タケノコドン

黒騎士

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大怪獣タケノコドン

巨獣立つ

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「燃料タンク配置完了! 搭載車両間も無く所定位置に就きます」

 秋田県某所――町のど真ん中の交差点をコの字に取り囲む様に、液体燃料が充填されたタンクが大量に積み上げられた。更に燃料が入ったドラム缶をギッシリ積み込んだ大型トラックが離れた各所に待機しており、万が一怪獣が進路を曲げた際に先回りする手筈となっている。そしてこのキルポイントを取り囲む様に、自衛隊並びに消防隊の消火用車両が周辺県から集められ、消化剤散布様の航空機も準備万端その時を待ち構えていた。

「ちゃんと来てくれますかね」

「奴の行動原理は不明だが、この6時間直進を続けている。後は神にでも仏にでも祈るのみだ」

『ガガッ……此方偵察班。目標は予定の進路を直進中。予測時間に変更無し。送れ』

「了解。後はドローンに任せ安全圏に退避せよ。送れ」

『ガッ……了解。終わり』

「全て想定通り。各班に通達! 車両を予定地点に移送後速やかに離脱せよ」


 17分後、地鳴りを伴り巨大な筍がその姿を現した。大通りを悠然と行くその様は何者にも屈せない威厳すら感じられた。指揮所のモニターからその様子を食い入る様に見つめる隊員達。そしてその手に起爆スイッチを握る若い隊員は、緊張のあまり尋常ならぬ汗を流し指は小刻みに震えていた。下手に声をかけたら間違って押してしまうかも……そう思える様子に指揮所は静まり返っていた。後に上條曰く――自分でやりゃあ良かったな――と。

「…………点火っ!」

 カチッ バオオオオンンン‼︎‼︎ ゴォォォォ

 爆音と共に地響きが走り、猛烈な炎の柱が上がった。巨大な炎は怪獣の巨体を完全に飲み込み、空まで焼き尽くさんと燃え盛っていた。更にこの場所は町を吹き抜ける風の交差点であり、強い風は炎を更に高く舞い上げ、逆巻き、やがて火災旋風の様な炎の竜巻へと変貌。熱波は周辺一帯を襲い、可燃物は火を上げコンクリートは赤熱化し灼熱の地獄と化した。その炎が上げる轟音の中から不気味な奇音が。

ギィォアアァォォアアア

「奴の鳴き声……効いているのか?」

「目標、ポイントから移動確認されず。効果アリ!」

「「おおっ……」」

「よし。このまま燃え尽きてくれ」


 炎は勢いを衰えず、その後3時間燃え続けた。事前散水の甲斐も有り、迅速な放水作業によって周囲の延焼は想定内に留まった。燻る黒煙が細くなりだした頃、後に残ったのは真っ黒な煤に染まった巨大な塊だけであった。

「流石に跡形無く燃え尽きはしなかったか」

「しかしもうこれはただの巨大な炭でしょう。短時間なので中まで完全には炭化してないと思われますし、学術調査は可能ではないでしょうか」

「学者を喜ばせてどうする。それより住民生活を回復させる為に速やかな撤去を考えた方がいい」

「閣下は真面目でありますな。しかしこの先は政府主導に戻して一息入れ――」「上條陸将! 現場に動きがあります」

「っ、通信回せ」

『ガガ……にん。繰り返す、振動を確認! 目標が……目標が動いています!』

「なんだとっ⁉︎」

 巨塊は音も無く微かに震えていた。炭化した表皮が徐々に崩れパラパラと落ちるのを見て始めて気付ける異変に、気付いたその場の隊員達は戦慄を覚え一目散に退避した。次の瞬間『バキン』と嫌な音が響いた。それを皮切りにバキバキと何か割れる様な音が鳴り止まず……遂に大きな亀裂が開いた。亀裂から幾つもの枝分かれしたひび割れが走り、緑色の妖しい輝きが漏れ出したかと思うと、突然破裂した様に黒い塊が四方に飛び散り辺りは閃光に包まれた。現場の人々が視界を取り戻した時、そこには新たな巨影が聳え立っていた。

「ぁ……ぁ……」

 その場のみならず、モニターを覗く指揮所の者達、遠く趨勢を見守っていた政府高官達ですら言葉にならず息を飲んだ。ドッシリとした太い2本の脚で大地に立ち、屹立したその姿は誰しもが想像し得る怪獣像其の物だった。しかしその体表は重なり合う特徴的な繊維質の皮に覆われ、変容前の面影を残していた。

「……も、目標……変質。形態が著しく変容しました!」

『な、何が起こったのだ……』
『上條君、何があった⁉︎ 状況を、状況を報告しろ!』

「っ……目標が……炭化した目標が変態した模様」

『そんなバカな事があるか‼︎ 形がまるっきり違うじゃないか‼︎』

「私だって分かりませんよっ!」

「目標移動開始します! 陸将、指示を……指示を下さい!」

「クッ……総員退避だ! 直ちに目標から距離を取れ。消防隊にも至急通達しろ! 指揮機能を指揮車に移設、速やかにこの場を離れろ。3分後に戦車隊砲撃開始。誘導弾及び航空部隊にも支援要請。どんな生物でも脱皮直後は柔い……筈だ」

 撤退完了の連絡を待たずして命令通り攻撃が開始される。ミサイルと砲弾が目標に着弾。初めて二足で立つ巨獣はその感覚にまだ慣れぬのか、攻撃による衝撃でよろけては呻きに似た低い声を発した。その様子をスクリーン越しに見る閣僚達はどよめきたった。

「効いてる、効いてるぞ!」
「そのまま押し切れ」
「しかし、前回より火力が少ない様に見えるが?」
「仕方ない。今回は焼き討ちが主目的で配備を減らしとるんじゃ。ただでさえ前回弾使い過ぎとるちゅうに……来年度の予算はゼロだぞ」

 そんな浮ついた会話が通信機器から漏れ出る車内では、上條陸将がモニターを見据えたまま表情を曇らせていた。常識外れの事態の連続に、彼の胸中は嫌な予感と不安で満ち満ちていた。その予感に応えたとでもいうのだろうか。突如怪獣の眼に怒りの感情が見えた――そう彼は感じたという。
 怪獣は砲撃を正面に受ける様向き直り微動だにしなくなったかと思えば、全身を覆う表皮の隙間から淡い緑色の光を発し始めた。上條の嫌な予感がピークに達した直後、彼奴が大きく開けた口腔から怪光が放たれた。直線に走る緑の閃光は戦車隊に直撃し、車列の一部が爆発四散した。続け様に放たれた二撃目は隊列を撫でる様に掃射され、一度に数十台が弾け飛び鉄屑へと変わった。

「たっ、退却‼︎ 全車散開しつつ全速で離脱しろ! 作戦中止。繰り返す、作戦中止。総員直ちに退却せよ‼︎」

 統率を失くし蜘蛛の子を散らす様に遠ざかる戦車隊を見て、怪獣は追撃の手をピタリと止めた。やがて一言小さな鳴き声を発すると、何事も無かったかの様に歩みを始めた。この事態は瞬く間に世界に知れ渡り、全人類を震撼させたのだった。


――2日後 対策会議室――

「――目標は変態後、全長大凡50メートル。口より熱線らしき破壊力を有した光線を発射。この時初めて敵意を見せるも、再び進行を開始すると共に意図した攻撃や破壊行動は見せなくなりました。進行速度は以前とほぼ変わらず時速15キロ程度。しかし約20時間前から進路変更の回数が増加傾向にあり迷走状態にある模様です」

「ご苦労。フゥ……いや参ったね。まさか貝から脱皮して二足歩行の蜥蜴になるなんて夢にも思わんよ。上條君の言う通り、常識が通用しない化け物だわなアレわ」

「それで? 次の作戦は考えているのかね?」

「作戦らしい作戦はありません」

「ああ? どういう意味かね? 攻撃を行わないつもりか」

「御言葉ですが。我が有する兵器類はほぼ効果を得られず、逆に刺激すれば被害が拡大するばかりであるのが実情です」

「手を出せば出す程事態は悪化するか……」

「はっ。幸い、目標は迷走を続け移動範囲が狭まっておりますので、今は観察、研究に注力すべきかと」

「ええ~、先日脱皮し遺留した外殻を回収し調査研究に回しております。炭化しているので大した成果は期待出来ませんが」

「発生源地にも部隊を派遣、間も無く調査が始まるでしょう。そして気になるのが……目標の行動原理。当初は思考の無い無機質なものと捉えておりましたが、どうも何かを追っている、または引き寄せられている風な印象を受けるのです」

「何かとは……何だね?」

「分かりません。特殊な電波や磁場の類か、もしくは生物……同族の可能性も。現時点で何も掴めておりませんが、目標が方向を変えたタイミングでその進路上から何かが移動した痕跡が無いかも含め凡ゆるデータを関係各所に収集して貰っています」

「待つ他無いか。だがあまり時間は無いぞ。打開策を見つけなければ、米国や国連の介入もこれ以上引き延ばす事は難しい」

 重苦しい空気に場が沈黙に支配される。このまま何も出来ぬまま、この国はどうなってしまうのか……事態を解決する方法は無いのだろうか。そしてタケノコドンの目的は……

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