転生先は小説の‥…。

kei

文字の大きさ
269 / 365
第十一章 帝国(お祖父ちゃん)の逆襲

良い報告と悪い報告とどうでもいい報告

しおりを挟む

『良い報告と悪い報告とどうでもいい報告がある』

三日ぶりの義兄は疲労の色濃い顔で俺を見下ろし『どれが聞きたい』と宣った。

‥‥はっ? そこはどれが先に聞きたいじゃないの?!



三日ぶりの義兄はお疲れが溜まり過ぎて、ポンコツになっていた。





「お義兄様、良い報告、どうでもいい報告、最後に悪い報告をお願いします」

口調がきつくなったのは、俺のせいじゃないよ。ポンコツのせいだからね。
自分に関わる話は是非とも耳に入れときたい派の俺は、ジトっとした視線をものとはせず報告を待つ。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥では、良い報告から」

間が長いって。


目頭を揉み込む義兄、相当お疲れが溜まってるね、だいじょーぶ? 労わりの眼差しを向けた先の…義兄の後ろに目付の悪い怨霊ジェフリーが視えるのは見間違いかな? ドロドロっとした圧を発するアレは視てはいけない何かだろう。うん、気にしない気にしない。

疲労度の濃い顔の中に、隠しきれない喜びがありありと浮かんでる。嬉しいのが凄くわかる。

「あの契約書の解読が出来たよ」
「?!!」

マジで?!






事の発端は三日前。そう、あのサロンでのこと。


ぶっちゃけ悪ノリでした。でもまあ自信あったし。いけると踏んだから、契約書に魔力流したよ。
でもねー、その後が‥‥何と言うか、書面に違和感がねぇ。だからあれは脊髄反射です。勘がね、こう、スルンっと。そう、ツルンっと。吸い取っちゃえって。



「「「「…‥‥」」」」


現れたのは‥‥ナニコレ?
俺達の顔もナニコレ。


「え? 子供のラクガキ?」
「お嬢様、わざわざ、めくらましの術をかけて、ラクガキを隠します?」
「‥‥しないわ」

馬鹿にした目のクリスフォードの顔化けたジェフリーで言われると、グーで殴りたくなる。グーで。

「ふむ、詐欺魔法を使用していましたか。手が込んでますね」
「え? これがそうなの?」

聞けば、証書偽造の違法魔術。認識阻害の一つだけど、今では文書を偽装するしか使い道がないらし。ええ、どう考えても犯罪目的で考案したでしょ?

‥‥偽装してもしなくても、読めないんですけど。

果たしてヴォルグ達は‥‥特にクリスフォードは、この書面を読めたのだろうか。いや、アイツは読めない! 読まない! 調子のいい言葉にのせられて疑いもなくサインしただろう。アイツなら遣り兼ねんわと過去のやらかしを思い出して苦い顔になる。ちょっとタコ殴りしてきていい?


「ねぇ、これを読める人って、いるの?」
「ですよね~。少なくともこの場にはいませんね~」

早くも座礁したよ。おい。
新たな難題を突き付けてきたよ。おい。



…‥いや、待って。それ読めなくてもよくない?

必要性を感じない俺は、早々に興味を失っていた。面倒が臭くなったのだ。だが野郎どもは謎の闘志を漲らせて喰いついちゃってた。うえぇ、マジか。


特にガザの喰いつきが良過ぎる。鼻息荒いよ。何がそんなに興奮させるのか、まったくわからん。義兄に、解読の暁には、とか言っちゃってるし。いつの間にか、ラクガキ読み隊結成してる。マジだ。

彼等のアツアツな熱意をわかりたくない俺は、冷めた紅茶を啜る。あー冷めちゃった冷めちゃったわ。




そんなわけで? 難題は義兄の宿題となってサロンでのティータイムは終了。

で、今に至る。





兎に角、三日も引き籠って調べてくれたわけです。はい。読めなくてもいいって思ってゴメンナサイ。
目の下に黒いクマちゃん飼っている義兄を見たら、どうでもいいなんて言えないし思えない。あ~ここは、絶賛しておこう。うんそうしよう。

成程、魔法術大好きな義兄にとっては良い報告だよね。

努力と熱意は賞賛に値する。義兄が魔道技師として名を馳せるのも頷けるわ。こういう点は尊敬できるね、この人のこと。

口角が少し上がったその顔。あー嬉しいんだ。義兄の自然な笑みって珍しいよね。大体いつも、貼り付けた笑顔だし。喜んだ様子から苦労が報われて本当に良かったと思う。

「『主の命令に従うこと』『人知れず自らの意志で主の元に参ずること』後は罰則が書かれていたよ。それに、面白いことに最後の一文。これが、署名欄の名を消す呪文になってね。クク」
「‥‥はっ???」

なんて?!

「これがあれば、クク、…‥隷属できますね」

えっ?! 嬉しかったのは、そっち?! そして誰を?!

ニタリと目を細めて愉し気に微笑む義兄は、そうれはそれはもう、悪魔でした。
いーやー、悪魔降臨したじゃん!! 悪魔に闇アイテムを持たせちゃったよ!!

これのどこが良い報告?! あーあー、義兄にとっては良い報告だよね!!  

契約魔法の変更は不可。これが常識。不履行を防ぐ目的で科される魔法契約だからおいそれと変更は効かない。中には例外もあるらしいけど、ここは割愛で。
だから、これはとんでもない話なわけ。

「それでね‥‥」

何だかな‥‥なんだかなんだよ。ちょっと裏切られた気がする。努力家の義兄を賞賛したいのに…。
  
「最後の一文を記載した意図はわからないけれど、推察ぐらいはね。恐らく、この契約書を作成した者は抗いたかったのだと思うよ。それに、依頼主はこの言語が読めなかった。作成者の叛意もね。でなければ署名を消そうとは思わないだろう?」

静かな口調だけど、何となく‥‥怒ってない? 

「確かに言われてみれば、契約内容の最後に、無効にさせる言葉を残すのって不自然ね。やっぱりお義兄様の言う通り、逆らいたかったのよ。きっと権力者に無茶ぶりされたのね」
「…無茶…ぶり? 面白い言い方をするねレティ、ふふ。古いモノだから当時何があったのか知りようがないけれど、逆らえなかっただろうね」

どこかを見る目が、切なく見えるのは気のせい?

‥‥やっぱ寝不足がきてんじゃない? 焦点合ってないじゃん、早く寝た方が良いよ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...