ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第4章 秘められしもの

30. 動き出した二人の運命 (レイ)

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「ユーリ?どうした?大丈夫か?」

突然固まったように動かなくなったユーリの肩に俺はそっと手を置き、声をかけるが反応がない。意識を失っているわけではなく、目は虚ろながらも顔は正面を向いている。ちょうど今の今まで普通に会話をしていたのに、いったいユーリに何が起きているのか?

俺はユーリを下手に刺激しないよう少しの間ジッとユーリを見つめて様子を窺う。すると、ユーリの顔がゆっくりとこちらを向いた。


目と目が合うーーー。


すると、ユーリはふわっと表情をゆるめた。

「レイ」

「っ!?」

ドキリとした。ただ名前を呼ばれただけだが、やはりいつものユーリではない。これは・・・。

「レイと食べるラスティは、いつもどうしてこんなに甘いんだろう?フフッ、何か魔法でもかけているの?」

ユーリが首を傾げて俺に向かって両手を伸ばす。俺は言葉を返さずにジッとユーリを見つめた。

「甘い匂いに溺れそう。このままレイのそばでずっと甘い夢を見ていたい・・・」

ユーリがそのまま俺の方へと体を傾けて、俺の胸の中へと倒れこむ。ふと、以前あの星空の下で交わした言葉が瞬間的に頭に浮かんだが、今はきっとこれが正解だと、俺はそれをそのまま受け止め、何も言わずにユーリの背中にそっと手を回し優しく抱きしめた。

「レイ。・・・お願い。ギュッとして?」

ユーリが俺の胸に顔を押し付けたまま、懇願する。俺の背中に回っているユーリの手は、微かに震えていた。

「僕を離さないで・・・」

まるで迷子になって不安で仕方なさそうな声色でユーリは言葉を重ねる。俺は、その願いを叶えるように、ユーリの背中に回した手をグッと自分の方へと力強く引き寄せた。

「あぁ、離さない。ユーリ」

ギュッと抱きしめると同時に、ユーリへと言葉を返す。すると、まるでそれが合図であったかのように、一呼吸置くかどうかという間にガクッとユーリから力が抜けて、俺の背中に回っていた両手が外れ、その身をゆだねるように体重が俺の胸にかかった。

ハッとして、ユーリの顔を覗き込むと意識は失っているようだが静かに呼吸を繰り返すユーリにホッとして、その身体をそっと抱き上げてソファに横たわらせる。

俺は膝をついてユーリの顔を改めてそばで見つめた。その顔には一筋の涙の跡が残っていた。俺は濡れた頬をそっと指で拭う。

「ユーリ・・・・・・」


(やはり、記憶が戻りつつあるのかーーー)


明らかに今のは、前世のユーリだった。
今日のユーリには、食事の時から少し違和感を感じていたのだ。まだ話題にしたことのなかったラスティを俺が好きだと当然のように言ったことといい、本が好きな理由を言う時のセリフといい、魂が同じなのだから覚えていても不思議はないのだが・・・。

(何がきっかけとなって、前世のユーリが表面に出てきたのか?考えられるとしたら、俺という存在と、前世で関わりのあったこのラスティ・・・)

俺は、テーブルの上に置いたままの食べかけのラスティに目を移す。

(もし、前世に関わりがあるものや行動を起こすごとに記憶が少しずつ戻るのだとしたら・・・)


果たしてこのままでいいのだろうか?


目を閉じると、前世のユーリの姿が浮かび上がる。二度と同じ過ちは繰り返さない。そう誓って俺は今日までやってきた。今世でユーリを見つけて、その誓いはさらに強く俺の心へと刻み込んでいる。全ては俺がかかえて護っていく。

今世でユーリと初めて会った時、前世の記憶のないユーリに、正直残念に思いながらも、どこかホッとしている自分がいた。
ユーリの力は恐らく消えていない。今は何かしらロックが掛かっているのだろう。願わくば、今世はその力が目覚めることのないようにと思っているのだが、もしその鍵が記憶と共にあるのであれば、このまま記憶が戻るにつれて何重にも施されたロックを開けてしまう可能性がある。

二度と同じ過ちを繰り返さないようにするなら、本来はユーリの力の事を考えると、俺がそばにいない方がいいのだろう。

ユーリのそばで、ユーリに愛されたいと思うのは、俺のエゴだ。


ーーーだが、できない。


今世に生まれて、前世の記憶を持ち、愛しい人が同じ世界にいるとわかった時、俺の魂が歓喜に震えた。
理性では抑えられない、根幹の部分で俺はユーリを求めているのだ。だから、さっきユーリが言ったセリフは本当は俺自身がユーリに求めるもの。


「俺を離すな・・・・・・」


もう俺たちは出会ってしまったから、離れることは、離してやることはできない。
ーーーできないが・・・・・・。



何にしろ、俺たちの運命はもう動き出してしまったのだろう。どうか叶うならば、動き出したその運命がユーリにとって幸せな運命であればいい・・・そう、もしもの時は、俺は覚悟は出来ている。

俺は眠るユーリの髪を優しくなでつける。
願うのは一つだけ。
どうかこの愛しい人が、幸せでいつも笑っていられるように。

俺はユーリの顔の近くへと自らの顔を近づけ、肌には触れないようにして、そっとなでつけていた髪に触れるか触れないかの優しいキスを送った。



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