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決戦

取り戻した者

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地上の岩山の上、見上げると空にあった雲はなくなり、青い空がきれいに見えている。
そこには横たわるシアの姿をしたジルクと、蝶の翼を生やして膝枕をして座っているローザリッサの姿があった。

「……ローズ?」
「目が覚めたか。えーと、どっちだ?」

分かっているが、一応念のためだ。私を呼ぶ言い方がどちらであるのかは分かっているが、どうしても不安になる。

「ジルクか、シアかってこと?」
「やはりそうなったか。どちらも欲しいと思ってしまったからなぁ……」

強欲が過ぎた。本当ならジルクだけを助けるつもりだったのだが、シアもジルクだと考えてしまったために、一人の身体に二人の意識が入るようなことになってしまった。

女性化したジルクに、フィーアへの主従意識と邪悪な魔力が混じり込んだのがシアだ。そこからフィーアへの主従意識を破壊したような形だが、強さや魔力はそのままになっていた。
フィーアを消滅させた空間の近くにいたため、親和性が高いからとそのまま魔力を吸収したと赤い羽根が言っていた。その影響らしい。

「強欲なのはいいけど、私たちだけにしてよね?」
「シアか。力の強い方に引っ張られるならそうなるのは仕方ないか。私たち、ということは」

ドクンと、既に存在しないはずのローザリッサの鼓動が脈を打つ。ずっと想っていた者が、奪われた者が、そこに本当にいるのだと信じられる時がようやく来たのだ。


「俺はここにいるぞ」


その言葉と共にローザリッサはジルクに抱き着く。目からは嬉し涙を流し、その顔には眩しいほどの笑顔が咲いていた。
「よかった……、助けられて!。ジルクがいなくなってたらどうしようって、ずっと怖かった。あのヤギがゲスいことだけを祈っていた。消されてないことを聞いたときにどれだけ安心したことか……!」

ジルクが知っている気高さはそこにはない。あるのはただ想い人がいなくなるのが不安で仕方のなかった乙女の姿だ。
ジルクはまだ力の入らない両手をローザリッサへと伸ばす。首に回し、想いは届いていると行動で示す。

「ありがとう、ローズ。……俺はシアの中にいた。ローズへの回復魔法に全生命力を託したから、そこからは眠るようにシアの中に居たんだ。そこから凄い長い時間が経って、俺自身の生命力と……燃えるくらいに熱い想いが届いたんだ」

できる限りの笑顔をして、ローザリッサをジルクは安心させる。
対照的にローザリッサの笑顔がぴしりと固まった。鈍感じみた性格のジルクに想いが届いたというのが本当なのか疑いを持ってしまったからだ。

「……私の想いは伝わったか?」

だから安心させてほしいと言葉に出す。ねだるような言い方であり彼女らしくないのだが、ジルクを二度と奪わせないためにはローザリッサは何でもやるようになりつつあった。

「あんなに燃えるような恋心叩き込まれて伝わらなかったら……その辺にいる赤い羽根に燃やされるよ」
「ははは、実は赤い羽根はこういうのが大好きらしいからな。あり得ないとは言えないな。それで……その、返事は?」

一瞬の間の後、照れるような笑顔で告げた。

わたしでよければ。永遠を誓って横にいましょう」
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