ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

文字の大きさ
11 / 66
第1章 呼び合う魂

10. 突然の告白 (ユーリ)

しおりを挟む



彼の声を聴くと、心がドキドキする。
最初に会った時は、その声で僕を解き放ってくれた。
次に会った時は、優しく声をかけてくれた。
それからは、ずっと彼の声を聴きたくて、何処にいても彼の声に耳を澄ませていた。

「愛している」

彼が惜しみなく言ってくれるその言葉にいつも涙が溢れそうになる。
こんな僕で本当にいいの?
心の中で何度も何度も繰り返し問いかける。

彼の気持ちは揺るぎない。
僕は彼にきちんと応えられているだろうか?
愛してる。なんて、それ以上に彼を想うこの気持ちは何て言葉にしたらいいんだろう?
もう、彼がいないと息も出来なくなりそうで、
こんな僕を知ったら彼は何て思うだろう?

どうかお願い。僕を離さないで。
何もしてくれなくていい。
ただ、そばにいてくれるだけで
僕は幸せなのだから。








どこか懐かしく感じる声と気配に、ハッと顔をあげてすぐ横を見上げる。
そこには、先程顔合わせの時に気になっていた騎士団第一師団のレインドール・バスティード師団長が凛とした姿で立っていた。

その涼やかな姿に顔合わせの時と同じく再び目を奪われ、バスティード師団長に声をかけられた事もすっかり頭から抜けて、彼の姿を凝視してしまっていた。

「ユーリ・・・」

(!!)

バスティード師団長の声で思考が戻る。

「あっ・・・、あの?」

「あぁ、突然声をかけてすまない。君があまりに熱心に本を見ていたから、今は悪いなとは思ったのだけれど、ついその姿に惹かれて声をかけてしまった。私は騎士団第一師団長のレインドール・バスティードという。君は、今日新人魔導士たちとの顔合わせの時に紹介されていた・・・」

「あっ、はい!俺・・・いえ、私はユーリィ・ブランシュと言います」

突然のことで、まだ俺の頭は今に追いついていない感じだが、バスティード師団長が挨拶をしてくれているので、俺は勢い良く立ち上がり自分も急いで自己紹介をする。

「あぁ。そんな固くならないでくれ。今日は君と話がしたくて、マティス副団長に聞いたら君はいつも仕事終わりにはここに来ると聞いて来たんだ」

「はぁ・・・。俺に・・・いえ、私に何かご用でしょうか?」

(話って、俺何かしたかなぁ・・・?)

バスティード師団長が俺を訪ねてくる理由が思い浮かばず、頭の中をフル回転させていたところ、どうも顔に出ていたようで、バスティード師団長が相好を崩して俺を見つめてくる。

「フフッ、困らせてすまない。それに、“俺”でかまわないよ。君には自然でいてもらいたい。・・・その、話というのは個人的な事なんだが、率直に言うと君に交際を申込みに来たんだ」

「・・・こうさい?」

言われた意味をすぐに理解できず、俺は目をパチパチさせて固まった。

(こうさい?こうさいを申込みに・・・?・・・っ!?て、交際?!)

「えっ?えぇ?!」

意味を理解してさらに混乱する。

(バスティード師団長が俺に交際を!?いやいや、待て待て。何かの間違いだ)

この国では、特に交際や結婚などについて決まりはなく、基本男女のカップルが多いが、同性同士での結婚も珍しくはない。
そんな国で育ったからか、俺も特に恋愛に関して女性や男性という区別はなく自然と相手を好きになるものだと思っているし、小さい頃から見る夢の影響なのか、自分は誰かをずっと待っている、そんな気がして特に今まで誰かに対してこれといった恋愛感情を持ったことがなかった。

なかったのだが・・・。
一瞬、今日の騎士団との顔合わせの際に感じた心のざわめきを思い出す。

「あっ、あの失礼ですがどなた宛の交際の申込みでしょうか?」

混乱する頭の中、やはり俺への交際の申込みは俺の勘違いなんじゃないかと思って尋ねてみる。

「君だよ。俺は君が好きなんだ」

バスティード師団長は、目を細めて柔らかく微笑みながら俺を見つめてそう言った。

「好き」という言葉を聞いた

ーーその瞬間。

“ドクンッ”

再び鼓動が鳴り響く。

「あ、の・・・。どなたか似てる方と間違えてるんじゃ?俺とバスティード師団長とは、今日初めてお会いしたはずです」

“ドクンッ”
“ドクンッ”

鼓動は体全体に鳴り響いている。

何かの間違いじゃ?と思いながらも、何故か心が、魂が、コレだと訴えかけている。

待っていたのはコレなのだと。

体が、心が震える。

俺は内面に起きている衝撃を表に出さず、バスティード師団長をジッと見つめる。

「いや、ユーリィ・ブランシュ。君で間違いない。俺の心は君を求めている。いきなりこんなところで、こんな事を言って、変な男だと思うだろう?だが、この気持ちに偽りはない。一目惚れ、と言ったら君は信じてくれるだろうか?もちろん、君に気持ちを強制するつもりはない。けれど、俺たちはまだお互いを知らなさすぎるから、君が許してくれるならば少しずつお互いを知っていければ嬉しい、 と俺はそう思っている」

そう言われて、バスティード師団長の真摯な姿を俺は見つめ続けることができず、視線を下に向ける。

騎士団第一師団長であるこの人が、俺なんかを?
どう応えたら良いのかわからない。

体は、心は相変わらず震えていて、鼓動がさらに大きく鳴り響いている。

『愛している』

ーー突然、頭の中で声がした。

“ズキン”
“ズキン”

頭が痛い!!
いったい俺はどうしたんだ?

あまりの頭痛に意識が朦朧となる。

「ッ!?ユーリ!!」

バスティード師団長が叫んでいるが、それに応える力が残っていない。
俺は立っているのもままならず、訳がわからないままその場で意識を手放した。


「レイ・・・・・」

ただ一言、そう呟いて。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...