2人分生きる世界

晴屋想華

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第1章 無法

大切な人を救いたい

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 俺は、優奈と岬を助けるために必死だった。
 すぐに千郷の方の人生へと急いだ。
 
 千郷の方の人生へと戻った。目が覚めた時、私は病室だった。すぐに私が攫われた時に助けてくれた刑事さんに連絡した。

ーー電話ーー

「先日、犯人に捕まった瀬戸千郷です!今、優奈がどうなっているのか教えてください!」
「ち、千郷さん!?戻ってきたんですね、良かった」
「そんなことより優奈は!」
「落ち着いて下さい。会ってお話しましょう」

 半ば強引だったが、刑事さんと会えることになり、待ち合わせ場所へ急ぐ。

「千郷さん!」
「刑事さん、ですか?優奈は今どこに?」
「はい、中森と申します。とりあえずお店に入りましょう」

「いらっしゃいませー。お好きな席にどうぞ」
「すみません、強引な真似してしまい」
「いえ、気にしないでください。まず、千郷さんがどういう状態だったのかをお話しますね」
「そんなことは、もうどうでもいいです!優奈の居場所を教えてください!」
「千郷さん、落ち着いてください!優奈さんを助けるためにもこの話は重要なことなのです」
「……。取り乱してすみません。でも優奈がどういう状況なのかだけ最初に教えてください」
「分かりました。優奈さんは、今、犯人グループに捕まっていて、捜索している最中です」
「そうなんですね……。それじゃあ、私も捜索に参加させてください!」
「まずは、私の話を聞いてください。千郷さんには空白の2週間があるでしょ?そんな状態で事件に関わっても優奈さんを救うことはできないよ」
「……。分かりました」
「ありがとう。まず、犯人に捕まって、千郷さんは薬を投与された。その薬で千郷さんの脳は、凍結されている状態だった。そのため、どちらの人生にも戻ることができない状態だったんだ。そこで、別の成分を脳に注入してみた。千郷さんには悪いが、賭けだった。それが、運良く成功し、千郷さんはもう1つの方の人生には戻れた。しかし、こちら側の人生には戻れない状態だった。そこで、優奈さんが君を助けるための方法があると提案してきたんだ」
「提案?」
「そう。優奈さんは、犯人に捕まりそうになったときの犯人同士の会話を思い出したようで、自分が出ていけば、また犯人たちは襲ってくると言っていた」
「それで優奈を囮にしたんですか?!」
「いや、それは断ったんだ。しかし、私が甘かった……。まさか、独断で囮作戦を決行してしまうなんて……」
「でも、優奈は捕まってしまったから、交渉はできていないはずなのになぜ私は、こっちに戻って来られたんでしょうか」
「これは、私の予想だけど、優奈さんが犯人と交渉したんだと思う。一か八かで。それが成功したのだと思う。それで、犯人が病室に忍び込み、千郷さんに脳を正常に戻す薬を投与したんだと思う」
「優奈……」

 そんな、そんな危ないことを……。私のせいだ。ごめん、優奈。でも、なんで優奈が出ていくと犯人グループも出て来るのだろう。そもそも犯人グループはなぜ優奈を襲おうとしていたんだろうか。それに、犯人グループは今回が初めての犯行ではないと思う。襲われている人たちに関係性はあるのだろうか。考えれば考えるほど分からないことばかりだ。

「中森さん、優奈に発信機とか付けてなかったんですか?」
「いや、もしものことがあったら困るから、葵ちゃんも含めて2人には発信機を付けてたんだ。2人には内緒にしていたが。でも、優奈さんが犯人グループに捕まってから犯人たちに途中で気づかれてしまってね。だが、捕まっている場所は、ある程度までは絞れているんだ」
「じゃあ、私をその付近まで連れて行ってください!」
「それはだめだ。危険すぎる。それに、一度襲われているんだから、あっちだって警戒するに決まっている」
「じゃあ、このまま何もしないんですか?!」
「そうは言っていない。今、警察の方で色々な作戦を考えている。優奈さんは絶対に助け出すから、警察のことを信じてくれ。頼む」
「……分かりました。信じます。絶対に優奈を助けてくれると」
「ありがとう。必ず助けるよ」

 警察はまだ解決策を考えられていない状況ということか。いつ優奈がさらに危険な目に遭ってもおかしくない状況。中森さんを信用してないわけじゃないけれど、待ってなんていられない。自分から動くしかない!
 まずは、優奈に付けていた発信機がどこで途絶えてしまったのかを調べないと。
 私は、中森さんの後を追うことにした。そして、中森さんや色々な刑事さんたちが集まっている会議室に辿り着いた。

「犯人グループのリーダーの行方だけ一切確認されてないっすよね」
「そうだな」

 中森さんたちがそんな会話をしながら会議室へと入っていく。犯人グループのリーダーか。私が捕まった時にいたちょっとボスっぽいやつは、リーダーの側近だったんだっけ。確か、捕まってから自殺したって聞いた。捕まえた重要人物が死亡したこともあって、あまり事件が解決に進まないということか。それに、私が捕まっていたあいつらのアジトは、何者かに爆破されてしまったと聞いた。
 
 私は、会議が終わるまでトイレに隠れることにした。1時間半後、会議が終わり、人がいなくなった隙に中に入り、ボードを見てみた。すると、そこには予想通り、発信機が途絶えた場所が記載されていた。やった!これで、優奈の近くに行けるかもしれない。
 私は、すぐにその場所へと向かった。しかし、近くのビルや廃墟など色々な場所を探したが、優奈や犯人達がいる気配はやはりない。そんな簡単には行かないか。優奈……どこなの?もうこの近くにはいないのかもしれないと諦めかけたところで、1人の男とすれ違った。男は電話をしていて、その声に聞き覚えがあった。
 確か……あ!そうだ!犯人グループに捕まっていたときに犯人たちが電話していて、その時に聞いた声だ!特徴的なだったから覚えてる。どこに行った!?早く後を付けないと!くそっ、見失った。確かさっきあいつは、「せんどうビル」って言ってたような……。検索してみるか。
 「せんどうビル」なんてないじゃんか!あと一歩だったのに……!いや、待てよ。「せんどうビル」って、あいつらが読み方をわざと変えていたとしたら、せんどう、「せん」と「どう」を漢字にしてみると……。もう一度、この付近のビルの名前を調べてみよう。

 んー……ないなー。いや、でもどこかでそれらしきビルを見た気がするんだよなー。絶対に見たはず。もう一度この辺を一周してみるか!
 
 あれ?ここのビル、地図に載ってないな。古すぎて載ってないのか、それとも意図的に消されたのか。どこかにビルの名前が付いてるはず……。あった!船頭(ふながしら)ビル!きっとここだ!これをあいつらは「せんどうビル」って呼んでるのね!やっと見つけた。優奈、待っててね!絶対助けるから!

 プルルルル、プルルルル。ん?電話か。葵ちゃんからだ。

「もしもし、葵ちゃん?」
「もしもし!千郷ちゃん、意識戻って、こっちに来られたんだって?!良かった。本当に良かった」
「うん、私はもう大丈夫だよ。ありがとね!」
「優奈はまだ警察も見つけられてないんだよね?」
「うん……。でも、今手がかりを見つけたわ」
「手がかり?千郷ちゃん、もしかしてだけど、1人で何かしようとしてる?」
「……うん。警察に相談したってすぐには動いてくれないし、優奈がこんな目に遭ったのは私のせいだから、絶対に私が救ってみせる」
「そんなのだめだよ!危ない!」
「でも、優奈はもっと危ないところに1人でいるんだよ?そんなの、耐えられない。優奈は、私が助け出すから心配しないで」
「ちさとちゃっ」
 ピッ(電話を切る音) 

 よし、やっと見つけたんだ。優奈、待っててね!


ーー優奈が捕まっている部屋ーー

「優奈、俺がお前を救ってやるからな」
「や、やめて、、」
「大丈夫、大丈夫だぞ」
「ち、さと(小声)」


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