ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

文字の大きさ
33 / 66
第4章 秘められしもの

32. 保護者と守護者 (レイ)

しおりを挟む
「知らないわけないよね?騎士団を預かる第一師団長の貴方が」

俺がすぐに返事をしないことを訝しんでマティス副団長が尋ねてくる。

「あっ・・・、はい。申し訳ありません、まさかマティス副団長からそんな提案をされるとは思わなかったので聞き違えたかとーーー」

「何?僕から恋人登録なんて言葉がでるのは意外だって?」

「まぁ、・・・率直に言えばそうです。以前言われていたようにマティス副団長はユーリにとって保護者のような方だと思うので、私たちの事はあまり良く思っていないのでは、と俺が勝手に思い込んでいました。なので、マティス副団長からそのような言葉が出てきたことに驚いたんです」

「フフッ、確かに僕はユーリィの保護者みたいな感じだから、ユーリィに害がありそうな者は許さないけどね。貴方はユーリィ自身が大事に思っている人物だし、貴方もユーリィを大切にしてくれてるみたいだし?まぁ、僕的にはまだ認めるのは早いかな?って気がするけど、一番はユーリィにとっての最善だからね。そうした方がいいんじゃないかと思ったわけ」

マティス副団長は少し照れくさそうに、そう話してくれた。

「そうですか・・・ありがとうございます。ただ、俺もいずれはと希望をもっていますが、先程も言ったように俺とユーリはまだ恋人という関係ではなく、友人という間柄でして・・・。今の段階でそれをユーリに頼むわけにはーーー」

「・・・・・・は?」

俺の言葉を聞いたマティス副団長が、口をあんぐり開けて黙り込んだ。

通常、どこの宿舎にも少なからずその場その場の規則というものがある。ここ、魔導士たちの宿舎においては、基本登録した住人以外の宿泊を禁じているが、もちろん例外もあり、その住人が認めた人物を、家族であれば『家族登録』、恋人であれば『恋人登録』として管理人に届け出を出し、受理されればその人物はその宿舎では住人と同じように扱ってもらうことが可能になるのだ。
ただし、住人と同じように扱うとなると、宿舎の住人全員にその人物を紹介するのと同じ意味を表すので、『家族登録』ならまだしも『恋人登録』をする者はそれなりに覚悟が必要だったりするのである。

さすがにまだ恋人という関係ではない、俺たちのことをユーリに申請してもらうのは不可能というものだ。俺は黙り込んだマティス副団長に苦笑しながら、いずれは本当にユーリに認めてもらえるように精進しないといけないなと改めて思っていたところーーー

「ちょ、ちょっと待った。友人ってそれ、ほんとに言ってる?」

「え?はい。俺はユーリが好きなので、告白はしましたが、今は友人としてお互いを知るところから始めてます。いつか、ユーリに恋人として認めてもらえるように今はそっと見守ってるところです」

こんなことを他人に言うのは初めてなので、俺は少し照れながらマティス副団長と向き合う。

「あのさ、僕がこれを言うのも何だけど、ユーリィってすごく思ってることが顔に出やすくてさ」

「えぇ、そうですね」

「・・・あの子、貴方のこと好きだと思うけど?」

マティス副団長が真顔で俺にそう聞いてくる。質問と言うよりは確認だ。

「・・・そうですね。嬉しいことにユーリに好かれてる自信はあります」

「じゃぁ・・・」

「でも、それが恋愛対象の好きかというと、ユーリ自身もまだわからないんです。だから俺はユーリが本当に自分自身、心から俺を好きだと言ってくれるまで待つつもりです」

俺が真剣にそう言うと、今度はマティス副団長が苦笑した。

「ユーリィは恋愛面では鈍いところがあるから、下手したら貴方お爺さんになってしまうかもよ?」

クスクスと笑いながら、あながち冗談ではないかもしれないことを言う。だがーーー。

「例え、そうなったとしてもそばにいます。どんなことがあろうと、俺はユーリから離れるつもりはありません。・・・けれど、恐らくそう遠くない未来に、ユーリは俺を選んでくれると思ってます」 

「へぇ。強気だね」

「遥か昔から、俺はユーリの守護者ですから。この立ち位置は誰にも譲りません。それが例え・・・マティス副団長、貴方だとしても」

俺はジッとマティス副団長の目を見つめる。
普段の彼を見ていると、純粋にユーリを見守ってくれているのがわかる。だからこれは、俺が出会うまでにユーリの近くにいたこの人に対する、俺の狭い心が生み出す小さな嫉妬だ。

一方のマティス副団長は、俺の言葉に特に動じた様子もなく、逆に普段の表情で俺に相対している。

「ほんと、予想外だよ。バスティード師団長、貴方がこんなにも恋に熱い男だったなんてね。まぁ相手があの子じゃ、苦労するかもだけど、そこまでの気持ちがあるなら、僕も大人しく見ておいてあげるよ」

「ありがとうございます」

「でもそうかぁ、あんなにわかりやすい態度なのにまだ貴方に応えていないのか、ユーリィは。魔導士たちの間でも、最近ちらほら噂に出始めてるんだよ?
本の虫だったユーリィが、この頃何かの拍子に物思いにふけて急に顔を赤くさせたり、夜には騎士団の誰かと時々出かけてるみたいだから、あれはきっと恋人ができたに違いないって。まぁまだ皆んな本人に確かめるまでにはいってないみたいだけど、それだけあの子はわかりやすいからね。貴方も色々気をつけた方がいい。今日のところは仕方がないにしても、おかしな噂が広まってユーリィの心に傷をつけるようなことにでもなったら、次は本当に容赦しないから。・・・一応、覚えておいてね」

最後は、俺にきっちり釘をさすようにマティス副団長はニコッと笑って踵を返す。

「あっ、あのマティス副団長!」

俺は離れていくマティス副団長に慌てて声をかける。マティス副団長は俺を待ってここにいたようだが、俺はここで会えるとは思っていなかったので、以前から気になっていたユーリのことについてどうしても確認したいことがあったのを咄嗟に思い出したのだ。

「何?」

俺の声に反応してすぐにマティス副団長が振り返る。

「ユーリのことで、貴方にお伺いしたいことがあります。今日はもう遅いので、後日少しお時間を頂けないでしょうか?」

「僕に聞きたいこと?」

「はい」

「・・・わかった。じゃぁまた僕から連絡するよ。たぶん、そんなに待たせないとは思うけど」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「うん。じゃ、おやすみなさいバスティード師団長」

俺は礼を返し、今度こそマティス副団長は自室へと帰って行った。俺も再び階段へと足を踏み出し、そのまま来た道を帰る。
宿舎を出た後、少しだけユーリの部屋の方向に顔を向け、良い夢が見られるようにと願をかけて、そっとその場を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...