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第6章 魔獣殲滅作戦
57. 不思議な感覚 (ユーリ)
しおりを挟む「ユーリっっ!!」
「ユーリィィ!!」
すぐそばで魔獣の唸り声が響く中、レイ様と先輩の叫び声が聞こえた気がするが、俺は構わず掴んでいた少年の腕を引き、グイッと少年の身体を懐に引き寄せた。
その瞬間、俺の腕に熱が走ったがそのまま少年を抱えて地面を転がり、魔獣との距離を取る。
バッと顔をあげると魔獣はレイ様と先輩が剣と魔法でその場に抑えていた。だが、魔獣はそれを振り切らんと絶え間なく咆哮をあげ続けている。一瞬たりとも油断出来ない状況だ。俺はさらに魔獣から距離を取りつつ少年に声をかける。
「キミっ!大丈夫?怪我はない?」
怖い想いをしたであろう少年に優しく問いかけるが、少年からの返答はない。怖くて声が出ないのか、それともやはりこの少年には何かあるのか・・・。表情を窺うと俺はあることに気が付いた。少年の目に生気がないのだ。まるで感情が抜け落ちてしまったかのような表情。ふと、この子を助ける前の状況を振り返る。魔獣が唸り声をあげながら迫っていたにもかかわらず、この子は悲鳴一つあげずそれどころか逃げようとする素振りすらなかったのだ。
(この子は一体?・・・この子に何が起きてるんだ?)
疑問は次々と湧いてくるが、残念ながら悠長に考えている時間はない。ひとまずこの子が正気に戻るかどうか、目線を合わせてもう一度声をかける。
「ボク?大丈夫だよ。俺の目を見て」
俺は優しく、声をかけながら少年の目をしっかり覗き込む。俺に相手を正気付かせる能力なんてものはないが、無意識にこうしたらいいんじゃないかと思い声をかけ続ける。
「大丈夫。君を縛るものは何もない。君は自由だ。戻っておいで」
俺が尚も少年の目をジッと見つめていると、少年の目の焦点が徐々にだが合いだした。周りが緊迫した状況の中、ここにジッとしているのは良くないのだが、あと少し。あと少しだけ・・・。
「うっ・・・・・・お兄ちゃん、誰?ここは・・・?」
少年は訳がわからない様子で辺りをキョロキョロと見渡す。
(良かった!正気に戻った!)
俺はホッとしながら少年に応えた。
「ここは町外れの森の中。俺は魔導士で、名前はユーリィ・ブランシュ。ゆっくり話をしたいんだけど、今はすぐにここを離れなくちゃいけないんだ。君を家まで連れて行ってあげるから、家に帰るまでもう少し我慢できるかな?ここは怖い魔獣がいるからね、俺達はここへ怖い魔獣を退治しに来たんだ」
「まじゅう?・・・・・・っ!!そうだ!!パパとママが怖い魔獣が来るから逃げるぞって皆んなで家を飛び出して、町の人達と逃げてる途中に僕だけパパ達とはぐれちゃったんだ!でも何で僕、ここに・・・?」
グォォォォォオオオオオッッ‼︎‼︎
「っ!?」
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
魔獣のこれまで以上に大きな咆哮にそちらを振り向いた少年は魔獣の姿を見て悲鳴をあげ、パニックになりその場を駆け出そうとする。だがすぐさま俺は少年の腕を再度掴んで引きとめた。
「ゔっ・・・!」
その瞬間、咄嗟に少年の腕を掴んだ自身に激痛が走り、俺はその場に膝をつく。見ると、右腕が広範囲で切り裂かれ血が流れていた。おそらく先程少年を魔物から守った際についた傷だろう。さっきまでは少年に気を取られ、痛みに意識がいっていなかったようだ。
「お兄ちゃん、血が!?」
「大丈夫。これぐらいはすぐに治るから。それより、怖いだろうけど俺から離れないで。この森は今、魔物がウロウロしているから一人じゃ危険だ」
俺は痛みに耐えながら立ち上がり、魔獣から離れるため少年を安全なところへ誘導するように走り出した。
「こっちへ!」
魔獣はレイ様と先輩がなんとか抑えてくれているが、二人とも相手に致命傷を与えられずに苦しい闘いとなっている。魔獣α《アルファ》は話では急所が普通の魔獣と違い、身体のどこかに隠されているとか。
(奴の正確な急所さえわかればっ・・・!!)
後ろ髪を引かれるが、今はこの少年の安全を確保しなければならない。そうして少年を連れ少し走ったところで、俺は見慣れた人物を発見した。アランだ。その他にもアランのパーティメンバーの姿が見える。どうやら不測の事態が発生したので、後方支援パーティを守る為に、その中でも力のあるアランのパーティが後方支援区域から少し前線側に出てきていたようだ。
「アランっ!!」
「・・・なっ!?ユーリィ?!!どうしてこんなところに!」
俺は少年と共に心底驚いた様子のアランのもとへと急いで駆け寄る。自分よりも後方にいると思っていた俺が前線から来たことにアランは動揺しているようだが、今はゆっくり説明している余裕がない。
「アラン!お願いだ、この子を安全なところに避難させてほしい!」
「避難って、この少年は?というか、ユーリィきみは一体何を・・・ってユーリィ!?腕がっ!!」
流石のアランも状況が掴めずに焦っているところへ、俺の腕の傷に気がついたようでいつも冷静なアランが珍しく声を荒げている。まぁ、俺も魔獣α《アルファ》に遭遇して若干パニック気味だったので人のことは言えないが、俺にとって今は自分の傷より何より、この少年の保護と、それから・・・。
「アラン、俺は大丈夫。それよりお願いだ、早くこの子を安全な場所へ。両親とはぐれたようで森の中を彷徨っていたんだ」
「あぁ、わかった。わかったから、まずはその腕の治療を・・・」
「ありがとう、アラン!!」
「って、おい!ユーリィ!!どこへ行くんだ!?」
俺はアランに少年を預け、その足で再びレイ様達のいるところへ駈けもどる。
「待て!ユーリィっ!!」
後ろでアランが叫んでいるが、俺は構わず前を向いて駆けていた。腕の傷はひとまず持っていた布で縛って止血する。俺の気持ちはもうレイ様のところへと向いていた。
魔獣α《アルファ》は恐ろしい。見た瞬間に、これはマズイものだと本能的に理解した。だが、それと同時に何か自分に引っかかるものを覚えたのだ。
もしかして俺は奴を知っているんじゃないか?
もしくは似たようなものを見たことがあるような・・・?
そんなデジャヴのような不思議な感覚を俺は肌で感じていた。普通に考えれば気のせいだと誰もが言うような内容だが、今はどんな些細なことでも突破口に繋がる可能性があるならばと俺は走りながら、感じたままに心を集中させる。
何か・・・、あと少しで手が届きそうな感じがするのだがそのあと少しが見えて来ない。
(何かあるはずだ・・・。必ず魔獣α《アルファ》を倒す、何か鍵が!)
そうしてレイ様のところへ走りながら、未だ見えない感覚の先に、ただただ焦燥感だけが俺の心を支配していた。
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