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第7章 通じる想い
65. 帰宅 (ユーリ)
しおりを挟むレイ様がこの医務室を出てからかなりの時間が過ぎた。
その間、医師の先生が俺を診てくれて、特に異常はないのでこの後好きな時に宿舎に戻り、そちらで一日安静に過ごすように。
とか何とか色々言われた気がするのだが・・・。
今の俺にとってその記憶は定かではない。
というのも、俺の頭の中は現在レイ様が去り際に投下した爆弾(一秒にも満たないキス)によって多大な衝撃を受けてしまったからだ。
確かについさっき見た夢のように、濃密、ではないし、騒ぐほどのものではないのかもしれないが、自分で何度も言うように恋愛経験が皆無の俺としては、あんな甘い爆弾を身に受けて冷静ではいられないのだ。
『恋人として、これくらいのスキンシップは許して欲しい』
そう言ったレイ様の声も未だに頭を離れずにいる。
(俺、はやまったかな・・・)
もちろん告白したことに後悔はしていない。もうこの気持ちを秘めておくことなんて出来なかったし、レイ様と心が通じて、こんなに幸せを感じることが出来るなんてこの“恋”を知るまで思いもしなかった。
でも・・・、あのスキンシップに慣れるかどうかは自信がない。
(・・・あ~、これじゃぁレイ様に呆れられちゃうかも)
レイ様のことだから、決して俺の嫌がることをしてきたり無理強いすることはないだろう。でも恋人同士になったんだから、そりゃぁ相手に触れたいっていうのは当然の心理だ。だからこそ、レイ様はこれくらい許して欲しいって言ってきたんだから。
俺だって男だから、好きな相手に触れたい欲求はもちろんある。逆に触れられるのも、好きな相手ならそれはとても嬉しいことだ。
そう、嬉しいから困る。
きっとレイ様は、これから今まで以上に俺を甘やかすに違いない。“覚悟してくれ”って言葉はそういう意味もあったんじゃないだろうか?
俺は・・・嬉しいから、拒めない。慣れなくて恥ずかしいけれど、心の底ではもっともっとと叫ぶ自分がいるのも否定出来ない。
そうして、あっという間にレイ様の甘さに周りが見えなくなるくらい溺れてしまうかもしれない・・・。
しかも、レイ様に言われるまで“恋人登録”なるものの存在をすっかり忘れていた。
というか、宿舎に入る時に色々説明は聞いたのだが、あの時はまさかこの職場で自分に恋人が出来るなんて思いもしなかったから、普通に「へ~、そんな制度があるんだ」くらい軽い気持ちでしか聞いていなかった。
まだ・・・、まだ先の話だけどいつかは俺の部屋でレイ様がーーー。
「ユーリィ!」
「わぁぁっ!?」
自分でも恥ずかしい妄想に捕らわれそうになっていたところへ突然声をかけられて、俺はその場で飛び上がらんばかりに大きな声を出してしまう。
「うぉ・・・っとすまない。ビックリさせて」
「あっ、いや、こっちこそごめん。変な声出しちゃって」
「もう大丈夫なんだな?ユーリィ」
そう言って心配顔で声をかけてきたのは、アランだった。どうやら、俺の目が覚めたことをいち早く聞いて駆けつけて来てくれたらしい。
「うん、心配してくれてありがとうアラン。色々迷惑かけてごめん」
「いや、迷惑なんてかかってない。ユーリィが無事ならそれでいい」
アランは改めて俺をジッと見つめて、本当に大丈夫そうだと判断したのか安心したように表情を緩める。そしてすぐに今度は眉間に皺を寄せて少しきつい調子で俺に抗議を始めた。
「ユーリィは本当に無茶をする。前線で、しかも魔獣α《アルファ》と対峙して倒れたと聞いた時は、血の気が引いた。ユーリィを探していたのに、突然僕の前に現れたと思ったら、よくわからない少年を置いてまた駆け出して行くし。あの時、混乱したとはいえユーリィを行かせてしまった事に僕がどれだけ後悔したかっ・・・。一体何があったか最初から説明してもらうからなっ、ユーリィ!」
久々に感情をここまで露わにするアランに、俺はちょっと押されながらも、ここまで心配をかけてしまったのは事実なので、俺は反省も込めて先程レイ様に説明したように自分自身に起きたことをわかる範囲で話をした。
「・・・・・・」
「と言うわけで、俺もどうしてあぁいう状況になったかはわからないんだけど、とにかくあの少年だけは何としてもあの場から早く保護してあげたかったんだ。アラン、無事にあの子を家に帰してくれて本当にありがとう」
アランは俺の話を聞いて、腕を組みながら何やら色々考えている様子だった。何か今の話で気になることがあったのだろうか?
「アラン?」
「あぁいや、何でもない。少年は怖がってはいたが、ユーリィから預かってからちゃんと僕たちに対しての受け答えもしっかりしていたし問題はなさそうだった」
「うん。無事に家に戻ってからも特に問題ないって聞いたし、本当になんだったんだろう?あれも魔獣α《アルファ》の影響だったのかな?」
「う~ん、その辺はまたこれから考えないといけないかもな。また同じようなことが起こる可能性だってあるわけだし。あの後方での異常事態といい、どうしてユーリィにだけ不思議な現象が起きたのかも謎だし・・・。って、ユーリィ。医務室から出ていないのに、よく少年のその後を知っているな?ユーリィのことだから僕に1番に聞いてくるかと思ったのに」
アランが不思議そうに聞いてきて、俺は再びレイ様のことが頭に浮かぶ。それと同時に、また爆弾投下時のことも思い出し、当然顔に出てしまったようで、それだけでアランはすぐに理解したようだった。
「あぁー、すまない。考えたらわかることだった。あのバスティード師団長がユーリィが目覚めてすぐに来ないわけないよな」
アランは当然のように、うんうんと頷いている。
「あっ、うん、そうなんだ。レイ様から話を聞いて・・・」
俺がソワソワしながら答えると、アランが苦笑いをした。
「その様子からすると、ちゃんと伝えられたんだな?」
「!?えっ!あっ・・・?!うっ・・・・・・うん・・・」
俺は顔を真っ赤にして俯いた。今日は目が覚めてから、これの繰り返しのような気がする。
「あの・・・、ありがとうアラン。この間は相談にのってくれて。あれで俺、勇気が出たから、レイ様に今の俺の正直な気持ち伝えられたと思う」
「そうか。まぁ僕は別に何もしていない。行動したのはユーリィだからな」
「うん、でもありがとう」
俺が顔を上げて、アランに笑顔で礼を言うとアランも照れくさそうに笑って返してくれた。
「さて、ユーリィの元気な顔も見れて、話も聞けたことだし僕は宿舎に戻るけど、ユーリィは?今日はまだこのままここに?」
「あっ、ううん。俺も宿舎に帰っていいみたいだからこれから帰ろうと思って」
「じゃぁ、一緒に帰ろう」
アランがそう言って、俺がベッドから降りるのを待ってくれる。
「うん。あっ!でも、帰る前にセリエ団長のところに今回の報告と仕事に穴を開けてしまった謝罪に寄って行こうと思うんだけど・・・」
「あぁ、それなら明日でいい」
「え?」
「ユーリィの目が覚めたって言うのはマティス副団長から聞いたんだけど、団長も副団長もこれから出かけるらしいから、もしユーリィがそうことを言い出したら、今日はゆっくり休むようにって副団長が言ってたよ」
「そうなんだ。わかった。じゃぁ今日はこのままアランと真っ直ぐ宿舎に帰るよ」
「うん。じゃぁ行こう」
そうして俺はベッドから降りて医務室を出て、アランと一緒に宿舎へと向かった。
流石に体調は良いとはいえ、しばらく寝たままだったせいで体力が少し衰えてしまったようだったが、歩けないという訳ではないので、アランに少しいつもより歩調をゆっくり目にお願いして、俺は魔獣α《アルファ》殲滅作戦開始日からようやく自分の部屋に戻ってきたのだった。
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