ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第3章 近づく距離

29. 不穏な影

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とある王国にてーーー。



ーーーーーコツ。
ーーーーコツ。
ーーーコツ。


静まり返った廊下にゆっくりとした足音だけが響いている。血のように赤いウェーブのかかった髪を腰までのばし、紫眼をもつその人物は、ある部屋の前で立ち止まると静かに目の前の扉を開けた。

部屋の中は、廊下と同じく物音一つせずに静まり返っている。広い部屋である。その中央にはポツンと大きな天蓋付きのベッドがあり、その人物は真っ直ぐにその場所へと足を進めた。
ベッドには、一人の年老いた男性が眠っている。眠りが深いのか、起きる様子はない。
ベッドの横に立ち、その人物は冷たい眼差しで男性を見下ろした。

「ーーー父上・・・、ようやく準備が整いましたよ。我がブルーニ王国に古より伝わる禁呪によって、この世界はついに神話の時代のあるべき姿を取り戻すんです。そして、禁呪の使い手である私が、神と等しい力を得て、人々を導く王となる!」

その人物、ブルーニ王国王太子シルヴァン・サリフ・ブルーニは高々と声をあげる。

「フフッ、もう残念ながら父上には見ることのできない世界ではありますが、今はまだ私にはやらなければならない事が残っていますので、私が動きやすいようにせいぜい象徴としての役割だけは全うして頂きますよ」

応えのないこの国の王に対して、シルヴァンは冷やかな笑みをこぼす。

「偽りの平和な時代は終わりです。もうまもなく戦いの火ぶたが切られるでしょう。・・・今度こそ失敗はしません。必ず世界を我がものに。そしてーーーあの力を、我がもとに。・・・フフッ。アハハッ、アハハハハハハハハハーーーーー」

笑いながら、いまだ深い眠りにつく王に背を向けて、シルヴァンは来た道を引き返して行く。


部屋の扉がピッタリ閉まると、そこには再び物音一つない静寂がその場を満たしていた。

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