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第四章 エロー学術都市~20年越しのざまぁ編~

旅は道連れ

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「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!  」

「博士、いい加減五月蝿いです」

    赤翔馬せきとばを着地させながら、俺は言った。博士はマゼンタ王国をたってから、ずーーっとこの調子だった。これ以上、耐えられそうもないので、休憩することにした。木に手網を結びつける。博士は木陰に倒れ込み、そのまま動かなくなった。

    ラキノン王にエロー学術都市行きを伝えると、愛馬・赤翔馬せきとばを貸してくれることになったのだ。赤翔馬せきとばは、伝説に違わぬ名馬だった。

    ただし、俺達は一刻をあらそう。
そこで、翼を授けることにしたのだ。

「そんなことが、できるのか」

    俺の提案に、博士が目をキラキラと輝かせながら呟いた。
    首元に手をそっと手を添え、色素ピグメントを流し込んでいく。博士が興味津々にのぞきこんできた。俺の手元を起点として、五角形縦長の翼が出現する。
    あとはこれで、赤翔馬せきとばさんが飛ぶ練習をするのみだ。そこで、はたと思い当たった。

    ……俺達、乗ったままじゃね……
    
    ……かといって、降りたらどっか行っちゃいそうだし……
    
    止める間もなく、嬉しそうに駆け出した。

「「あぁぁぁぁぁぁぁァァァあああああっ!! 
 」」

    まさか、俺達自ら出発のサイレンを奏でることになろうとは、夢にも思わなかった。

    


    必死にしがみつく事数時間、やっと安定して飛べるようになった。
    当初のルートからは大幅に逸脱し、チタニア教帝領に近づいていた。心身ともに疲弊した俺達は、教帝領で休息させてもらうことにした。結局、教帝聖下のご好意に甘え、一泊させてもらった挙句、食事までごちそうになった。

     そして、朝一で見送られ、現在にいたるというわけだ。
     死にそうな博士曰く、あと数時間でエロー学術都市に着くらしい。

「博士、そろそろ出発しますよ」

「やだー」

「じゃー、先に行ってますね」

    そう言いつつ、赤翔馬せきとばに飛び乗ると、博士がノロノロと動き始めた。
    そして、俺の後ろに跨る。

「それじゃー、いきますよー」

    俺は勢いよく手網を引いた。赤翔馬せきとばが空中に駆け上がる。

「まっ、まって、まだ、こころのじゅん、びゃあぁぁぁぁぁぁぁぁああ!  」

    博士の気持ちとは裏腹に、出発のサイレンが辺りに轟いた。




    開けた平原の先に、広大な城塞都市が見えていた。城門では入門検査が行われており、人々の行列が出来ている。

    学術都市が近づいてきたため、数キロ前から赤翔馬(せきとば)を走らせていた。地に足がつくと、見る見るうちに、博士が輝きだした。

「ピロルくん、ここら辺で準備をしよう」

    博士が楽しそうに、組み立て式の籠を作り始めた。三角柱を横にしたような構造で、上部に持ち手があった。三角の面が開閉式になっており、開け放たれている。

「さっ、中に入って」

「なっ!  いやですよ。そんな、ペットみたいなの」

    満面の笑みで促してくる博士に、全力で拒否する俺。形成逆転と言わんばかりの笑顔が、妙に癪にさわる。
    
「入らないと……」

「入らないと?  」

「まず、身体検査」

「……身体検査」

「次に、病期の検査」

「…………病気の検査」

「そして、去勢手術」

「ひっ!?  」

    思わず、股間を抑えて飛び上がってしまった。

「それじゃー、いくよー」

    俺はシブシブ動いた。
    そして、カゴの中へ収まる。

 博士が勢いよく扉を閉めた。籠が空中に舞い上がる。

「はっ、博士っ、かごをっ、わざと振り回すっ、ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!  」

    出発のサイレンに背を押され、博士が意気揚々と赤翔馬せきとばを走らせた。
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