ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第4章 秘められしもの

36. 夢の導き (ユーリ)

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「ユーリィ!」
「っ!?」

肩を揺さぶられ、俺の意識は目の前のアランへ向く。

「大丈夫か?」

「あっ、あぁ・・・。ゴメン、あまりに美味しかったからさ、料理長また何か作ってくれないかなぁ?とか想像して、幻聴?みたいな俺の良いように声が聞こえたみたい。ハハッ、ヤバイよなぁ。どれだけ甘いの好きなんだってね」

誤魔化すように苦笑いした俺をジッと見つめるアラン。少しして、短い溜め息が聞こえる。

「想像は幻聴が聞こえない程度に。・・・今日は何があっても必ず夜は僕ん家に来ること。いい?」

アランが念を押すように言う。これは、もしかしなくても夜絞られるか?俺。少し恐い気もするが覚悟を決めておこう。

「わかった。ありがとう」

ーー心配してくれて。

「ん」

俺の言いたいことがわかったようで、深く頷いたアランは自分のカップに残っていた飲み物をぐいっと飲み干す。俺も、あと一口ほど残っていたデザートを食べ終えてアランと少し話しをした後、二人して一緒に席を立ち、トレーを食堂のカウンターに返してそれぞれの持ち場に分かれた。






(あなたは、・・・誰?)

アランと別れて俺は歩きながら、やはり先程のことが気になっていた。最初、アランだと思っていた声は一度意識をし出すと全く違う声だったのがわかる。
・・・懐かしい声。柔らかく、俺の名前を呼んでくるのは誰なのか?



というか、あの声は最近どこかでーーー。



「・・・・・・そうだ。確かこないだ見た夢の中の・・・」

「夢の中の?」

「わぁっ!!!」

突然後ろから聞こえた声に驚いて、俺は大声で悲鳴をあげる。振り向いた先にいた人物に俺はさらに驚き、目を見張る。

「だ、だ、団長!?」

そう、そこに立っていたのは我が王宮専属魔導士団長ヴァーノン・セリエその人であった。彼はいつものように微笑みを浮かべ、俺に優しく声をかける。

「すまない、驚かしてしまったようだね。ユーリィが何か悩んでいるようだったから少し気になってね」

「あっ、いえ!俺こそ大声を出してすみません」

俺は団長の微笑みに魅了されながら、慌てて言葉を返す。

「それで、何か悩み事かな?」

「いえ・・・、その。ちょっと気になる事があったんですが、ちょうど今思い出したところだったんです」

そう、あの声は俺そっくりな青年と共に夢に出てきた人物。顔も名前もわからないが、『ユーリ』と呼ぶその柔らかい声が印象的で・・・。でも、何故彼の声が?
今度は違う疑問が浮かんできて、やはり先程のことに答えは出ないままだ。そんなことを考えていると、団長がボソッと言葉を発する。

「夢か・・・」

「え?」

考え中だった意識が再び団長に向かうが、俺は団長が呟いた言葉を聞き逃してしまった。

「あの?・・・団長?」

問いかけるが、今度は団長が何かを思案するかのように俺をジッと見つめる。普段こうして団長に接することがあまりないので、近くでジッと見られると、何もしていないのに何故か気持ちがソワソワして落ち着かない。
俺が戸惑っているのをすぐに察したのか、団長はすぐさまいつもの微笑みを浮かべる。

「いや、何でもないよ。ユーリィこそ気になる事はもう大丈夫なのかい?」

「はい。ご心配頂きありがとうございます」

団長に問われ、まだ先程の事は解決していないままだが、自分でも何と言っていいのか考えがまとまっていない状態なのでひとまずもう少し自分で模索してみることにした。
俺は大丈夫だということがわかるように、笑顔で団長に向き合う。

「そう。でも、何か他にも悩みがあればいつでも相談してきなさい。私なり、マティスなり。・・・まぁユーリィであればマティスの方が何かと話しやすいでしょう。まだ慣れないことも多いと思うけれど、何事も焦ってはいけないよ。心と魔力は繋がっている。それを上手くコントロールするのも私たち魔導士の務めだからね」

「はい!今後も魔導士として肝に銘じます」

元気よく返事をした俺に対し、一つ大きく頷くと、団長は俺を促すように俺の後ろに手をやり背中をポンと軽く押し出した。

「さぁ、行っておいで」

俺は改めて姿勢を正し、団長に礼を返し次の予定地へと足を進める。気になることや考えることは色々あるのだが、先程まで少しモヤモヤしていた気持ちは団長と接したこの短い時間で不思議と薄れた気がする。
始めは少し緊張したが、何より最後に軽く押された背中から、身体全体にじんわりと魔力が暖かく巡っていき身体が軽くなっているように思う。

そうして俺は歩きながら、あまり話す機会がない団長と話が出来たことに少し気持ちが浮かれていた。

ーーーだから俺は気付かなかったのだ。

俺が去って行く姿をジッと見つめる団長の視線に。




「夢は時に、あらゆる導きを示している。過去、現在、未来。それは、自分の意思とは関係なく現れる。その魔力に比例して。・・・ここにきて、あの子の運命が急速に動き出している。私も、準備をしなければいけないようだね」

ユーリィをしばらく見つめて、彼の姿が見えなくなると、セリエ団長は踵を返し、自身の気配を消すとゆっくりとその場から消えるように去って行った。



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