から広めないよう力を尽くしてくれていたらしい。
僕の力が、他のものに利用されないように。
僕がこれ以上辛い思いをしないように。
・・・神父さま。
ありがとうございます。でも僕は大丈夫。
神父さまの優しさ、温もりが今でも僕の心に残っているから、この先もそれを忘れずに生きていきます。
王宮では、閉じ込められたり、行動を極端に制限されたりすることはなかったが、やはりここでもみんな僕を腫れものに触るような態度で接してきた。
上位の貴族の中には、やたらと力を見せろとうるさく言う者もいた。
力が全て。
こんな力の何がいいんだろう?
本当にほしいものは全然手に入らないのに。
もう何でもいい。感情があっても誰も“僕”を見てくれない 。
考えるのも疲れた・・・。
ある時、僕の守護者として数名の騎士を紹介された。
いつも通り、誰も“僕”を見てくれない中、僕はみんなに微笑みを浮かべる。
ーーそんな時だった。
「どうしてあなたは泣かないんです?泣きたい時は泣いていい。思いっきり泣いた後は、思いっきり笑って下さい。私はあなたの笑顔が見たい。」
ある一人の騎士が僕に近づき、そっと声をかけてきた。
始め、何を言われているのか分からなかった。
でも、僕の心は反応した。
瞳からは涙が溢れた。
僕は彼を見る。
彼も“僕”を見ていた。
忘れていた何かが戻ってくるような気がした。
心が期待で膨らむ。もしかしたら、この人は“僕”を見てくれるんじゃないの?
でも怖い。
本当の“僕”を知ったら、彼も“僕”を見てくれなくなるかもしれない。今までずっとそうだった。
本当の“僕”を知ったら、僕から離れていったり、欲だけをぶつけてきたり・・・。
信じるのが怖い。でも信じてみたい・・・。
信じても、いいのだろうか?
感情を、“僕”を表に出していいのだろうか?
彼を見つめる。
彼の瞳は、今まで誰に対しても見たことのない輝きを放っていた。
その瞳が“僕”を見ている。
・・・少し、歩み寄ってみようか。
後から後悔するかもしれないけれど、ちょっとぐらい夢を見たっていいだろう?
「もう一度、あなたの名前を教えて頂けますか?」
僕は少し震えながら、彼にそっと囁いた。
「私は、この度あなたの守護騎士の一人に任命されました、レイモンド・クラヴィエと申します。以後、よろしくお願いします」
「・・・はい。僕の名前はユリウス・アングラードといいます。こちらこそ、よろしくお願いします」
これが、僕とレイとの全ての始まりだった。
こうして僕たちは出会い、やがてお互いがかけがえのない存在になっていく。この幸せがずっと続いていくんだと、ただそれだけを願っていたはずなのに・・・。
どうしてこうなってしまったんだろう?
ーーー問いかけても、もう元には戻れない。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる