魔王ですが、勇者に断られたので世界を滅ぼします

玻璃跡 紗真

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第八話 思いがけない出来事

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 次の日、アネモアを連れ王国から離れた草原で大規模魔術の教えを受けていた。

破滅なるトゥルボー・大竜巻カタストロフィー!」

 詠唱と共に昨日、王国を襲った大竜巻と同等以上のものが発生する。

「うそ……」

 信じられないものでも見たように、隣のアネモアが呟く。

「こんな感じであってる?」

 昨日の約束通り大規模魔術の教えを受け、物は試しに唱えたが、我ながら上手くできた気はしている。

「合ってるも何も完璧すぎて何も言えない……」
「流石です。フィア様」

 アネモアは驚き、グレイシーは当然だというように声を掛けてくる。

「あたしの苦労した魔術が……こんな簡単に……」

 この魔術に絶対的な自信があったのか、アネモアは虚ろに呟いている。
 もしかしたら悪いことをしたのかもしれない。そう思い、フォローに入る。

「アネモアの教え方が上手かったから、こんなに早くできたのよ」
「学校ではどれだけ教えても誰もできなかったのに……」
「あっ……えっと……その子たちにはまだ早すぎたんじゃない?」
「あたしより年上の人がいっぱいいたのに……?」
「……」

 返す言葉を失ってしまった。
 彼女はその中でも特別であったのだろう。そしてその特別であった自負プライドを一瞬にして壊されてしまったと。
 落ち込むのも頷ける。が、

「もう比較するのはやめなさい。
 私と比較したって勝てる訳ないじゃない」
「それは、そうだけど……」

 そもそも一人間が、魔族の王として百年以上君臨し続けた私と比較して勝てる訳がないのだ。才能は勿論、研鑽した年月が違いすぎるのだから。

「人間であるアネモアには人間だからできることが、魔族である私たちには魔族だからできることがある。それだけの話。悲しくなる必要なんてない。違う?」
「確かにそうだけど……」

 納得はできるけど。といった歯切れの悪い返答。
 届かないものに夢を見、追いかけ続ける諦めの悪さは人間の美徳であるが悪徳であるともいえる。

「それでも悔しいと思うなら、自分をさらに高めなさい。
 魔術体系を確立し、発展させてきたのは貴女たち人間なのだから、自信を持たなくてどうするの?」

 魔術の発展。それは魔法しか使う必要のない魔族には、できないこと。
 異質である私ならできるかもしれないが、個人では限界がある。彼女たち人間という種だからこそ、発展させられるものがあるはずだ。

「確かに、言う通りかもしれない。分かったわ」
「魔術の発展。楽しみにしてるわね」

 どんな発想で、どんな魔術が誕生していくのか。どんな進化を遂げていくのか。
 彼女たちが紡いでいくであろう軌跡に思いを馳せていると、

「フィア様。お時間です」
「もう、そんな時間? 意外と早かったわね」

 グレイシーが旅立ちの時間を告げたことで、話に終止符が打たれた。

「それじゃあ、またね」
「うん。色々と複雑だけど、上手くいくことを祈ってる」

 そうしてアネモアと別れ、ノルトオステンを後にした。

--- ---

 ノルトオステンを旅立ってから、一日が経ち。
 次の国が視えてきそうかという頃。

「フィア様。右前方の山を越えた辺りが何やら騒がしく感じます」
「祭り……な訳ないか。確認だけしてみましょう」

 グレイシーの報告から何かあるのは間違いないが、何があるのか。
 面白いものであればいいなと思いながら、飛行進路を少しずらし前方の山を越える。
 すると何かが見えてきた。

「あれは……戦ってる?」
「そうですね。戦争でしょうか」

 ざっと三百人程の中隊だろうか。それが後退する五十人程の小隊を追いかけていた。
 追い詰めている中隊は騎兵や魔術隊などで堅実に攻めていく。しかし、小隊も黙っている訳ではなく撤退しながらも魔術や罠を駆使し、反撃しているが全滅は時間の問題に見える。

「どうされますか?」
「人間同士の戦争は普段見ることないし、興味があるからもう少し見学していくわ」

 同族どうしで争うのはどこも同じなのだなと思いながらも、戦争という名の虐殺を見学していると、

「はぁ……」

 思わず溜め息を零しながら、魔法陣を展開する。
 水の障壁を創り出し、即座に<虚飾の錬金>で厚い金属へと変換することで、飛来した矢を金属板で阻む。

「どちら様かしら?」

 逃げる小隊か、追い詰めている中隊か。
 考えるまでもなく、眼下に見える中隊がこちらに矢を番え、魔術を展開していた。

「大人しく人間同士で戦っていれば済むものを……仕掛ける相手を間違えたわね」

 魔法陣展開――しようとした瞬間。
 眼下の中隊目掛けて銀が線を描くように落下した。
 言わずもがなグレイシーである。
 血しぶきが華麗に舞い、銀閃は踊るように中隊の中を駆け巡る。その様相に驚き、動揺が伝播していくが、理解するころには誰もが地面の上で転がっていることだろう。

「怯むな! 陣形を立て直せ!! 
 魔術隊は後方へ。重装歩兵は魔術隊の前へ!」

 指揮官らしき者が的確に指示を飛ばしているが、陣形など圧倒的な力の前には虚しく。
 並べられたことが仇となり、グレイシーの仕留めていく速度がさらに加速しただけだった。

「我ら、ラーミナ帝国軍。たかが一人相手に負ける訳にはいかぬ! 命に替えても仕留めろ!!」
「おう!!」

 将と思しき男が声を上げ、それに兵が応える。
 それだけで軍は失い掛けていた士気を取り戻した。
 しかし、立て直すには既に遅く。部隊の半数は骸と成り果てていた。

「ひッ……!」

 中には目の前の惨状に恐怖し、部隊を離れ逃げ出し始める者もいたが。

「逃げれるはずないでしょう? 死ぬ覚悟がないなら戦場に出てこないことね」

 魔法陣を展開し、逃げ出した兵目掛けて水弾を撃つ。
 高速で撃たれた水は<虚飾の錬金>で金属に変わり、敗走兵の頭蓋を果物のように砕いた。

 そうして少しの時間が経ち、順調に数を減らしたことで残りは中隊を率いていた将と三人の兵士だけとなった。が、それも一瞬にして斬り捨てられ、死体の山に残る異物は将だけとなった。

「女? そうか。これをやったのは貴様だな……。
 なんという失態か!」
「……」

 血に塗れた剣を握るグレイシーをようやく視認することができ、状況から理解した男はそう零す。

「我ら帝国に敗北はない。それ故に敗者に名乗る名はなし! 受けて貰うぞ、我が剣を!」

 自身を鼓舞するかの如く大声で告げ、男は剣を構えた。
 無闇に動けば死は必定。
 同じ武人であるからこそ分かるのか、グレイシーが動くまで男は決して動かない。

 そうして永遠にも思えるような睨み合いの末にグレイシーが動く。
 刹那、男が認識するよりも早く斬りこんだ。が、それを男は直感で動くことで躱した。
 ほんの一瞬、僅かに生まれた隙を男は見逃さない。
 すかさず斬りこみグレイシーを両断する――はずだった。

 次の瞬間。

 斬りこんだはずの男の腕は宙を舞い、鮮血をまき散らす。

「あっ……あぁ゛あ゛!!」

 何が起きたのか男が理解する暇はなく。

「あぁーー……」

 銀閃は痛みに絶叫する男の首を撫でた。
 辺りに響いた断末魔は止み、切り離された頭部の落ちた音が戦いに終わりを告げた。

 帝国と名乗っていた中隊はこれにて全滅。

「お疲れさま」

 地上に降り、紅く染まった大地で佇むグレイシーに声を掛ける。

「お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「あれぐらい大したことないわよ」

 グレイシーの方が仕事量が多かっただろうに。

「フィア様。
 この方々は帝国軍と名乗っていましたが、どうされますか?」
「帝国軍か。全員殺しちゃった訳だしね」
「はい」

 中隊を全滅させたことで敵対した。と言えなくもないが。

「敗残兵は残さなかったし、バレないでしょ。多分」
「そうですね。そうなることを祈ります」

 これが露見すれば帝国との衝突は避けられない。
 だが、他国を侵略している国と仲良くできる気がしないのも事実。
 別に敵対してもいいか、仕掛けてきたの帝国あっちだし。と思い始めていると、

「フィア様。あちらの人間はどうされますか?」

 グレイシーの指す方向から、先ほど帝国軍から追われていた小隊が近づいてきていた。

「こっちに来ているみたいだし、あちらの出方を見てみましょう」
「分かりました」

 そうして、やってきた小隊は十五人ほどにまで減っていた。

「助けて頂きありがとうございました」

 小隊の代表と思しき男が一歩前に出て礼を口にした。

「よい。偶然、通りかかった故な。
 して、其方らは何者か?」
「私どもはアルウェウス王国の兵士で、私は小隊代表のモーリスと申します」

 黒髪に褐色の肌の男はそう名乗った。

「モーリスか。よいな名だ。我が名はフィア・えー……。よろしく」

 ここで魔王だと宣言するのは面倒になりそうだと気づき、強引に紹介を終える。

「……? フィアさんですね。よろしくお願いします」

 なんとかバレなかったらしい。そんなことを思いながら、モーリスの言っていた国について考える。

 アルウェウス王国は確か。
 軍事力は他国に劣るが、四方を山々に囲まれた天然の要塞に守られた国であったはず。
 国土はそれほど大きくはないが、安定した国であると資料に書いていた。
 グレイシーに叩き込まれた事前知識を思い返していると、モーリスが現状について説明を始める。

「それで私たちが帝国軍と争っていた理由ですが。
 近年、力を付けた帝国が近隣諸国を呑み込んでいっていまして。それが我が国アルウェウス王国にまで及び、日に日に激しくなる帝国の侵略に抵抗していました」
「なるほどな」

 侵略に抵抗。
 聞こえはいいが、戦力の差が如実に表れていたことから戦争と呼べるのか疑問ではある。
 だが未だに帝国が攻め落とせていないことを見るに、四方を囲む天然の要塞が相応に厄介であることの現れでもあるのだろう。
 そんなことを分析していると、モーリスから思いがけない提案がされる。

「お礼がしたいのでフィアさんたちを我が国へ招かせて頂きたい」
「よいのか?」
「何をおっしゃいますか。恩人に礼もせず返しては我が王に怒られてしまいます」

 善意なのか、罠なのか。
 どちらにせよ。今まで面倒な手順を踏んで城内に踏み入っていたが、そんなことをせずとも国王に会えるかもしれない。
 そう考えれば、断る理由などなかった。

「ではお邪魔するとしよう」

 そうして思いがけない出来事から、アルウェウス王国に向かうこととなった。
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