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第九章 王国の異変
奇妙な小箱
しおりを挟む「若様、準備が整いました」
辿り着いた3階の私室で、ハイデさんからまたもや飛伝が届いた。彼女の別行動が謎だけど、義兄の指示を耽々とこなす彼女は、まさに有能なお姉さん。
「あ~お嬢様~俺も有能ですよぉ?」
おや? 幻聴かな。
義兄は部屋の中を検めたい感じだったがハイデさん達を優先すると決めたのか、まだ俺との話は途中なのに
「少しの間出てきますが二人とも大人しく待っていなさい。特にジェフ、お前は余計な言動は控える様に。いいね」
と、一応釘を刺した。が、当のジェフリーは何処吹く風だ。堪えないねぇ。
義兄もそんな彼の態度に慣れているのだろう、大して気にも留めず「これを」と机の上に見た事のない意匠が刻まれた小箱を置いて静かに部屋を出て行った。
部屋には余計な事をするだろうと義兄から問題児認定されたジェフリー。それに俺。そして俺達の目の前に鎮座する奇妙な小箱。
俺の興味を惹き付けるに充分なソレ。存在感がデカい。
これはもう余計な事をやらかせよとお膳立てされたと言っても過言ではないね。
この状況でただの箱を置く理由がない、魔道具だ!
これは間違いなく魔道具だと確信した俺は興味津々で小箱を観察する。既に興味の対象はコレ一点に絞られたのだ。頭の中にあった探し物やハイデさん達の別任務、そういった類を押し退けて堂々たるトップだ。
不法侵入真っ只中ってことも綺麗さっぱり忘れ小箱に夢中になっていた。
そんな俺を、面白い玩具を与えられ目を煌めかせた子供みたいだと、ジェフリーがお兄さん目線で見ていたとは気付かなかった。そして同じく目をキラキラさせていたジェフリーの遊び心にも全く気が付かないでいたのだ。
‥‥そう、遊び心に。
レティエルの白魚の様な美しいお手手にすっぽり収まる正方形の箱。
「不思議な模様ですね‥‥これは絵文字でしょうか」
「これ、若の作られた魔道具ですね。作動させましょう!」
心なしかお前の声、弾んでね? 俺よりも浮ついてね?
ジェフリーはカチャカチャと箱を弄って蓋を開け…あ、カラクリ箱だ。
蓋を開けるのは鍵じゃないんだ、へー、カラクリかぁ。
何となく伝統工芸品を思い浮かべてジェフリーの動きを目で追う。中から取り出した物は、またもや箱。えぇ~それ、化粧箱だったの?
「お嬢様~そんなご不満なお顔しないで下さい~、この箱に魔石が収められていて魔道具の誤作動を防いでいるんですぅ」
言葉通りに取り出された箱の中身は魔石。俺が化粧箱かと思った箱が魔道具本体だって。えっ? どういうこと?
「お嬢様~ご覧下さーい、箱の内側に魔法陣があって、ここに魔石を置いて、蓋をして、俺の魔力も‥‥‥あ~ら不思議、術が発動しまーす!」
ジェフリーの呑気な掛け声と同時に魔道具が作動したらしい…のだが。
「‥‥‥これ作動したのですか? 何も変わっていなくて?」
目の前の箱も、周囲も全く変化が…変化の兆しがなくて首を傾げてしまう。不良品か?
「お嬢様と俺は陣中なので変化は感じませんよ。陣外に出れば違いが判ります。あっ、でも結界の中なんで外に出れないですからね~」
「えっ? この魔道具は結界を作るものですの?」
‥‥そうだった。揃いも揃って事前説明を怠る奴等だったわ。詳しく聞かない俺も大概の面倒臭がりやだけど‥‥まぁ危険な物じゃないからいいけどね。
「ふふ~、箱を基点に結界が完成してます。範囲はこの部屋半分位かなぁ? あっ、箱を動かせば結界も動きますよ~便利でしょ~。小型魔道具なので術式が最小限ですが、お嬢様と俺は防御力の高い結界の中にいます。で、結界の外からは無人の部屋に見えま…お嬢様?」
何言ってるのかわかんない…
「あ~理解してないお顔~、そ~ですよね~良く判らないですよね~。これ、若の編み出した独自の製法で作製された優れ物! 資材回収から調合、製図に作製までの全工程を若お一人でなさった匠の一品! どうですか、一度お試し下されば、これの素晴らしさを実感できますよ!」
‥‥深夜のテレビショッピングのノリだな、おい。俺はモニターかよ。
「良く判りませんがジェフリーの変なテンションの熱意だけは伝わりました。では説明なさい」
えーお嬢様、ノリ悪~ぅ…‥って小声でも聞こえてるよ、失敬だな。
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