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第6章 魔獣殲滅作戦
55. 決めたこと(ユーリ)
しおりを挟む俺は今、夢でも見ているんだろうか?
俺の視界にはたった今会いたいと思い描いた人がいる。
そう、レイ様だ。
世の中、そう簡単に願ったことが叶うのなら苦労はしないのだが、いやにリアルな夢で自分がどれだけ彼に会いたかったのかを思うと心の中で苦笑した。
(あぁ、でも夢でも嬉しいな・・・)
俺はそんなことを思いながらボーっとしていると、レイ様が隣にいた団員の人と別れてこちらに近づいてくるのがわかる。
(・・・ん?本当にリアルなんだけど。レイ様がどんどんこっちへ・・・って、え?えっ?!えぇ!!?)
俺が驚いていると、レイ様が声をかけてきてようやく俺はこれが現実のことなんだと理解した。
「レ、レイ様!おはようございます!すみません、俺まさかこんなところでレイ様に会えるとは思わずビックリしちゃって。ちょっとボーっとしちゃってました!レイ様もその、お元気そうで何よりです・・・」
最後の方はちょっと尻すぼみになってしまった。恥ずかしい・・・。こんなところで、夢なんか見るわけないし、ボーっとしてるところを普通にレイ様に見られてしまった。穴があれば入りたい・・・。
俺は自分にあきれながら、恥ずかしさの為にレイ様の顔が見れずに下を向いていたところ、レイ様が心配そうに声をかけ俺の右腕にそっと手をそえてきた。
その突然の行動に、油断していた俺はビックリして、極端に体を震わせてしまった。
その瞬間、あっ!と思ったが後の祭りだ。案の定、心配性のレイ様の鋭い視線が飛んでくる。
「っすまない!まさか、怪我をしているのか?大丈夫か?」
「あっ・・・いえ、すみませんレイ様!!大丈夫です!怪我もしてませんし、元気です!その・・・さっきまで訓練をしていたんで、ちょっと過敏になってるんだと。ほんとすみません」
俺は素直に謝って、レイ様の顔を見上げる。まさか自分でもここまで過敏になるとは思わなかった。
咄嗟に訓練のせいにしたが、レイ様を本当の意味で意識しだした途端にこんな反応をしているようでは、この先大丈夫だろうかと自分で自分を心配する。
そんなことを考えている内に、俺は久々にレイ様に会えたことに動揺して先日の俺の失敗についてレイ様に直接お詫びをしていなかったことに気付き、あわてて謝罪しようとしたのだが・・・。何故かレイ様からストップがかかった。
何だろう?と不思議に思っていると、レイ様が俺の頭を優しくポンポンとなでてくれる。
(あっ・・・これ好きだなぁ・・・)
レイ様の行動に少しうっとりしていると、レイ様から思わぬ発言が聞こえた。
(・・・ん?お互い久々に会えて嬉しい?)
もちろん嬉しい。すごく嬉しい。サプライズみたいで嬉しい。けど、レイ様の小声で囁くように言ってくるセリフに何故か色気を感じる。俺は少し思考を停止してレイ様を見ると、いつもの柔らかい笑みではなくイタズラが成功したようなちょっと意地悪そうな笑みを浮かべるレイ様と目が合った。
「ふぇっ?!」
あまり見ないレイ様の色っぽい眼差しを受けて動揺した俺は思わず変な声をあげてしまう。俺の心臓はバクバクだ。だがそんな俺を見てレイ様は楽しそうに微笑んでいる。
その時点で、レイ様にからかわれたのだとようやく理解した俺は少し膨れてみたが、レイ様の笑顔を見ているとそれも長続きしない。惚れた弱みとでも言うのだろうか?レイ様が笑っていると俺も嬉しい・・・。
レイ様とラスティをまた一緒に食べる約束をして上機嫌な俺は、今こそここ数日会えないまま言えなかった俺の思いを打ち明けようとレイ様にさらに歩み寄った、その時―――。
「バスティード師団長っ!!」
焦ったように遠くからレイ様を呼ぶ声が聞こえた。
俺とレイ様は同時に声がした方向を向くと、そこには王宮からの緊急時の伝令役の者がこちらに向かって急ぎ走ってきていた。その緊迫した様子から嫌な予感がしたが、伝令役からもたらされた報告は案の定、例の魔獣が我が国に入り込みこちらに向かって来ているという危機的状況であった。
そしてそれは同時に予定していた魔獣殲滅部隊の派遣を意味する。
「ッ!レイ様・・・!!」
俺は息を呑み、レイ様を凝視する。任務とは言え、これから危険な場所へと行かねばならないのだ。レイ様がとても強いのは理解しているのだが、こういう場面に慣れていない俺はレイ様のことが心配でたまらない。俺が不安気にしている間に、伝令役と別れたレイ様は俺の方へと視線を移した。
「ユーリ、すまない。せっかく会えたのにゆっくり話も出来ず。今聞いた通り、殿下からの命令が下った。魔導士たちも予定通り我々と共に戦うことになるだろう。ユーリのパーティーは後方支援と聞いている。今回の任務では我々先陣が、後方に魔獣が進行することが万が一にもないように力を尽くすが・・・」
「レイ様っ!」
俺はレイ様の言葉を聞いて、話の途中で思わず声を出した。
危険な任務。しかも今回は得体のしれない魔獣がいるとの噂だ。かなり気を張った戦いとなるだろうことは目に見えている。それなのに、レイ様は後方支援で赴く俺のことを心配し、俺を安心させようとしている。
前から思っていたが、レイ様は本当に過保護だと思う。けど、俺は護られるだけの存在では嫌なのだ。自分がどれだけ他の魔導士たちと比べて力がないかはわかっている。
それでも、俺は決めたんだ。
レイ様が好きだ。レイ様のそばにいたい。そのために、今すぐレイ様の力になれなくても、レイ様の負担にだけはならない。今すぐレイ様の役に立てなくても、何の気兼ねもなく任務に集中できるよう俺がレイ様の心を支えていこう、と。
だから俺は、レイ様の不安を取り除くように言う。
「大丈夫です。俺もこの王宮、ひいてはこの国を守る魔導士です。決して悪意あるもの、人々を危機に陥れるものに屈したりはしません。だから、どうかレイ様は目の前の事に集中して、無事に任務を遂行して下さい。俺ではあまりお役に立ちませんが、後方支援として少しでもレイ様たちの負担を軽減できるように努めます」
一思いにそう伝えると、一瞬少し驚いたような表情をしたレイ様だったが、すぐに笑みを浮かべ俺にありがとうと応えてくれた。それを見てほっとした俺は、その勢いで問いかけた。
「それから・・・。この任務が終わったら、レイ様に聞いてもらいたい話があるんです。いいですか?」
俺は真剣な表情でレイ様の顔を見上げる。レイ様は何か考えるような様子を見せながらも、深く頷いてくれた。レイ様の力強い目が俺を捉える。
「万が一、不測の事態があればすぐに退いてくれ。無茶はしないように」
「はい、レイ様もくれぐれもお気をつけて」
俺はそう言って、レイ様を送り出す。笑顔で再び深く頷いたレイ様は、俺に背を向け急ぐように去って行った。俺はその場でしばらくレイ様が去って行った方向をジッと見つめ、この先に待っているであろう戦いでどうかレイ様が無事に怪我もなく戻ってこられるようにと想いを送る。
そうしてすぐに俺も踵を返し、魔導塔へと急ぎ足を運ぶ。レイ様のところに伝令が来たということは、魔導塔にも既に連絡が来ている頃だろう。俺は気を引き締めて、これからの戦いに向けて意識を集中させたのだった。
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