解き放たれた黒い小鳥

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解き放たれた黒い小鳥

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 「お前と結婚したのは公爵家の後ろ盾を得るためだ! お前を愛することはない。私から寵愛を得るとは思うなよ。だが情けは掛けてやろう。私の子を成すのもお前の正妃としての務めだ。それぐらいは許してやらんでもない。子が出来れば公爵も文句は言うまい」

「フィリップ様、な、何を仰って‥‥」

「まだ解らぬか! お前を抱くのは仕方なくだ。私の愛を得たと思うな。私の愛は可哀想なジョアンナにある。身分が低いからと虐げられたが私が愛するのは彼女だ。お前ではない! ‥‥良いか、お前の正妃として役割を果たせ。精々、己の職務に励めよ。私の手を煩わせるな、良いな!」

 そう心を抉る言葉でわたくしを傷つけたのは名実ともに夫婦となったフィリップ新国王。即位され日も立たない王とおざなりな夫婦の営み。夫の、役目は済んだと言わんばかりの態度。まるで仇を見る目で暴言を吐き寝室を出て行かれた。

 どうせ行先は、彼女の元でしょう。これ見よがしに自分の愛は彼女にあると振る舞う姿はいつものこと。

 ここまで嫌われる理由がわからない。わたくしが一体何をしたのでしょう。幼き頃より添い遂げる相手だと言い付けられ、その言葉を信じて努力を重ねてきたのに彼の頑なに拒絶する態度にわたくしの想いは砕け散る。






******

 「お前が私の子を殺したのだ!」フィリップ様の言葉に打ちのめされた。

 それは王妃としてのお役目が果たせた歓喜に浸るわたくしに訪れたのは悪夢の始まり。

 心無い言葉に打ち震える。子を亡くし悲しむわたくしを追い詰める冷淡な夫。悲しみと喪失が我が心に押し寄せる。




 救いの手はどこにあるの。






*****

 フィリップ様の愛妾であられるジョアンナ様に懐妊の兆しの一報が。夫の喜ぶ顔を見るのが辛い。

 (だってわたくしは、わたくしの子が忘れられないもの)

 悲しみに暮れる日々の中、突如わたくしは謂れのない罪を着せられた。
 愛妾のジョアンナ様に堕胎薬を飲ませ生死の淵に陥れお腹の中の御子を死なせたと。下手人はわたくしの侍女だと言う。侍女は命令を受け致し方なく行ったと嘘を吐く。

 「わたくしではありません!」

 必死に訴えても耳を貸す者はいない。

 (ああ、仕組まれたのね。わたくしは不要になったの?) 

 身分の低い愛妾よりもわたくしの価値は低いのか。問答無用とわたくしは罪を犯した王族専用の塔に閉じ込められ、殺人と殺人未遂の冤罪を被せられた。







 塔に閉じ込められて数か月。初めて夫が訪れた。誤解が解けて迎えに来てくれたのかとホッと一息吐く。その安堵の息も夫の容赦ない一言で掻き消えた。

 「お前は用済みだ」

 夫の口から信じられない言葉が続く。

 「大国の王女を妻に迎え入れる。お前がいると妻の座を渡すことが出来ぬから、お前は病気になって儚くなるのだ。そして、私は子も妻も失くした、傷心の王として王女を娶る」



 心無い夫の仕打ちに。




 ――――絶望した。







*****

 今のわたくしは全てを諦め、夫の企み通りに死を待つ身。

 唯一心の慰めが「亡くした子のもとに逝ける―――」死者の国で我が子を抱く夢を胸に、その日を迎えるまで子の冥福を祈ろう。そんな微かなわたくしの想いは、あの女によって無残に打ち砕かれた。



 ―――愛妾のジョアンナの面会。


 彼女はどう足掻いても正妃になれない身の上を嘆き、わたくしにその不満をぶつけに来た。高貴な身分の女が憎くて妬ましい。その高い地位から引き摺り下ろし惨めな姿を嘲りたい。彼女は憎悪と狂気を隠すことなく曝け出し、わたくしの心を殺しに来た。

 「教えたげるわ。堕胎薬の話は嘘よ。私、妊娠してないし。最後の最後まで、あんたは私の手の内だったのよ。王子様に愛されもせず、縋りついて惨めな女よね。それで殺されるんだから、笑っちゃうわ!」

 (彼女一人では出来ない話だわ。協力者がいたのね。見抜けなかったわたくしが愚かだったのよ)

 敗北を受け入れたわたくしの普段と変わらぬ態度に業を煮やしたのか彼女は表情を歪めて悔しがった。
 わたくしを睨みつけていたジョアンナは、悪巧みでも思いついたのか。悍ましい笑顔をこちらに向けて笑って言った言葉に戦慄した。


 「あんたの子を殺すよう頼んだのは私よ」




 「ヒュッ!」






******************************

 「ヒュッ!」

 憎たらしい女の顔が苦痛に歪む。

 いつも澄ました顔の妃が真っ青な顔で息を呑んだのが分かるとジョアンナは仄暗い喜びを感じた。優越感が心地良い。嘲笑って追い込んでやろうと欲が顔を出す。

 「そうそう、あんたの家族が嗅ぎまわって煩かったの~。でも漸く冷たくなって静かになったわ。余計な事をせず大人しく従えば命だけは助かったのにね~。あなたと一緒で馬鹿なんだ。あはは」

 王妃の驚愕の顔がジョアンナの目に焼き付いた。じっと王妃を見返したまま彼女は高揚した。長年邪魔だった女が絶望して死ぬのだ。その女の心に刃を向け致命傷を与えたのが自分だと思うと腹の底から笑いが沸き起こる。可笑しくて可笑しくてジョアンナは顔を歪めて笑っていた。王妃の瞳に映った自分の醜悪な面貌に目を背けて。

 「‥‥‥‥」妃の言葉は絶望の闇に掻き消え、言葉とはならず。

 ジョアンナの狂気の笑い声が室内に木霊するだけだった。







 「‥‥‥る‥‥ない‥‥」

 「えっ? はあ何言ってるの?」

 「許さない‥‥許さない許さない許さない許さない‥‥」

 「ふん、勝手に言ってなさいよ。どうせあんたは死ぬだけなんだから‥‥あ、あんた‥‥」

 ジョアンナは只ならぬ魔力を身に纏い出した王妃に戸惑い始めた。彼女は王族に嫁ぐだけあって魔力保有量が豊富。今、彼女の身体から信じられない量の魔力が放出されている。このまま放出し続ければ王妃の身体もさることながら近くにいるジョアンナもただでは済まないと予測できた。

 王妃は己の命を糧に魔力を圧縮し続け、部屋は高濃度な魔力に満ちる。

 ジョアンナは王妃の魔力に充てられ恐怖の余り声も出ない。得体の知れない恐ろしさを味わい硬直していたのだ。頭の中では一刻も早く逃げないと危険だと警告を発するも身体が動かない。指一本も動かせない。

 が、ジョアンナの破滅の予想は、王妃の魔力が一点に集約されたことで外れた。

 王妃の魔力はジョアンナ諸共、周囲を呑み込み始め‥‥と戦々恐々していたのが馬鹿らしいほど魔力が収束したのだ。

 「は? な、何よ、ふん、くだらない悪あがきをしたって、無駄よ!」

 霧散したとはいえ、目の前で魔力を練り上げた女に恐怖が掻き立てられたのを、ジョアンナは笑えない。震えが止まらない。血走った目で嗤う王妃が、別の生き物のように感じ今迄感じた事のない恐怖が全身に走ったのだ。

 自暴自棄とは違う――今まで敵視していた女の変化をジョアンナは全身で感じた。未知の恐怖で一歩一歩とジョアンナは後ずさる。

 急に大人しくなった王妃の掌に、小さな黒い鳥が一羽。あの収束した魔力が作り上げたモノだ。
 黒い小鳥は鳴きもせず漆黒の羽根を広げ、王妃の手の中で踊る。


 その光景に、ジョアンナは考えるのを放棄し。

 「は、ほんと、バカな女ね!」

 異物の恐怖心から逃げ出した。







 一方の王妃は、魔力と生命を練り上げたとあって虫の息だ。

 「ゆる‥さ‥な‥い‥おま‥え‥たち‥つ‥み‥を‥‥‥‥‥‥り‥か‥‥す」 

 ゆっくりと身体が床に倒れ、もう王妃であった彼女は動かない。



 見届けたのは誰であろう。







******************************

 (わたくしがわたくしとしての自我を持てたのはここまで‥‥)

 呑まれる暗闇の中で聞こえる声は、誰。
 且つて王妃と敬われた女性か。
 忌み嫌われ疎まれた女性か。
 愛した男に裏切られた女性の怨みの声か。



 王妃の自我を呑み込みつくした後に残ったのは、虚無だろうか。




 この塔は、王妃と同じ憂き目にあった女性達や、望まれない王子達を数多く看取った終の棲家。
 見捨てられた者が想いを捨てて逝く最期の砦。
 
 顧みられぬことのない者達の、癒されることのない心を、嘆きを、苦しみを、行き場のない負の念が増大する。



 ―――あいつらを呪えと。



 今のこの場所には『誰を』と、問い掛ける声はない。
 闇を生む呪いはの王妃に力を与えた。



 ―――さぁ、終わりの始まりだ。




 禍々しい魔力が一羽の小鳥となり解き放たれた。

 絶望を糧に復讐を願う想いを力に己の全てを捧げた。
 全てを絶望の渦に呑み込ませた女の願いは叶う。呪いの魔の手が憎い相手を絡めとろうと、今、放たれたのだ。






******************************

 「フィリップ陛下。新たに妃と迎える大国の王女に、ジョアンナ妃の存在は流石にまずいかと」

 「ぬう、やはりそうか。子も産まぬし、もうアレに子を望めぬ。だがなあ、無理を押して愛人にと願った手前、理由が無かろう」

 「陛下、実は‥‥‥‥」








*******

 「罪人ジョアンナよ。前王妃とその御子を殺害した咎で、絞首刑を命ずる」

 言い放たれた裁可に取り乱すジョアンナ。自分は無罪だと主張するも彼女の運命は決定された。

 「い、いやよ! ま、まって! へ、陛下が、そう、陛下が、お許しにならないわ!」

 「馬鹿な女だ。その陛下がお前の死をお望みだ。悪事を企んだ、悪女として処刑されるがよい」

 「嫌あ! いやよ! こ、こんなの、まちがってるわ! わたしが、悪いんじゃないわ! みんな、あの女が邪魔だって! 蹴落とせって、言ったじゃない! わたしじゃないわ! た、助けて、たすけてよぉ」

 「刑の執行まで、己の罪に向き合うがよい。余り煩く騒ぐと、喉を潰すことになるぞ」

 「ま、まってぇ、まってぇ‥‥うそよ。うそよ、フィリップが、わたしを、みすてるはずがないわ。きっと、だれかに、だまされたのよ。そうよ、そうにちがいないわ」

 みっともなく縋り泣き喚いたジョアンナは、愛する男の心変わりを信じれずにいた。壊れかけた心の彼女は真実に目を向けようとはせず偽りの事実を作り始めた。

 城の地下にある牢屋に収監されたジョアンナ。嘗て、王妃を追い詰めた同じ人物とは思えないほど憔悴していた。ただただ愛する男フィリップが自分を救いに来てくれると、あり得ない未来を信じ。心を守るため、自分を見捨てた男の愛を信じ。己が犯した罪を忘れ。

 助けが来ると頑なに信じる女が冷たい牢屋で孤独に耐えていた。






*******

 「この女か?」

 「ええ、王妃様を殺害した凶悪犯です。この女は虚言癖がありまして、声を潰し、指も使えないよう処置を済ませてあります」

 「ほおう、手間が省けたな。では、私が引き取る。出せ」

 二人の男がジョアンナが収容されている牢屋の前で牢番に指示を出す。

 痛みと苦痛に悶えるジョアンナは見知らぬ男の手に渡った。処刑ではなく病死として処理されることをジョアンナは知らないし誰も教えない。彼女はある人物の求めで刑を免れ牢屋から出されることとなったのだが、それは決して幸運でもなく、彼女の救いでもなかった。

 ジョアンナは稀代の悪女として裁かれ、彼女の家族は財産没収の上、処刑。彼女を使って甘い汁を吸っていた貴族達も容赦なく断罪された。こうして悲劇の王妃の敵討ちは幕を閉じた。 






******************************

 「族長。この女は、妻のいる夫を寝取る性質の悪い趣味を持つ。それだけではなく、妻に向かって、寝取られたお前が悪いと暴言を吐く性悪な女でなあ。性格が悪い、いやいや、この女は極悪人だ。自分が子を孕めないからと言って、男の妻が、肚に子を宿したその妻に嫉妬して、人を使って、肚の子を殺した。悲しみに暮れる妻を嘲笑い、精神的に追い詰め、最後は、妻を殺した極悪人だ。勿論、罪を犯した以上、処刑が妥当なのだがなあ。この女は、自分は悪くない、死んだ子と妻が馬鹿だからと、死者に対して暴言を吐く始末。これでは、死をもって償わせても、来世、また悪人として生まれるに違いない。そう思わないか? ああ、そう思うのか。ふふ、私もだ。そこで、この女に贖罪の機会を与えたくて、ここに連れて来た。ふふ、もうお分かりだな、族長よ。頼んだ。‥‥ああ、直ぐに天に召されては、罪が消えぬ。心の底から悔いて、悔いて、自ら死を懇願するまで、いや、懇願しても、楽にしてはその女の為にならぬ。ふふ、わかってくれるか、流石は族長。貴女に預ければ間違いないな」

 ジョアンナを連れて来た者が、族長と呼ぶ老婆に一羽の黒い小鳥を差し出した。塔から飛び立ったあの小鳥を。

 族長はその手に小鳥を乗せ、すっと自分の魔力を流した。ボウッと光った小鳥を見つめる族長は痛ましい表情で、そこに込められた女性の記憶を無言で読む。嘘がないか確かめたのだが。

 「あい、任された。儂らが、この者に犯した罪と向き合わせようぞ。なあに、子が出来ぬ肚であっても、儂らの術ならば、孕ませれようぞ。この世に生まれるはずであった子を思うと、不憫じゃ。代わりと言っては何じゃが、この女に産ませようぞ。無論、閉経までじゃ。この村に訪れる男は多い。一晩の慰めに使えば、金も入ってくるわい。丁度よい」

 「ほおう。なるほど。適任だな。そうか、では、こいつが一人子を産めば、金を払おう。監視役も置いていく。男手が必要な時は、いつでも使ってくれて構わぬ」

 「声が出ぬのが、ちと値が下がるが、仕方あるまい」

 一国の王を、女の武器を使って篭絡した寵妃は、魔女が治める僻地の村でその生涯を送る。



 全てを村の為に捧げ贖罪を強いられるジョアンナ。生殺与奪は魔女の手に。たとえ身体が壊れようとも、心が悲鳴を上げ、正気を失いかけても、族長が治してしまう。己の罪を認めない彼女は、いつまでも金を産む道具。長く使うほど金が稼げる。大事な大事な共有資産だ。


 悔やんでも悔やみきれないジョアンナは、今日も天を恨み世を儚み人を呪う。






******************************
 
 「美しき我が妻コデリアよ。今宵、我らは一つとなろう」

 「うふふ。この日を待ち望んでおりましたわ。フィリップ陛下」

 婚儀を終えた新郎新婦の寝所。
 若く美しい王女が頬を染め、夫となった王を迎え入れる。

 「ふふ、先ずは、祝いの一杯を」

 いまだ少女の面影が残るコデリアが無邪気に差し出したのは、一杯の酒。
 どこをどう見ても初々しい彼女に胸が躍るフィリップは、快く差し出されたグラスを取り、躊躇うことなく口にした。

 「まあ、見事な飲みっぷりですわ」

 ワザとらしく笑う少女が、やけに艶っぽく見えた気がした。遠くで何かが割れた音が聞こえたが、フィリップは‥‥‥‥‥‥意識が途切れ、堕ちてしまった。

 「うふふ、わたくしの身も心は、既に真に愛し合う人に捧げておりますの。貴方では、ないの。あしからず」

 コデリア王女、王妃に迎え入れられた少女は、満ち足りた笑みを浮かべ自分の肚に手をやる。ここに命が宿っていると言わんばかりに大事そうに大切な宝物のように優しく撫でさする。

 「うふふ、名ばかりの夫でお飾りの王よ。良い夢を」


 「コデリア王妃」

 手筈を整え役の者が小声で声を掛けた。コデリアに恭しく頭を垂れ臣下の礼をするのは、侯爵夫人。慣れぬコデリアの世話役兼教育係に任命された女性である。娘を一人持つ母親だが、嫡男を産めず夫から義母から役立たずと蔑まれていた。勿論、娘も。愛人が出産した男児を自分の子として育てさせられ鬱々と日々を生きている女性だ。

 コデリアの企てを担ぐに相応しいと認められた女性。

 「パメラ夫人、後は任せたわ。ああ、そうそう、貴女の娘、わたくしの話し相手に丁度良いわね。城に呼びなさい。わたくしが後ろ盾になりましょう。ふふ、その代わりに、夫人、しっかりと頼みますわ」
 
 「ああ、ありがたきお言葉。ええ、ええ、生涯、お仕えさせて頂きます。後はお任せくださいませ」

 父親から顧みられない娘をコデリアが守ると言った。パメラにとってコデリアは救い主。この国の貴族女性はパメラと似た境遇の者が少なくはない。身分も高く社交界に顔の広いパメラが持つ人脈は侮れない。その女性をコデリアは手懐けた。 

 情報を集め、とうに根回しは終わっている。味方に付けた貴族は大国の王女を宝珠の如く扱うだろう。

 そう、自国の王よりも。



 「コデリア様」

 息を殺して陰に潜んでいた男が、すっとその姿を現す。今宵の新妻の名を親し気に、そして、希うように。抱き慣れた手つきで人妻の肩を抱き優しく包む。愛する男に抱きしめられたコデリアの強張った身体が和らぐのを感じた男は満足気に微笑む。コデリアは邪気なき瞳で男を見つめた。

 そこに愛は、二人の間には愛が、誰にも引き離されないとお互いを求める深い愛が。

 そのまま二人は静かに暗闇へと‥‥。


 後に残ったパメラが初夜の床を彩る。初々しい新妻の、あるべきしるしをそこに。





******************************

 「フィリップ陛下、王子です! 王子がお生まれになりました! おめでとうございます」

 「おお! そうか! そうか! 私の子が! 王子か、はは、世継ぎが産まれたぞ! はは、これで、種なしと言わせぬぞ」

 「おお、これで国も安泰ですな! 何とめでたい事か!」


 コデリアは男児を出産した。

 待望の王子誕生に王も国も沸き立つ。

 後継を儲けられないフィリップ王を非難する声が上がる中、漸く生まれた。誰もが安堵したことだろう。大国との絆も深まりこの国の未来は明るいと誰もが信じていたことだろう。


 コデリアとパメラは歓喜に沸き立つ男どもに冷ややかな視線を向け、そっと嘲笑う。






*******
 
 「国民の半分が女性ですのに。どうして虐げるのか理解に苦しみますわ。それに、ご自身の跡継ぎを産むのは、女性ですのに。おバカな男は、うふふ、痛い目に遭えば宜しいのではなくて?」

 「左様でございますコデリア様。わたくしどもの境遇に心情を理解してくださるのは、貴女様だけでございます」

 「ふふ、いいのよ。パメラ夫人。これからも頼むわね」


 王妃の願いを受け入れたパメラは、コデリアの右腕として台頭してゆく。


 そして。


 この国の希望と謳われた王子はすくすくと育っている。






 フィリップは自分と同じ色の髪と瞳を持つ王子を溺愛していた。
 コデリアの輿入れと共に来た従者の男と同じ色合いに気付きもしないでフィリップは我が子を慈しむ。

 その姿を目に映すコデリアが嘲笑っているのも気付かずに。






*******

 「大臣、もう、いいでしょう。陛下には、不治の病で儚くなって頂きます。後は頼みますよ」

 「はい。抜かりなく手筈は整えております。お任せください」

 「ふふ、この国を治めるのは、このわたくしです」





 風格を見せつけるように笑うコデリアは、在りし日を思い出す。


 あの日、あの時、自分の下に舞い降りた黒い小鳥を。

 この城にかつて王妃として生きていた名も知らぬ女性を。





 ‥‥‥‥愚かな王の血は、受け継がれない。満足したか、王妃だった女よ。


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