転生先は小説の‥…。

kei

文字の大きさ
79 / 365
第四章 新たな攻略対象者 隠れたままでいて欲しかった。

違和感

しおりを挟む


「お嬢様。長らくご不便をお掛け致しました。準備が整いましたのでお迎えに上がりました」

監禁生活も数日たちそろそろ何か動きがあるかと用心していた矢先に訪問者が。

俺の目の前に母さんの専属侍女さん‥‥俺に魔術具を使わせた人だけど。が現れた。確かグレインさんだっけ?


えっ? この人味方なの? 胡散臭いんだけど信じていいの?


「お嬢様。さぞや心細かったでしょう。奥様のご命令であったとは言えお嬢様には不安な日々を送ることとなり、お辛かったでしょう」

「それは‥‥大丈夫ですよ。驚きましたけど丁寧な扱いでしたから。それよりお母様は? ご無事でしたの?」

「ああそうでした。お嬢様はご存じありませんでしたね。奥様はご無事ですよ。今は王都にいらっしゃいます。わたくしがお連れするよう命を受けて参りましたのでお嬢様ご心配なさらないで下さいませ」

「ああそうだったのね。ありがとう。では頼みます」

俺は笑顔で答えたが、警戒心が拭えない。グレインさんは俺を安心させようと微笑んでくれてはいるが、その目が‥‥笑っていないというのか何か隠しごとをしている。そんな疑惑を抱かせるのだ。

とてもじゃないが安心できない。それに聞きたいこともあるし。

俺とグレインさんの視線が交差する。

彼女のその目の奥に燻る感情が、俺に警戒心を抱かせるのだ。

今まで俺は碌にこの人を見ていなかったことに気付かされた。

ああ、俺この人のこと何も知らないわ‥‥。今更だけど。

でも今は余計なことを考える余裕はないぞ。彼女が敵か味方か今は判断が付かない。これは‥‥出来るだけ探るしかないのか? いやだな知り合いを疑うのって。


「ねえ、グレイン。貴女今までどこにいたの? 心配したのよ?」

窺うように質問してみた。グレインに感じる違和感を拭いたい…。俺は信じたいんだこの人のことを。


グレインも俺を探るような目つきだ。グッと何かを呑み込んだ表情で俺を見る。

一瞬だったけど厳しい顔をしていたな。




「お嬢様。ご心配下さったのですね。一介の侍女如きに、身に余る光栄でございます。ですがわたくしはずっと公爵家にいました。…実は領内に間者がおります。屋敷内にも出入りしていたようです。まだ捕らえられてはおりませんのでこうして秘密裏にお嬢様を安全な場所へとお連れするように指示を頂きました」

「えっ? 間者が?!」

グレインさんの話に吃驚だ。領内に間者が入ってくるのはよくあるので驚きはしないがそいつが実力行使に出たことに驚いた。行動に出る準備もしていたんだろう‥‥俺ずっと屋敷にいたのに気が付かなかった。でも母さん達は異変に気が付いていたんだ。俺を非難させる算段を付けていたんだろう。でも内緒にされていたことにショックを受けてしまった俺はこの時のグレインさんといつもの侍女ちゃんの表情を見落としてしまっていた。

彼女たちの目つきは同じだったのに‥…。




「お嬢様。落ち着かれましたか。でしたらこれにお着換えください」

グレインさんから手渡されたのは随分と品質の落ちる衣装だった。

地味なワンピースだった。グレー? 違うな灰色って感じの野暮ったい服だ。

喉元を隠す襟に前にボタンが付いている。‥‥これ、はっきり言って平民か侍女が着る服だ。貴族子女が着るものではないぞ。

なんでこんな衣装を用意した?


「お嬢様。お気に入らないでしょうが今はご了承願います。無事にお連れするために洋装を変える必要がございますので」

「それは、まだわたくしを狙う不届き者がいるということでしょうか」

「‥‥わたくしの判断ではございません。これを着せる様にとご指示いただいております。これ以上申し上げることはわたくしでは出来かねます」


「そう‥‥仕方ありません。では着替えます」

これ以上、ここで押し問答しても埒があかないな。それに彼女から無言の圧力をヒシヒシと感じる。今までの彼女の姿では信じられない。この圧力は一体なんだ? 疑問を解消することなく俺は諦めて着替えることにした。

着替えはグレインさんが手伝ってくれた。

そういえばいつもの侍女ちゃんはどうしてるんだ? 彼女は公爵家の雇用人ではないだろう?

なぜ、未だに彼女の名前さえも明かさないんだ?


俺の不安はじわじわと広がっていくだけで一向に晴れないままだ。


俺の身支度が全て終わった頃に侍女ちゃんが姿を現した。



「えっ? そ、その姿は‥‥!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...