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決戦
終幕
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「空間を跳んで」
「逃がさん」
大きくなった羽根が速さを異次元のものとし、転移のための魔術を展開しようとした魔力ごとフィーアが存在する空間を切り裂く。
転移するための魔力や魔術を構成する特性すら切られ、フィーアはうめき声をあげた。
「ぐぅぅぅ!?」
「フィーア様!」
シアがフィーアの肩を支えるように抱きつく。フィーアが切り裂かれればシアも切り裂かれるほどの密着であり、盾になろうとする意志が見えた。
「もし肉体が死んでも消滅しない相手への対処法があればと、赤い羽根に教えてもらった。消滅させるためにはバラバラにしても無駄であり、存在や存在している空間そのものを切り裂くか燃やし尽くせ。効果的で何よりだ」
さらに羽根が一線、二線と放たれフィーアの姿だけがバラバラに裂かれていく。シアには傷一つつけられていない。
ローザリッサにあるのはただただフィーアを殺す、消滅させるという怒りの意志だけであり、理性が効く要素は無くなっていた。しかしその狙いだけは正しく照準されており、シアを切り裂くような真似をする意思はなかった。
「ダメっ!」
シアがローザリッサの前に両手を広げて立つ。羽根どころかさっきまで振るっていた槍の間合いであり、斬られても構わないという明白なポーズだった。
涙をポタポタと流すシアに、ローザリッサの意志はほんの少し揺らぐ。
「殺さないで…!」
「……」
シアの言葉はローザリッサには届かない。これがジルクの言葉だったらすぐさまローザリッサは手を引いただろう。
羽根がさらにその怒りを体現し、魔力どころかフィーアという存在が粉々になるまでバラバラに切り裂かれていく。もはやフィーアの姿は無く、空中という空間に漂うフィーアの意志すらも少なからずダメージを負っていた。
「シア、か。……もしジルクが女だったら、お前みたいな女だったのだろうな。主のために命を捨てる。誰よりも惹かれる女だろう」
「……。フィーア様への攻撃を止めて」
フィーアの姿が消え失せ、限りなく消滅に近い状態になったところでローザリッサの羽根が止まる。ローザリッサの知っているジルクではないが、もしジルクが別の世界では女だったらこうだったかもしれないという可能性がその意志を止めたのだ。
しかしフィーアへの最後の一撃を止めたということに違いはないが、フィーアは既に意志のみがほんの僅かに残っているだけだった。
それこそ力も何もないただのヤギになる程度の意志が。
「……そうだな、私は意外と強欲だったようだ。ジルクだけじゃ飽き足らずお前すらも欲しいと思う程度には」
ローザリッサはシアに近づき、自らの身に抱き寄せる。ローザリッサの魔力は全力戦闘の状態のままであり、マグマの現象が発現したままだ。魔力を全て消費し、供給源たるフィーアすら失いつつあるシアからすればその現象すらも耐え切れない。死の瀬戸際だった。
「見えるか?」
「えっ!?」
ローザリッサは自らの唇を指さす。そこには灼熱のような魔力……ではなく、全く別の魔力と生命力が宿っていた。
そして弱り切ったシアにはそれだけで全身を満たすには十分なだけの魔力と生命力だった。
これを消さないために足掻いてきた。
これを渡すために唇を地に伏せなかった。
これを維持するために……赤い羽根との修行でさえ口だけは人から変えてない。
ジルクから貰った、回復魔法だ。
「お前に貰ったものだ。それを今から返すだけさ、私の想いと一緒にな」
「あ……フィーア様……止めて……!」
主への言葉も、ローザリッサへの抵抗も、虚しく空へと消えていく。そんなものは無駄とローザリッサが魔力を鎮めた両腕で抱きしめ、逃がさない。
「帰ってこい、ジルク」
ローザリッサはシアの唇に自らの唇を重ね合わせた。
「逃がさん」
大きくなった羽根が速さを異次元のものとし、転移のための魔術を展開しようとした魔力ごとフィーアが存在する空間を切り裂く。
転移するための魔力や魔術を構成する特性すら切られ、フィーアはうめき声をあげた。
「ぐぅぅぅ!?」
「フィーア様!」
シアがフィーアの肩を支えるように抱きつく。フィーアが切り裂かれればシアも切り裂かれるほどの密着であり、盾になろうとする意志が見えた。
「もし肉体が死んでも消滅しない相手への対処法があればと、赤い羽根に教えてもらった。消滅させるためにはバラバラにしても無駄であり、存在や存在している空間そのものを切り裂くか燃やし尽くせ。効果的で何よりだ」
さらに羽根が一線、二線と放たれフィーアの姿だけがバラバラに裂かれていく。シアには傷一つつけられていない。
ローザリッサにあるのはただただフィーアを殺す、消滅させるという怒りの意志だけであり、理性が効く要素は無くなっていた。しかしその狙いだけは正しく照準されており、シアを切り裂くような真似をする意思はなかった。
「ダメっ!」
シアがローザリッサの前に両手を広げて立つ。羽根どころかさっきまで振るっていた槍の間合いであり、斬られても構わないという明白なポーズだった。
涙をポタポタと流すシアに、ローザリッサの意志はほんの少し揺らぐ。
「殺さないで…!」
「……」
シアの言葉はローザリッサには届かない。これがジルクの言葉だったらすぐさまローザリッサは手を引いただろう。
羽根がさらにその怒りを体現し、魔力どころかフィーアという存在が粉々になるまでバラバラに切り裂かれていく。もはやフィーアの姿は無く、空中という空間に漂うフィーアの意志すらも少なからずダメージを負っていた。
「シア、か。……もしジルクが女だったら、お前みたいな女だったのだろうな。主のために命を捨てる。誰よりも惹かれる女だろう」
「……。フィーア様への攻撃を止めて」
フィーアの姿が消え失せ、限りなく消滅に近い状態になったところでローザリッサの羽根が止まる。ローザリッサの知っているジルクではないが、もしジルクが別の世界では女だったらこうだったかもしれないという可能性がその意志を止めたのだ。
しかしフィーアへの最後の一撃を止めたということに違いはないが、フィーアは既に意志のみがほんの僅かに残っているだけだった。
それこそ力も何もないただのヤギになる程度の意志が。
「……そうだな、私は意外と強欲だったようだ。ジルクだけじゃ飽き足らずお前すらも欲しいと思う程度には」
ローザリッサはシアに近づき、自らの身に抱き寄せる。ローザリッサの魔力は全力戦闘の状態のままであり、マグマの現象が発現したままだ。魔力を全て消費し、供給源たるフィーアすら失いつつあるシアからすればその現象すらも耐え切れない。死の瀬戸際だった。
「見えるか?」
「えっ!?」
ローザリッサは自らの唇を指さす。そこには灼熱のような魔力……ではなく、全く別の魔力と生命力が宿っていた。
そして弱り切ったシアにはそれだけで全身を満たすには十分なだけの魔力と生命力だった。
これを消さないために足掻いてきた。
これを渡すために唇を地に伏せなかった。
これを維持するために……赤い羽根との修行でさえ口だけは人から変えてない。
ジルクから貰った、回復魔法だ。
「お前に貰ったものだ。それを今から返すだけさ、私の想いと一緒にな」
「あ……フィーア様……止めて……!」
主への言葉も、ローザリッサへの抵抗も、虚しく空へと消えていく。そんなものは無駄とローザリッサが魔力を鎮めた両腕で抱きしめ、逃がさない。
「帰ってこい、ジルク」
ローザリッサはシアの唇に自らの唇を重ね合わせた。
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