如月さん家の双子は、今日も呪いとか関係なく幸せに暮らしてる。

三ツ葉りお

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幸せのかたち

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「みーくん、かわいい」
「みーくん、だいすき」

(はいはい、うるさい兄め。俺が可愛いのは解りきったことだろうが)

 慈明しあきが弟の俺を『可愛い』と持て囃すのは当然で、ましてや俺を「大好き」だ等と、最早語る必要もない、この世の真理だ。

 慈明あにの関心も愛情も褒め言葉も、一生俺だけのもの。
───────そう、信じて疑わなかった。

     ▼△▼△▼△▼△▼△▼

「この女優さん、可愛いなぁ~」

(───────はぁ?)

 早朝。新聞配達の仕事を終え帰宅した俺は、兄が用意した朝飯を食いながらテレビの情報番組を見るとも無しに流していた。
 ニュースから新ドラマの宣伝に内容がシフトしたその時、慈明が溜め息混じりにポツリと、独り言をこぼす。
 その内容は到底、聞き捨てられるものではなかった。

「おい、慈明しあき
「ん? 竣巳おみ、どうした」
「今、貴様.....何と言った?」
「へ?」

 あれだけの爆弾を投下したくせに、俺の怒っている意味が解らないと言わんばかりの間抜け顔で見上げてくる慈明の態度が、更に俺の語気を荒くする。


「画面に映る“化粧が濃いだけ”の女に、何と言ったのか、と! 聞いている!!」


「可愛いって、言ったけど?」
「は───────.....?」


(なん、だと.......?)


 青天の霹靂、目から鱗。
太陽が東から昇り西へ沈む事と同じに、【慈明が愛しく思うのは俺だけ】と......理のように刷り込まれていた己の土台が、音を立てて崩れた。

「....竣巳は学生の時からモテてたし、付き合ってた娘もレベル高かったから....“アイドル可愛い”とか思う気持ち、無いかもだけどさぁ。
やっぱ可愛いじゃん? それに花があるよな、着飾った女の子ってさ。男2人で暮らしてるから、化粧とか、ああいうヒラヒラした服とか? あんまり目にする機会もないし。華やかで、おれは好きだな」

 絶句する。確かに学生時代は若気の至りで慈明への想いを認められずに、言い寄ってくる女共と付き合ったり、兄を大事に思うゆえ、関係を進めて良いものか懊悩おうのうしたりもした。

(だが)

 高校卒業の前後、呪いによって慈明が吸血に目覚めてからは、俺だけの血を与え、抱き締めて口付けを交わす関係へと変化した。
 以来、女と連絡を取ったり付き合ったりしたことは、一度もない。

慈明ほんめいを捕まえたんだ。俺の目には、最早お前しか映っていない.....。お前は、違うと言うのか.....?)

「................」
「竣巳~? 話ふっといて、無視かぁ~???」

 能天気に話し掛けてくる慈明に対し、段々と怒りが沸いてきた。

(散々、俺を『可愛い』、『好きだ』等と言っておいて。たかが性別・化粧・服装ごときで、あんな女に『可愛い』も『好き』もくれてやるというのか?!)

 慈明は俺からの反応が無いことに不満顔だが、悠長に雑談ができるような心境ではなかった。慈明の横を通り過ぎ、ボロアパートの狭い自室に入って、感情のまま、勢い良く扉を閉める。


(────ふざけるな、浮気者が!!!)


 “モテない”等と言いながら、慈明は男女ともに人気があり、学生時代どころか居酒屋で働いている現在も、たまに告白されて断っているのを、知っている。

(全ては俺に惚れているからだと───そう、思っていたが.....)

 今更この関係を【普通の双子きょうだい】に戻し、女と付き合いたいとでも言うのか。


「冗談ではない..」


 慈明の為だろうが願望だろうが、手放せる期間はとっくに過ぎた。

(俺はもう、慈明の身体の感触も熱も、覚えてしまった。この腕にお前をいだく権利を、誰にも譲るつもりはない)

 そこまで考えた時、兄の目を醒ます方法を思い付く。


( 阿呆慈明アホウあにきめ。
あんな女より俺のほうが百万倍可愛いわ!!!
 目にもの見せてくれる!!!!!)


     ▼△▼△▼△▼△▼△▼


「ただいま~。あー、疲れたー...って、お、竣巳?」
「お帰り。で、どうだ? 慈明」
「..........」

 あれから。怒りに任せスマホで化粧の方法や使う道具の種類、色合いや重ね方など多種多様な内容を見て学んだ俺は、自分に合う色を探し、なけなしの小遣いで目当ての化粧品を買い集めた。

 フローチャートで一番俺の顔が映えると示されたのは【美人系・ゴージャスメイク】。雑誌が勧める見本そのままだとあまりにも奇抜で品がなかったため、俺のアレンジも入っている。

 完璧な化粧をした上で、仕事帰りの慈明を出迎えてやった。
...が、慈明は俺の顔を凝視したまま、無言で固まっている。

「何だ。俺が研究した最高の化粧に、文句でもあるのか」

 無言で見つめ合うこと、暫し。
はにかむように微笑んだ慈明の手が、俺の頬に伸ばされた。

「...竣巳はさ。元々目元とか色っぽいんだから、目の回りはもっと...自然で薄い色で良いんじゃない?」
「!」

 慈明の指先が、俺の目蓋をゆるゆると優しく撫でていく。

「唇も、色とかは乗せなくても充分に綺麗だからさ。....つけるなら薄い色か、潤い与えるヤツだけで良いんじゃない?」
「!!」

 唇に触れる、熱。
(──あぁ。慈明の、温度だ...)

 蛇の妖怪から呪いを受けている俺は、普段から体温が低い。同じく吸血鬼から呪いを受けている慈明もイメージからしたら低そうなものだが、いつも俺より温かい。熱が触れる先からじわり、と浸透し...俺を解かす。
 薄い皮膚の上を撫でられ、不覚にも鼓動が早くなった。

「ほら。こっちのほうが、おれは好き」

 慈明が持ってきた姿見に映り込む自分は、意気込んで化粧をしたときより余程.....艶を増していた。
 それはまさしく、この兄が俺に与えた、熱の影響だろう。

 暑苦しい程の体温それが、心地よく全身を温めていく.....。

(───もっと、触れたい...)

 沸き上がる衝動を抑えることなど、もうしない。慈明の腕を引き、腕の中に閉じ込め、耳元で囁いてやる。

「.....次からは、お前が俺をいろどれ」
「えぇ?! おれ、化粧品なんてわかんないよ??」
「俺が手ずから教えてやろう。それに倣って、俺に施すだけだ」
「えーーー...?」

 乗り気ではない兄の態度に悪戯心が刺激され、思い付きを提案してみた。

「そうだ。今度は、俺がお前を彩ってやろう」
「えぇ??! おれに化粧なんて、似合うわけ...」
「黙れ。手元が狂う」
「ぅ~~~~~.....」

 逃げようとする慈明を捕らえ、居間の椅子に座らせてしまえば、観念した兄は大人しく目を瞑った。
 見返してやろうと買い集めた化粧道具で、兄を思うがままに色付け、咲かせていく。

(これは....。思った以上に、楽しいな...)

 普段色気のいの字も感じぬ慈明が、俺に間近で触れられ化粧されるという異様な状況に頬を染め、目蓋を震えさせている。


(────あぁ。今すぐ、その震える目元に口付けたい...)


 己の手で美しく咲き誇る姿を見て、胸の奥が酷く満たされた。

「終わったぞ。見てみろ、慈明」
「.....おかしな落書きとかしてない、よな?」
「さぁて? 自分で確かめるんだなァ」
「竣巳~ィ?」

 慈明の座る正面に、全身が確認できる姿見を置く。
その音で、ゆっくりと....慈明の瞳が開かれた。


「え。これ.....おれ?!」


 大きい姿見に映り込む、麗しいひと。
驚きに瞳を見開くその人を、後ろから腕の中に閉じ込める。

「美しいだろう?」
「え、え?」
「俺の、俺だけの...花だ」

 強引に唇を奪い、互いの口紅がぬめるその感触にすら、追いたてられ...重なる熱で、高められていく。

「ン。...お、みっ」
「しあき.....」

 美しく施した化粧を、俺の手で、唇で、拭い乱していく。
なんて背徳的で、心地好い快感だろうか。



     ▼△▼△▼△▼△▼△▼



「──あーぁ、せっかく化粧したのに。....おまえ、なにがしたいの?」

 思うままに口付けを交わした後、乱れ混じった化粧の名残を残し色付いた表情で呆れ笑う、愛しい俺の片割れ。

(愛おしい....)

 どう足掻いたところで、何度でも、この兄に心を奪われる。


「(───お前を、俺のものにしてしまいたい)」


 心の中で呟いた願いが、そのまま音を纏い、外に出た。
当たり前に与えられていた感情こころを、改めて本人に請う。

「....なぁんだ。そんなことか」
「あ゛?」


「怒んないでよ。だって、あんまり当たり前のこと言うから、おかしくって。おれはずっと、竣巳のものでしょ?」
「......そうだな」

 嬉しそうに笑いながら抱き付いてくる慈明に、いつもだったら余裕の笑みを返していた。

(その、筈だったが、なァ?)

「──────っっ!! 
ならば、一々グラビアやテレビや映画を見て、どこぞの女を可愛いなどとぬかすな!!!」
「えぇ?! 知り合いの女の子とかじゃないんだから良くない? テレビとか映画の中の女の子なんて、遭う可能性絶対無いじゃん」

「貴様......」

(全く、反省していないな?)

 己の発言がどれだけ俺の内面を揺さぶるか、全く自覚のない慈明を睨み付ければ、何故か拗ねたような表情で見返される。

「....竣巳こそさぁ。
今でも誕生日に元カノからプレゼント届いたり、新聞配達先のお宅で見初められて手紙貰ったりコクられたりとか、してるでしょ。
おれだって、そういうの.....気にしたり.....するんだからな....」
「.....」

 喜怒哀楽を隠さず態度で示してくる慈明が、そんなことを気にしていたとは...知らなかった。

「おれは、双子だけど兄貴だし。余裕ないの、カッコ悪いし。...言わないでおこうって、思ってた。今はおれだけって....解ってるし。....でも、やっぱ.....嫌だ。竣巳がいつか、おれのじゃなくなっちゃうんじゃないかって思うの、嫌なの!」

「ほう」
「あ」
「ほほーーーーう」
「.........うぅ」

 捲し立てて言いきった処で、慈明は明らかに(しまった)という顔をした。
(嫉妬など、隠す必要もないのに。何処に気を張っているんだ、コイツは......)

 恥じ入り顔を真っ赤にしながらもぐずったように俺の喉元へ顔を擦り寄せてくる慈明が、愛おしくてしかたがない。


「安心せよ、あにさま。
この弟めは、あなた様の関心を惹くことのみに執心しておりますゆえ」


「お、おみぃ...」
「贈り物や手紙、な。今までは突き返すのも面倒だから受け取って処分していたが、お前が気にするのなら受け取らん。だから、お前も気付け。慈明」
「なに、に?」
「お前が紙面や画面上にしか存在しない女にこぼす褒め言葉一つにも、俺は嫉妬する」
「え───...。ご、ごめんね。気を付ける...」

 謝りながらも、慈明の顔は喜色に満ちていた。

「おみ、おれの、竣巳...。かわいい。だいすき...」
「当たり前だ。俺は、“慈明おまえの”竣巳だぞ?」

 いつも通りのドヤ顔で言い放てば、腕の中の慈明から蕩けるような微笑みが返される。

「うん。...うん!」

「かわいい」、「だいすき」。そう繰り返しながら、少しの身長差を埋めるように背伸びして顔中に与えられる口付けの柔らかさに、酔う。



(───あぁ、やっと。名実ともに、俺のものになった...)



     ▼△▼△▼△▼△▼△▼


「折角買ったのに、勿体ないね」

 化粧品の数々を見て、慈明が呟く。嫉妬の要因が解消されれば、俺がもう、これらを使用しないと思っているのだろう。
(甘いなァ...兄さまは)

「この先も折に触れ、使用するからな。勿体なくはないぞ?」
「え...」
「趣向が変わり、楽しいだろう?」
「う、う~ん?」
「クリスマス、ハロウィン...。イベント事が好きなお前のために、サプライズを一つ増やしてやろう」
「....それは楽しそうかも」
「だろう?」
「うん!」

 普段あまり時期イベントに乗り気でない俺が提案したことで、慈明は目を輝かせた。

「その代わり、俺の化粧は慈明がすること」
「はーい」
「お前の化粧は、俺が施してやろう」
「いや、俺は良いよ」
「そう遠慮するな。先程も言ったが、俺の手で化けたお前は、それはそれは美しかったぞ。惚れ直すほどに、な」

 口付けながら素直な感想を伝えてやれば、慈明の頬が薔薇色に染まる。

「ん、なっ...」

「そう言えば、ヒラヒラした服も好きだと言っておったな。
次は服も俺が選んだものを贈って、手ずから着せてやる」
「?! ヒラヒラの服なんて、要らないよ!」
「あァ、お前の為ではない。俺がこの手で纏わせた衣服を一枚ずつ剥ぎ、楽しむためだ」

 正直に欲望を口にすれば、慈明はそれ以上言い募らず、拗ねて上を向いた口許が、愛らしい文句をこぼした。

「 ばか 」

「心外だな。俺が兄馬鹿なら、お前も弟馬鹿であろう?」
「...そうだよ!
俺は竣巳大好きな弟ばかだよ! 竣巳のばか。
この先お前にもし、好きな女の子ができたって言っても!
どんなに綺麗な良い子連れてきても!!
絶対お前を渡さないからな!!!」

「ハ、望むところだ。
お前こそ、女だろうが男だろうが、うつつを抜かしてみろ? 
相手はその瞬間地獄へ叩き落とす。よォオく、覚えておけ」
「えー? こっわぁ....」
「蛇は執念深く、嫉妬深いからなァ?」

「ふ、ははっ」

 俺の重く深い愛情を受け止め、それでも笑う慈明。想い人が仮にコイツでなかったら...相手はとっくに逃げるか狂うかしていただろう。

「わぁーお。おれってば愛されてるぅ」
「何をいまさら」

 肩を並べて悪態をつき、珠に小突いたり軽く蹴ったりしながらも、俺達は共に同じ道を行く。

 俺にとっての幸せは、言葉で言い表すのが億劫なほど寸分の狂いもなく、慈明の形をしている。
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