26 / 66
第3章 近づく距離
25. 微かな違和感 (ユーリ)
しおりを挟む食事処『カプリス』。同期の奴らが言ってたように、城下町の真ん中を南北に通る大通りを少し西に入ったところにその店はあった。
入り口を入ると一階と二階に分かれていて、一階は立ち飲みや短時間で食事をするスペースがあり、ちょっと仕事終わりに一杯ひっかけたり、これから仕事の人たちがその前に少しお腹を満たしたりと店内はなかなかの盛況ぶりだ。
一方、二階は少しゆっくり食事ができるよう、ソファや大きなテーブルに、開放感のあるスペースが広がっている。こちらは、家族連れやカップルなどが多く、一つの店だが一階と二階で全く雰囲気が違ってなかなか見ていて面白い店だなと思う。
俺たちはもちろん二階にあがり、奥の空いているスペースに対面で座った。
「なかなか面白い店だな」
レイ様が辺りを見渡しながら、ふと感想を口にする。
「はい、俺もそれ思いました。ここ、数ヶ月前にできたばかりなんだそうですよ。なのに、もうお客さんで溢れてるなんてすごいですよね。なんか、夜早く閉めちゃうのがもったいないなぁ」
俺はそう言いながら、早速メニューを見て今夜のメインを思案する。チラリと正面のレイ様を見ると、優雅にメニューに目を通していて、かっこいい人は何をしていても様になるなぁとこんな時でも見惚れてしまう。
そうしていると、メニューから顔をあげたレイ様とバッチリ目が合ってしまってドキリとする。
「ユーリ?もう決まった?」
レイ様が優しく問いかけて来て、俺は慌ててメニューにもう一度目を通す。
「いや、その、どれも美味しそうでなかなか決められなくて・・・、レイ様は決まりました?」
「いや、実は俺も悩み中なんだ。それならユーリ、色んな食材のものを少量ずつ頼んでふたりでわけないか?それならお互い色々楽しめるだろう?」
「あっ、いいですね!じゃぁそうしましょう!」
俺はレイ様の提案にすぐに賛成して、店員さんに声をかけて注文を済ます。
「ご注文は以上でございますね。最後にお飲み物はいかがなさいますか?」
「では俺はリィスティを一つ」
(ーーーー!?)
レイ様はすでに決めていたらしく、飲み物をすぐさま注文する。
しかも、その注文したものは・・・。
「じ、じゃぁ俺もそれ一つ下さい!」
「かしこまりました。それでは料理をお持ちするまでしばらくお待ちください」
店員さんが去ってから、俺はレイ様に気になったことを尋ねてみた。
「あの・・・レイ様」
「ん?どうした?」
「さっき注文していたリィスティってけっこう甘いお酒だと思うんですが、レイ様はよく飲まれるんですか?」
そう、レイ様が注文したリィスティで俺が反応したのはこのリィスティという飲み物が、今日ここに来る前にアランとの会話にも出たリィチとラスティの混合酒だからだ。
この国では、働くようになる16歳以上であれば飲酒は認められている。ただし、すべてにおいて自己責任なので大抵みんな若い子たちは、度数の低いお酒から始め、徐々に飲めるようになっていく。かく言う俺も、同期の奴らに誘われて最近少しずつ飲み始めたばかりなので、まだお酒についてはほとんど初心者だ。
その俺でも飲めるような、度数が低く、ジュースにも似た甘いお酒の一つがこのリィスティで、甘い口当たりだが後味はさっぱりしていて飲酒初心者には人気のとても飲みやすいお酒。・・・なので、レイ様がこのお酒を選んだことにまず驚いた。俺のイメージでは、もっと度数の高いお酒を普段から飲んでるイメージだったので。
「ん~、そうだな。よく飲む方かな?自分的にはリィスティの甘いところが気に入ってて。・・・今日は特に、ユーリのそばで飲みたくなったんだ」
「?・・・そ、そうですか」
「俺がリィスティを飲むのは意外?」
「い、いえ!あっ、いや、・・・そうですね。勝手なイメージですけど、レイ様はもっと度数が高めのお酒を好んで飲むんじゃないかなぁって思ってました。でも、美味しいですよねリィスティ!俺も最近飲み始めたんですが、すごく気に入ってて、どちらかというとラスティの甘みが勝ってるあの甘い感じが好きなんです!俺は果物では断然ラスティ派なんで!」
俺がそう言うと、レイ様はまた肩を震わせて笑っている。
「ハハッ。ラスティ“派”って、ユーリは面白いな」
「~~っ!もぅレイ様、俺は真面目です!そんなにしょっちゅう食べてるわけじゃないですが、レイ様と一緒で俺はラスティが果物の中で一番好きです!」
「ハハハッ、わかったわかった。俺と一緒でユーリはラスティが・・・・・・」
そこまで言って、レイ様が急に黙り込む。ちょっと驚いたようにレイ様の瞳が俺を見つめてくる。
「?・・・レイ様?」
「・・・あぁ、いや。何でもない。それにしてもユーリと好みが一緒なのは嬉しいな」
「フフッ、俺もです。友人たちは、ラスティは甘すぎるって言ってあの美味しさをわかってくれなくて・・・」
さっきのレイ様の間がなんだったのか、ちょっと気になるけど、すぐにいつも通りのレイ様だったので俺も深く考えることなく、ラスティの話題が思わぬところで出てきたので、ここがチャンスと思いレイ様にさっそくお誘いをかけてみることにした。
「あの!それで、ラスティの話ついでと言ってはなんですが、今日この後レイ様に俺の宿舎に少し立ち寄ってもらいたいんですが、いいですか?」
「?それは構わないが・・・?」
「フフッ。実は、今日同期の友人が自分の別荘から大量にラスティが送られてきたらしく、たくさんお裾分けしてもらったんです。そいつ、ラスティはそんなに好きじゃないんで、俺いっぱいもらったんですけど、さすがに一人じゃ食べきれないんでレイ様にも食べてもらいたいなぁと思って。今俺の部屋にあるんで、後で一緒に食べませんか?」
俺がそうお誘いすると、レイ様は優しい顔で微笑んだ。
「ありがとう。でもいいのか?俺がもらっても?」
「はい!・・・レイ様に食べてほしくてたくさんもらったから・・・」
「ん?」
「いえ!じゃぁ、後で楽しみにしておきます!」
俺がそう言うとレイ様はクスッと笑った。
「それは俺のセリフだな。俺こそ楽しみにしておくよ」
2人で笑いあっていると、ちょうど料理が運ばれてきたので早々に腹ごしらえをすることにした。お店の雰囲気を楽しみながら、俺たちはいつものように話しをし(主にレイ様が聞き役になって俺が日常の話をしていることが多いが)、そうして今日もレイ様との楽しい時間が過ぎていく。
まだレイ様とこうして会い始めて、期間は短いというのに、レイ様とのこんな時間がずっと前から続いていたような、そんな錯覚を時々起こしそうになる。
この感覚はいったい・・・?
“ドクンッ”
“ドクンッ”
以前にも増して鼓動がざわつく。
昔から見る夢といい、先日見た俺そっくりなやつが出てくる夢といい、何故か強く感情を揺さぶられる。
そして、少しばかりの焦燥感。
俺は・・・。
何か・・・。
ーーーー大事なことを
ーーーー忘れてる・・・?
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです
天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。
その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。
元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。
代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる