そして永遠になる

三ツ葉りお

文字の大きさ
10 / 12

決意

しおりを挟む
 階下へ向かうエレベーターの中で一人、唇を噛む。

(一人で舞い上がって、バカみたいだ...おれ)

 多分ZEROさんがおれにした提案は、失ってしまった【クロ】って人の体温を、おれで代用するためのものだったんだ。

(“おれ自身を見てもらう”なんて、最初から“代用品”としてしか必要とされていないのに、有り得ない望みだったな...)

 胸を刺す痛みは、それでもまだ諦めたくないと叫ぶ、おれの恋心だろうか。

(初恋は叶わないって...よく聞くもんな...)

 こんな気持ちになっても、ZEROさんが一言「泊まりにおいで」と電話で...あの声で囁いたら、バカなおれはまた、彼の元へ...少しの期待をいだいて、行ってしまうんだろう。

(恋って、怖いな...。本当に盲目になっちゃうんだ....)

 エレベーターが受付の階に着き、気落ちしているおれは美しく磨かれた床を眺めながらトボトボと歩いていると、背後から切羽詰まった声で、名前を呼ばれる。

さくら!」
「!?」

 まさかZEROさんがおれを追ってくるなんて、思わなかった。

(そんなに、クロさんの面影を求めてるんだ...)

 そう思ってしまうと、嬉しさより悲しみで心が重く沈んでいく。

「話をさせて」
「....もう、充分解りました。ZEROさんが大事になさっていた方に、おれの雰囲気とか何かが、似ているんですよね?」
「それは...」

 良い淀むZEROさんの態度で、(ああ、やっぱり)と、落胆が体の中に染み入る。

(代わりでも....1ヶ月は“おれが”傍に居て、良いんだ──)

 初恋は叶わなかったけれど、初めて人を好きになったこの気持ちを、忘れたくない。

「...それでも、構いません。元々はおれたちの会社が持ちかけたことで、貴方は条件を出した。おれはそれを受け入れた。だから────」

(だから例え、一緒に居る間、貴方がおれを通して“おれじゃない誰か”を見ているとしても───おれは)

「もう、いい」
「え?」

「そんな泣きそうな顔をして、話さなくても良い」

 指摘されて、初めて気付いた。目の前のZEROさんが、揺れる水の膜で滲んでいる。

(うわ、情けない...!)
「な、泣いてなんて...」

 目元を袖口で強引に拭い、視界がクリアになったお陰で少し冷静さが戻ってくると、周囲がおれたちの言い合いに何事かと遠くから観察しているのが解った。
(このままじゃ、SNSとかにZEROさんの情報が載ってしまうかも知れない...!!)

「...人が集まって来ましたね。おれは泣いてませんから、どうぞお部屋に戻ってください」

「櫻を置いて行く訳ないだろ! 周りのことなんてどうでも良い。....あぁでも、SNSとかに櫻の顔が割れるのは嫌だな。ライバルが増える...」

「え?!」
(なんの心配をしてるんだ、ZEROさんは..)

 冗談か本気か解らないことを言い、不機嫌そうに眉間に皺を寄せたZEROさんの表情もカッコ良くて、思わず見惚れてしまっていると、背後からコンシェルジュさんの声がかけられる。

「お客様。別途お部屋をご用意致しましたので、お話し合いにご活用ください」
「解った。ありがとう」

(凄い。いつの間に手配してたんだろ...)
 コンシェルジュさんの仕事の早さに驚いていると、進言に礼を述べたZEROさんの手が、おれの腰に触れた。

(このままじゃまた、エスコートされて部屋までついていってしまう...!)

 幾ら代用品として見られることに納得したと言っても、せめて1日くらいは【振られたんだ】って受け入れる時間が欲しい。

「ZEROさん。おれ今日はもう、帰りますから。離して下さい」
「悪いが、聞き入れられない」
「へ?」

 腰を捕まれた、と思ったら...おれはお姫様抱っこスタイルで、ZEROさんに抱え上げられていた。

(────めっちゃくちゃハズカシイ!!!)

「ちょ、っ! ZEROさん、下ろして!」
「この体勢が嫌なら、肩に担ぐけど。そっちが良い?」

(それはZEROさんが誘拐犯みたいで外聞が悪いなぁ...)

 俵みたいに担がれる自分を想像し、仕方なく...「このままで良いです」と承諾した。

「お客様、用意したお部屋は此方です」

 コンシェルジュさんが先導し、エレベーターの階数ボタンを押す。

「どうぞごゆっくり」

 うやうやしく頭を下げ、エレベーターの扉が閉まるまで見送ってくれたコンシェルジュさんの完璧な仕事振りを見せられて、おれも腹を決めた。

(逃げたところで、おれがZEROさんを好きなことは変わらない。ならいっそ、大人の体裁なんてかなぐり捨てて、叶わないと解っていても告白して、みっともなく木っ端微塵に振られてやろう!)

 自分に惚れてる奴を、それでも“失った人に似ているから”と傍に置くのか、止めるのか。それはZEROさん次第だ。

 下心を抱くおれを傍に置いても構わないと言うなら、腹を括って1ヶ月、振られた厚顔を引っ提げ、提示された条件をこなして見せよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

隣の大学院生は、俺の癒しでした。

結衣可
BL
仕事に追われ、残業ばかりの日々を送るサラリーマン・斎藤悠真(32)。 感情を表に出すことも減り、「今日も誰ともしゃべらなかったな」と思いながら帰宅する毎日。 そんなある夜、隣の部屋から漂ってきたカレーの香りとともに、インターホンが鳴る。 「作りすぎちゃって……よかったらどうぞ」 そう微笑んで皿を差し出したのは、隣に住む大学院生・風間緒人(25)。 栄養学を学びながら料理好きの緒人は、気づけば週に一度は“おすそ分け”をするようになる。 最初は戸惑いながら受け取っていた悠真だったが、温かい食事と緒人のさりげない気遣いに、 長い間感じたことのなかった「人の温もり」に心が揺らいでいく。 雨の日に差し出されるタオルや、疲れた体に沁みる味噌汁。 やがて二人で食卓を囲む夜、体調を崩したときの看病……。 少しずつ距離が近づくたびに、悠真は自分でも驚くほど笑顔を見せ、心を許してしまう。 逃げ腰のサラリーマンと、世話焼きの年下院生。 すれ違いと優しさの間で揺れる二人の関係は、いつしか「癒し」から「恋」へと変わっていく――。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

王弟の恋

結衣可
BL
「狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない」のスピンオフ・ストーリー。 戦時中、アルデンティア王国の王弟レイヴィスは、王直属の黒衣の騎士リアンと共にただ戦の夜に寄り添うことで孤独を癒やしていたが、一度だけ一線を越えてしまう。 しかし、戦が終わり、レイヴィスは国境の共生都市ルーヴェンの領主に任じられる。リアンとはそれきり疎遠になり、外交と再建に明け暮れる日々の中で、彼を思い出すことも減っていった。 そして、3年後――王の密命を帯びて、リアンがルーヴェンを訪れる。 再会の夜、レイヴィスは封じていた想いを揺さぶられ、リアンもまた「任務と心」の狭間で揺れていた。 ――立場に縛られた二人の恋の行方は・・・

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

処理中です...