転生先は小説の‥…。

kei

文字の大きさ
243 / 365
第十章 クリスフォード・ラックスファル侯爵領

その後‥‥【別視点】

しおりを挟む

「若様、お嬢様はお休みです。不寝番はミリアに任せました」
「人選が心許なく感じますが致し方ありません。ハイデ、男を起こしなさい」
「はい」

ハイデは調合薬を新たに眠っている男に与え、眠りから覚めるのを待つ。

男はギルガの一門で間違いない。よい人材が手に入ったのだ、未だ黙秘を貫くギルガに対し交渉の切り札に使いたい。だがその前に隷属の契約を解術できれば、後々の仕事が楽になるのに、と儘ならぬ現状にランバードの溜息が零れた。

「若、お疲れですね。尋問は俺が引き受けますから休んでください」
「ふっ、申し出は有難いですが、そうも言ってられません。契約書の作製も残っていますし面倒事に巻き込んだこの男に多少の八つ当たりをしても許されるでしょう。私の楽しみを奪わないように」
「‥‥畏まりました。どうぞご存分に」

ランバードは薄ら寒い笑みを顔に貼り付け今後の算段を練る。

「忌々しい輩に、嫌がらせしましょうか。ククク」

この場に居る者には聞こえない小声で呟く。幾ら忌々しくとも身内となった者に手を出すと自分の首を絞める、自殺行為に他ならないのだ。直接は無理でも何らかの苦汁を吞ませたい。さてどうしたものかと思考を巡らす。

「‥‥若、生き残った者を使いますか?」

ランバードの胸中を読んだジェフリーが声を掛ける。普段は主君の思考を邪魔しない男が、である。彼も少々苛ついていた。

「そうですね‥‥情報は引き出せていないのでしたね?」
「はい、二人には守秘契約が。一人目の自白は失敗。薬の無駄でした。残った男は大人しくなったと聞いております」

『使いますか?』声に出さず目で語る。その目の奥に輝く狂気に気付く者は主君唯一人。ランバードは即答はせず、ハイデの処置をじっと眺めて思案を続ける。ジェフリーは訪れた静けさにもどかしさを感じ、気が落ち着かない。許可が下りれば即行動するのに、と要らぬ焦燥に駆られているのだが、己の心情を悟らせない気遣いがこの男には備わっていた(ただし主君限定で)

ジェフリーは主君の姿を目に映しながら、胸の内で溜息を吐く。若の苛つきの原因は他にもあるなと、解術の様子を思い出していた。

(あの魔法陣が希少な契約魔法陣だったら、若は苛つかないのに‥‥)

既知な魔法陣を見た若はさぞやガッカリしたであろう、言わば肩透かし。お嬢様の手前態度に出されはしなかったが期待が大きいだけに落胆も‥‥。
その気持ちはよくわかる。例え誰もわからなくても自分だけはわかるのだと自負するジェフリー。ちょっと気持ちの悪い男であった。

ジェフリーはそっと二度目の溜息を吐く。

(若に害が被らない相手に憂さ晴らし‥‥この男では物足りない)

主君の精神的喜びを真剣に考えるジェフリー。この男も大概である。


「邸内の捜索は終えていませんね?」
「はい。若様。目視可能な範囲は終わってますが証拠品は今だ見つかっていません。恐らく隠匿術かと」
「ああ、そうでしたね。わかりました。私に考えがあります」
「若? 魔道具作ります?」

ニヤリと口角を上げたランバード、然も当たりだと言わんばかりの笑みである。
ジェフリーも若の考えに沿うた言葉を発せて、今後を予想する。主君の意に沿う行動は忠臣なら当たり前。若ならどうするのかと真剣に考え始めた。



「若様、目を覚ましました」


ハイデの声に反応した二人は男に視線を向けた。どうやら見ず知らずの者達が自分を見下ろす異常さに驚愕したようだ。三人の表情に仄かな喜びが見て取れた。


これからしっかり話を聞かねばならないのだ、三人の圧が膨れ上がる。


「今夜は徹夜になりそうですね」


静寂を破る、恐怖に満ちた男の悲鳴が室内に響く。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...