魔王討伐のその後

火ノ鷹

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エピローグ

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村や町では壊滅的な被害が起きていた。
いつもの村であれば農地を開拓し、収穫するはずの麦や野菜を確認する。近くに魔力草が生えているかのチェックを行う。毎日行うのはそれだけだ。もちろん周囲に魔物がいれば村に報告し、害獣がいれば討伐を村人で計画を立てるといったこともある。
いつもの町であれば賑わう人から商いを行い、麦や野菜、加工品といった物を売買する。宿屋や定食屋では準備や仕込みを行い、鍛冶屋からは鉄を打つ音がしていた。もちろん周囲に魔物がいれば衛兵に報告され、害獣がいれば冒険者という名のなんでも屋に依頼するといったこともある。

しかしその日はいつもの毎日ではなかった。

村の周囲ではオーガが暴れ、木造である家がトレント化し、食料は悉く魔力に侵された。あまりの事態にすぐさま村を捨てることも多かった。
町の周囲では城壁を超える大きさのサイクロプスや一体だけで村を滅ぼせると言うキマイラ、グリフォンといった魔物が10数体単位で現れていた。余りのことにショック死した冒険者すらいた。
大量の魔物という嵐により社会そのものが破壊され、人は散り散りとなってその場所から去っていく。神様に祈りが通じたのか、街道にだけは魔物たちは手を出すことはなく町村から逃げ出すことはできたのだ。

そして彼らは誘われ、一点の方向へと向かう。人々の目には魔物のいない方へと向かう光が、街道にポツリポツリと見えていた。


ところ変わって王都。
ここでも他の町村同様に魔物に襲われていた。明らかに規模が違うという一点を除けば。

「何がどうなっておるのだ!?」
「報告です!伝説の真竜クラスが数体城下町に現れております!推定ですがテュポーンやリヴァイアサンと思われます!」
「魔法部隊より通達です!地面直下数十mに大災害レベルの魔物が近寄っております!」
「城下町外にはキングオーガクラスの魔物が大量に表れており地平線が見えない程になっております!」

歴史上起きた災厄がまとめて襲い掛かってくる程の規模であり、ひとたまりもないのは明白だった。王城は混乱の極みに陥っており、もはや機能していなかった。
軍といった戦力がまともに機能できない以上、上に立つ者たちからすれば逃げるしかない。が、ほぼ完全に包囲されている以上突破する戦力を準備しなければならない。……地平線を埋め尽くすほどの包囲を突破できる戦力を。
唯一、城下町から出る街道にだけは譲るように魔物たちは道を空けていた。そこ以外は全て魔物で埋まっていたために罠以外の何物にも見えなかった。

そんな状況下、シアハがデウス国王の前に現れた。まるでいつもと変わらないようにテクテクと歩いてきていた。

「まさかこんな事態になるとは」
「シアハ!?何か知っておるのだな!今すぐにこの状況をどうにかしろ!」
「いえいえ、この状況を作ったのはあなたですよ、デウス国王」

鋭い視線にデウスは何のことかと脳裏を走らせる。だが暗いことなど当たり前のようにやっていた頭だ。シュークのことだと理解することが即座にできなかった。

「魔王を討伐した後、対処を間違えなければこうはならなかった」
「何を言っている?」

憐れむような目でシアハが指摘する。表情を変えずにとぼけるのは国王として流石だと言わざるを得ないが、起きたことが悪影響を及ぼしたのなら認める方が為政者としては正しい。デウスが認められないのはシアハには分かっていた。故に憐れむしかできなかった。

「もしかしたらできるかもしれない。そんなレベルの保険でしたが、アイディとシュークは上手くやってくれたようです」
「何を言って……そうか、貴様のせいだな!あの僧侶に襲うよう指示でもしたのだろう!」
「こんな状況で責任など最早どうでもいいでしょう。私は助けられるだけの命は既に助けた」
「何だと!?」

シュークは視線を城下町のさらに先、魔物たちが空ける道へと向けた。そこには貴族のような者はおらず、町の人たちが走って駆けて行っていた。馬にも乗らず、持っているのは少しの食料だけだ。
シアハには分かっていた。魔王がいなくなれば必ず置き土産をするだろうということを。自身が魔王なら必ずそうするから。魔王を殺せば必ず問題が起きると信じていた。
そしてそれをひっくり返したのはシュークだった。置き土産を一時的に不発にした、ならば制御が効かないものではないと判断できたのだ。だからこそ最大限扱える可能性がある人を送ったのだ。
こんな形になったのは流石に予想外だったが、二人を信じるシアハには迷うこともなかった。

「魔物に侵されない道こそが私たちの祈り。教会がそう伝えたら民は逃げていきましたよ」
「ならば我らも」
「それは残念ながらできない。手遅れだ」

シアハは教皇だ。それは教会で一、二を争う程強い者でもあることを意味する。そのシアハでさえこの災厄には踏み潰されるだけだと即座に判断できた。何せ竜や精霊といった者が敵にいるのだ。確実に相対者を捕まえ、滅ぼす存在が。

「報告します!城全体に結界が張られ、逃げることができなくなっております!」
「なっ!?」
「ここは道でもなければ標にもならない。ならば精霊や竜クラスの災厄が許すはずもない」

魔法部隊からの連絡に当然だとシアハは言葉に出す。だがデウスは往生際悪く、シアハへと詰め寄り疑問を口に出す。

「いや、嘘だな?貴様がここにいる以上、逃げる方法があるはずだ」

首を横に振り、シアハは否定を示す。シアハがここにいる理由は、既にやるべきことが終わったからだ。そして、最期にやるべきことを行うためだ。

「私は教皇だ。上に立つものとして、逃げない。たったそのためだけに私はここに来たのだ。……デウス、貴様も覚悟を決めることだな」
「ふざけるなぁ!」

デウスの叫びが響くと同時に、城の壁が突き破られ竜の牙がデウスに突き刺さった。精鋭とされる近衛の攻撃が竜の鼻や顔にぶつけられるも、一つも効いている様子はなかった。

「あああああああああああああ!!!」

そのまま口の中に呑まれ、ぐしゃりという音と共に叫び声は消えた。

「デウス国王!」

凄惨な最期を見ていたのは近衛やシアハだけではない。アラト宰相や貴族といった者たちもいた。彼らへとシアハは視線を向ける。まるで次の目標をお前たちだと言わんばかりに。

「アラト宰相、私たちはここまでですよ。新しい彼らに渡す時が来たのですよ」
「私たちがいなければ民は成り立ちえない!こんなとこで死ぬわけには」

背中を向け、部屋の外へと出ようとするアラトの首に黒い斑点が走る。闇の精霊の魔法なのは魔法に少しでも長けている者ならすぐに分かることだった。
何かに押しつぶされるかのように顔が、何かにねじられるように首が、勢いよくその力に従って動いた。

「がぴべっ」

アラトの首がねじり飛び、ゴロンとシアハの足元へと転がる。侮蔑の視線がシアハからは向けられていた。
二人が殺されたのが分かったかのように、ゴゴゴと地面が鳴り響く。大地神龍ガイードが城を飲み込もうと地盤から動いているのだ。逃げ場などどこにもない。

「……シューク。あなたはどっちにいるでしょうか?先に行ってるなら今行きますよ。後で来るならゆったりと来なさい。また悪巧みできることを楽しみにしてますよ」

城が地面に呑まれていく。ガイードという災厄は地盤そのものとすら言われる龍だ。城そのものが地盤沈下するように落ち、ガイードの口の中へと入っていく。城の中にいるもの全てを呑みこみ、王城はこの世界から消えた。




十数年後のことになる。
かつて魔王城と呼ばれた城は勇生城と名前を変え、人で沸き返っていた。人の社会は一度滅び、勇生城を中心に再び社会を再形成したのだ。魔物が跋扈するようになった世界から、神の導きによって脱出できたと呼称する者たちが集まり作ったものだった。

魔物が跋扈していたが、量だけは少しずつ減っていっていた。いくら魔物が多くても弱肉強食の世界である。より強い魔物が支配するようになり、弱い魔物は食料として食われることになっていたのだ。
もちろん弱い魔物が逃げ延び、勇生城までやってくることもあった。しかし今では人が住むところは弱い魔物でさえも大地から出る瘴気が感じられないほどの場所だ。魔物からすれば毒の沼地と大差はない。そうなれば籠っている人間に襲撃され、殺されることになった。

しかし今の世界に魔王はいない。社会を破壊し魔物が蔓延ろうとその頂点は崩れ去っている。ならば百年か、千年か、少しずつ魔物は駆逐され再び人類が元以上の復興を成し遂げることはできるだろう。

そしてそれだけの社会変化を起こした、本当の人を知るのはたった4人だけだった。彼らは静かに過ごす友のために、生涯を通し語ることはなかった。
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