37 / 66
第4章 秘められしもの
36. 夢の導き (ユーリ)
しおりを挟む
「ユーリィ!」
「っ!?」
肩を揺さぶられ、俺の意識は目の前のアランへ向く。
「大丈夫か?」
「あっ、あぁ・・・。ゴメン、あまりに美味しかったからさ、料理長また何か作ってくれないかなぁ?とか想像して、幻聴?みたいな俺の良いように声が聞こえたみたい。ハハッ、ヤバイよなぁ。どれだけ甘いの好きなんだってね」
誤魔化すように苦笑いした俺をジッと見つめるアラン。少しして、短い溜め息が聞こえる。
「想像は幻聴が聞こえない程度に。・・・今日は何があっても必ず夜は僕ん家に来ること。いい?」
アランが念を押すように言う。これは、もしかしなくても夜絞られるか?俺。少し恐い気もするが覚悟を決めておこう。
「わかった。ありがとう」
ーー心配してくれて。
「ん」
俺の言いたいことがわかったようで、深く頷いたアランは自分のカップに残っていた飲み物をぐいっと飲み干す。俺も、あと一口ほど残っていたデザートを食べ終えてアランと少し話しをした後、二人して一緒に席を立ち、トレーを食堂のカウンターに返してそれぞれの持ち場に分かれた。
(あなたは、・・・誰?)
アランと別れて俺は歩きながら、やはり先程のことが気になっていた。最初、アランだと思っていた声は一度意識をし出すと全く違う声だったのがわかる。
・・・懐かしい声。柔らかく、俺の名前を呼んでくるのは誰なのか?
というか、あの声は最近どこかでーーー。
「・・・・・・そうだ。確かこないだ見た夢の中の・・・」
「夢の中の?」
「わぁっ!!!」
突然後ろから聞こえた声に驚いて、俺は大声で悲鳴をあげる。振り向いた先にいた人物に俺はさらに驚き、目を見張る。
「だ、だ、団長!?」
そう、そこに立っていたのは我が王宮専属魔導士団長ヴァーノン・セリエその人であった。彼はいつものように微笑みを浮かべ、俺に優しく声をかける。
「すまない、驚かしてしまったようだね。ユーリィが何か悩んでいるようだったから少し気になってね」
「あっ、いえ!俺こそ大声を出してすみません」
俺は団長の微笑みに魅了されながら、慌てて言葉を返す。
「それで、何か悩み事かな?」
「いえ・・・、その。ちょっと気になる事があったんですが、ちょうど今思い出したところだったんです」
そう、あの声は俺そっくりな青年と共に夢に出てきた人物。顔も名前もわからないが、『ユーリ』と呼ぶその柔らかい声が印象的で・・・。でも、何故彼の声が?
今度は違う疑問が浮かんできて、やはり先程のことに答えは出ないままだ。そんなことを考えていると、団長がボソッと言葉を発する。
「夢か・・・」
「え?」
考え中だった意識が再び団長に向かうが、俺は団長が呟いた言葉を聞き逃してしまった。
「あの?・・・団長?」
問いかけるが、今度は団長が何かを思案するかのように俺をジッと見つめる。普段こうして団長に接することがあまりないので、近くでジッと見られると、何もしていないのに何故か気持ちがソワソワして落ち着かない。
俺が戸惑っているのをすぐに察したのか、団長はすぐさまいつもの微笑みを浮かべる。
「いや、何でもないよ。ユーリィこそ気になる事はもう大丈夫なのかい?」
「はい。ご心配頂きありがとうございます」
団長に問われ、まだ先程の事は解決していないままだが、自分でも何と言っていいのか考えがまとまっていない状態なのでひとまずもう少し自分で模索してみることにした。
俺は大丈夫だということがわかるように、笑顔で団長に向き合う。
「そう。でも、何か他にも悩みがあればいつでも相談してきなさい。私なり、マティスなり。・・・まぁユーリィであればマティスの方が何かと話しやすいでしょう。まだ慣れないことも多いと思うけれど、何事も焦ってはいけないよ。心と魔力は繋がっている。それを上手くコントロールするのも私たち魔導士の務めだからね」
「はい!今後も魔導士として肝に銘じます」
元気よく返事をした俺に対し、一つ大きく頷くと、団長は俺を促すように俺の後ろに手をやり背中をポンと軽く押し出した。
「さぁ、行っておいで」
俺は改めて姿勢を正し、団長に礼を返し次の予定地へと足を進める。気になることや考えることは色々あるのだが、先程まで少しモヤモヤしていた気持ちは団長と接したこの短い時間で不思議と薄れた気がする。
始めは少し緊張したが、何より最後に軽く押された背中から、身体全体にじんわりと魔力が暖かく巡っていき身体が軽くなっているように思う。
そうして俺は歩きながら、あまり話す機会がない団長と話が出来たことに少し気持ちが浮かれていた。
ーーーだから俺は気付かなかったのだ。
俺が去って行く姿をジッと見つめる団長の視線に。
「夢は時に、あらゆる導きを示している。過去、現在、未来。それは、自分の意思とは関係なく現れる。その魔力に比例して。・・・ここにきて、あの子の運命が急速に動き出している。私も、準備をしなければいけないようだね」
ユーリィをしばらく見つめて、彼の姿が見えなくなると、セリエ団長は踵を返し、自身の気配を消すとゆっくりとその場から消えるように去って行った。
「っ!?」
肩を揺さぶられ、俺の意識は目の前のアランへ向く。
「大丈夫か?」
「あっ、あぁ・・・。ゴメン、あまりに美味しかったからさ、料理長また何か作ってくれないかなぁ?とか想像して、幻聴?みたいな俺の良いように声が聞こえたみたい。ハハッ、ヤバイよなぁ。どれだけ甘いの好きなんだってね」
誤魔化すように苦笑いした俺をジッと見つめるアラン。少しして、短い溜め息が聞こえる。
「想像は幻聴が聞こえない程度に。・・・今日は何があっても必ず夜は僕ん家に来ること。いい?」
アランが念を押すように言う。これは、もしかしなくても夜絞られるか?俺。少し恐い気もするが覚悟を決めておこう。
「わかった。ありがとう」
ーー心配してくれて。
「ん」
俺の言いたいことがわかったようで、深く頷いたアランは自分のカップに残っていた飲み物をぐいっと飲み干す。俺も、あと一口ほど残っていたデザートを食べ終えてアランと少し話しをした後、二人して一緒に席を立ち、トレーを食堂のカウンターに返してそれぞれの持ち場に分かれた。
(あなたは、・・・誰?)
アランと別れて俺は歩きながら、やはり先程のことが気になっていた。最初、アランだと思っていた声は一度意識をし出すと全く違う声だったのがわかる。
・・・懐かしい声。柔らかく、俺の名前を呼んでくるのは誰なのか?
というか、あの声は最近どこかでーーー。
「・・・・・・そうだ。確かこないだ見た夢の中の・・・」
「夢の中の?」
「わぁっ!!!」
突然後ろから聞こえた声に驚いて、俺は大声で悲鳴をあげる。振り向いた先にいた人物に俺はさらに驚き、目を見張る。
「だ、だ、団長!?」
そう、そこに立っていたのは我が王宮専属魔導士団長ヴァーノン・セリエその人であった。彼はいつものように微笑みを浮かべ、俺に優しく声をかける。
「すまない、驚かしてしまったようだね。ユーリィが何か悩んでいるようだったから少し気になってね」
「あっ、いえ!俺こそ大声を出してすみません」
俺は団長の微笑みに魅了されながら、慌てて言葉を返す。
「それで、何か悩み事かな?」
「いえ・・・、その。ちょっと気になる事があったんですが、ちょうど今思い出したところだったんです」
そう、あの声は俺そっくりな青年と共に夢に出てきた人物。顔も名前もわからないが、『ユーリ』と呼ぶその柔らかい声が印象的で・・・。でも、何故彼の声が?
今度は違う疑問が浮かんできて、やはり先程のことに答えは出ないままだ。そんなことを考えていると、団長がボソッと言葉を発する。
「夢か・・・」
「え?」
考え中だった意識が再び団長に向かうが、俺は団長が呟いた言葉を聞き逃してしまった。
「あの?・・・団長?」
問いかけるが、今度は団長が何かを思案するかのように俺をジッと見つめる。普段こうして団長に接することがあまりないので、近くでジッと見られると、何もしていないのに何故か気持ちがソワソワして落ち着かない。
俺が戸惑っているのをすぐに察したのか、団長はすぐさまいつもの微笑みを浮かべる。
「いや、何でもないよ。ユーリィこそ気になる事はもう大丈夫なのかい?」
「はい。ご心配頂きありがとうございます」
団長に問われ、まだ先程の事は解決していないままだが、自分でも何と言っていいのか考えがまとまっていない状態なのでひとまずもう少し自分で模索してみることにした。
俺は大丈夫だということがわかるように、笑顔で団長に向き合う。
「そう。でも、何か他にも悩みがあればいつでも相談してきなさい。私なり、マティスなり。・・・まぁユーリィであればマティスの方が何かと話しやすいでしょう。まだ慣れないことも多いと思うけれど、何事も焦ってはいけないよ。心と魔力は繋がっている。それを上手くコントロールするのも私たち魔導士の務めだからね」
「はい!今後も魔導士として肝に銘じます」
元気よく返事をした俺に対し、一つ大きく頷くと、団長は俺を促すように俺の後ろに手をやり背中をポンと軽く押し出した。
「さぁ、行っておいで」
俺は改めて姿勢を正し、団長に礼を返し次の予定地へと足を進める。気になることや考えることは色々あるのだが、先程まで少しモヤモヤしていた気持ちは団長と接したこの短い時間で不思議と薄れた気がする。
始めは少し緊張したが、何より最後に軽く押された背中から、身体全体にじんわりと魔力が暖かく巡っていき身体が軽くなっているように思う。
そうして俺は歩きながら、あまり話す機会がない団長と話が出来たことに少し気持ちが浮かれていた。
ーーーだから俺は気付かなかったのだ。
俺が去って行く姿をジッと見つめる団長の視線に。
「夢は時に、あらゆる導きを示している。過去、現在、未来。それは、自分の意思とは関係なく現れる。その魔力に比例して。・・・ここにきて、あの子の運命が急速に動き出している。私も、準備をしなければいけないようだね」
ユーリィをしばらく見つめて、彼の姿が見えなくなると、セリエ団長は踵を返し、自身の気配を消すとゆっくりとその場から消えるように去って行った。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる