ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第6章 魔獣殲滅作戦

54. 出撃 (レイ)

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突然の呼びかけに、俺とユーリは同時にそちらを向いた。こちらに走ってくる人物、あれは王宮からの緊急時の伝令役だ。その緊迫した様子から、何か非常事態が発生したことは火を見るよりも明らかで、俺はスッと目を細めて伝令役の言葉を待った。

「緊急にて失礼致します!先程、第五師団からの連絡で、王都郊外の森の中で例の魔獣を発見!対象はこのまま行くと王都近郊まで進行しかねない危険な状況とのことで、王太子殿下より騎士団及び魔導士団はただちに予定していた魔獣殱滅の任を開始せよとの命令が下りました!」

「ッ!レイ様・・・!!」

伝令役の言葉を聞いて、ユーリがハッと息を呑んだ。

「わかった。伝令ありがとう。すぐさま第一師団は行動を開始する」

「ハッ。では失礼致します!」

伝令役が去って、俺はすぐさまユーリに向き合う。

「ユーリ、すまない。せっかく会えたのにゆっくり話も出来ず。今聞いた通り、殿下からの命令が下った。魔導士たちも予定通り我々と共に戦うことになるだろう。ユーリのパーティーは後方支援と聞いている。今回の任務では我々先陣が、後方に魔獣が進行することが万が一にもないように力を尽くすが・・・」

「レイ様っ!」

俺の話を遮り、ユーリは当初不安そうだった表情を改め、俺の目を力強く見つめる。

「大丈夫です。俺もこの王宮、ひいてはこの国を守る魔導士です。決して悪意のあるもの、人々を危機に陥れるものに屈したりはしません。だから、どうかレイ様は目の前の事に集中して、無事に任務を遂行して下さい。俺ではあまりお役には立ちませんが、後方支援として少しでもレイ様たちの負担を軽減できるように努めます」

「ユーリ・・・。わかった、ありがとう」

「それから・・・。この任務が終わったら、レイ様に聞いてもらいたい話があるんです。いいですか?」

ユーリの真剣なその表情に、こんな時だが、どうしようもない愛しさが込み上げてくる。まだはっきりとした返事も貰っていないうちからユーリをこの胸の中へと囲いこみたくなるが・・・。
今は一刻を争う為、自分の想いはグッと胸に押し込めユーリにもちろんだと一つ頷くと、俺もユーリの目を力強く見つめ返す。

「万が一、不測の事態があればすぐに退いてくれ。無茶はしないように」

「はい、レイ様もくれぐれもお気をつけて」

俺はユーリに不安を与えないよう笑顔で頷き返し、すぐさま背を向け駆け出した。
魔獣α《アルファ》の話を聞いてから感じている嫌な感じはまだ続いているが、ユーリの顔を見て、声を聞いて、力は俺の中にいつも以上に漲っている。

早くこの騒動に決着をつけ、ユーリとゆっくり話をしたい。その為にも、魔獣α《アルファ》の脅威を何としてでも退け、対処しなければーーー。






「団長!」

俺が足早に団長室に入ると、既にバジルは団服に装備を身に付け、部下に指示を飛ばしていた。

「団長。例の魔獣が王都近郊に迫っているとたった今報告が・・・」

「あぁ、俺も伝令を受けた。待たせてすまない。すぐに予定していた殲滅作戦に入る。それぞれのパーティーへの指示はどうなっている?」

俺はバジルを横目に自分の装備を身に付け、現在の状況を確認する。

「はっ。報告を受けてすぐ全てのパーティーに出撃準備を指示し、まもなく魔道士たちと合流後すぐに王宮を出発できるよう手配は整っています」

「わかった。では俺もすぐに出よう」

俺自身も準備を整え、バジルと共に王宮の門前広場へと足を向ける。集まっている各団員にそれぞれ作戦の最終確認をしていると、向こうからセリエ魔導士団長が俺の元へとやってきた。

「バスティード師団長、今回の魔獣α《アルファ》は未知の魔獣です。くれぐれも気をつけて。私は王都の護りでここを離れられませんが、何かあればそちらに同行するマティスを頼って下さい」

「セリエ団長・・・ありがとうございます。魔獣にこの国を好きなようにはさせません。必ず国民が多くいるこの王都近郊に至るまでにヤツを討ってみせます。もちろん油断はしません。何しろ今まで我々が対してきた魔獣たちとは何もかもが違うのですから」

俺の言葉にセリエ団長は大きく静かに頷いた。

「えぇ、あれから私も記録書や過去の書物を調べましたが、あまりに昔のことなので、今回の魔獣α《アルファ》に似た個体についての詳しいことは結局わからずじまいで。今日までに何か少しでもヤツの弱点に結びつくようなものが見つかれば良かったのですが・・・」

「弱点・・・」

いつも冷静沈着なセリエ団長には珍しく、少し苦々しそうに言葉を発する側で、俺は瞬間的に過去の映像が頭の中を過ぎっていた。




『・・・危ない!?』

『・・・見える・・・!!』

『それが・・・・・・だ』

『ハハハハハッ・・・・・・素晴らしい!』





「バ・・・ティード師団長?」

「・・・・・・」

「バスティード師団長!」

「!?」

俺は名前を呼ばれ、ハッと今の状況を思い出す。

「セリエ団長・・・。失礼しました、少し思うところがあり、考えがそちらへ。いけませんね、気を引き締めます」

「いえ。・・・バスティード師団長、あなたは・・・」

セリエ団長は俺を正面から見つめ、何かを探るように一瞬場の空気が止まった感じがした。

「っ?!あの・・・何か?」

「あぁ、いえ・・・」

セリエ団長が言葉を発すると同時に、すぐさま何もなかったかのように場の空気が流れ出す。

「すみません。私も少し思うところがありましてね。ただ、今はゆっくり話をする時ではありませんので、あなたとはまた改めて話をしましょう。・・・ユーリィについても」

「!!・・・・・・わかりました」

ここで思いもよらずユーリの名前が出て、少しばかり驚いたが、確かに今はゆっくり話ができる状況ではないので、俺は言いたい言葉を飲み込んで、セリエ団長と最後の挨拶を交わす。

「では、我々は行きます。こちらはどうかお願いします」

「えぇ、そちらも皆んな無事で」

俺はちょうど馬をひいてきてくれた部下から手綱を受け取り、すぐさま愛馬に跨り先頭へと馬首を向けた。
まだ若干先程の過去の映像が頭に残っていて、今もずっと感じている嫌な感覚が俺を搦め捕ろうとするが、それを一気に振り払うように俺は馬を駆け、大勢のパーティーを率いて魔獣α《アルファ》がいる王都郊外を目指して王宮を出発したのだった。


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