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決意
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階下へ向かうエレベーターの中で一人、唇を噛む。
(一人で舞い上がって、バカみたいだ...おれ)
多分ZEROさんがおれにした提案は、失ってしまった【クロ】って人の体温を、おれで代用するためのものだったんだ。
(“おれ自身を見てもらう”なんて、最初から“代用品”としてしか必要とされていないのに、有り得ない望みだったな...)
胸を刺す痛みは、それでもまだ諦めたくないと叫ぶ、おれの恋心だろうか。
(初恋は叶わないって...よく聞くもんな...)
こんな気持ちになっても、ZEROさんが一言「泊まりにおいで」と電話で...あの声で囁いたら、バカなおれはまた、彼の元へ...少しの期待を抱いて、行ってしまうんだろう。
(恋って、怖いな...。本当に盲目になっちゃうんだ....)
エレベーターが受付の階に着き、気落ちしているおれは美しく磨かれた床を眺めながらトボトボと歩いていると、背後から切羽詰まった声で、名前を呼ばれる。
「櫻!」
「!?」
まさかZEROさんがおれを追ってくるなんて、思わなかった。
(そんなに、クロさんの面影を求めてるんだ...)
そう思ってしまうと、嬉しさより悲しみで心が重く沈んでいく。
「話をさせて」
「....もう、充分解りました。ZEROさんが大事になさっていた方に、おれの雰囲気とか何かが、似ているんですよね?」
「それは...」
良い淀むZEROさんの態度で、(ああ、やっぱり)と、落胆が体の中に染み入る。
(代わりでも....1ヶ月は“おれが”傍に居て、良いんだ──)
初恋は叶わなかったけれど、初めて人を好きになったこの気持ちを、忘れたくない。
「...それでも、構いません。元々はおれたちの会社が持ちかけたことで、貴方は条件を出した。おれはそれを受け入れた。だから────」
(だから例え、一緒に居る間、貴方がおれを通して“おれじゃない誰か”を見ているとしても───おれは)
「もう、いい」
「え?」
「そんな泣きそうな顔をして、話さなくても良い」
指摘されて、初めて気付いた。目の前のZEROさんが、揺れる水の膜で滲んでいる。
(うわ、情けない...!)
「な、泣いてなんて...」
目元を袖口で強引に拭い、視界がクリアになったお陰で少し冷静さが戻ってくると、周囲がおれたちの言い合いに何事かと遠くから観察しているのが解った。
(このままじゃ、SNSとかにZEROさんの情報が載ってしまうかも知れない...!!)
「...人が集まって来ましたね。おれは泣いてませんから、どうぞお部屋に戻ってください」
「櫻を置いて行く訳ないだろ! 周りのことなんてどうでも良い。....あぁでも、SNSとかに櫻の顔が割れるのは嫌だな。ライバルが増える...」
「え?!」
(なんの心配をしてるんだ、ZEROさんは..)
冗談か本気か解らないことを言い、不機嫌そうに眉間に皺を寄せたZEROさんの表情もカッコ良くて、思わず見惚れてしまっていると、背後からコンシェルジュさんの声がかけられる。
「お客様。別途お部屋をご用意致しましたので、お話し合いにご活用ください」
「解った。ありがとう」
(凄い。いつの間に手配してたんだろ...)
コンシェルジュさんの仕事の早さに驚いていると、進言に礼を述べたZEROさんの手が、おれの腰に触れた。
(このままじゃまた、エスコートされて部屋までついていってしまう...!)
幾ら代用品として見られることに納得したと言っても、せめて1日くらいは【振られたんだ】って受け入れる時間が欲しい。
「ZEROさん。おれ今日はもう、帰りますから。離して下さい」
「悪いが、聞き入れられない」
「へ?」
腰を捕まれた、と思ったら...おれはお姫様抱っこスタイルで、ZEROさんに抱え上げられていた。
(────めっちゃくちゃハズカシイ!!!)
「ちょ、っ! ZEROさん、下ろして!」
「この体勢が嫌なら、肩に担ぐけど。そっちが良い?」
(それはZEROさんが誘拐犯みたいで外聞が悪いなぁ...)
俵みたいに担がれる自分を想像し、仕方なく...「このままで良いです」と承諾した。
「お客様、用意したお部屋は此方です」
コンシェルジュさんが先導し、エレベーターの階数ボタンを押す。
「どうぞごゆっくり」
恭しく頭を下げ、エレベーターの扉が閉まるまで見送ってくれたコンシェルジュさんの完璧な仕事振りを見せられて、おれも腹を決めた。
(逃げたところで、おれがZEROさんを好きなことは変わらない。ならいっそ、大人の体裁なんてかなぐり捨てて、叶わないと解っていても告白して、みっともなく木っ端微塵に振られてやろう!)
自分に惚れてる奴を、それでも“失った人に似ているから”と傍に置くのか、止めるのか。それはZEROさん次第だ。
下心を抱くおれを傍に置いても構わないと言うなら、腹を括って1ヶ月、振られた厚顔を引っ提げ、提示された条件をこなして見せよう。
(一人で舞い上がって、バカみたいだ...おれ)
多分ZEROさんがおれにした提案は、失ってしまった【クロ】って人の体温を、おれで代用するためのものだったんだ。
(“おれ自身を見てもらう”なんて、最初から“代用品”としてしか必要とされていないのに、有り得ない望みだったな...)
胸を刺す痛みは、それでもまだ諦めたくないと叫ぶ、おれの恋心だろうか。
(初恋は叶わないって...よく聞くもんな...)
こんな気持ちになっても、ZEROさんが一言「泊まりにおいで」と電話で...あの声で囁いたら、バカなおれはまた、彼の元へ...少しの期待を抱いて、行ってしまうんだろう。
(恋って、怖いな...。本当に盲目になっちゃうんだ....)
エレベーターが受付の階に着き、気落ちしているおれは美しく磨かれた床を眺めながらトボトボと歩いていると、背後から切羽詰まった声で、名前を呼ばれる。
「櫻!」
「!?」
まさかZEROさんがおれを追ってくるなんて、思わなかった。
(そんなに、クロさんの面影を求めてるんだ...)
そう思ってしまうと、嬉しさより悲しみで心が重く沈んでいく。
「話をさせて」
「....もう、充分解りました。ZEROさんが大事になさっていた方に、おれの雰囲気とか何かが、似ているんですよね?」
「それは...」
良い淀むZEROさんの態度で、(ああ、やっぱり)と、落胆が体の中に染み入る。
(代わりでも....1ヶ月は“おれが”傍に居て、良いんだ──)
初恋は叶わなかったけれど、初めて人を好きになったこの気持ちを、忘れたくない。
「...それでも、構いません。元々はおれたちの会社が持ちかけたことで、貴方は条件を出した。おれはそれを受け入れた。だから────」
(だから例え、一緒に居る間、貴方がおれを通して“おれじゃない誰か”を見ているとしても───おれは)
「もう、いい」
「え?」
「そんな泣きそうな顔をして、話さなくても良い」
指摘されて、初めて気付いた。目の前のZEROさんが、揺れる水の膜で滲んでいる。
(うわ、情けない...!)
「な、泣いてなんて...」
目元を袖口で強引に拭い、視界がクリアになったお陰で少し冷静さが戻ってくると、周囲がおれたちの言い合いに何事かと遠くから観察しているのが解った。
(このままじゃ、SNSとかにZEROさんの情報が載ってしまうかも知れない...!!)
「...人が集まって来ましたね。おれは泣いてませんから、どうぞお部屋に戻ってください」
「櫻を置いて行く訳ないだろ! 周りのことなんてどうでも良い。....あぁでも、SNSとかに櫻の顔が割れるのは嫌だな。ライバルが増える...」
「え?!」
(なんの心配をしてるんだ、ZEROさんは..)
冗談か本気か解らないことを言い、不機嫌そうに眉間に皺を寄せたZEROさんの表情もカッコ良くて、思わず見惚れてしまっていると、背後からコンシェルジュさんの声がかけられる。
「お客様。別途お部屋をご用意致しましたので、お話し合いにご活用ください」
「解った。ありがとう」
(凄い。いつの間に手配してたんだろ...)
コンシェルジュさんの仕事の早さに驚いていると、進言に礼を述べたZEROさんの手が、おれの腰に触れた。
(このままじゃまた、エスコートされて部屋までついていってしまう...!)
幾ら代用品として見られることに納得したと言っても、せめて1日くらいは【振られたんだ】って受け入れる時間が欲しい。
「ZEROさん。おれ今日はもう、帰りますから。離して下さい」
「悪いが、聞き入れられない」
「へ?」
腰を捕まれた、と思ったら...おれはお姫様抱っこスタイルで、ZEROさんに抱え上げられていた。
(────めっちゃくちゃハズカシイ!!!)
「ちょ、っ! ZEROさん、下ろして!」
「この体勢が嫌なら、肩に担ぐけど。そっちが良い?」
(それはZEROさんが誘拐犯みたいで外聞が悪いなぁ...)
俵みたいに担がれる自分を想像し、仕方なく...「このままで良いです」と承諾した。
「お客様、用意したお部屋は此方です」
コンシェルジュさんが先導し、エレベーターの階数ボタンを押す。
「どうぞごゆっくり」
恭しく頭を下げ、エレベーターの扉が閉まるまで見送ってくれたコンシェルジュさんの完璧な仕事振りを見せられて、おれも腹を決めた。
(逃げたところで、おれがZEROさんを好きなことは変わらない。ならいっそ、大人の体裁なんてかなぐり捨てて、叶わないと解っていても告白して、みっともなく木っ端微塵に振られてやろう!)
自分に惚れてる奴を、それでも“失った人に似ているから”と傍に置くのか、止めるのか。それはZEROさん次第だ。
下心を抱くおれを傍に置いても構わないと言うなら、腹を括って1ヶ月、振られた厚顔を引っ提げ、提示された条件をこなして見せよう。
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