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第四章 エロー学術都市~20年越しのざまぁ編~

人体化皮膚(ヒューマノイドスーツ)

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    入場門は屋内構造になっていた。出入口には自動ドアが設けられている。行列が外まで続いているため、開け放たれていた。

    天井の高いエントランス部分を抜けると、2つのゲートが見えてきた。向かって左側が入国者用、右側が出国者用になっている。

    係員が身分証の提示を求めていた。
    入場者が渡した紙を、小型の機械で読み込んでいる。
    一方、出国者側のゲートでは手荷物検査まで行われていた。係員が手荷物をカゴにのせ、大型機械の中を次々と通していく。まるで、異世界にある空港の入場ゲートのようだった。

    俺達の順番がまわってきた。博士が赤翔馬せきとばを係員にあずける。所定の料金を払えば、ここで預かってくれるらしい。博士は懐から紙を出し係員に手渡した。

    ピッ!

    軽やかな電子音が聞こえ、通過をゆるされた。

「凄く厳重なんですね」

    自動ドアを超えた辺りで、博士に聞いた。

「この国は技術の流出を、特に嫌うのだよ」

    博士が静かに言った。
    なるほど。だから、出国者の方が厳しい検査を受けていたのか。

「博士、そろそろ出してくださいよ……」

「出してあげてもいいのだけど、首輪をつけてリードで引かれることになるよ?  」

「そっ、そんなぁ……」

    思わず嘆いてしまった。
    この国には基本的色素魔獣ピグモン権は無いのかよっ!

『ああ、のことか。そうなのだよ。聞き分けが悪くてね。いつも躾けているのだが、困ったものだよ』

    学術院長の言葉が蘇ってきた。

    国のトップが守護魔獣をモノ扱いしたのだ。色素魔獣ピグモン権が有る方が、どうかしている、か……。

「まぁまぁ、そんなに項垂れないで。取っておきの秘策を考えているからさっ!  」

    博士がヤバい笑顔で、妙に明るくそう言った。




「此方がクラテス医学博士だ」

    博士に紹介されたクラテス博士は、おどおどとした、顔色の悪い人だった。
    俺達は今、クレテス博士の研究室を訪れていた。

「やっ、やぁ。うっ、噂は兼々聞いているよ」

    手を差し伸べてきたので握り返す。

「クラテス、早速だが例のものを持ってきてくれ」

「わっ、分かった」

    クラテス博士が応接室をでていく。
    
    数分後、ステンレス製の大きなトレイを、手にして戻ってきた。中には、なみなみと透明な液体が注がれ、薄黄色のシートが浮かんでいる。

「そっ、それじゃあ、そこにのってくれるかな」

    クラテス博士が、応接テーブルに乗るよう俺に指示をだす。

「あのー、それは何なんですか」

「物は試しだ。さぁ、早くのって」

    躊躇する俺に博士がいった。

「えー……」

色素ピグメント獲得のために、化合物を飲み込んだ君が何を躊躇ためらっているのだ。ほら、大丈夫だって!  」

    博士はそう言うと、俺を抱え布の敷かれたテーブルに載せた。目が怪しく輝き、明らかにマッド覚醒している。

    めっ、女神様っ!
    ここに幼気いたいけ色素魔獣ピグモンを、己の実験欲のために利用しようとしている輩ががいますよっ!

    心の中で、叫んだ。
    必死の叫びも虚しく、クラテス博士が慣れた手つきて、素早く先程の薄黄色のシートを俺に被せていく。手足が通され、頭と顔もすっぽりと覆われた。背面と首元で、シートを引き伸ばすように重ね固定する。収縮性と密着性を利用しているようだ。
    顎や体から雫が滴り落ちた。ヒンヤリとしたシートが体に張り付き気持ち悪い。

「っ!?」

    シートが次第に収縮し始めた。体の線に合わせフィットしてく。
    どうやら、体温を感知し反応しているらしい。ペットボトルの外装に使われている、シュリンクフィルムと似た性質のようだ。体温程度で反応するのはすごいが……。

    体と完全に密着すると、今度は色素ピグメントを吸収しだした。俺の意志と関係なく引きずり出されていく。
    体が発光し始めた。余りの眩しさに目が眩む。さらに、急激な発熱と関節痛に襲われた。
    
    意識が遠のき始める。
    色素ピグメント獲得も大概だが、それ以上だった。エロー行きに備え、キノフタロン種の獲得も行ったのだが、その10倍は辛かった。

    博士の、バカヤロウ……。

    そう思ったのも束の間、意識を失った。
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