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第三章 チタニア教帝領~教帝聖下救出編~

最初の朝食

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 カラン、カランッ、ガチャガチャ、ガシャーン!

 金属がぶつかり合う音で、目が覚めた。
 ハクの膝から、そっと抜け出し窓の外を見ると、マスターが調理器具を抱えながら歩いていた。
 ハクが俺の横に顔を寄せてくる。

「起こしちゃったか。ごめんな」

「ううん。あれ、手伝ってみたい」

 ハクが、マスター達の方を指さし言った。
 朝ごはんの準備をしているようだ。
 俺達は、行ってみることにした。

「マスター、おはようございます」

「おう!  お前、話せるようになったのか!  」

「ラヴォア博士のお陰です」

「相変わらずだな、あいつは。ガハハハハ!  」

 俺の返答を聞いて、マスターが豪快に笑った。
 その野太い声に、若干、ハクが引いている。

「お前、見ない顔だな。その風貌は、チタニア領のモンか」

「はっ、はい。ハクって言います」

 緊張気味に答える。

「何か、手伝えることはありますか」

「そうだな。あっちで、店のモンが具材を切っているから、手伝ってやってくれ。あと、火起こしも手伝ってくれると嬉しいんだが」

 俺の申し出に、マスターがそう言った。

 火起こし、か。
 そこで、はたと気付く。
 俺は最高のファイアースターターを持っているということに。

「これ、使えますか」

 異次元ポケットから、寝ているゴンを取り出し、マスターに渡した。

「白龍、それもチビだな。んっ、この感じ、赤龍が化けてやがるのか!?  お前、これどこで拾った!  」

 マスターが興奮しながら言った。
 流石、マスターだ。赤龍の擬態?  を見抜いたらしい。

「シアニン帝国で懐かれたんですよ」

「確かに、あの国の守護魔獣は龍種だが、赤龍の存在なんて知らんぞ。コイツは誰かの、守護魔獣なのか」

「……強いて言うなら、ドン・スネークの守護魔獣ですかね」

「守護魔獣の守護魔獣ってか!  そりゃ、傑作だな!  有難く使わせてもらうぞ、ガハハハハ」

 マスターは豪快に笑いながら、ゴンを連れ去っていった。まさか、本当に使えるとは……。

 俺達はマスターの店の店員さんを手伝いに行った。最初は緊張していたハクも、徐々に打ち解けていった。

「わぁー、ちょっと、何をするっすか!  」

 ボーーー!

「やっ、やめるっす!  」

 ゴーーー!

 お馴染みの声と、炎が噴き出される音が聞こえて来た。視線を向けると、ゴンがマスターに完全制御されている。

「すごい、僕もやってみたい!  」

 ハクはそう言うと、マスターの元へと駆け出した。

 その無邪気な後ろ姿はどこにでも居る、少年のそれだった。

「マスターここですか!  」

「そうだ、そこをゆっくり引っ張れ」

 ボーーーー!

「やったぁ!上手くできた!  」

 ゴーーーー

「もう、勘弁っすよー。何もでないっすよーー」

 ボーーーー!


 ハクの楽しそうな声に、蹲る小さな背中のが重なる。

 悲しい過去は変えられない。でも、未来はいくらでも楽しくできるのだ。
 あの辛い記憶が、たくさんの楽しい思い出で少しづつ上書きされればいい。

 ハクのお父さんも、ハクの笑顔を望んでいることだろう。


◇◆◇


 テーブルにカレーとサラダが並べられた。
 何処の世界でも、キャンプにはカレーだと、相場が決まっているようだ。

「「「いただきまーす!  」」」

 ハクの朗らかな掛け声で、朝食がスタートした。俺達は新たに加わった、ハクの為に自己紹介を行った。

「これ、ハクくんが切ってくれたんですよ。
 凄く手際がよくて、助かりました。」

 店員さんが言った。
 ハクは父親と二人暮らしだったらしく、日頃から料理をしていたようだ。

「火起こしもセンスが良かったな。龍種の制御は達人でもなかなか難しんだが、1発でこなしおった」

 マスターが続けた。
 ハクは嬉しそうに、微笑んでいる。

 その横で、ラヴォア博士が呆れたように呟いた。
「竜種で火起こし……。そもそも、そんなことができるのは、お前ぐらいだろう」

 散々こき使われたゴンは、ポケットの中でお休み中だ。後で食べれるように、取っとやらねば。

「ハク、お代わりを頼む!  」

「はいっ!!  」

 ピロロがハクにお皿を差し出すと、最高の笑顔でよそいにいった。

「俺様の分が無くなるじゃねーか!  ハク、取っといてくれー!  」

「はーい!  」

 忙しく動き回るハクは、輝いていた。

 デザートに、マシュマロを焼いて食べた。
 串に刺して表面を炙る。
 その炙った箇所をスルッと引き抜いて食べる。
 マスター曰く、これが通の食べ方らしい。

 スラリーにもあげると、だらし無くデローンとなった。
 ハクは面白がって、何度も食べさせている。
 しまいには、一緒になってデローンとやっていた。

 取り敢えず、元気になって良かった。
 純粋にそう思った。

 ハクの心の中に、新たな葛藤を産むことになろうとは、その時気付きもしなかった。
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