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ラグザス・2
しおりを挟む邸に使える者達の見送りを断り何も分かっていない幼女を連れ出す。侍従の悲壮感溢れる眼差しが目に付いたが気にすることなく邸を後にする。さっさと王都に向って馴染みの女に会いに行こうと気が急いていたため、迂闊にも忘れていたのだ。
そう、後ろを着いて来るのが体力もない手足も短い幼女であることを。
「でぇっ」
歩みを続けていると背後から奇声が。
何だと思い振り返ると道端に幼女が、落ちていた。
「は?」
場所は邸の玄関を出て割と直ぐ。
「は?」
落ちていた。
一瞬、自分が何を見ているのか理解できず固まってしまった。邸の使用人達がハラハラ見つめていたのはこういうことかと遅ればせながら事実に気が付いた。
(くそ! 知ってたんなら事前に言えや!)
なぜどうしてそうなった。声を大にして叫びたい気持ちを抑え、取り敢えず道で寝落ち?した幼女を回収。
王都へ行く時間が限られている今、ここで足止めは避けたい。苛立ちを抱え序でにアイナも小脇に抱え待ち合わせ場所へと歩を進める。
(‥‥まじかよ。数歩で倒れるとかあり得ねえだろ?!)
この時のラグザスは気付いていなかった。王都と聞いてそのキラキラと輝くワードに無駄にワクワクとはしゃいだせいで、既に室内で疲れていたのを。与えられた部屋から玄関まで侍女に抱っこされてたのは既に息が上がっていたのを。
全ては疎かにした自分の落ち度だと。
本当に荷物持ちだとぼやくラグザスは気付かない。
「ちっ!」
虚しいだけの舌打ちが。
ザッ、ザッ、ザッ、
足音に掻き消えた。
ザッ、ザッ、ザッ、
小気味いい音だけがラグザスのお供である。
ザッ、ザッ、ザッ、
苛立った感情を紛らそうと抱えた幼女に意識を向けた。
(‥‥それにしてもこのガキ、軽すぎやしねえか?)
痩せっぽちでチビの癖に保有魔量の多さが釣り合っていない。言動もだが魔量も非常識だと悪態を吐いた。
✿
目的地に着くと既にクルクカーン達が到着していた。少々、待たせたようだがラグザスは特に気にならない。周囲の護衛騎士達が気を揉んでいるのがわかるだけで、特に思うことはない。強いて言えば幼女が荷物と化しただけだ。
「ブフォ! ‥‥おお、すっかり父親だなア‥‥クク」
幼女を小脇に抱えた姿が意表を突いたか、いきなり笑い出したクルクカーンを、取り敢えず睨んでおく。よく見れば気を揉んでいたはずの護衛達は単に肩を震わせ何かに耐えているだけだった。
(くそ、笑いたきゃ笑え!)
「揃ったな。では参ろうか」
クルクカーンの掛け声でラグザス達は王都に向うべく転移門のある特殊領域へと歩を進める。
特殊領域とは
古の遺物を保護すべく結界に隠された特殊な場所を指す。
いつの時代、誰が、何の目的で、ここに設置したのかわからないが、一部の者のみ使用可能な不思議な遺物なのである。
この国には同じ遺物を守る土地が数か所存在し、遺物と遺物の間を転移が可能とされていた。クルクカーンはこれを使って王都に向おうとしていたのだ。
城壁に囲まれた領主の館と同じ敷地内にある特殊領域。元はこの遺物を守る目的で領主の館が建てられた。でなければ魔物の生息地である大森林の近くに領主の館など建てはしない。この事実をラグザスは領主一族に押し付けられた枷だと常々感じていた。
(クルクカーンはハズレを引かされたようなもんだろ)
友はやはり不遇な男だと小脇に幼女を抱えた怪しい姿で先頭を歩く友の後姿を憐憫の視線を送る。
自分の後ろを歩いている護衛達に幼女の扱いが酷いなぁと否定的な視線を向けれれてるとも知らず。
誰が作ったのか。
―――誰が定めたのか。謎が残る場所である。
「相変わらず気味の悪い場所だな」
崩壊を防ぐために保存の魔術を掛けられた教会と周辺を取り囲むように区切られた特殊領域。
繁々と見やるラグザス。心の中でせめて外観だけでも新しくすれば薄気味悪い印象が拭えるものをと、少々残念な気持ちで眺めていた。
「そういうな、これでも重要建造物、国宝だぞ」
領主と軽口を叩き合うラグザスの横で、彼の小脇に射られた家畜のようにグッタリと抱えられた幼女を、見るに見かねた騎士団長が代わりにと引き受け部下に託す。ラグザスは一つ荷物を手放しやれやれしていた。
「皆、揃ったな。では行くぞ」
クルクカーンの呼び声で一同特殊領域に張り巡らされた結界を抜け、領主が誇る遺物へと向かう。
石畳を領主を先頭に直ぐ後ろに騎士団長、次いで幼女を抱きかかえた部下の騎士、そしてラグザスと二人の騎士が背後を気にしながら歩を進める。
アイナを抱きかかえる護衛騎士を見て、(護衛の手が塞がってんじゃねーかよ)と半ギレた顔でぼやくがよく考えたらそいつより自分の方が強い。弱い奴に子守をさせるのは理にかなった行動だと自分の無責任さを棚上げに、納得した。
(まぁ問題ねえわ)
皆、無言で歩を進め数分後。何もなかった視界の先に突如として現れた古びた鐘楼。
見慣れた景観なのかラグザス以外は冷静な面持ちで迷うことなく歩を進める。
(けったいな場所だよなぁ。ここが境界か。そしてこの先にあるのは、神の抜け道か)
こっそりと息を飲む。目の前の騎士が息を飲んだ音が耳についた、どうやらこの男は慣れていないな。気が付いたラグザスは警戒心を一段上げた。
「おら、ガキンチョ、起きろ、起きろ」
小脇に抱えられていてものうのうと寝てる幼女に苛立ちを覚え、ついぞんざいに扱ってしまう。
それに見兼ねた騎士団長(三人の子持ち)がやんわりと窘めて来た。
「導師殿、それではお子が可哀想では? ブッ‥‥クク、いやすまぬ。どうせこの後、転移門を潜るのですから、そのまま寝かせていても良いのでは? 父君」
「ブファ! そうだな! そうしなさいラグザス、いや御父上? ブッフッ」
容赦ない笑い声‥‥嚙み殺し耐え切れなくなったと噴き出した笑う声が木霊する。
ブチッ! 聞こえない堪忍袋の? 何かがキレた音がラグザスの頭に響く。
「くっそ! お前ら笑うな! ちっ、クソが-」
幼女を起こしにかかったラグザスの言葉が言い終わらぬうちに、突如、転移門が作動した。
「なっ?!」
「おい! 急に動かすなよ!!」
「さ、作動しただと?!」
ラグザスの視界の端、ゆらりと揺らいだ、ーーー眷属神、嘆きの女神の姿を捕らえた。
(な! 何故、この場に眷属神が?!)
『おいでませ…※※※※‥‥へ』
手招いた女神が嘆いた顔で薄ら笑う。
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